INTERVIEW
出演者全員が10代で催される音楽イヴェント「閃光ライオット」への参加等をきっかけとして徐々にその存在が知られつつあった、女子4人組のインストゥルメンタル・ロック・バンド、「虚弱。」。しかし彼女達はその若さとか、ガールズ・バンドだとか、インストという見かたで捉えられることに慎重なスタンスを取りながら、自分達の音楽をより広く、正当な形で伝えられる機会を根気強く待っていたようだ。そして今年、彼女達はKilk Recordsとタッグを組み、ついに大きく動き出す。果たして彼女達のサウンドはポップ・シーン全体を揺るがすことになるか。今回から配信が始まるのは彼女達が昨年に自主制作したデモ作品。つまりこれは序章だ。彼女達の真価は、来たるべきデビュー・アルバムで問われることになるだろう。
インタビュー & 文 : 渡辺 裕也
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虚弱。 / donguribouya
1. donguribouya
2. drama
3. kabetosogy
4. 網膜における抽象画
5. nil (live)
ファイル形式 : MP3、WAV
価格 : 共に単曲100円、まとめ購入で500円。
Kilk Records / Kilk Sampler 2011 Spring
1. Pendulum (Cellz Cellar) / 2. drama (虚弱。)
3. urbansole 第3番~3拍子~ (urbansole)
4. My Sick (Bronbaba) / 5. Itzaes (sundelay) / 6. Orion (uka)
7. Vindur (Ferri) / 8. Miys (Glaschelim) / 9. Sleepy Sheep (Loof)
10. Savane clandestins -nuit mix- ( Les rideaux clandestins)
11. World As Myth (Aureole) / 12. Ringo (Meme)
ファイル形式 : MP3
価格 : 0円 (期間限定、6/17まで)
歌詞に起こすよりも楽器の音で表現しよう
――配信が始まるのは昨年に出したデモ音源なんですよね。
海野稀美(以下、海野) : はい。一応『donguribouya』っていうタイトルはついてます。
――(笑)。なんで、どんぐり坊やなの?
新井美雪(以下、新井) : (笑)なんとなくだよね。
――虚弱。の楽曲のタイトルはそんな感じで決めているんですか?
壷内佳奈(以下、壷内) : いや、これはむしろ例外で。曲作りのきっかけになるフレーズは私が持っていくんですけど、その段階である程度のイメージはあって、曲名もそれに従って決めるのがほとんどです。
新井 : 勢いで決めたのは「donguribouya」くらいだよね。
――結成したのはいつ頃なんですか?
壷内 : 高校の軽音部で私が3年の時に結成したんです。今から3年前かな。
海野 : 私はその時1年生でした。最初はコピー・バンドだったんですけど、壷内さんがオリジナルをやり始めた時にサポートとしてキーボードを頼まれたのがきっかけで。
壷内 : 当時のベースとドラムは進学した後に抜けたので、いまのメンバーで固まってからはまだ2年くらい? ドラムの河野(まな)と新井さんは大学も別で、最初はお客さんとして見に来てくれたんです。バンドを続けることだけは決まってるけど、メンバーが定まらなくてフワッとしていた時期がけっこうありました。
新井 : 実際、本格的に動きだしたのは今のメンバーになってからですね。
――女子高生のインスト・バンドっていうことで珍しく見られることもあったと思うんですが。
壷内 : 軽音部でNUMBER GIRLとか凛として時雨のコピーをやっていた頃は、私が仕方なくヴォーカルをやっていたんです。でも曲を作り始めた時、私自身が言葉で何かを表すのが決して上手ではないので、歌詞に起こすよりも楽器の音で表現しようと思って。そうしたら自然とインストゥルメンタルをやる方向にいったんです。
海野 : 当時は曲の原型を作っていたのが壷内さんだったので、メンバーは自然にそれを受け入れていたんですけど、聴いている人達からは「え、歌ないの?」っていう反応もありましたね(笑)。
壷内 : 言葉よりもフレーズに気持ちを込めた方がまっすぐに伝わると思ったんです。
海野 : 自然だったと思います。インストの音楽は全然聴いてなかったけど(笑)。
――新井さんは外からそのバンドをどう見ていたんですか?
新井 : 「好きな感じだなー」と思ってましたよ(笑)。インストとか他に知らなかったし。
海野 : インストをやってること自体に深い意味はなくて。私は他のバンドでJanne Da Arcのコピーやりながら、虚弱。でインストを作ってたんです(笑)。
坪内 : つまりこのバンドのバック・グラウンドにインストゥルメンタル・ロックはないんです。
――ヴォーカルを使わずに歌うバンド、みたいなイメージですか?
壷内 : そうですね。
海野 : わ、いいなそれ! まさにそんな感じですね(笑)。
――では、なぜ虚弱。なんでしょうか?
壷内 : 結成当時のメンバーが、みんな身体が弱かったんです。腹痛持ちの人もいれば、精神的に虚弱な人もいたし、私は偏頭痛が酷くて(笑)。まる(。)は飾りです(笑)。
――特にモーニング娘。が好きだからというわけではなく?
海野 : 私は好き(笑)! でも私が入る前に決まった名前だしね。だから、音楽の好みもみんなバラバラで、私はさっきのジャンヌとか、アイドルも大好きだし。河野が一番ポスト・ロックとかインストものを知ってるんじゃないかな。
壷内 : 私はなんでも好き。ヒップホップもインストも、ポップスも、全部好き。小学校の頃にラジオをよく聴いていたのが大きいのかも。ラジオから流れてくる曲でいいなと思ったものをメモする癖がその頃からあったんです。だから偏見のない聴き方が出来るようになったのかなと思う。
壷内さんのイメージにある絵やストーリーに沿って作っていくんです
――そんな壷内さんの基軸になっている音楽をひとつ挙げるとしたら、なんでしょう?
壷内 : 昔からずっと好きなのは、GRAPEVINEかな。
――虚弱。の音楽を指して「ポスト・ロック」っていう言葉が使われることも多いんじゃないかと思うんだけど。
壷内 : 基本的にそう呼ばれてるし、それでかまわないと思ってます。
新井 : だって、普通に分けたらそうだろうしね(笑)。
壷内 : 個人的にポスト・ロックをやっているという意識はないけど、そう聴かれることに対しての抵抗は何もないですね。
――楽曲制作は、セッションですか? 僕が聴いた印象ではかなりしっかりしたイメージに従って作られているように感じたんですが。
壷内 : 基本的に私が用意するものはフレーズだけで、他の演奏に関してはメンバーのみんなに委ねています。イメージを伝える時もかなり抽象的な感じですね。私から演奏に関してみんなに注文することはあまりないです。
海野 : だれかが持ってきたデモに従って作るようなやり方ではなくて、ギターのフレーズをまず延々と繰り返していくところに私達が乗っかっていくんです。そうするとだいたいみんなのビジョンが一致していくので、その流れで組み立てていく感じですね。
新井 : いらないと感じたものはすぐにやめるしね(笑)。
海野 : 壷内さんのイメージにある絵やストーリーに沿って作っていくんです。
――サウンドの質感がすごくウェットですよね。それも坪内さんが伝えている絵やストーリーと関わっているのかなと思いました。
壷内 : 例えば「drama」という曲は、演劇をイメージして作ったんです。出だしはハッピーな感じなんだけど、途中で転機がやってきて、最後には死んでしまうようなイメージ。
――演劇ってもっと尺が長いものだけど、虚弱。の曲はあくまでもポップ・ソングのサイズに収まるように作られていますよね。そこはこだわっていること?
新井 : 長いのは飽きちゃう。やってる方も聴いてる方も。
壷内 : なるべくわかりやすく伝えたいので、5分以内というのはひとつの目安にしています。
海野 : 5分でも長いくらい。
――じゃあ、今後虚弱。が作っていくアルバムは、そういったひとつひとつの独立したストーリーが収められたオムニバス的なものになるのかな?
海野 : 全体を通したイメージも考えるよね。
新井 : ライヴのセット・リストとか、毎回よく話し合うもんね。
海野 : 確かに揉めるよね(笑)。
――みなさんと今日初めてお会いして、それぞれが担当楽器のイメージとぴったり合ってるなと思いました。
壷内 : (笑)。絵を描く作業に例えるとしたら、私が主に担当するのは下絵なんです。そこに色づけをしてくれるのが海野さんで、私の描いた線をより濃いものにしてくれるのが新井さんと河野さんなんです。
海野 : なるほど。たまにみんなで耳や口の形を描き直しちゃうこともあるけどね(笑)。確かに全体像を描くのは壷内さんだね。それとも、顔を描くのが坪内さんで、身体を描く時は全員で相談しながらやるような感じ(笑)?
――壷内さん以外のメンバーが曲のきっかけを作る時もある?
新井 : 最近はあるよね。海ちゃんの時とか。
海野 : でも、私の場合は絵の具しか持っていないようなものだから、骨格をみんなに作り直してもらわないと形にならないんです(笑)。
「私が求めていたものはこれだ!」って、感動する瞬間が最近よくある
――同世代のバンドの中で、自分達のことをどう位置付けていますか?
壷内 : 仲がいいバンドは攻め方が自分達と似ているんだと思います。でも、世代で言うならそれはまた別だよね?
海野 : どうなんだろ? あんまり考えた事ないや。同世代って、ねごととかThe SALOVERSとかになるのかな。私は好きだよ、すごく。でも同世代よりも年上の人と一緒にやる機会の方が多いからなぁ。
新井 : 変にまわりを意識してないから、焦ることもないんですよね。
――高校で結成したバンドって、進学の時が続けるかどうかの転機になるよね。
壷内 : 実際にメンバーも抜けたし、節目にはなりましたね。
海野 : でも、迷いはなかったですよ。
壷内 : やっぱり、自分が曲に込めた気持ちをもっと多くの人に知ってもらいたいし、「曲を聴いてほしい! 」という気持ちがずっと強いままなんです。特に高校の頃はライヴもレコーディングもなかなか出来なかったし。
新井 : テスト期間とか、壷内さん「曲作りたい! 」って言って、いつも泣きそうだもんね(笑)。
海野 : みんなが大学に行っても私は当然のようにバンドは続いていくんだろうなと思ってました。それも「大学のサークルでやろう」みたいな感じじゃなくて。出来ない時は出来なくてもいいんだけど、やめるっていうのはなかったな。継続的に曲は作り続けているし。高校生の時は壺内さんに全部任せてる状態だったんですけど、今は4人とも野心というか、意識が強くなったんです。
新井 : それについて関して一番色々考えてるのが河野だよね。
――河野さんはどんな人なんですか?
新井 : 真面目です。
壺内 : (笑)見た目はチャラそうに見えるんですけどね。
新井 : 虚弱。のリズム隊は「虚弱。の虚弱じゃない方」って呼ばれてるんですけど(笑)。河野はバンドが行き詰った時にいつも改善案を2、3個提示してくるんです。
海野 : (笑)ノートに書いてくるんだよね。
――じゃあ、今の虚弱。は今回のデモ盤の時とはまた変わってるんでしょうか?
壷内 : はい。常に変化し続けてる気がします。
新井 : やっぱり「閃光ライオット」で出した「kabetosogy」は色んな人に聴いてもらえるきっかけになったよね。
海野 : 確かに転機は「kabetosogy」かもしれないね。
――Kilk Recordsと出会ったのはいつ頃なんですか?
海野 : お話を頂いたのは去年の秋くらいなんですけど、お願いすることになったのは、年明けてすぐのこと。だからけっこうお待たせしてしまった感じなんです。
――最初は躊躇した?
海野 : しました。まだ自分達はそういう時期じゃないなと思って。他でお断りしたお話もいくつかあったんです。でも、実際にKilk Recordsの森さんとちゃんとお話したら、他のレーベルの方とは違って、すごく熱く語ってくれて。みんなが私達を見て言うことって、だいたい「若い」とか「女の子4人でインスト」とかで珍しがってる感じのものばっかりで。でも、それだけだといつかは飽きられちゃうじゃないですか。いつか若くなくなっちゃったら終わりだし(笑)。
新井 : 曲以外のところを重視してる方が多かったよね。
海野 : そんな中で森さんは「一人でも多くの人に虚弱。を知って欲しい」とお話してくれたんです。インストのコアなファンだけじゃなくて、もうもっと広い層に聴いてほしいってずっと思ってたから。
――今後出す予定のアルバムはどういうものにしようと思っていますか?
壺内 : 曲のバリエーションにしても、昔はけっこう狭い幅の中で作ってた気がするんですけど、それがちょっとずつ大きくなってきていて、メンバーそれぞれがいろんなものを吸収してきている手応えがあるんです。曲のフレーズを持っていって感動する瞬間があるんです。「私が求めていたものはこれだ!」っていうのが最近はよくある。昔は自分が求めてるものをうまくメンバーに伝えきれずにいたんですけど、いまはメンバーみんなが一致している感じがすごくするんです。
海野 : 「こういう感じが欲しいんだろうな」っていうのが、何となくわかるようになってきたんだよね。最近は本当にそれを強く感じる。
新井 : ひとつのフレーズに対して自分の提案できるものがちょっとずつ増えてきた感じはします。
海野 : いま、「独裁者の孤独」という曲があるんですけど、それはある国に独裁者がいて、その人がだんだん周りの人から見放されていくストーリーを描いているんです。
壷内 : 独裁者って、悪いイメージの方が強いじゃないですか。でもその裏にはすごい孤独感があるんだろうと思って。それをテーマに曲を作りたいと思ったんです。
海野 : 最後には自殺しちゃうんだよね。そういうイメージを伝えられた時に「こんな感じ?」ってみんながそれぞれの楽器で表現できるようになってきた。「ここで泣くよね」「ここはひっこむよね」みたいな(笑)。
――その曲はまだMy Spaceとかでも音源化してないんだよね?
海野 : はい。でもあれにはアンサー・ソングもあって、それはマイスペでも聴けるよね。
――アンサー・ソング!?
壷内 : 「Saying his prayers」っていう、その独裁者の妹の曲なんです。
――インスト・バンドの人達からアンサー・ソングって言葉は初めて聴きました。
海野 : そっかー(笑)。
坪内 : そうですよね(笑)。
Kilk Records +++ Back Number
Sundelay / Stray Light
精力的なライブ活動で高い支持を集めている、5人組インストゥルメンタル・バンドのデビュー作。作品全体から放たれる、優しくも熱い、ギラギラとしたサウンド。それはまるで、宇宙に浮かぶ太陽からの贈り物のようにすら感じられる。サイケデリックな精神世界、ポスト・ロックの緻密さや美しさ、ジャム・バンドのような解放感、それら全てが絶妙なバランスで溶け合った怪作!!
Chris Olley / The Adventures Of Baron Munchausen By Proxy
『The Blackest Soul EP』『East Of Edale EP』『A Streetcar Named Disaster』の3枚から収録され、日本では先ずお目に掛れないレアなトラックも含めた珠玉の選曲はクリス自らセレクト。キャリアを振り返る事が出来る上に、彼自身も納得の作品であることは間違いない。何れも粒ぞろいの名曲が並んだベスト的な内容としても楽しめる。ノイジーなギター・サウンドに、心動かすポップなメロディ。全盛期のSIX BY SEVENより好きだ! という人が沢山出ても全然可笑しくない素晴らしい仕上がり。ジャケット画はSIX. BY SEVENの1stを彷彿とさせ、全盛期の彼らが戻ってきたかのような期待感を目から煽り、そして期待に応える満足感は耳から満たしてくれるだろう。
Aureole / Imaginary Truth
男女混成6人組バンド「Aureole」にとって二枚目となる今作は、日本の音楽史を揺るがす重要な作品となった。飽和状態のオルタナティブ・ロック / ポスト・ロック / エレクトロニカ・シーンに一石を投じる、オリジナリティ溢れるネクスト・サウンド! ロック、エレクトロ、クラシカル、ミニマル、プログレ、サイケ、民族音楽などを通過した楽曲は、驚くほどポップな感触で、すんなり聞き手へと浸透していくことだろう。
虚弱。PROFILE
壷内佳奈 : guitar
新井深雪 : bass
海野稀美 : piano, synthesizer, glockenspiel
河野まな : drum
2008年11月、現在の編成になり、翌2009年2月から本格的にライブ活動を開始する。
平成生まれ女子四人による、病的且つどポップなインストゥルメンタル・バンド。
多趣味で様々なジャンルを吸収しており、バンドの背景にある音楽は全く以て謎。
頭痛・腹痛・筋肉痛・精神的苦痛と闘いながら繊細なメッセージを轟音に込める。
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