
ロック・バンド、ANIMAのフロントマンである小島ケイタニーラブが、1stソロ・アルバム『小島敬太』をリリース。井の頭公園、杉並区の自宅、浜松市の実家など、様々な場所で録音が行われ、雨音や花火、早朝ランニング、蝉やカラスの鳴き声などの自然音も楽曲に彩りを添えているという本作は、まさにシンガー・ソングライターとしての小島ケイタニーラブの魅力が堪能できる待望の作品。OTOTOYでは、detune.の石塚周太マスタリングによるHQD(24bit/48kHzのWAV)で、記念すべき本作を配信いたします。
小島ケイタニーラブ / 小島敬太
【配信形態】
1) HQD(24bit/48kHzのWAV)
2) mp3
【価格】
HQD : 単曲200円 / アルバム1,500円
mp3 : 単曲150円 / アルバム1,200円
【Track List】
1. パークロカ / 2. フォークダンス / 3. 田中のノリちゃん / 4. 敗走詩集 / 5. しごとのうた / 6. うるうる星人 / 7. マジックアワー PART3 / 8. 十五夜バタフライ
自分の歌と共に生きる
今から1年半ほど前、小島ケイタニーラブは髪をリーゼント風に立てていた。本人が「モリッシー・ヘアーだよ」と嬉しそうに話していたのをよく覚えている。そして、今回リリースされる『小島敬太』のジャケットに載っているポートレイトもまた、ザ・スミスにインスパイアされたものだという。写真の色合いからすると、ファーストのうつむいた男を意識しているんだろうか。でも、亀を片手に笑っている小島くんの写真を見ても、どのあたりに影響が表れているのかはちょっとよくわからない。どちらにしても、小島くんのモリッシー愛は相変わらず揺らいでいないようだ。
小島くんと僕は一緒にポッドキャストをやっていたことがある。同じくミュージシャンの橋本裕弥くんと3人で始めたこの番組は月に2回の放送で半年ほど続き、そのうちまた再開しようと約束したまま、もう2年が経った。
この番組中で僕らはしりとりをやっていた。こう言ってしまうとバカみたいだが、もちろんただのしりとりではない。小島くんと橋本くんがしりとりで回ってきた言葉をタイトルとした曲を10分以内でつくり、その場ですぐに披露するという、なかなか過酷でスリリングなゲームだ。なぜか司会であるはずの僕もそのしりとりに強制参加させられ、かなりの無茶を強いられたこともあったが、収録自体はとても楽しかったし、聴いてくれた人達からの評判も上々だった。なによりふたりのソングライターが曲を生み出す過程を至近距離で見られるのは、今になって考えればとても貴重な体験だったと思う。
収録は編集なしの1発勝負にもかかわらず、彼らが制限時間内に曲を用意出来なかったことはただの一度もなかったし、そのクオリティは押し並べて高かった。まさに出来たての曲を歌い切ったあと、小島くんと橋本くんが見せる虚脱した表情は、彼らのミュージシャン・シップの高さを物語っているようでもあり、同時にある種のマゾヒスティックな快楽も見てとれるのが面白かった。根っからのミュージシャンとはこういうものかと思った。

職人気質の橋本くんは、比較的早い段階で「10分で曲をつくる」という考えから「10分でつくれる曲をつくる」という発想に至ったようで、なるべく多くの時間を作詞に割こうとしていた。一方の小島くんはというと、いつも制限時間ギリギリまでギターをかき鳴らしながら試行錯誤をしていた印象が強く残っている。そして、これは歌詞に限らずトークでもそうだったが、彼は隙あらばいつでも下ネタやエッチなワードを挟もうとしてきた。なんで彼はあんなに“うんち”とか“おっぱい”みたいな言葉をやたらと使いたがるのか。本人に訊ねると「発語感が気持ちいいから」で済まされてしまうが、僕はそれだけだとは思えなかった。あの“うんち”や“おっぱい”には、小島ケイタニーラブという歌い手の核心が込められているような気がしてならなかった。
僕の記憶が正しければ、今回のソロ・アルバム『小島敬太』に収録されている曲のうち、「パークロカ」と「一五夜バタフライ」はすでにこの頃から小島くんのレパートリーに加わっていた。ポッドキャストの収録で集まった際に、「これ、どう思う?」とデモを聴かされて、僕は「いい曲だね。たしかにANIMAとはちょっと違うのかもね」みたいなことを返したような気がする。そのあたりから、小島くんはいよいよソロ活動を本格化させていった。彼の活動母体であるANIMAも2011年3月に『シャガール』という素晴らしいアルバムをリリースしたが、それ以降もライヴの頻度はソロが圧倒的に多くなっていった。
同時に彼は他者とのコラボレーションも積極的に行っていった。本人も「僕はパラサイト癖があるんだよね」と冗談めかして話してくれたことがあったが、実際に彼は様々なアーティストとの交流を共同創作にまで発展させていくことが多かった(いま思えばあのポッドキャストもそうだったのかもしれない)。なかでも作家の古川日出男、詩人の管啓次郎、翻訳家の柴田元幸という3人と手を組み、朗読劇『銀河鉄道の夜』で劇中音楽を手掛けたことは、小島くんの音楽的なアウトプットを一気に広げただけでなく、バンドのフロントマンだけでは収まらないプレイアビリティの高さをさらにはっきりとさせていた。
そんな過程を経て、ようやくこうしてソロ名義の作品が届いた。きっと私小説的なものになるんだろうと予想はしていたが、それでもこのあまりの無防備っぷりには完全にしてやられた感じがある。自宅、浜松の実家、そして井の頭公園でギターを手に取り、その場でレコーダーのスイッチを押しただけの素っ気ない録音で、小島くんはどの曲も切なげに歌っている。恐らく彼の曲の背景にある物語のほとんどは、他人からすればなんてことのないものばかりだろう。でも、彼はその他愛のないシチュエーションにロマンスを見出し、そこでちょっぴりおセンチな気分になり、その気分に(時にエッチな)言葉とメロディを与え、結果として美しい音楽に仕立ててしまう。耳に新たなセンテンスが入り込んでくるたびに、この人がリリシストとしてどんなに優れているかを再確認させられるようだ。
モリッシーに憧れた小島くんにとって、恐らくANIMAというバンドは彼が抱えるロック・スターへの過剰なオブセッションが解き放たれる唯一の場なのだろう。それが他のメンバーの個性と重なりあったとき、あのバンドの妙ないかがわしさとダイナミズムは生まれるんだと思う。一方でこの『小島敬太』には、まるで近くに小島くんの気配を感じるくらいの親密さがある。そして、彼のソングライターとしてのスキルの高さも、この作品を通してさらに露わになった。小島くんはここからまたロック・スターになるんだろうか。それともこういう胸を打つ詩小説的な作品をいくつも重ねていくのだろうか。少なくとも、この人が歌から離れることはないだろうな。小島ケイタニーラブは自分の歌と共に生きている。なによりもそこが彼のかっこいいところだ。 (text by 渡辺裕也)
LIVE INFORMATION
WEATHER presents 小島ケイタニーラブ 1stソロ・アルバム『小島敬太』発売記念ライヴ
日程 : 2012年10月13日(土)@Shibuya O-nest
開場 : 18:00 / 開演 : 18:30
前売 : 2,000円(ドリンク別) / 当日 : 2,500円(ドリンク別)
出演 : 小島ケイタニーラブ with Friends(木下美紗都, めいりん from くもりな, 山田杏奈, SUBMARINE, 鈴木雄介 from the coffee group) / ANIMA with 益子樹(ROVO) / ヒデオブジェクトケイタニーラブ(古川日出男 + 小島ケイタニーラブ) / detune.
※開場から開演まで、朗読劇『銀河鉄道の夜』(出演:古川日出男、管啓次郎、柴田元幸、小島ケイタニーラブ)の東北ツアーを追った“小さなロードムービー”の特別上映を行います。
ローソン(Lコード: 73512 )、e+(http://eplus.jp)、Shibuya O-nest店頭にて前売りチケット発売中。
HEADZ(info@faderbyheadz.com)、live@keitaney.com(小島ケイタニーラブの公式ページの『Contact』参照)にて前売り予約受付中。
※当日の入場は前売りチケット購入者、前売り予約、当日券の順になります。
more info : HEADZ TEL : 03-3770-5721 www.faderbyheadz.com
小島ケイタニーラブ公式ページ www.keitaney.com
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ANIMA / シャガール(HQD Ver.)
HEADZ初の本格派ロック・バンドANIMA。サイケデリックなサウンドとせつないメロディーをキー・ワードに彼らの楽曲の魅力が十二分に発揮されたセカンド・フル・アルバムが益子樹(ROVO/ASLN)の全面プロデュースによって完成。ストーン・ローゼズ、モリッシー、シューゲイザー、初期レディオヘッド、フィッシュマンズ、かせきさいだぁを繋ぐ、奇跡のロック・アルバムの登場!!
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PROFILE
小島ケイタニーラブ
ミュージシャン。作詞・歌唱を中心に活動。静岡県出身。 上京後、いくつかのバンドを転々としながら、ひっそりと弾き語りの曲を作り始める。 2009年、ロック・バンドANIMAとしてWEATHER/HEADZよりデビュー。 2010年、音楽家・蓮沼執太、小説家・古川日出男、画家・近藤恵介、コーヒーマスター・鈴木雄介とともにthe coffee groupを結成。 歌詞と歌唱を担当し、アルバム『ワンコインからワンドリップ』をリリース。 2011年には益子樹(ROVO)プロデュースによるANIMAの2nd アルバム『シャガール』を発表。切なさと陶酔感の溢れる世界観が注目を浴びた。 年末には新たな試みとして朗読劇『銀河鉄道の夜』に音楽担当として参加、言葉をフィーチャリングした楽曲たちが大きな反響を得る。 また、□□□三浦康嗣の主宰によるスカイツリー合唱団にも参加し、活動の幅を拡げた一年となった。 2012年、朗読劇『銀河鉄道の夜』メンバーとして、小説家・古川日出男、詩人・管啓次郎、翻訳家・柴田元幸とともに東北ツアーを敢行し、公演は大成功を収める。 その他にも江戸川乱歩原作の舞台音楽を制作するなど、文学性とロック性を自由に行き来する独特の音世界に注目が集まる中、待望の1stソロ・アルバム『小島敬太』をWEATHER/HEADZよりリリース。