2010年、全曲新録のベスト・アルバム『OUR RUSTY WAGON』発売を機に、8年ぶりの活動再開を果たしたPLAGUES。以後、精力的な活動を繰り広げる彼らが、11年ぶりの新作を遂にリリース! ベースにTRICERATOPSの林幸治、キーボードに堀江博久を迎えた今作は、キレのあるギター・サウンドの中に、メロウなハスキー・ボイスが光る、彩り豊かなサウンド。ギター・ロック・ファンは必聴のアルバム。
PLAGUES / CLOUD CUTTER
1. トリシュナ / 2. スノードームの白熊 / 3. 新世界 / 4. 前兆を待つ / 5. I know, I know / 6. Drivin' down / 7. Free / 8. 途上の夜 / 9. パッキャマラード / 10. Abri / 11. Special one / 12. Open your eyes
販売形式 : mp3
販売価格 : 2000円
深沼元昭 INTERVIEW
PLAGUESが止まらない。リテイク・ベスト・アルバム『Our Lusty Wagon』のリリースと、それに伴う全国ツアーの流れに乗ったまま、なんと彼らはオリジナル作品としては11年ぶりとなるニュー・アルバムまで完成させてしまった。しかも、深沼元昭に話を聞いたところによれば、このあとにはさらにリテイク・ベストの第2弾も用意しているのだという。そもそも彼らの再始動はキャリアに区切りを入れるための一時的なものになるはずだったが、どうやらその予定は完全に撤回されることになったようだ。正真正銘の復活作『Cloud Cutter』のリリースを皮切りに、一度は止まったストーリーがついに第2章の幕を開ける。
インタビュ―&文 : 渡辺裕也
PLAGUESが自然体でいるのは今が初めて
――再録ベスト『Our Lusty Wagon』を出してから2年が経ちましたね。あの作品の手ごたえはいかがでしたか。
演奏技術やサウンド・メイキングに関して、当時はまだ至らなかった部分を改めてやり直したのがあの再録ベストなんです。で、実際にあれを作ったら、なんか当時つくった曲に向き合う気持ちも、今の方がしっかり備わっているような気がして。それでライヴもやってみたら、それが思いもよらず楽しかった。もともとはPLAGUESをきっちり解散させるための再始動だったんだけど、林幸治くん(トライセラトップス)も含めた今のバンドだったら、昔の曲にまた新しい生命力を与えられるなと思えた。
――いざPLAGUESを動かしてみたら、思いもよらず生き生きとしたバンドになっていったと。
俺個人にしても、ここまでプロデュース業やエンジニアをやりながら、プロとして音楽に関わっていくなかで、視点が広がったことはやっぱり大きくて。休止前の頃から「PLAGUESはこうあるべきだ」っていうのは漠然とあったんですけど、それが今になって改めてバンドを動かしてみたら、今このバンドが存在する意義を別の角度から見出せたんです。
――PLAGUES以外のアウトプットを持つようになったことで、深沼さんの発信方法が整理されたんでしょうね。逆にいえば、かつてはPLAGUESにかかる負荷が大きすぎたのかもしれませんね。
そうですね。元来の性格上そうだったのか、僕はエンジニアリングやプロトゥールスでの作業が一番楽しいんです。で、その作業に打ち込んだことで、ミュージシャンとしての在り方がはっきりした。そもそも自分の音楽活動がMTRで録音するところから始まったのもあって、自分の手元に音楽が再び戻ってきたような感覚もあったんです。23歳で最初のCDを出して、すぐにメジャー・デビューするという当時の状況を振り返ってみると、PLAGUESというひとつのロック・バンドのなかですべてをやろうとするには、作曲者としての俺にはやりたいことがあまりにも多すぎた。それでPLAGUESに負担をかけたところは多いにあったと思います。
――本来のPLAGUESはヴィンテージなサウンドを志向していたのに、デジタル・レコーディングに移行してからはどうしても思い描いているサウンドを形にできなくなってしまったという話を前回しましたよね。その深沼さんがプロトゥールスにのめり込んだというのはすごく興味深いです。深沼さんはプロトゥールスのどんなところに魅力を感じているのでしょうか。
思考のスピードについてきてくれるところ(笑)。仮に10億円を手にしたとしても、僕は大きなスタジオがほしいとは思わないんです。それよりもひとつの椅子に座ってすべてができるような環境がベストなんですよね。それくらいに早く考えをまとめないと、どうしても俺は演奏者の耳になって、1個のパートに固執し始めてしまうんです。それがコンピュータ・ベースになったことで、全パートが頭に思い浮かんだら、それを忘れないうちにすぐ録れるようになった。自分にとってそれはすごく大きなことでしたね。
――その手応えっていつ頃から感じられるようになったんですか。
(休止前の)最後のアルバムがプロトゥールスだから、その頃かな。それ以前もlogicとかは使っていたから、いわゆる打ち込みの感覚はすでに持っていたんですけどね。自宅にプロトゥールスが設備された時は、さらにその実感が強くなりました。
――じゃあ、現在のレコーディング環境は、深沼さんにとってはかなり理想形に近いものなんですね。
もちろん個々のクオリティに求めるものはたくさんありますけど、そうですね。過不足なくやれるようにはなりました。
――では、様々なアウトプットを持つ現在の深沼さんにとって、PLAGUESとはどういう部分を担っているバンドなんでしょうか。
自分のルーツとなる60~70年代のロックを、その時の感覚で再構築したのが元々のPLAGUESだと思っています。あと、本来はシンガー志向ではなかった僕がなにか方法を見つけなければいけないと思って書いた日本語詞が、そのままPLAGUESの作風になった。ただ、再録ベストと今回のニュー・アルバムを作って思ったのが、今話したようにコンセプトを説明することは可能なんだけど、そもそも自分が一番自然にギターを弾いて歌うと、それはPLAGUESの曲になるんですよね。つまり、一番考えてないのがPLAGUESなんです。たとえばGheeeをやる時は近藤智洋さんとのツイン・ヴォーカルでかっこよくしようとか、考えるべきことがなにかは必ずあるんです。ソロもソロで、フィーチャリングでヴォーカルを入れたりするから、企画性も捻るし。あと、ロック・バンドとしてはPLAGUESがあるから、ソロはそこと違うものをやろうっていう気持ちもありましたね。
――PLAGUESからの反動があったということですね。
だから、そういう意味ではPLAGUESの自分が自然体なんですけど、じゃあ昔のPLAGUESがそれだけ自然にできていたかというと、まったくそうじゃなくて(笑)。
――そういうことになりますね(笑)。
むしろPLAGUESが自然体でいるのは今が初めてなんです(笑)。それ以上のことを無理にやろうとしていたのが、休止する前のPLAGUESで。特に1995年から2000年あたりまではそう。バンドの出所は至って明確なのに、常に作風を変化させようとしていましたから。
初期だから勢いがあるとも限らないし、キャリアを重ねたから老成するとも限らない
――『Our Lusty Wagon』にも新曲は収録されていましたが、あの段階ではまだ新作の構想はなかったんですよね? いつ頃から新作を出そうという機運がでてきたんでしょう。
去年あたりかな。あの再録に入れた2曲も、ライヴでやってみたら昔の曲と同じように盛り上がって。それで「今でも新しいものを作っていいんだな」と思えてきたのが、まずひとつ。あと、林くんが加わった3人の音でイメージ出来るものが、新しいものをつくろうという気持ちに向かわせてくれたのも大きくて。それに、今のPLAGUESに集まってくれる人達のなかには、俺が(PLAGUESの)休止期間にやってきた活動から知って来てくれた人もいるから、その人達に改めてこのバンドをプレゼンしたいという気持ちもありました。
――深沼さん個人の活動がPLAGUESの動きに影響を与えた部分もありそうですね。
そうですね。Gheeeはもちろん、浅井健一さんや佐野元春さんのツアーに同行していくなかで、今までの年間にこなしたライヴの本数が一気に更新されていったんですけど、そこで自分でも驚いたのが、自分は毎日ライヴをやるような生活が意外と好きだっていうことで(笑)。
――PLAGUESの活動中はライヴにストレスを感じることも多かったと以前にお話されていましたもんね。
今思えばPLAGUESって、それなりの早さでうまくいって、大きな舞台にも立ったから、実際の自分よりもっとすごいことをやらなきゃいけないというプレッシャーもあったんです。歌が下手なことをものすごく気にしていたし。だから、ライヴ録音なんてもう最悪で、絶対に聴きたくなかった。それで20代の頃はのたうち回ってた。自分に設けていたハードルも高かったと思う。それがいつの間にか余裕が持てるようになったんでしょうね。でもそれは本当に最近のことで。あと、再始動して面白かったのが、PLAGUESで今一番人気の高い曲が「Spin」なんですよ。たぶん断トツで。
――へえ! それは当時と大きく変わりましたね。
それがすごく不思議で。あれはシングルの決め打ちだったのもあって、出した当時はけっこう自信のある曲だったんです。でもそれがライヴでもまったく人気がなかった(笑)。それがここにきていきなり反応が返ってきて。当時を知っているお客さんも、「Spin」や「ニュー・ホライズン」の人気に驚いてます(笑)。曲のヒエラルキーが一気に入れ代わった。でも、いろんなお約束をすべてなしにしてみんなが思っている楽曲への正直な反応が、きっとこれなんだなと思って。ちなみに今回の「トリシュナ」は、「Spin」以上に盛り上がる曲を書こうと思って作ったもので(笑)。つまり、今のPLAGUESはライヴと作品が一致しているんです。
――たしかに。こういう言い方が適切かどうかはわからないけど、『Cloud Cutter』はとにかく演奏がフレッシュで。
変な話だけど、たぶんPLAGUESがこんなにフレッシュだったことは過去にないんですよ(笑)。音源上では特にそう。だから、今回はそれこそ、フレッシュなものを作ろうと思ってたんです(笑)。そんな歳じゃないだろうとは思いつつね(笑)。でも、作れちゃったんですよね。ここまで長く音楽をやってきたおかげで、音源の作成に入る前の予備動作とメンタルを整えるのもそれなりにうまくなったから、「こういうアルバムをつくろう! 」と思ったら、それが実現出来るようになった。
――かつてのPLAGUESがやり残していたことを今回の新作で形にした、という言い方もできますね。
実行力が今と昔じゃまったく違うから。あと、今回のアルバムをつくるにあたって、『Our Lusty Wagon』を改めて聴く機会があったんです。そうすると、あきらかに今回の方がバンドの音になっているんですよね。つまり、息が合っている。今回のアルバムの方が圧倒的に生き生きしている。だから、今の3人で音を出す時間を重ねたことはすごく大きかったし、とにかく楽しかった。それに再録では林くんに過去のPLAGUESを踏襲してもらったところがあったけど、今回はそこからさらにPLAGUESの曲を押し上げてもらえた。僕も今回は珍しくレコーディングで立って弾いたりしてますから(笑)。実際にその方がいい感じに弾ける場合もあるんですよね。
――演奏面でラフな部分を許容できるようになったのは、PLAGUESの大きな変化と言えるのかもしれないですね。
自分のヴォーカルにも多くを求めなくなった。悪い部分を直す作業にばかり時間を費やしてはだめだなって。自分の欠点を気にしたところで限界があるし、そこばかり気にすると、むしろ失う部分の方が多いということに、もっと早く気づくべきだった(笑)。そう考えると、昔レコーディングした歌に勢いがなかったのは当たり前で。それに当時はたくさんのスタッフから見られているなかで歌録りしていたから、そういう環境で20代の若者が歌うとなれば、それはやっぱり固くなりますよね。
――次のステップはもう見えているんでしょうか。
PLAGUESにはこれまでに出した作品を好んでくれる人もたくさんいて。当然、再録よりも前のヴァージョンの方が好きだという人もいるんです。だから、そういう人達の思い入れも大切にしたいんですけど、俺としてはやっぱりこうしてまたいい作品が作れたわけだから、もっと今のPLAGUESを好きになってくれるひとを増やしたくなる。そのためには、少なくとも過去作と同じくらいの量をここから先に作っていかないと納得がいかない(笑)。今はそういう気持ちですね。ただでさえ俺は制作好きの多作家なので。
――そうなるとここからの展開がまた楽しみですね。
やっぱりPLAGUESってすごく異質だと思うんです。結成から20年になるけど、そのうちの8年間は休んでいて、しかも最新のものが一番若々しい作風っていうのは、やっぱり変わってますよね(笑)。でも、改めて考えるとロックってまだまだ最近の音楽だなと思って。それを俺達はずっとやってきているんだから、こういうバンドの在り方もきっと間違いではないんですよね。むしろこれからの時代はロックというジャンルへの見られ方も変わって、ロック・バンドのストーリーも多様化していくはずだから。もはや「ロック=若者の音楽」でもないし、一方でこれからの若者が好きになれる部分も当然ある。そういう時代のなかで僕らが面白い存在でいられたらいいなと思ってます。初期だから勢いがあるとも限らないし、逆にキャリアを重ねたから老成するとも限らないからね(笑)。
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PLAGUES / OUR RUSTY WAGON
90年代を唯一無二のR&Rで駆け抜けたプレイグスが2010年に突如、復活。自らその軌跡を辿り直したリテイク・ベスト・アルバム。全て新録によるオール・キャリアの代表作に加えて、新曲2曲をCD2枚組に全30曲収録した、あらゆる世代を震撼させるマスターピース。
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前作から3年、その間も年間20~40本ものライブを精力的に行い、ロック・バンドとして類稀なパワーを身に付けた、その真価をまざまざと見せつける待望の3rdフル・アルバム。
Mellowhead / Daydream weaver
フィーチャリング・ボーカルに佐野元春を迎えた、約4年ぶり通算4作目となる入魂のニューアルバム。ドラムに小松シゲル (NONA REEVES) 、ベースに林幸治 (TRICERATOPS) というバンド編成によるレコーディングも導入、これまでの深沼サウンドを包括した、ロック&ポップ・センス全開の最高傑作。
PLAGUES TOUR 2012 "CLOUD CUTTER"
2012年11月9日(金)@札幌レストランのや (深沼弾き語りライブ)
2012年11月10日(土)@札幌SPIRITUAL LOUNGE
2012年11月11日(日)@札幌Sound Lab mole
2012年11月18日(日)@福岡SPIRAL FACTORY
2012年11月22日(木)@大阪・心斎橋FANJ twice
2012年11月23日(金・祝)@名古屋・池下CLUB UPSET
2012年11月25日(日)@渋谷WWW
PROFILE
Vocal / Guitar : 深沼元昭 ( Mellowhead / GHEEE / BORZOIQ)
Drums : 後藤敏昭
Additional Musicians are
Bass : 林幸治 (from TRICERATOPS)
Keyboards : 堀江博久