YOMOYAが早くも“ニュー・スタンダード”に手をかけた!
もしこの国のポップスが昔の歌謡曲や流行歌と地続きに発展していたら、もう少し違うものになっていたのかもなぁ、などと現在ヒット・チャートを振わしている音楽を耳にして思う事がある。誤解のないよう始めに断わっておくが、僕は日本の音楽界には輝かしい瞬間がこれまで何度もあったと思っている。それはもちろんアンダーグラウンドのものに限った話ではなく、例えば自分の親の世代が夢中になったアイドル・ソングなんかでも思わず仰け反ってしまうような、今聴くとあまりに大胆で斬新なアイデアに溢れたものがあるし、最近ではどうも誤解を受けがちな演歌という音楽の中にもつい胸を撃たれてしまうような曲は確かにあるのだ。ところが今巷で幅を利かせている、所謂J-POPと言われている音楽の大半は、未だに海外の音楽に対するコンプレックスが臆面もなく露出したもの、あるいは国内の一部のリスナーしか意識していないような閉鎖的なものばかり。世界中の音楽シーンを熟知している訳ではないので断言は出来ないけれど、こんなに自国のルーツ・ミュージックが反映されない国は日本だけだと思う。
と、いきなり不機嫌な書き出しになってしまったが、もしそんな気持ちを共有してくれる人がいるとしたら、本稿の主役であるの登場は間違いなく福音だ。なんと昨年のデビュー作『』に続いて早くもの2作目『』が到着した。もう迷いなく言ってしまおう。この作品こそが過去の先達の意志を受け継いだ、現在のポップ・ミュージックの最前線だ。前作で感じた手ごたえはこれで確信に変わった。
彼らの奏でる音は聴く人によってはもしかするとイビツに感じるかもしれない。歌声は常に平熱を保たれているのに、リズムはコロコロと表情を変えるし、唐突にディストーションが唸りを上げたりもするし、とにかく予期せぬ展開が次々と現れてくる。各々のメンバーが鳴らす音も、ひとつの方向に一丸となって収束していくというよりは、どれも別々に放たれていくような、多角的な印象を受けるかもしれない。だがそれも聴き込んでいけば、徐々にそれら全てが言葉と絡み合い、交錯していく中でひとつの情景を演出していることに気付くはずだ。それってポップ・ソングとしてあまりに理想的ではないか? そう、この一聴した時の取り留めなさに騙されてはいけない。これは間違いなく確信犯だ。
そういえば、彼らのオフィシャル・サイトに載っているプロフィールにはこんな事が書いてあった。
「他のバンドが“やりたくてもなかなかやれないこと”目下ニュー・スタンダードを作るつもり」
何だか軽い調子ではあるが、これは冗談でも何でもないだろう。彼らの楽曲は「これまで過去に存在しなかった、誰も耳にした事のないような音楽を作ろう」という思いから出てきたものでは、恐らくない(人が本当にそんな音楽を求めているのか、という話は長くなるのでここでは割愛)。彼らの言う“ニュー・スタンダード”とはつまり、過去から連綿と流れるポップ・ミュージックの歴史のひとつの到達点を提示しようという事なのだろう。ポスト・ロックやオルタナティヴ、はたまたフォークの詩情が混在した彼らの音楽に不思議な親しみやすさを感じるのは、彼らのそうした開かれた姿勢があるからこそである。優れたミュージシャンとは、同時に最高のリスナーだという事を、この『』という作品を聴いて改めて痛感した。
だからこその音楽は聴き手を選ばないはずだ。例えば今これを読んでいるあなたの身近に幼い子供がいたら、是非その子にも聴かせてみてほしい。変な固定観念がない子供にとっては、そこら中に溢れている単調で情念的な歌より、表情が次々と変わっていくのに包み込むような優しさがある彼らの音楽の方にきっと目を輝かせるはずだ。今書いていて思い出したのだけれど、タイトルの『』とは、つまり「よいトイ(おもちゃ)」という事らしい。やれやれ、なんだか僕はすっかり彼らの音楽に誘導されているみたいだ。これこそ本当の意味で「みんなのうた」になるのかもしれない。
最後にもう一度だけ強調しておこう。これこそが現在のポップ・ミュージックにおけるひとつの到達点だ。あなたがどんな音楽を好むのか僕にはわからないけど、今僕があなたに心から聴いてほしいと思う音は、これだ。(text by 渡辺裕也)
Profile
2003年初夏より、渋谷、新宿、下北沢を中心に活動するクァルテット。エレクトロニカ、ポスト・ロック、オルタナ、USインディー、フォークなどを消化した、高次元の音楽性と人懐っこさが同居したサウンド、電飾を施したステージで繰り広げる激しさと繊細さが交錯するライヴ・パフォーマンス、そしてなにより文学性や叙情性を感じさせるメロディー、日本人の心の琴線にどうしても触れてしまうような声が、都内のライヴ・ハウス・シーンで話題に。2006年には、スコットランドの至宝ARAB STRAPの来日解散ツアーのオープニング・アクトに抜擢。さらに、(Zoobombs)のバック・バンドを務めるなど、邦楽洋楽の垣根を軽々と飛び越える稀有なバンドとしての存在感を示す。
- website : http://www.yomoya.info/
- blog : http://yomoyatalk.blogspot.com/
- & records catalogue page : https://ototoy.jp/them/index.php/LABEL/6248
LIVE SCHEDULE
- 5/16(土) OWARIKARA presents "ある朝目覚めたら、デビッドボウイになっていた vol.2"@秋葉原CLUB GOODMAN
- 5/17(日) シャムキャッツ×YOMOYA合同イベント@TOWER RECORD新宿店
Yoi Toy Tour
- 5/31(日) ジェットロックフェス 2009 - 2nd@仙台PARK SQUARE
- 6/1(月) ZOMBIE FOREVER企画 vol.18 "Qurage vs YOMOYA 「double release party」@山形第2公園スタジオ
- 6/6(土) CRAZY RHYTHMS vol.60@長野NEONHALL
- 6/7(日) SORETO MUSIC vol.2@金沢SOCIAL
- 6/11(木) speshall vol.5 YOMOYA"Yoi Toy" release tour!! @十三FANDANGO
- 6/12(金) @名古屋KD-JAPON
"Yoi Toy" release tour final ONE MAN SHOW
6/13(sat) at 渋谷O-NEST
YOMOYA series7 "ぼくらだけではかりごと"
open19:00/start19:30 adv\2000/door\2500
LAWSON(78225) / e+
& records 作品紹介
Bibio 『タイトル VIGNETTING THE COMPOST』
イングランドはウエスト・ミッドランズ在住のスティーヴン・ウィルキンソンによる1人ユニット。ボーズ・オブ・カナダのマーカス・イオンの紹介によって U. S. はLAのMush Recordsより2004年にデビュー。アシッド・フォーク的なギター、チープな機材によるエフェクトやフィールド・レコーディングなど、その奇妙かつ愛すべきサウンドは、インクレディブル・ストリング・バンドやジョアン・ジルベルト、トータスなどと比較されながら絶賛される。2009年、Warp Recordsへの移籍という噂も流れる中、3rdアルバムが完成。新しくも温かい、革新と郷愁を同時に感じさせるようなサウンドスケープを編み出す彼独自の手法が完全に確立した傑作。
Joker's Daughter 『The Last Laugh』
美しきフォーク・ポップを紡ぎだすロンドンの女性S.S.W.ヘレナ・コスタスによる1人ユニット。ゴリラズやベックのプロデュース、さらに自身のユニット、ナールズ・バークレーではグラミー賞まで獲得するアーティスト/プロデューサーであるデンジャー・マウスの全面協力の下、堂々デビュー。本作にはホーンにニュートラル・ミルク・ホテルのスコット・スピレイン、ストリング・アレンジメントにデンジャー・マウスの近年のコラボレーターであるダニエル・ルッピも参加している。日本盤には先行シングル「Worm's Head」のカップリング2曲をボーナストラックとして収録。
Saxon Shore 『It Doesn't Matter (Japanese Release)』
マシュー・ドーティーを中心とする、ペンシルヴァニア出身の5人組インストゥルメンタル・バンド。前作と同じくデイヴ・フリッドマンを迎え、数々のツアーによってライヴ・バンドとして成長したこの5 人によるパフォーマンスを生々しく捉えている。初のヴォーカル曲である「This Place」や、オリヴァーとスティーヴンによるストリングス・アレンジを施した「Small Steps」など、新たな試みにも挑戦している。そして、それらがより開かれた空気をもたらし、より多くの人に聴かれるべきという意味で、史上最高に“ ポップ”なアルバムとなった。