Super VHSがアップデートする80'sポップスの涼風──『Theoria』を漂う上品な心地よさの理由

2011年に入岡佑樹の主宰で結成されたニューウェーヴバンドSuper VHS。約4年ぶりにリリースされた2ndアルバム『Theoria』は、初となる日本語歌詞の楽曲やtamao ninomiyaをヴォーカルに迎えるなど、バンドが新たな側面を見せた作品となった。OTOTOYではサウンド面でも多国籍なバックボーンを踏襲し、Super VHSが生み出したニューエイジ / エキゾグルーヴに迫るインタヴューを公開。2010年代の初頭から、彼らはどのような変遷をたどって今の形へと至ったのか。ぜひ『Theoria』とともに彼らの言葉をお楽しみください。
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INTERVIEW : Super VHS

2010年代のインディ・シーン最大のカルト・ヒーロー? インディ・ロックとヴェイパーウェイヴのミッシング・リンク? いずれにしても、Super VHSというバンドはここ10年のインディ音楽シーンにおいて一際謎めいていた。主宰の入岡佑樹によると、Super VHSの結成は2011年。幸運にも筆者は同年に彼らのライヴを目撃し、その極めてキッチュなテクノポップに打ちのめされ、その場で彼らのカセットテープを購入している。しかし、正直その後もSuper VHSが何者なのかはイマイチ掴めないままだった。
そんなSuper VHSは、2015年にファースト・アルバム『CLASSICS』を盟友TEEN RUNNINGSの金子尚太によるレーベル〈SAUNA COOL〉からリリース。それから約4年ぶりの新作としてこのたび発表されたのが、セカンド・アルバム『Theoria』だ。
早速ここで本作のリード・トラック「shipbuilding」のMVを確認してみると、現在3人体制となったSuper VHSはその姿を晒し、ゆるいダンスまで披露。どうやら彼らを包んできたヴェールは、ここにきて剥がされつつあるようだ。さらにこの曲には宅録作家のtamao ninomiyaが参加。ここには収録されていないが、以前にはmei eharaをフィーチャーした「魚の恋」という曲も発表するなど、最近のSuper VHSはフィメール・ヴォーカリストを積極的に招聘している。もしかすると、このバンドの在り方にも少しずつ変化が起きているのかもしれない。
ということで、ついにSuper VHSと対話する機会を得た。この際だからなんでも聞いちゃおうってことで、新作『Theoria』についてはもちろん、過去作のこと、バンドの結成当初のことなど、とにかくいろいろ質問をぶつけてみたところ、彼らは思いのほか饒舌にそのすべてを明かしてくれた。では、最後までお楽しみください。
インタヴュー&文 : 渡辺裕也
写真 : 今井駿介
音楽とコンセプトだけで判断してほしかった
──僕がSuper VHSのライヴを初めて観たのは2011年頃なんですけど、当時からSuper VHSは音楽性もヴィジュアルも非常にコンセプチュアルで、そのアナログな質感と美意識の高さにとても感銘を受けたんです。入岡さんはどんな音楽に影響をうけて、このバンドのスタイルを築き上げたんですか?
入岡佑樹(以下、入岡) : バンドの結成当初について話すと、当時の僕は同世代の日本のインディの人たちにとても刺激を受けてたんです。それこそTeen Runningsのファンでしたし、すこし上の世代のHotel Mexicoとか〈CUZ ME PAIN〉(2010年に設立された東京のインディ・レーベル)みたいな、ああいうコミュニティにすごく憧れがあって。自分もそこに加わりたかったというか、ちょっと失礼な言い方に聞こえるかもしれないけど、自分にもできる気がしたんですよね。そこで始めたバンドがSuper VHSだったんです。
──いま入岡さんが名前を挙げてくれた方々って、それまでのメジャー予備軍みたいなインディ・バンドとはまったく別種というか。むしろそういう商業的な枠組みから外れたところで自分たちのシーンを作ろうとしている印象がありました。
入岡 : うん、そうですね。あのDIYでやってる感じがすごくかっこよかった。僕らがカセットテープで音源をだしてたのも、そういう人たちに共鳴してたところがあって。 単純にカセットが好きっていうのはもちろんだけど、それこそいまCDを作るのはなんか違うなと思ってたし、かといってレコードはお金がかかるし。となると、カセットがいちばんやりやすかったんです。これだったら自分で全部コントロールしてやれるんじゃないかなって。
──2010年代初頭の都内のインディ・シーンのなかでも、Super VHSは特に匿名性の高いバンドだったと思うんです。そこにもまた、入岡さんの美学が表れているように感じていたのですが、いかがですか。
入岡 : バンドは匿名的な感じのほうがかっこいいなっていう気持ちは実際にありました。あんまり顔をだしたくなかったし。Super VHSっていう名前もそうですね。記号っぽいバンド名にしたいなって。
──たしかに当時はSuper VHSで検索しても、バンドに関する情報がほとんど出てこなかった記憶があります。それこそVHSに埋もれちゃうっていう(笑)。
入岡 : もちろんそれもわかってた上で決めました(笑)。それこそバンドって、その人のキャラクターとかルックスに左右されがちだなと思ってたので、そういうものに左右されないグループをやりたかったんです。音楽とコンセプトだけで判断してほしかった。 あとはまあ、自分のキャラクターに自信もなかったので。単に照れ隠しみたいなところもありましたね(笑)。

──Super VHSの匿名性の高さと実機のシンセ主体の音楽性って、当時のヴェイパー・ウェイヴと共振している部分もあったと思うんですが、そのあたりって意識されてましたか?
入岡 : 〈Beer On The Rug〉(ヴェイパーウェイヴの黎明期を牽引したレーベル) はすごく好きだったし、かっこいい世界観だなとは思っていたけど、そこまでは意識してなかったかな。 個人的にはそれよりも前のチルウェイヴとかのほうが大きかったかもしれないです。Washed out、How To Dress Well、Youth Lagoon、Blackbird Blackbirdとかを聴いてましたし、〈OLDE ENGLISH SPELLING BEE〉とか〈Underwater Peoples〉とか、そういう〈Captured Tracks〉ほど大きくないレーベルに、好きなアーティストがたくさんいました。Tennis、Outer Limits Recordings、あとはJulian Lynchとかもめちゃくちゃ好きだったな。
──2010年代前半はブログの影響力も大きかったですよね。
入岡 : たしかにこのバンドを始めた頃は海外のブログ・カルチャーがめちゃくちゃ盛り上がってた時で、チェックしてるブログに自分から音源を送ったりしてました。実際にそれで載せてくれたところもありましたし。(堀内にむかって)当時みんなやってたよね? あ、ちなみに彼はmöscow çlubというバンドのメンバーなんですけど。
──え、そうだったの!? möscow çlubもまた相当に謎めいた存在だから…。möscow çlubはBandcampでも頻繁に音源を出してましたよね。
堀内裕真(以下、堀内) : 活動開始から2~3年くらいはそんな感じでしたね。でも、その後は各メンバーの拠点が物理的に離れてしまって。そうしたなかでなんとか作ったのが、2015年9月のアルバム『outfit of the day』だったんです。

──2015年はSuper VHSもファースト・アルバム『CLASSICS』を発表してますね。
入岡 : 2013~2014年頃は自分でも何をやってたのかあんまり覚えてなくて(笑)。結成当初は勢いでカセット音源を作ってたけど、ただそれを続けていくのもなんだかなーと。そうこうしていくうちにメンバーも抜けちゃったりして、「なんか…もういいや」みたいな感じだったんです。で、そんな頃にTeen Runningsの金子尚太くんが〈Sauna Cool〉というレーベルを始めて。これは本当かどうかわからないんですけど、「Super VHSを出すために〈Sauna Cool〉をつくった」と言ってくれたんです。それでつくったのが『CLASSICS』。金子くんは本当に恩人ですね。
──『CLASSICS』は歌謡曲的なメロディーセンスを兼ね揃えたシンセポップ / サーフポップといった感じで、新作とはまた違った趣がありますよね。当時の入岡さんはどんなモードだったんですか?
入岡 : 僕、日本の音楽もすごく好きなんですよ。それこそYMOとか〈¥EN〉レーベル周辺のポータブルロックとか、ムーンライダース、dip in the poolとかマライアとかは大好きで。いま再評価されている日本のアンビエントとかニュー・エイジなんかもよく聴いてましたし。同時に海外のインディ音楽も大好きだったので、『CLASSICS』はその良いとこどりじゃないですけど、両方のエッセンスを取り入れようという気持ちで作っていました。でも、そのあとにまたメンバー・チェンジが何度かあって。当時は「これはもう厳しいかな……」みたいな感じだったんです。で、そんなときに彼(楢原)が現れるっていう(笑)。
──楢原さんにとって、Super VHSはどういう存在だったんですか。
楢原隼人(以下、楢原) : めちゃくちゃ憧れてましたね。よくライヴにも行ってたし、そこで自分のバンドのCDを渡したこともあって。まあ、ノーリアクションでしたけど(笑)。Poor Vacationのレコ発にSuper VHSを呼んで、そこからようやく付き合いが始まった感じでした。

──で、そんな楢原さんに加入を持ちかけたと。
入岡 : はい。彼は元ベーシストだっていうし、音楽の趣味も良いし、この人ならやってくれるんじゃないかなって。
──堀内さんはどういう経緯で加入されたんですか。
堀内 : 『outfit of the day』というアルバムのレコ発が実質上のmöscow çlubのラスト・ライヴだったんですけど、そのときに僕がSuper VHSのステージに客演というか、飛び込みでパーカッションを叩いたんです。その流れで入岡さんに打診されて、「じゃあやるか」と。möscow çlubとSuper VHSはずっとライバルみたいな関係性だったんですけど、そこはわりと軽い感じでシフトしていきましたね。
入岡 : それ以降もメンバーの入れ替わりはコロコロあって。正式メンバーがこの3人になったのはホント最近のことなんです。
今、そういうものって本当に必要ですか?
──そんな現在の3人編成ではじめてリリースされるのが、今回のニュー・アルバム『Theoria』。今作をまず特徴づけているのは、なんといっても南米音楽の影響ですよね。それこそ冒頭を飾るタイトル・トラックはサンバで、こういう曲調をシンセポップ然としたサウンドで鳴らしているのがとても新鮮でした。
入岡 : 何年か前に楢原さんとそんなこと話してたんだよね?「いまブラジルだよね!」みたいな(笑)。ちょうど同じタイミングでふたりの興味がブラジルに向いてたというか。
楢原 : 多分あの話をしたのって2015~2016年頃だったと思うんですけど、ちょうどその頃ってコンテンポラリーなブラック・ミュージックがどんどんアカデミックになってきた時期で。それこそヒップホップがどんどんタフでヘヴィになっていって、なんかその流れに僕は馴染めかったんですよ。だからってわけじゃないけど、今にして思うと、それで第三勢力的な音楽に目が向いたってことなのかもしれない。

──Poor Vacationの最新作にもブラジル音楽への傾倒は表れていましたよね。そうしたリスナー感覚をこの3人は今シェアしてるということなんでしょうか?
入岡 : 聴いている音楽はけっこう共有してるよね?
堀内 : そうだね。でも、個人的にはそこまでそっちの方向には行ってなくて、僕は割とカチッとしたものというか、1980年代のクオンタイズされた音楽がずっと好きで。それを踏まえつつ、入岡さんのフィルターを通していろんな音楽を聴いてるって感じかな。
──楢原さんもカッチリしたビートでしっかり踊れる音楽がいちばん好きだと以前の取材で話されてましたよね。そうしたふたりのビート感覚は、現在のSuper VHSにも投影されている感じがします。
楢原 : (入岡は) 多分リズム・アプローチ以上にメロディとか雰囲気へのこだわりが強いタイプだと思うんですよ。なので、僕としては今作のリズム・ワークはすごくやりがいがありました。すごく自由度が高くやれたというか。
入岡 : けっこうお任せでやってもらってました。楢原さんも堀内君も「こんな感じでやってみてくれる?」というと、それ以上によいものを返してくれるんで、僕としてはすごく楽(笑)。
楢原 : ただ、僕は一曲一曲をパンチのあるものにしたがる傾向があるんですけど、そこは入岡さんによくなだめられたんです。アルバムを通して聴き心地の良い作品にしたいよねって。そういう話の流れで、佐藤博の『Awakening』が話題にあがったり。
入岡 : ああ、そこはすごく大事な部分だよね。
──『Awakening』はすごく納得かも。すごくダンサブルなんだけど、汗がない感じというか。
入岡 : うん。品の良さを感じますよね。
堀内 : 収録曲を選ぶときも、速い曲はあえて外したんだよね? そういう曲もいくつか候補はあったんですけど、最終的には統一感を出す方向で選んでいった記憶がある。
入岡 : 聴く人のことをそこまで意識したわけではないですけど「今、そういうものって本当に必要ですか?」っていう問いかけみたいなところは多少あったかも。やっぱり疲れてるときって、勢いのある曲とか聴けないじゃないですか。僕は音楽を聴いて疲れちゃうのって本末転倒だと思うんですけど、最近はパンチの強い音楽ばかりがトレンドになってる気もするので。
楢原 : みんな耳がパンチドランカーになってるんじゃないかなって思うことは僕もありますね。少なくとも僕らがやるのはそっちじゃないなと。
入岡 : うん。あとは単純に「自分たちの好きな音楽」と「自分たちのやりたい音楽」がズレがないようにしたかったんです。

──『Awakening』をどう参照したのか、もう少し具体的に教えてもらってもいいですか?
入岡 : あのアルバム、よく聴くとクラッシュ・シンバルを一発も使ってなくて。 それを発見したのはすごく大きかったと思います。
楢原 : あれに気づいたときは興奮したよね。「なんで『Awakening』ってこんなに良いんだろう?」と思いながら聴いてたら、「これ、もしかしてクラッシュぜんぜん鳴ってなくない!?」みたいな(笑)。
入岡 : 他にも自分たちがいま良いなって思うものをいくつか聴いていったら、サディスティック・ミカ・バンドの『天晴れ』に収録されてる「UN COCO LOCO」とかもクラッシュが一発も入ってないんですよね。Prefab Sproutもわりとそう。The Strokesも全然入ってないし、時期によってはThe Beatlesも入ってなくて。確実にこれは今の感覚にばっちりハマるなと。
──魚と月をモチーフとしたアートワークも、作品のブリージンな雰囲気と合ってますよね。これはどのようなイメージで?
入岡 : 魚、好きなんですよ。今作のアートワークを考えるにあたって、僕のなかでは「静かで神秘的。ちょっとコミカルだけど丁寧」みたいなイメージがあって。「だったら魚と月かな」みたいな(笑)。とにかく涼しげであまりアクティヴじゃない感じがだせたらなと。

自分が作った音楽を自分で聴いて「良いな」と思えるのって最高
──こうしてお話をうかがってみて、バンドの組織形態というか、メンバー間の力関係が以前のSuper VHSとはだいぶ変わったように感じました。かつてのSuper VHSは入岡さんを指揮官としたプロジェクトっていう印象もあったのですが、今はかなりフラットな関係性っていうか。
入岡 : そうですね。元々このバンドは高校や大学の同級生と遊びの延長みたいな感じでやってたので、まったく練習してこないやつとかもいたし(笑)。 みんなで集まった時も、音楽の話とかじゃなくて、「次のライヴの時はなに着る?」みたいな話をずっとしてるわけですよ。
楢原 : そんな感じだったんだ(笑)。
入岡 : 毎回、ライヴで着る服は事前に決めてたから(笑)。
堀内 : 多分その頃の入岡さんはそういう遊びをすごく自覚的にやってたんですけど、他のメンバーは本当にただ遊んでるって感じで、それがまた良かったんですよね。遊びの延長だからこそ生まれるよさというか、それがすごくかっこいいなと思ってました。
──以前のSuper VHSはとにかく匿名性の高いバンドでしたけど、今作ではMVやアーティスト写真にも皆さんの姿がしっかり映っていて、とても開かれた印象を受けました。
入岡 : いろんな人に言われたんですよ。もっと前に出ていかなきゃダメだって(笑)。僕としても、やっぱり作るからにはいろんな人に聴いてもらいたいし、ここからは自分たちが前面に出ていく方向にスイッチしていけたらなって。
──いずれにしても、これはSuper VHSの転機作になりそうですね。
入岡 : そうですね。自分が作った音楽を自分で聴いて「良いな」と思えるのって最高じゃないですか。心のベスト10に自分の曲が入ってきたら最高だし、僕はそういうものが作りたいんです。こうしてみんなの力を借りることによって、自分でも納得出来るものが作れるようになったので、ここからはどんどんやっていきたいですね。

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編集 : 伊達恭平
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