孤独な言葉をシューゲイズ・サウンドに乗せて――闇を歌える次世代女性アーティスト、amenotoのデビュー・アルバム先行配信
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amenoto、その名を聞いて「あっ」と気付く方もいるだろう。昨年10月、11月と、OTOTOYが毎週水曜にTV♭で放送しているUst番組「新譜の時間」にて2ヶ月間アシスタントをつとめてくれていた彼女。2013年初夏から本格的な活動をはじめ、UKロック、ポストロック、オルタナティヴ、シューゲイザーをベースにしたサウンドに、力強くも切ない歌声。そしてなによりも、彼女自身の圧倒的な孤独を写した世界観は他から突出していて、もう少しだけ彼女を知りたいからぜひにとお願いした2ヶ月間。番組終わりに毎度演奏してくれた曲たちは、やはり多くのリスナーからの確かな反応を窺うことができた。
そんな繋がりのある彼女が、OTOTOYにとっても待望であるデビュー・アルバムをついにリリースする。プロデュースに深沼元昭(PLAGUES、Mellowhead、GHEEE)を迎え、7曲入りのミニ・アルバム。OTOTOYでは1週間先行配信とともに、「ぼくは、ぼくら。」のフリー・ダウンロードを実施する。これから磨かれていく脅威の原石を、ぜひいま知っておいてほしい。
>>「ぼくは、ぼくら。」のフリー・ダウンロードはこちらから<<
(2014年4月17日(木)18:00~4月24日(木)24:00まで)
OTOTOY1週間先行配信!!
amenoto / すべて、憂鬱な夜のために
【配信価格】
alac / flac / wav / mp3 : 単曲 205円 / アルバム購入 1,436円
【Track List】
01. ハーモニー / 2. ハロー / 03. 仲間はずれ / 04. 落ちる、散る。 / 05. 凡庸に回す / 06. 雨を待つ / 07. ぼくは、ぼくら。
INTERVIEW : amenoto
『すべて、憂鬱な夜のために』――こんなタイトルからも、amenotoこと石井翠がこのデビュー作に収めた音像をいくらかはイメージしていただけるだろう。マイナー・コードを基調とした楽曲展開と、深沼元昭(PLAGUES、Mellowhead、GHEEE)の指揮による重厚かつしなやかなサウンド・ワーク。そして何よりも石井本人の紡ぐひたすら内向的なリリックと情念を込めた歌唱は、徹底して物悲しく、同時に聴き手の鬱々とした気分にそっと寄り添うような包容力も感じさせる。かつてCoccoや鬼塚ちひろといったアーティストが引き受けていたものをいずれ担うのは、もしかするとこの人なのかもしれない。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
写真 : 雨宮透貴
明るいのって、どうしても胡散臭いなと思っちゃうんですよね
――石井(翠)さんは音楽だけでなく文学作品にも親しんできたとお訊きしてるんですが、先に関心を引かれたのはどっちだったんですか。
amenoto(石井翠)(以下、石井) : 本を読むのはずっと昔から好きでした。すごく小さいころは親が新しい絵本を毎月届くようにしてくれてたから、それをずっと読んでたんです。あと、ライトノベルとかもよく読んでた。いまだったら、SFとかミステリーの小説が好きですね。音楽はまったく聴いてませんでした。
――なるほど。じゃあ、これまで石井さんが好んできた本にもしなにか共通点があれば教えてほしいです。
石井 : 共通点か… 主人公が暗いことかな。あと、あんまりアツくないやつ。いわゆる「世界を救うぜ!」みたいなやつではないと思います。たとえば、森博嗣の『スカイ・クロラ』とか。
――暗くて、あんまりアツくないやつか。
石井 : 明るいのって、どうしても胡散臭いなと思っちゃうんですよね。「普通、そんなにがんばらなくない?」って。まあ、それは自分がそうじゃないってだけの話かもしれないですけど。
――石井さんの身近には「がんばろうぜ!」みたいに接してくる人っていませんでした?
石井 : 高校の担任とかはそんな感じでした。みんなで頑張ることを強要してくるのが本当にイヤで。そこに自分を巻き込んでほしくなかったんです。元々、私は人といるのがあまり好きじゃなかったから。本を読むが好きなのは、ひとりでいたいときに1番よかったからなのかもしれませんね。
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――人といるのが好きじゃないと自覚したのはいつごろ?
石井 : それは小学校のころかな。昔から人見知りであんまりしゃべれなかったし、実際に人としゃべることもあまりないなと思ってたから。
――じゃあ、石井さんにとっての学校ってどういう場所だったんですか。恐らくあまり好きな場所ではなかったんだろうと思うけど。
石井 : キライでした(笑)。みんなと一緒に何かをやれと言われても、私には出来なかったし。体育祭とかも休んでましたね。高校は軽音楽部に入ったからよかったんですけど。
――軽音楽部の環境には馴染めたんだ?
石井 : 馴染めてたのかな…。
――それこそ、軽音部内にさっきの担任の先生みたいなアツい人がひとりくらいはいたっておかしくないと思うんだけど。
石井 : たしかに大学で組んだバンドにはいましたね、そういう人。テンションの高いものをこっちに求めてくる人で、やっぱりうまくできなくて、すぐ解散しました。
――ちなみにその高校時代はどのパートを?
石井 : ヴォーカルです。ギターだけをやったときもありましたけど。
雨ってだいたい嫌われるじゃないですか。悪いことしているわけじゃないのに
――自分の歌を人に聴いてほしいという気持ちは、その当時からあったんですか。
石井 : というよりは、ギター・ヴォーカルがやりたかったんです。ギターも歌もその時点で経験はなかったんですけど、女の子でヴォーカルだけっていうと、なんかちょっと誤解されそうな気がして。「どうせあいつ、歌しか唄えないんだろ」みたいな。
――偏見でナメられるんじゃないかと。そこでギター以外の楽器は選択肢に入らなかったんですか。たとえば鍵盤とか。
石井 : ピアノは小さいときに習ってましたけど、それでバンドをやろうと思ったことは特になかったな。ギターにしたのは… 見た目と音がかっこよかったからなのかな。「バンドといえばギターなんだろうな」くらいの気持ちだったので、特になにも考えてませんでした。
――曲づくりにもそのころから取り組んでいたんですか。
石井 : それは高校2年生くらいから部活の外でやってました。そのバンドは違う高校の子と一緒に始めて。私はコード進行を作ることができなかったから、そこをベースの子に作ってもらってたんです。そこに私がメロディーと歌詞を乗せるやり方で始めました。
――曲づくりは共作から始まったんだ。
石井 : 高校のときはずっとそうやってました。そのバンドは人間関係のもつれとかで解散しちゃうんですけど、またすぐに違うバンドを組んで。そこではギターの人がコードを作ってくれてました。
――共作のパートナーが変わったんですね。そうなると曲調もかなり変わりそう。
石井 : たしかに。でも、あまりそこは深く考えてなかったかも。
――でも、石井さんから「こういう雰囲気のやつがほしい」とか「ちょっとそのコード感はちがうんだけど」みたいな意見を出すことはあったでしょ?
石井 : いや、もらったコード進行にはぜんぶ歌詞とメロディーを乗せてたから、そういうのはなかったんです。コード進行を書き出した紙とそれを録音したものをもらって、そこに私が歌詞とメロディーをつけたら、あとはバンドで合わせるだけ。だから、私から選んだことって何もなくて。高校のときはただ、「とにかく作りたい」っていう気持ちだけが先にあったんですよね。でも、大学のサークルで新しくバンドを組んだ子が(コード進行を)作れなくて、そのバンド自体すぐに解散しちゃったから、あとはもう自分でやるしかないんだなと思って。それからはぜんぶ自分で作るようになりました。
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――コードも含めて自分で書くようになったと。でも、ひとりで活動するとなれば、それ以外にも勝手は変わりますよね。石井さんは特にバンドっていうかたちにこだわっていたわけではない?
石井 : 元々はバンドにこだわってたんだと思います。でも、大学を2年で辞めて専門学校に行ったあたりから、「別にバンドじゃなくてもいいのかな」と思うようになって、弾き語りもやるようになって。そのあとにまたバンドは組むんですけど。そのときはもう、「あぁ、バンドって大変だよな」と思うようになってました。だから、いまのほうがいいです(笑)。
――ひとりのほうが気楽だと(笑)。じゃあ、このあたりでこのamenotoという名前についても訊いてみたいんですが。
石井 : えーっと。最初にまず「雨(ame)」を使おうということだけ決めて、それに何かをつけてみようとしていくうちに、いろんな聞き間違えからこうなっていったんですよね。なんていうか、わかりにくいものにしたかったというか…。
――わかりにくいもの、か。まず、どういうイメージから「雨」という言葉を使おうとまず決めたんですか。
石井 : ジメジメしてるとか、そういう感じだと思います。それに、雨ってだいたい嫌われるじゃないですか。
――まあ、降るとがっかりする人は多いですよね。
石井 : でも、雨って降らないといけないものじゃないですか。悪いことしているわけじゃないのに、雨ってそういう扱いをされてる。だから… うーん。なんか違うな。これってもう何度も訊かれてることなんですけど…。
「お前の歌、マジで最悪」みたいな反応があったら、それはそれで価値はあったのかなと思える
――OKです(笑)。アルバムの話に移りましょう。『すべて、憂鬱な夜のために』って、この作品のムードがすごく的確に表れているタイトルだと思ったんですが、これはどのように?
石井 : 学生のころにすごくイヤなことがあって、それで「もう、全部いやだ」って泣いてた夜があったんです。で、そのときの自分は音楽を聴いてた。だから、これはそういうときに聴けるようなアルバムにしたかったんです。それで、曲もわりと暗いものを選びました。聴いた人からするとそうじゃないのかもしれないけど、自分のなかでは暗くない曲もあるんですよ。
――じゃあ、石井さんにとっての「暗い」ってどういうものなんだろう。たとえばそれは内面的なものを意味するのか、あくまでもサウンドに関わるものなのか。
石井 : そこは… 内面的なものですね。曲は月イチくらいで作るんですけど、常に悩んではいるので。
――その悩みとかって、やっぱり歌詞とかにも表れるものなんですか。
石井 : 歌詞か…。無意識で同じ単語ばっかりを使ってるときがあって、そういうときはいろいろ考えちゃってるかもしれない。
――たとえばそれはどんな単語ですか。
石井 : 「涙」とか。書いたものを見て、「自分、そればっかりだなぁ」と思うときはけっこうあります(笑)。そこで他によい言葉があれば換えるときもあるし、なければそのままなんですけど。
――amenotoの楽曲を聴いてると、たとえば『OKコンピューター』あたりまでのレディオヘッドとか、北欧の抒情性が強いポストロックみたいな、主に90年代の音楽から強い影響を受けているように感じたんですけど。
石井 : それは確かにそうだと思います。
――リスナーとしても海外の音楽の方がしっくりくる?
石井 : そうなのかもしれないです。日本語ではっきり歌詞が聴こえてくると、どうしてもそこにばかり耳がいっちゃうし。自分としては演奏をもっと聴きたかったから。
――日本語の歌でピンとくる出会いはあまりなかった?
石井 : あ、ラルクは昔すごく好きでした。意味もあんまりわかんなかったから(笑)。
――でも、石井さんご自身は日本語でリリックを書かれているわけじゃないですか。そこはどういう意識で?
石井 : 何度も聴いて「あぁ、そういうことか」と思われるものであってほしいとは思ってます。パッと聴いてすぐに理解できた気になれるような、わかりやす過ぎるものはイヤなので。
――じゃあ、ステージに立つときの石井さんはどんな気持ちで臨んでるんでしょう。ライヴの場をどう楽しんでいるのかなと思って。
石井 : 楽しい… うーん。
――そもそも楽しいっていう感覚でやってるわけじゃない?
石井 : 「楽しい」って言葉の意味が、よくわからないんです。もちろん聴いてはほしいんですよ。それに、自分が歌っていることを人がまったく違う意味で捉えたりするのも、私はぜんぜんよくて。
――それはネガティヴな反応も含めて?
石井 : あ、そういう反応はむしろほしいです。だって、ふつうに生活をしていればそういうことばっかりだったから。自分の音楽に対してネガティヴな反応がないはずなんてないと思う。もちろん、「良いね」と言ってもらえたらありがたいんですけど。「お前の歌、マジで最悪」みたいな反応があったら、それはそれで価値はあったのかなと思えるんですよね。「こんなん、どうでもいいわ」とか、なにも思ってもらえないよりは、そっちのほうがずっといい。
――なるほど。じゃあ、もしこうして音楽をやってなかったとしたら、自分はいまごろなにをやってたと思いますか。
石井 : そうだな…。オンラインゲームに4~5年ハマっていたので、たぶんそこから抜け出せずにいたと思います(笑)。音楽をやってきたなかで「イヤだな」と思ったこともやっぱりあるんですけど、音楽がやれないときのつらさはもっとしんどかったから。だから、これは長く続けたいですね。
amenoto 過去作
amenoto、初の音源となる3曲入りEP。デビュー・ミニ・アルバム『すべて、憂鬱な夜のために』には入らなかった「ゲシュタルト崩壊」、「ひとりあるき」などを収録。ライヴ会場、diskunion、配信限定で発売中。
LIVE INFORMATION
「すべて、憂鬱な夜のために」release tour
2014年5月31日(土)@仙台enn 3rd
2014年6月9日(月)@池下CLUB UPSET
2014年6月10日(火)@大阪AMERICA-MURA FANJ twice
2014年6月11日(水)@京都MOJO
2014年6月15日(日)@新宿Motion
PROFILE
amenoto
全詞曲を手がけるヴォーカル&ギターの石井翠のソロ・プロジェクトとして、2013年夏より始動。 レディオヘッドをはじめとしたUKロックや、日本文学をルーツに描かれる、どうしようもなく冷たく乾いた世界。その寂しさの中で切ない激情を迸らせる石井翠の歌声が鳴り響く。
・2013年7月より新宿Motion、下北沢CLUB251、下北沢CLUB Que、渋谷eggman等を拠点に、UK直系のギター・サウンドを奏でる4人のバンド編成でライヴ活動をスタート。
・2013年10月~11月、OTOTOYのUst番組"TV♭"の「編集長とamenotoちゃんの新譜の時間」レギュラー出演(全8回)。
・2013年11月7日、初の自主音源『amenoto ep』をライヴ会場/配信/disk union限定で発売。同時に初のレコ発ツアーも東京/大阪/神戸/名古屋にて敢行。
・2014年1月号より、フリー・ペーパー「JUNGLE☆LIFE」にて連載ページ"amenoto 石井翠の徹底的にネガティヴ"開始。
・2014年4月23日、初の全国流通盤となるデビュー・ミニ・アルバム『すべて、憂鬱な夜のために』発売決定。
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