失ってはじめて手に入れた強さ
2月にリリースされたアルバム『Balcony』を経て、結成から10年を迎えたワイヨリカが再び本格的に動き出す。その幕開けとなるのが、今回配信でのリリースとなるシングル「僕は忘れない」だ。
10年目を迎えて最初の曲で歌われるのが「何かを失ったあと」というのはどういうことなのか。そしてなぜその歌がこれ程まで高揚感があるのか。彼らが今の場所に辿り着くまでの道のりが決して平坦なものではなかった事が感じられるのと同時に、これからのキャリアへの期待を抱かせるのに十分な力強い1曲だ。特にアズミの歌唱はこれまでの作品と聴き比べても群を抜いている。1曲の中で何度も表情が変わっていくような声の表現力は駆け出しの歌い手には到底真似出来ないところまで来ている。
今回のリリースに寄せて、ソングライターであるソートさんにお話を伺った。実は一人でインタビューを受けるのは初めてだったそうだが、これまでのキャリアを振り返りながらも今回のシングルに込められた想いについて丁寧に語る彼の姿からは、彼の音楽に対する愛情と今後の活動への興奮が感じられた。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
INTERVIEW
—率直に、10年目を迎えてどんなお気持ちですか?
S : よく続いたなと思います(笑) アーティストとして10年続けてこれたという事がまず「よくやったなー」というか。
—この10年で難しかった局面ってありましたか?
S : やっぱり曲を出す度に「これでいいのかな? 」っていう思いはありましたね。最初は勢いでいけたんですけど、だんだん精神的にどう処理していけばいいのかわからなくなってきて。でもそんな中で時間が空いたりはしつつも、あまり変わらないままやってこれたとは思います。
—お互いソロ・ワークに入った時期というのは、どういう感じだったんですか?
S : 当時の渋谷公会堂で5年くらい前に初めてワンマンをやらせてもらって。その時に自分の考えるお客さんとの距離感が違うような気がしたんですよ。自分が作っている音楽と、自分がステージに立っている感じが、いつも小さいところでやっているのとまるで違うような気がして。やっぱり大きなホールだと演技力というか、自分とは違うもう一人の自分が必要な感じがして、一瞬冷める時があったんです。
元々僕は作家を目指していて、作家としてのオーディションで拾ってもらったので、アーティストっていう立場になるつもりはなかったんですよ。だからその時にちょっと疑問を持ってしまって。アズミちゃんはもちろん別ですよ(笑) でも僕はそう感じてしまって。まあそれだけが理由ではないですけど、たまたまその時期「楽曲提供をしないか」っていう話を頂いて、それでやってみたら楽しくなっちゃって(笑) それまではそんなこと考えてる間もなかったから。もうそういうペースでは出来ないかなって(笑)
今でももちろんやれないことはないですよ。作家の仕事をやっていても、連絡がきて「三日後までに曲を下さい」とか言われる事もあるので。だから言われれば出来るんです。でも作家の仕事だと、お題を指定された曲と自分が思うように作った曲を1曲ずつ作れるから遊べるんですけど、ワイヨリカの場合は考えちゃうから。「ライヴでやったらどうかなー」とか。真面目になっちゃうんです。
—歌い手としてのアズミさんに変化はありましたか?
S : まずアズミちゃんの歌が確実にうまくなってきているので、音域を無理に高い所に持っていかなくても響く歌が歌えるし、声だけで表現力があるから、歌詞は二の次になりますね(笑) ワイヨリカの楽曲はほとんどが曲先行なんです。僕が歌詞を書く曲に関しては割と同時にやってしまうんですけど。今回の「僕は忘れない」はほとんど僕なんですけど、アズミちゃんにも書いてもらったところはあります。
—確かにこの曲を聴いてから過去の作品を聴いてみると、アズミさんの歌声の力強さが段違いで。
S : そうですね。ここ何年か小さい場所でライヴを続けているんですけど、やっぱり歌が力強いんですよ。そこで昔の作品をリハの前とかに聴くとやっぱり違和感があるなと思っていた時に、昔からお世話になっているライヴ・ハウスの照明の方から「もっとライヴに近い歌を録ってみたら?」とボソッと言われた事があって。今回は、他にも曲はあったんですけど、激しいものが作りたくて。その前にミニ・アルバムがやっと出せたっていう開放感があったので、その時の勢いのまま行きたかった。
—作品毎にその時のソートさんの趣向性は反映されていると思うんですけど、その中でも必ずアコースティックの響きというか、生楽器を主体とした演奏がありますよね。
S : 歌以外はほとんど家でレコーディングしたようなものばかりなので。ギターも家で録って、ミックスは外のスタジオでするんですけど、家にはいいマイクも機材もないから、自分にしかわからないところですけど、よく聴くと自宅っぽい鳴りをしていて(笑) だから決して上等な音ではないんです。でもデビュー前からそうやっていたし。もちろん今の方が機材はいいですけど。「プロフェッショナルというのは究極のアマチュアリズムだ」なんて事も誰かが言ってましたし。だから、積み重ねですね。
—今回の曲のモチーフとして失恋というのがありますよね。
S : まあ表面上そういうのがあるんですけど。何かをなくした時って、悪いように思えば腹も立つし、いいように思えば「まあいいか」ってなるんだけど、失恋とかだとずっと心の中に空洞が残っていくから、そういう時の処理の仕方というか、そういうのがうまく出来ればいいなと(笑) 寂しいとか喪失感とかそういうのからいろいろな事件も起こるんだろうし。別にそういう人達のために作ったつもりはないですよ。気持ちをスピーカーみたいに膨らませて音楽を作るっていう僕なりの気持ちの処理の仕方なんです。あと、本来の自分のスタンスを作家として出してみようとした事があったんですよ。その時の気持ちのままこの曲も出来た感じなんです。だから僕にとってはわがままな曲なんです。それにアズミちゃんが付き合ってくれたっていうところもあるかな(笑! )
—でも「これはワイヨリカの曲だ」というのはあったんですよね?
S : いや、ちょっと悩みました。ちょっと強引な曲でもあるので。聴いてもらって気に入ってもらえたからよかったんですけど(笑) 今回の曲はライヴ会場では3曲入りのCDとして出すんです。こういうインディー的な活動って初めてだったんで、実際にお客さんに手売りしてみたかったんです。どうしてもこれからは配信とかがメインになってくると思うんで、CDはライヴに来た時にその証として持って帰ってもらおうかなと(笑)
—配信っていうもの自体には抵抗はないですか?
S : 始めは少しあったんですけど、今は全然ないですね。むしろ配信の方がありがたい。例えば自分の好きな曲とかが、廃盤になってたりでほとんどCDで売ってないんですよね。そういうのがネットだとあるから。
—聴き手が能動的になっていくことが望まれていきますよね。
S : 10年くらい前にアナログ盤が流行って、お店とかもたくさん出てたじゃないですか。あれとそんなに変わらないと思うんです。配信っていう文化があるから、海外のアンダーグラウンドのものもドンドン入ってくるし、逆にこっちからもどんどん出ていけばいいなと思います。
—なにかそういうので面白いのって最近ありました?
S : ラテンのサイトを見つけて。歌もので面白いのがいっぱいあったんですけど、名前が全然覚えられないですね(笑) インストはあんまり聴かないです。ギターもあんまり好きじゃないし(笑)
—好きじゃないんですか!?
S : ドラムとかウッド・ベースとかピアノの方が好き。本当はピアノがやりたいけど、手も小さいし、もうだめです(笑)
—(笑) でも確かにリズム・セクションが好きっていうのはその時々の作品を聴いていても感じますね。今はどういうモードなんですか?
S : 「僕は忘れない」に関しては、いつも一緒にやるベース・プレイヤーとの勢いみたいなものが出ればいいかなって感じですかね。実際は打ち込みですけど「バンドやってきたぜ」っていう雰囲気が出ればいいと思って。まあだから、今度のライヴでもやるから、そっちの方がいいと思いますよ(笑)
—どういう編成でやる予定なんですか?
S : アコースティック編成で、ベースと鍵盤とパーカッションが加わって、後は二人がいればこの曲は演奏できるので。今回はこういう感じでやって、出来れば年末までにはアルバムを出して、バンドでドカンとツアーをやりたいな、という話を今はしています。それまではライヴでお客さんの反応を見ながら、その後シングルで切っていく曲とかをいろいろ決めていきたいと思います。アルバム前に出したい曲は既に1曲あるんで、その前にもう1曲出来ればなぁと。昔の曲も、5年くらい前からギターと歌の二人だけのステージをやっているんですけど、最初のうちは怖かったのが、最近は慣れちゃったというか、当たり前みたいになってきて、むしろ「今更この曲バンドでやる? 」みたいになってきて(笑) お客さんも緊張しながら聴いてくれるっていうのもいいもんで。しっかり曲の中に入り込んで聴いてくれるし。
—確かにワイヨリカのファンは楽曲にすごく入り込んでる感じはしますね。
S : 曲ありきで来てくれていると思うんです。ワイヨリカの曲があって、それを聴きに来てくれていて、それを演奏しているのはたまたま僕とアズミちゃんだっていう感じですね。お客さんの中で十分世界は出来上がっているから、派手なパフォーマンスとかも必要ない。お客さんが持っている感情をそのまま大事に受け取ってもらえるように僕等は演奏しているんです。もう10年やっているんで、よくライヴに来てくれる人の顔も覚えていくんですよ。そういう人達の期待は裏切りたくないですね。もちろん若い人も毎回来てくれているから、それも素直に受け止めて喜んでいます。
—節目の年を迎えて、今後開拓していきたい方向性みたいなものはありますか?
S : 次のアルバムは、とにかく「出すぞ! 」っていう気持ちだけでやりたい。これからはライヴがメインの活動にシフトしていくから。ライヴがあって、その後でリリースをすると。今までは逆だったけど、やっと10年やって、自分の好きなミュージシャンがステージに立って普通にやっていることを自分達で出来るようになってきたかなぁと思います。やっぱりCDを作るだけじゃだめなんです。ライヴをやらないとよくわからない事がある。10年間、やっていることはあまり変わってないと思うんですけど、音楽に対する思いっていうのはどんどん膨らんでいって今回の曲が出来たので、聴いてくれた人もそういうのを膨らませて向かっていってほしいというか、自分の中でいつの間にか失ってしまった部分を取り戻す作業をしてほしいなと思います。
おすすめ女性ヴォーカル・ミュージック
C’ mon Mracle / Mirah
近年のUK、US北西部シーンが産んだ最高の女性アーティスト、ミラー。フィル・エルヴラム(ザ・マイクロフォンズ)との共同プロデュースによる『You Think It's like This But It's Really Like This』、『アドヴァイサリ・コミッティ』の2枚のアルバムは、K新世代の中でもスバ抜けた高評価と支持を獲得している。アメリカン・ルーツ・ミュージック色濃厚なプロジェクト『Songs from the Black Mountain Music Project』を挟んで、2年振りとなるオリジナル3rdアルバム。
祝日 / PoPoyans
フリー・フォークの女性デュオ。07年から東京で活動を開始し、爽やかな歌声、チャーミングなパフォーマンスで注目を集めています。プロデュースはハナレグミ等を手がける鈴木惣一朗が担当。
わたしのふね / 埋火
現代和製ロック界に大衝撃。レトロでサイケ感漂う雰囲気を兼ね備えながらも、サウンドはエモーショナルでキャッチーなメロディー、静と動が入り混じったこのロック・サウンドはクセになります。
LIVE SCHEDULE
- 6/7(日) @東京キネマ倶楽部(東京・鶯谷)
全自由(整理番号付き / 一部立ち見)
前売り¥4200 / 当日¥4500(ドリンク代別) ※SOLD OUT
お問い合わせ:DISK GARAGE 03-5436-9600(平日12:00〜19:00)
- 6/11(木) @Flamingo the Arusha(大阪・浪速区桜川)
全自由(整理番号付き/一部立ち見)
前売り¥4200/当日¥4500(ドリンク代別) ※SOLD OUT
お問い合わせ:YUMEBANCHI 06-6341-3525
LINK
- wyolica web : http://www.wyolica.net/
- wyolica Myspace : http://www.myspace.com/wyolica
- wyolica OFFICIAL BLOG : http://ameblo.jp/wyolica-blog/
PROFILE
wyolica
azumi(vocal / lyrics) so-to (guitar / programming / lyrics and music)
個別に活動していたazumiとso-toが、それぞれ同時期に別々に応募したsonymusicのオーディションをきっかけに知り合い、1997年春にユニットを結成。大沢伸一をプロデューサーとして迎え、1999年5月21日に「悲しいわがまま」でデビュー。優しく透明感のあるヴォーカルと、穏やかで切ない歌詞・メロディーを核に、振れ幅のある、かつオリジナリティー溢れるアイデンティティーを披露。ユニット名の「wyolica」は、「草原の民」という言葉の造語。