顔も名前も知らない誰かのために、歌いたい
外界との接触を拒み、全てを自分の内側で自足したような音楽にはあまり興味をそそられない。人の胸を打つ音楽とは、他者とのコミュニケーションを図る中でこそ生まれ得るものだろう。なんだか最近どの記事でも似たようなことばかり書いてしまっているけど、その理由は簡単。現在僕の耳に入ってくるものの大半が、一部のコミュニティにのみ発信された内向的な音楽ばかりである事への苛立ちが隠せないからだ。そして、より開かれた表現をレコメンドすることで、音楽の持つコミュニケーションの可能性を改めて訴えていきたいと言う気持ちの表れでもある。
ナイジェリア人の両親の元に生まれ、現在もラゴスを拠点として活動している女性シンガー、アシャ。彼女が生後2歳まで住んでいたというパリでの公演が音源化された。オーディエンスとの掛け合いとハンド・クラップ。溶け合いながらもそれぞれしっかり主張を持ったバンド・メンバーとのアンサンブル。そして語りかけるような歌声。そのどれもが、ただ言葉を交わすだけでは生まれないような親密さを感じさせる。「Iya」では、同じくナイジェリア出身のシンガー・ソングライター、キザイア・ジョーンズがその熱に答えるような力強い歌声を聴かせてくれる。演奏が進む毎に、会場に集まる人々の心が通い合っていく様を克明に捉えた、感動的なライヴ・アルバムだ。彼女がデビュー作に続いてこのライヴ・アルバムをリリースした事には、明確なステイトメントがあるのだと思う。この日会場の中で生まれた空気 を、世界中の人と分かち合いたい。そしてそれは音楽だからこそ可能なのだという事を、彼女は知っている。(text by 渡辺裕也)
PROFILE
ASA(アシャ)は1982年生。ナイジェリア人の両親のもとパリで生まれ、2歳の時にナイジェリアのラゴスに戻り、現在も在住。 “アシャ”とはヨルバ語で「小さいハヤブサ」を意味するニックネーム。
「しゃべる」より「歌う」ことが好きで、いつも即興で歌を作っていたという少女時代を過ごす。18才から音楽学校でギターを学ぶ。 レコード・コレクターの父親の影響で、幼い頃から、マーヴィン・ゲイ、ボブ・マーリー、ニーナ・シモン、アレサ・フランクリンなどのソウル・ミュージック/R&Bやジャズやレゲエ、フェラ・クティ、キング・サニー・アデなどのナイジェリア音楽を聴いて育つ。
2004年にプロデューサーCobhams Asuquoと出会い、ソロ・アルバムを制作。2007年フランスNaiveレーベルより世界へ向けてデビュー。発売と同時にワールド・ミュージックはもとより、ポップ・シーンでもチャート・インし、ヨーロッパ中でセンセーションを巻き起こす。
- official site : http://asamusic.jp/
- Asa 来日公演ライヴ・レポ : https://ototoy.jp/feature/20080913
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