Second Royalが放つポップ・オルタナ・バンド
日本のミュージシャンが本気でアメリカ音楽を追求すると、こんなに強烈な作品ができてしまうのだ。地元である京都を中心に活動を続けるバンド、ターンテーブル・フィルムズのファースト・フル・アルバム『Yellow Yesterday』に、思わずそんなことを実感させられてしまった。ここには海外のルーツ・ミュージックに向けた最大限の敬意があり、それを今の時代にフィットさせる柔軟な感性がある。そして、あわよくばそれさえも解体してしまおうという並々ならぬ気迫にも満ちているのだ。これには圧倒された。
実際、この作品の土台となっている音楽性は、フォークやカントリーといった、とてもアーシーな質感を持ったもの。つまり、下手するとかなり地味な印象を抱かれがちなものなのだが、そこにブライトなメロディと豊富なリズム・ワークが加わり、どの曲も瑞々しいポップ・ソングになっている。聞けばこのアルバムの制作はメイン・ソングライターの井上陽介がこれまでになくイニシアチヴを握って臨んだそうだが、その作曲能力、及びそれを具現化させる演奏力たるや、並大抵の経験値では身につかないはずだ。はっきり言って、これは「現在のUSインディとのシンクロニシティが云々」なんて評価だけで終わらせてはいけない作品でしょう! 『Yellow Yesterday』は、脈々と続くアメリカーナの流れから生まれた、ひとつの大きな成果なのだ。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
待望のファースト・フル・アルバムが登場!
Turntable Films / Yellow Yesterday
【Track List】
01. Misleading Interpretations / 02. Portrait / 03. Animal's Olives / 04. Toy Camera / 05. Uncle Tree / 06. Named For / 07. Ghost Dance / 08. Collection Of You / 09. Evil Tongue / 10. Days Plus One / 11. Summer Drug / 12. Little Giant
【価格】
mp3 単曲 200円 / アルバム 1500円
WAV 単曲 250円 / アルバム 1800円
井上陽介 INTERVIEW
——アルバムが完成に近づいているという話をけっこう前から聞いてたんですけど、だいぶ長引いたようですね。
伸びまくりましたねぇ(笑)。ドラムのベーシックなんかはもう去年の6月くらいにほぼ終わってたし、Predawnに歌ってもらった「Animal's Olives」も、ふたりの歌を含めてほぼ録り終わっていたので、このまま行けばたぶん11月くらいには出せるだろうと思ってたんですけど。結局すべて録り終わったのは昨年末でした。プロデュース作業のほぼすべてをやってもらったRufusの上田修平さんが、ちょうどHalfbyのアルバムも同時進行でやっていたので、スケジュールの都合がなかなかうまくいかなかったところもあって。あと、なによりも今回は、僕がただのひとつも妥協しないで作ろうと思って臨んだアルバムだったんです。ピッチひとつや鍵盤のオクターブ、ギターの音、演奏のニュアンスに至るまで、とにかく自分の頭の中にある完成品に近いものを作りたかった。だから僕ひとりの作業にどうしても時間がかかっちゃって。
——制作過程が長引いたことで、方向修正した部分はないのですか。
今回に関しては、8割くらいが出来上がっているデモを先に作っていたんですよ。つまり完成型があらかじめわかっている状態で始めて、そこにできるだけ近づけていく作業だったんです。もちろん微妙なアレンジの変化はありましたけど、あんまり最初のコンセプトや指針がずれることはなかったですね。去年『10 Days Plus One』という会場限定の音源を出してるんですけど、その時には既に歌詞も含めてほぼ書き終えてたんです。
——実は一度ご本人に確認したいと思ってたんですけど、ターンテーブル・フィルムズの音楽に、たとえば現行のUSインディ・バンドからの影響ってあるんでしょうか。というのも、よく今時のブルックリンのバンドなんかを引き合いに出されてるじゃないですか。正直僕はそこにあまりピンときてなくて。
(笑)。その辺りを引き合いに出されることは全然嫌ではないです。それこそ「vampire weekendのあのドラムの感じをやってみよう」みたいな、パート的なところを狙ったことはあるので、そう言われたら「この音を聴いてもらえれば、そりゃそう思うだろうな」って(笑)。でも、基本的に僕はアシッド・フォークやサイケが一番好きで、USインディなんかはあくまでもその流れの中にあるんです。だから、最近のバンドにしても、いわゆるトロピカルな感じのやつより、それよりももっとフォークなことをしている人たちが好きなんですね。たとえば、めちゃめちゃでかいところだと、Fleet Foxesとかですけど、それよりもう少し知られてないところで面白いと思ってるのがいっぱいあって。
——じゃあ、もし井上さんのロール・モデルと呼べるギタリストがいたら教えてください。
あ、それは3人いるんです。今まで誰にも聞かれなかったので、まだ言ったことがなかったんですけど。まず1人目がWilcoのネルス・クラインですね。で、もう1人がTony Scherr。Sex Mobっていうニューヨークのアヴァンギャルド・ジャズみたいなバンドでベースを弾いてる人なんですけど、Norah JonesやJesse Harrisのバックでギターも弾いてて、それがRobbie Robertsonをものすごく荒っぽくした感じで、すごいんですよ。あともう1人が、カナダのSandro Perriです。トロントに留学していた時にライヴも見に行きました。あと、そのトロント周辺の音楽シーンに、Eric Chenauxというアーティストがいるんですけど、その人も、ちょっとジャズっぽいと言うか、かなり自由なインプロっぽいギターを弾く人で、面白いんですよ。
——ジャズがひとつのキーワードということ? ネルス・クラインにしてもそうですよね。
でも、ジャズ・ギターにはそんなに興味がないんですよね。むしろ、ジャズの中ではギター・ソロが一番面白くないと思ってるくらいで(笑)。スタンダードなジャズをやる上では、ギターって他の楽器と比べると制約が多いような気がして。いま挙げた人の場合、そのジャズというのはあくまでも一部であって、基本的にすごくエクスペリメンタルだし、同時にルーツ・ミュージックっぽくもある。タイム感やフレーズから、いろんなものがごちゃっと混ざった感じがして、そこが面白いんですよね。
——ちなみに、去年出たウィルコの最新作はどうでした?
僕、ウィルコは『Yankee Hotel Foxtrot』と『A Ghost Is Born』から『Sky Blue Sky』にいくまでの流れがすごく好きなんですよ。それ以降の2枚は、ちょっとわかりやすいというか。クオリティはめちゃくちゃ高いし、曲によってはものすごく好きなものもあるんですけど、そこまでグっとこない感じでしたね。でも、僕が一番掘り下げて聞いているのは、間違いなくそのWilcoだったり、M・ウォードやYo La Tengoなんかですね。
——あぁ、トラッド・ミュージックを正当な形で引き受けつつ、同時に新しい挑戦があるっていう。
そうそう。コードや曲の進行だけを見るとめちゃくちゃルーツな音楽なんですけど、その前後の要素が見えないというか。そういうものからインスピレーションを受けてるんだと思います。
——それこそ「Animal's Olives」なんて、クラウト・ロックみたいじゃないですか。あの曲のアイデアはどこから引っ張ってきたんですか。
あれはNEU! です。クラウト・ロックはすごく好きなんですよ、あの抑揚のないハンマー・ビートがずっと鳴ってて、そこにエクスペリメンタルでサイケデリックなパートを足して、そこで男女がポップなメロディを歌ったら面白いなぁと。ずっとやりたかったことではあったんです。
——とにかくこの作品は井上さん個人の趣向性が強くでているということですね。となると、メンバー間のコミュニケーションも重要だったんじゃないかと思うんですが。
とにかく説明してみんなで共有して、何回も聞き直してっていう作業でしたね。ちょっとよく覚えてないんですけど、確かレコーディングが始まる前にそういう話し合いもしたんですよ。今までは録音しながらみんなで足していく感じだったから、デモも作ってなかったんです。今回はしっかりアレンジまで詰まったデモを用意したから、みんなすごくつらそうだった(笑)。
——それでも受け入れてもらえたんですね。
音楽的な趣味はすごく近いんです。特にベースの谷(健人)は僕とすごく似ています。面白いと感じるポイントにあまりブレがなくて。常にバンドの音を新しくしていこうという面白さは、みんなが共有しているところだと思います。ベースの谷と出会った時は、確か僕が19歳で、あいつはまだ14歳くらいだったんですよ。バンドとかも確か16歳くらいの時から一緒にやってて。ドラムの田村(夏季)はジャズとかエレクトロ辺りが好きなんですけど、基本的にルーツ・ミュージックが好きというところは一致していて。
——そういえば、今回のリリースを迎える前に、キーボードの船田のぞみさんが脱退されたそうですね。レコーディングにはフルで参加されてるんですか。
はい。ただ、今回のアルバムでやりたいことは僕が一番わかっているので、できる楽器はなるべく自分でやることにしたんです。鍵盤もコード感なんかはすべて僕の中で決まっていたので、半分くらいは僕が弾いて、弾けないところをお願いする感じでした。
——1人が抜けたことで、バンドのアンサンブルに影響はありませんか。鍵盤も含めた4人編成って、井上さんのやりたい音楽性を実現させていくのにすごく適しているんじゃないかと思うんですが。
とりあえずライヴはサポートしてくれる友達がいたので、女性コーラスがなくなったことを除けば、やってること自体はあまり変わってないです。でも、僕はその時々でメンバーの数が変動したとしても、それはそれで面白いと思うんですよね。曲ってその編成や時間の流れで変わっていくものだと思うし、特に今回はライヴで演奏することをまったく意識しないで音源を作ってみたいという気持ちもあったから。僕は情報量の多いアルバムが好きなんです。ライヴはまたその時に考えればいいかなって。
曲が書けなくなるかもっていう不安はあまりない
——井上さんの編曲方法って、イメージとしては足し算寄りの発想なんですか。
ちょっと微妙なところもあるんですけど、とりあえず思いついたものはバコーンと入れてしまうんですよ。そこからどれが本当に必要なパートなのかを考えて、抜くものは抜いていく感じですね。
——では、同時代の日本人アーティストで、自分と作家性が近いと感じる人がもしいたら教えてください。
趣味とかじゃなくて、やってることってことですよね? うーん…。思いつかないかなぁ。ただ、いまはメンバーが変わったりもしたのでちょっと違うかもしれないですけど、クアトロの(岩本)岳士は、同じような考え方で音楽を作ってるような感じが勝手にしてたかも。つくる音はもちろん、聞いているものや方向性、作り上げていく手法、インスピレーションを受けるもの、たぶんすべて違うだろうけど。基本的に自分が聴きたいものを作りたいという感覚が似てるような気はする。あ、でもそこを言っちゃうとクアトロだけに限らないか。リスナー目線から作っているという意味では、HOTEL MEXICOとかNEW HOUSEなんかもきっとそうだと思います。そういう人たちの作るものが僕は好きなのかもしれないですね。
——このアルバムは、楽曲個々を見ていくとさまざまな方向性を持っているように感じるんですが、一方で井上さんには全体像があらかじめ見えていたということですよね。そこがすごく面白いと思ったんですが。
どの曲もまったく違ったものにしたいという気持ちがまず強かったというのと、作品のトータリティって、曲順によるものなんじゃないかなと僕は思ってて。そういう意味でのバランスは意識したかな。曲順もデモを作った段階で決まってたんです。自分で並べて聞きながら、理想的な流れをイメージしていたので。
——では、今回の作品を形にしたことで、自分のイメージに忠実な制作をしたいという欲求には決着がつけられましたか。
そうですね。疲れるからこういう作り方はもうしたくないなと思いました(笑)。
——(笑)。では、次はまったく違うやり方で臨むことになると。ちょっと気の早い話ですが。
そうですね。今はまだ着手してないのでなんとも言えないですけど、またなにか面白いやり方を見つけたいですね。でも僕、練習はあまりしないんですよ。特に自分の曲なんかを改めて弾いたりはしてなくて。でも、家でアコースティック・ギターを持ちながらぼーっとしている時間は好きなんです。それにそういう時も、常にいい曲を書こうという意識がどっかにあるんですよね。これはひとつの趣味みたいなもので。そこでいいと思ったものが出てきたら、ICレコーダーで録音しておいて、あとで暇な時に聴き直すんです。で、その時にはほとんどその記憶がなかったりするので、意気込んでる感じがないんですよね。ほとんど遊びというか。
——曲作りが癖になってる?
そうそう。そういう感じです。たとえば自転車に乗りながら、その録音したメロディにくっつけるパートの音とかを頭の中で足していったり。アルバムを出したいまはそれを一旦出し切ってゼロになった状態ですね。
——そのゼロの状態って、不安になったりはしないものですか。
曲が書けなくなるかもっていう不安はあまりないです。でも、常にいい曲を書けるかどうかはわからないので。今回のアルバムに入れたものはもちろんいいと思ってますけど、あくまでもそのタイミングで生まれていった曲だから、そこで満足するわけではないんです。だから、不安というよりは、ぼんやりしたまま、そのうちまた何かが出てきたらいいなぁと思ってるというか。
——ちょっとざっくりした質問ですけど、井上さんにとってのいい曲かどうかを図るものさしはどういうものなのでしょうか。
やっぱりメロディありきですね。同じコードを使っても、メロディの乗せ方ですごくイメージが変わりますから。それがひとつの指針にはなってるかな。
——僕はギター・プレイヤーとしての井上さんもすごいなと思ってるんですけど、そこでのエゴはないんでしょうか。
えーと、多分あるかな。僕、昔の音楽を聞いて、その演奏の手法とかを調べるのがすごく好きなんです。今回のアルバムでも、George Harrisonが「アイ・アム・オンリー・スリーピング」でやっていたギターの手法を自分でやってみたり。まずフレーズを弾いて、それを逆回転させて、さらにそれを覚えてもう一度弾いて、もう1度戻すっていう作業。「named for」のAメロがそれですね。
——すごい! わかんなかったです(笑)。
逆回転だったら最高だと思ったんですよね。普通に弾いたものと微妙にタイム感がずれるものを弾いたら完璧だと思って、そこでそのアイデアを思いついたんです。これは多分エゴですよね(笑)。「Animal’s Olives」のソロもそう。あれはインプロで弾いて、20テイクくらい録った中から、最も自分が覚えられなさそうな、ヘンテコなフレーズがあるテイクをそのまま使ってて。とにかく新鮮味がほしいんですよね。それも含めて作品のトータリティの中に収めたいというか。
——そりゃ時間がかかるはずだ(笑)。
(笑)。それをぱっと聞いてよくわからないようにしてあるところが、上田さんのすごいところで。録ったままの状態だと、もっとわかりやすい形になってたと思います。それが作品のバランスとして僕が聞きたい感じのものにうまく落とし込んでもらえました。
——では、最後に。今回の作品で上田さんが担当したような役割も含めて、井上さんによる完全セルフ・プロデュースの作品を今後このバンドでつくる可能性はありますか。
どうかなぁ。やっぱりバンドをやっている上では、誰かと一緒にやりたいかな。特に音質に関しては人の意見を聞きたいですね。だから、どうしてもこれは自分にしかできないということでもなければ、バンドで完全セルフはたぶんやらないと思います。今回のアルバム以上に自分で統制をとったものって、実はそんなにやりたくないんです。やっぱり自分にないアイデアを持っている人と一緒にやりたいんですよ。それこそサンドロ・ペリと一緒にやるってことも、ひとつの夢ですから(笑)。まったく知らないところからアイデアが生まれてくるのを見たいんです。それを自分のモノにしたいというよりは、自分の中にまったくない発想を知りたいという気持ちが強いですね。だから次はそういうことがしたいな。
LIVE INFORMATION
2012年4月30日@東京 上野水上音楽堂「TOKYO春告ジャンボリー」
2012年5月04日@東京 新宿 MARZ w / NEW HOUSE / ミツメ
2012年5月12日@京都 京都タワーレコード京都店
2012年5月19日@東京 下北沢「下北沢サウンド・クルージング」
2012年5月26日@東京 新宿タワーレコード新宿店
2012年5月26日@茨城 水戸 SONIC w / The Cigavettes / FREE THROW DJs
2012年5月27日@東京 渋谷HESO w / 王舟
2012円6月02日@大阪 南堀江 FLAKE RECORDS
Turntable Films『Yellow Yesterday』RELEASE TOUR
2012年6月03日@京都 京都MUSE
2012年6月23日@広島 福山POLEPOLE w / Predawn
2012年6月24日@福岡 大名ROOMS w / Predawn
2012年7月07日@愛知 名古屋K.Dハポン
2012年7月08日@大阪 心斎橋CONPASS(旧SUNSUI)
2012年7月22日@東京 新宿MARZ w / COMEBACK MY DAUGHTERS
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ロックンロール界の神童バンドが前作より1年振りに放つ、歴史的2ndアルバム。よりソリッドに進化を遂げたバンド・サウンド、驚異的なまでにポピュラリティーを上げたグッド・メロディーの数々。このアルバムをアンセム盤と呼ばずに何と呼ぶのだろうか。ここで鳴っているのは、間違いなくロックンロールの未来だ。
京都発の6人組バンド、HOTEL MEXICO。DE DE MOUSEやThe xxのフロント・アクトを務めるほか、PitchforkやFADERといった海外ブログでも取り上げられ、驚異の勢いで活躍中の彼らのデビュー・ミニ・アルバム。煌めくチル・サウンドが心地良い作品。
ミツメ / mitsume
飾り気のない佇まいで淡く爽やかな直球のインディー・ポップを奏で、ライヴ・ハウス・シーンを中心にじわじわと注目を集めている彼らが、活動最初期から演奏してきた曲を新たに録音し直したファースト・アルバムを配信。
PROFILE
Turntable Films
井上陽介(Gu)、谷健人(Ba)、田村夏季(Dr)による3人組バンド。地元京都でライヴを重ねながら2008年自主制作CD「Turntable Films」を制作、1000枚を完売させる。2010年2月にデビュー・ミニ・アルバム『Parables of Fe—Fum』をリリース。うち2曲が京都FM"α—station"のヘヴィー・プレイに選出。「ボロフェスタ」「京都大作戦」「都音楽祭」 といった京都 のフェスにも出演。11月にはライヴ会場限定アルバム『10 Days Plus One』をリリース、発売に伴い開催した初の全国ツアーでは東京公演がソールド・アウト。また「モナレコードのおいしいおんがく」、「FREE THROW」、「FM802」等のコンピにも参加。これまで100本以上のライヴを行いながら、約1年に渡るレコーディング期間を経て、 待望のファースト・ フル・アルバム『Yellow Yesterday』が完成した。