2009年4月11日深夜、一切の告知もなく唐突に放送された伝説のラジオ番組“レディオ・ワルツ”。各所で話題沸騰中のロック・バンド、ザ・バイトのスタジオ・ライヴが収録されたこの番組の噂は、ファンの間で瞬く間に広がり、インターネット上では多くのコピーが出回る事態に。そして再放送を望む声が途絶えない中、満を持して我々の手元に届けられたのが、番組をそのままパッケージした本作『レディオ・ワルツ』だ!
というのは真っ赤な嘘。元々BREAKfASTの酒井大明率いるザ・バイト、待望の新作は、架空のラジオ番組の収録という設定の基に作られた、世にも珍しいコンセプト作品となった。これが架空とは言いつつも非常によく出来ている。番組の司会を担当したのはなんとあのイルリメ。自身もラジオ番組をやっているだけあって、軽妙なトークと進行ぶりはもうさすがの一言。アルバムというフォーマットで聴いている事を一瞬忘れそうになる程の見事な仕込み様だ。しかし何よりも驚かされるのは、やはりここに収められた5つの楽曲だろう。メンバー各々のキャリアをよく知る方にとっては、この砂煙が巻き上がるドライヴィンなフォーキー・ロックンロール、そしてとろけるようにスウィートなバラッドを聴けば、間違いなく面食らう事になるだろう。だが、話を聞いてみると、酒井の最も大きなバック・グラウンドは、そもそもこうしたアメリカ南部のブルースやカントリー・スタイルにあったようだ。つまりこのザ・バイトというバンドによって、彼の志向性は大きく花開いたということ。ハードコア・シーンで切磋琢磨する中で出会った最良の同士達と共に、彼は今、求め続けた理想郷に近づきつつある。『レディオ・ワルツ』は、彼らが今まさに自分達の求めるサウンドをものにしようとしている、ドキュメンタリー作品だ。この興奮と楽しさを是非あなたにも味わって頂きたい。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
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INTERVIEW
—「ラジオ番組を模した作品」というアイデアはどこから生まれたんですか?
岡林 : 以前、角張君(インディー・レーベル<カクバリズム>のCEO)と話していた時に「60年代、70年代のロックについて話が出来る人って意外と少ないんだよね。そういう話を聞かせられる場を設けてみたら? 」みたいな事を言われたんです。そこでいろいろと考えてみて、ラジオ番組という体で作品を作ってみようという事になったんです。でも実際に出来上がったものは、そういうロックの話は一切してないんですけど(笑)。
—確かに(笑)。司会役がイルリメさんになったのはどういう経緯なんですか?
岡林 : とにかくメンバーがみんな、イルリメ君大好きなんですよ。イルリメ君は実際にラジオ番組もやっているし、ライヴを観てても、やっぱり場の作り方がすごくうまいんですよね。
—ラジオ自体は皆さんよく聴くんですか?
酒井 : そういう訳ではないんだけど、『BBC Sessions』のシリーズがすごく好きで。特にヤードバーズやクリームなんかの、曲間のインタビューもそのまま収録されてて、その流れで演奏が始まるのがすごくかっこいいと思ってた。曲紹介があって、観客の拍手が鳴って、曲が始まるっていうね。もっと古いやつだと、ジミー・ロジャースとか、ハンク・ウィリアムスとかのやつもかっこいいんだよね。そういうのがやってみたかった。
岡林 : あともうひとつは、演奏を録って後から被せる、擬似ライヴ盤ってあるじゃないですか。あの雰囲気も好きで、自分達でもやってみたかったんです。
—今、酒井さんがいくつかバンドの名前を出してくれましたけど、そういった趣向性はメンバーで共通しているのですか?
酒井 : してないですね。僕はフォーク・ロックなんですけど、他のメンバーの根底にあるのもそうかと言われると、まったく違うと思います。敢えて共通しているものを挙げれば、ハードコアくらいじゃないかな。
岡林 : 曲を作るのは酒井君なので、僕らは彼の曲を理解しつつ、勉強していく感じですね。酒井君の持っている世界観を再現したいという気持ちで全員が臨んでいるから、そういう意味ではメンバー全員の共通したものはあります。
—例えばサザン・ロックとかフォーク、カントリーを、自分達の音楽の素材として取り入れるのではなく、もう真っ向から取り組んでいるのが聴いていてよく伝わります。バンドの打ち出しているサウンドがとても明確だと感じました。
伊藤 : 酒井君の持ってくるコンセプトがしっかりしているので、それをしっかりと受け止められるように、がんばって勉強しているんです(笑)。
岡林 : 要するに、ザ・バイトでやろうとしている音楽というのは、みんなこれまで聴いてきてはいるけど、今までプレイした事がないものだったんです。これまでの経験から得たもので自然に演奏しようと思っても、酒井君の求めるものは出来ないんです。だからこの作品は僕達にとっては習作とも言えると思います。その割にはふざけてますけど(笑)。この音楽を血肉化させていくために、一丸となってやっているんです。
—バンドのメンバーはどうやって集まっていったんですか?
酒井 : みんな対バンした時なんかに会って話しては、よくロックの話で盛り上がってたんだよね。
岡林 : 酒井君が前のバンドのライヴのSEで、ブラインド・ブレイクの曲をかけてた時の事はよく覚えてるな。後から酒井君に「あれ何? 」って聞いたんです。で、「こいつは渋いな」と(笑)。
伊藤 : 僕も酒井君のバンドと対バンしたりする度に、そういうのをよく教えてもらってましたね。
岡林 : そういう流れで、自分達もハード・コア・バンドをやる傍ら、こういう隙間のある楽曲を演奏してみたんですけど、始めてみたら難しくて。けっこう簡単に出来るもんだろうと思っていたんですけど。やらなきゃいけないことがたくさん出てきたんです。
—どの楽器の音も輪郭がはっきりしているから、ごまかしは一切きかないですよね。それを一発録りでパッケージして出してしまうのがすごく潔いと思ったんですけど。
酒井 : 昔のブルースのレコードとか聴いてると、演奏のミスもそのまま収録されてるでしょ。それも含めてかっこいいからね。自分達のやるべきことはしっかりやって臨んでいるからいいものが録れたという自信はもちろんあって。それはメンバー全員そうだよ。
岡林 : 今回のラジオ番組を模した作りっていうのも、最初はもっと気楽に始めたものだったんだけど、聴いてもらえたならわかる通り、イルリメ君の司会の捌きぶりもすごくてね(笑)。そういうのにも触発されて、気づいたらかなり力の入った作品になった感じですね。
—この作品には皆さんの演奏だけではなくて、トークも収録されているじゃないですか。あれってご自身で聴いてみるとどうですか?
伊藤 : バンドの雰囲気はよく収められていると思います(笑)。
岡林 : 実際のライヴがあんな感じですからね。だから仮に普通のライヴ盤を出したとしても、こういう雰囲気はでると思います。演奏に関しての後悔は別にないですけど、しゃべりに関しては、まあ、いろいろあるよね(笑)。
伊藤 : (笑) でもこれが記録なんですよね。
岡林 : デヴィさん(長友"デヴィ"清吾(Drums))に至っては、最初の挨拶しかしてないですから(笑)。
—この作品を完成させてみて、新たに見えてきたものというのはありますか?
酒井 : 今後作るものも、またこういう一発録りになるとは思う。アレンジに関して、鍵盤の音を入れたいとかはあるけど、何か新しい事をやらなきゃいけないという考えは基本的にはないですね。俺の中では好きな音楽がもう出来上がってるから。間違っても今後打ち込みを始めたりとかはないよ(笑)。録音技術とかが変わっていっても変わらずにいられるような音楽が俺は好きなんですよ。
岡林 : とにかくこのサウンドをものにしたいんですよね。
—歌詞にもその姿勢はよく現れていますね。全ての曲で「君」と「僕」が登場しています。
酒井 : ラブ・ソングだね。俺の好きな歌はそういうのがやっぱり多いから、自分も自然とそうなるよね。1対1の関係がまずあって。そこにまた第3者が出てくるのが面白かったり。そういう感覚はもうぶれようがないですね。今までいろんな音楽をやってきたし、いろんな経験もしたし、もちろん挫折もあったから。自分から出てくるものがどういうものなのかもわかってきたし。生きていれば、詞を書くことはそんなに難しい事ではないですよ。ありふれた言葉もすごく大事だと思う。最初の2行ではよくわからないけど、3、4行目辺りでストーリーが見えてくるようなものが好きなんで。なんかどんどん話が膨らんでいきそうだから、この辺で止めておこう(笑)。
—(笑) いやいや、そこは膨らませていきましょうよ!
酒井 : もちろんそれだけが好きっていう訳じゃないよ。大滝詠一みたいな言葉遊びもいいし、松本隆みたいな、よく意味がわからなくても情景が浮かぶようなものも好き。でもその中でも、遠藤賢司のような、「君」と「僕」の歌として提示されているものが一番くるんだよな。決して派手なものじゃないけど、心が鷲掴みにされたんだよね。だから俺もそういうのがやりたいと思ったんだよね。うん、確かにこれは習作だね(笑)。
伊藤 : (笑) 習作発言、またでたね!
岡林 : あんまりその言葉は使うべきじゃなかったかな(苦笑)。
—いや、すごくいいじゃないですか。自分達の取り組んでいる音楽に対する真摯さがすごく表れているし、そういう作品はどんどん出していくべきだと思いますよ。1番好きなレコードってけっこうそのバンドにとって習作的なものだったりしません?
酒井 : そうなんだよー。ディランにしてもさ、ブートレグのシリーズとかがめちゃくちゃよくて、揃えちゃうわけじゃん。
—タッチの間違いも耳で完コピしちゃうような感じですよね。だから僕の願望としては、今回のようにバンドのその時々を切り取ったような作品をどんどん出していってもらえたら、すごくうれしいですね。
酒井 : 確かに、『レディオ・ワルツ2』もありだよね。
伊藤 : やりたいですねぇ! 今回みたいにトークを織り交ぜつつ、その時バンドの中で1番ホットな曲をバッと演奏したいな。
酒井 : とにかく、次に出す時も変わらないから。変わらずいいものを作る。自分の曲と詞には自信がありますから。
伊藤 : こういう言葉を聞くと奮い立ちますね。
岡林 : もちろん僕ら三人(酒井以外のメンバー)もいいと思ってるからやってるんだしね。
—いい感じにまとまりましたね(笑)。
酒井 : どの曲も、まだまだ伸びしろがあるからね。もっといい曲になっていきそうな予感があるんだ。同じ曲でもいろんな聴かせ方が出来たらいいよね。あ、だからもし「俺が演奏に加わったらもっとよくなる」という人がいたら是非参加してください(笑)。
岡林 : マジで鍵盤の人は探しているんですよ。ぜひ!
伊藤 : えー! 公募!?
酒井 : (笑) みんな忙しいから、なかなかスタジオに籠ってばかりもいられなくてね。本当はライヴ毎に毎回アレンジを変えていきたいくらいなんだ。ディランなんてまさにそんな感じだからね。イントロではわからないけど、歌が入ってきて初めて「あ! あの曲だった! 」みたいなのがやりたいんですよ。
岡林 : とにかくもっともっと音楽に使える時間が欲しいんですよね。
酒井 : 本当にそうだよね。あぁ、もっともっとやりたいよな。
岡林 : ライヴもね。
伊藤 : そう、この作品を楽しんでもらえたなら、僕達のライヴは確実に楽しんでもらえるはずですから。そういう意味では、このバンドのいろんな面を提示出来た作品ですね。
酒井 : 出し過ぎたくらいかもね(笑)。
渋い! オルタナ・カントリー
RIVER SONGS / MOD LUNG
平成のクレイジー・ホース、MOD LUNGの最新作がvo/guの矢田氏が立ち上げたレーベルPOWER ELEPHANT! から遂にリリース。4人目のメンバーに若き天才スライド・ギタリスト大地氏を加え、全日本詩で挑む10曲。そのパワーは東京一と噂されるの怪人 安原氏の強力なドラミング。人懐っこいベース・プレイで婦女子の人気を獲得するベースのコウタ氏。そして、ギター・ボーカルの矢田氏ががっぷり四つにくみ、強靭な多魔川サウンドを完成。これは、日本語ロックのクラシック!
Treatment Journey / WE ARE!
SMITHや初期のR.E.M.をも彷彿させる正真正銘の「ギター・ロック」。なにげない日常を血のしたたるような鋭利な切り口で僕らをはっとさせる詩が音楽になり、僕らの耳や目や皮膚からしみこんでくるようです。「泣ける」音楽は結構ありますが、その先を暴き出す意志と力、そして優しさに満ちたこの作品は本当に稀有だと思います。
Waiting On The Hill / Saddles
東京で活動する日本初の本格的なALT-COUNTRY(PUNK + COUNTRY ROCK)バンドSaddlesの待望の1stアルバム。アメリカのどのバンドよりもアメリカを感じれるほどのスケール感、懐の深さ。私たち日本人が憧れた“かつてのアメリカ”がこの一枚にはギッシリつまっている。THE REPLACEMENTS、WILCO、NEIL YOUNGやBOB DYLANなどの良質なロックンロールを求めている方には絶対に届く音です。
LIVE SCHEDULE
- 10月11日(日)【nano BOROFESTA】@京都 livehouse nano
- 10月16日(金)@gallery&bar PoPo(LIVE HOUSE FEVERに併設)
- 10月18日(日)@静岡FREAKY SHOW
PROFILE
THE BITE
伊藤敬(エレキ・ギター、コーラス)
岡林"コゾウ"大輔(ベース、コーラス)
酒井大明(アコースティック・ギター、ボーカル)
長友"デヴィ"清吾(ドラムス)
2006年、元BREAKfASTの酒井を中心に、パンク/ハードコアを通じて知り合った四人が、普通のロック・バンドをやってみようと結成。バックを務めるメンバーもNIAGARA33、EXCLAIMやU.G MANなどのハードコア・バンドで長くプレイしてきた面々だけに、そのBOB DYLAN、THE BANDやNEIL YOUNGなどからモロに影響を受けたサウンドは周囲を驚かせた。
YOUR SONG IS GOODのJxJxが、THE BITEのライブを初めて見た時に「脅威的に古くさい音楽だ・・・」と呟いた(笑)という逸話が物語るように、酒井の音楽への愛が詰まりに詰まった楽曲は60‘S〜70’Sの古き良き音楽を新鮮に感じさせる。
カクバリズムからのデビュー7インチに続き、司会にイルリメを迎えたスタジオ・ライブ盤「RADIO WALTZ」をリリース。
- THE BITE web : http://thebite.jugem.jp/