“暦”が宿るピアノの調べ、季節が巡るイマジネーションの発露──スガダイロー『季節はただ流れて行く』ハイレゾ独占配信!

スガダイローのピアノソロ作品『季節はただ流れて行く』は、“暦”をテーマに制作された。スガがこのテーマに目を向けた理由とは何だったのか。そこには、レストランでのBGM、家族との時間、そして故郷の海など、スガの日常と大きな関係があった。OTOTOYでは今作の全国一般発売にともないハイレゾ独占配信の開始、さらに本人へのインタヴューを敢行した。ハイレゾ音源を聴きつつ、このインタヴューからアルバムとスガ自身について読み解いていただければ、今作の魅力もより深く味わえるはずだ。スガの奏でた暦を、ぜひ高音質で余すことなく感じて欲しい。
ハイレゾ独占配信中!!
スガダイロー / 季節はただ流れて行く (32bit float / 96kHz)
【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(32bit float/ 96kHz) / AAC
>>>ハイレゾとは?
【配信価格】
単曲 200円(税込) / アルバム 2,400円(税込)
【収録曲】
1. 花残月
2. 皐月
3. 季夏
4. 七夕月
5. 葉月
6. 晩秋
7. 神無月
8. 仲冬
9. 春待月
10. 正月
11. 如月
12. 花見月
13. 海は見ていた
INTERVIEW : スガダイロー
ピアニストのスガダイローが“暦”をテーマに、毎月1曲ずつ作った楽曲を集めた『季節はただ流れて行く』をリリースした。五反田の音楽ホールで1987年製のスタインウェイを使って録音されたという本作は、クラシックの印象派やスティーヴ・ライヒ的なミニマリズムも織り込んだ繊細なサウンドが特徴的。ジャズというよりは総合音楽としての凄みがますます増している印象だ。シーンの動向に左右されず、我が道を行くといった風情のスガへのロング・インタビューをお送りする。
インタヴュー&文 : 土佐有明
構成 : 伊達恭平
編集補助 : 浅井彰仁
写真 : 長谷川健太郎
音楽でも季節の変化を共有したい

──1カ月に1曲を作るというアイデアはどのようにして生まれたんですか?
スガダイロー(以下、スガ) : 音楽的なアイデアを得るためにレストランのコース料理を頼むことに一時期ハマっていて。あれって2時間だったら2時間の中でいろいろな料理が出てくるわけで、ひとつの時間芸術だと思うんです。ただ美味しいものを出すというのではなくて、そのお店にいる間にどれくらい楽しませられるか、という話だから。そういう料理から曲順とか着想を得ているところがあって。コース料理って月によって旬の食材が変わったりするじゃないですか。だから、単純に同じ店に12回行っても全然違う料理が食べられるし、見られるし、楽しめる。具体的には、料理を楽しんでいて「この季節始まったんだ」みたいな感慨があったりするし。吉野家とか行っていつもと変わらない味を楽しむ、というのもひとつの良さではあるんですけど、でもそれだと飽きちゃうんですよね。今回、音楽でも季節の変化を共有したいなという思いがありました。
──基本的に季節や月をイメージして曲を作っていったんですか?
スガ : 季節感を意識している曲もあるんですけど、全然意識していない曲もある。その辺のストーリー性はひとりひとりのリスナーの意識に任せたいというのがあります。「葉月」とかタイトルを付けて演奏するだけで聴き手にはすごいイメージが膨らむと思うから。
──今回のアルバム、ミニマル・ミュージックやクラシック的な要素もあって、ジャズというよりは総合音楽という気がしたんですけど。
スガ : そこはちょっと意識しました。ジャズから離れようかな、みたいな。ジャズに執着すると、自分に中のジャズでない部分を消していかないといけないから、それが嫌で。だからあえて「ジャズも好きだけどね」ぐらいのバランスにしました。
──どういうシチュエーションで流れることを想定しましたか?
スガ : BGM的にあまり耳障りなものは入れず、どっかの洒落たカフェでかけてもらっても切られないみたいな、そういうところは意識しました。
──前に、蕎麦屋のBGMを作りたいとおっしゃっていましたね。
スガ : 蕎麦屋に行って蕎麦うまいな、と思っていたらBGMがフル・オーケストラの「ムーン・リバー」(ヘンリー・マンシーニ作曲のスタンダード・ナンバー)だったんですよ。で、ちょっと関係性がおかしいだろって思って。蕎麦打つのは一流だけど、音楽のチョイス三流じゃないの? って感じたんですよね。それだったら、俺が音楽を作って全国のお蕎麦屋さんに配りたいっていう(笑) 。蕎麦って結局引き算じゃないですか。最終的には水とそば粉をいかに食べさせるかみたいなところまでいくと思うから。そういう時に、フル・オーケストラの「ムーン・リバー」っていうのは、もう耳がこってりしちゃって味わえない。ラーメン屋ならいいと思うんですよ。ラーメンってひたすら盛っていく感じだから、音楽もひたすら盛っていけばうまくいく。だけど、蕎麦って引き算だから、BGMも気を遣わないと蕎麦が逃げますよって。だから、このアルバムはBGM的に成立し得るかというちょっと実験的な側面もあります。
──外国のジャズ・ミュージシャンが日本に来ると感心する、って言うんですよ。焼肉屋に行っても居酒屋に行っても、ラーメン屋に行ってもジャズがかかっているから。「なんてジャズが普及しているんだ、日本は!」と誤解されるみたいで (笑) 。
スガ : 全然逆ですよね(笑)。あれは結局、誰も知らない曲をかけるのがいちばん無難だからですよ。嫌いな曲だと飯がまずくなるけど、ジャズだと誰も聴かないし、抑揚とかダイナミクスがあまりないから、それはそれでベストなチョイスだと思うんです。でも、俺なんかジャズをよく聴く人間だから、この曲で蕎麦か、みたいなのはありますね。飲食店はちょっとBGMを考えた方がいい。この前行ったハンバーグ屋さんではジャズとクラシックが同時にかかっていたんです(笑)。気になって店員に聞いてみたら、クラシックはビル全体で流れていて、これは消せないって。だけど、店はジャズをかけているという。これってすごい状況じゃないですか。でも、お客さんは普通に食べていて、どうしちゃったのかなって。だから、今回のアルバムもさらっと聴き流せるといいかなと思っています。というのも、音源とライヴの在り方ってちょっと違っていて、音源にライヴの集中力を求めても無理だと思うんですよ。ライヴってこの日に行くって決めてそのために仕事の調整とかもしているだろうし、どんどん気分が高まっている中で聴くわけじゃないですか。それに対してCDって、気楽に「これ聴きたい」って思ったり「これ飽きた」って切られてしまうものだから。音源にライヴのような集中力を求めるのはちょっと違うかなと。もうちょっと気安いやつがいいなって。
──かと言ってカクテル・ピアノみたいなものでもなく?
スガ : そう。じっくり聴けば聴くなりに面白く聴けるんだけど、なにかしているときに耳障りにならない、みたいなものを目指しました。蕎麦を食べていても気にならず、美味しく蕎麦が食べられるっていう。
瞬間瞬間のことをちゃんと味合わないともったいない

──録音に使用した87年製のスタインウェイはどういう特徴がありますか。
スガ : レコーディングで弾いた時はめちゃくちゃ弾きづらかったです。ちょっとタッチの強さが違うだけで音程がすごく変わるし、これは弾けんのかと。もう一個の新しいスタインウェイに変えようかと思ったんですけど、調律師さんが「絶対こっちの方が良いから、我慢して弾いた方がいいよ」って言って。結構辛い状態だったんですけど、録った音聴いて「なるほど」ってなりました。ひとつのタッチに込められる情報量がすごい多くて。写真でいうと画素数が高いというか。
──ひと月に1曲という構成ですが、例えば春夏秋冬で分けようとは思わなかったんですか。
スガ : それは思わなかったですね。そんなに日本人の感覚って大雑把じゃないから。梅雨と梅雨明けでも全然違うし、夏でも一週間で蝉とかツクツクボウシの鳴き声とかどんどん変化していくし。本当にその瞬間瞬間のちょっとした違いが大事だったりするので。
──スガさんは自分で季節に敏感なほうだと思いますか。
スガ : 最近そうなってきたと思いますね。昔はいつも春夏秋冬同じ服を着て、おなじ食べ物ばかりを食べていたんですけど、今は1ヶ月ごとに着る服を変えたりしてて。
──何故変わってきたんでしょう?
スガ : 年齢的なこともあると思います。元々俺は夏がすごい嫌いで、この暑さが永久に続くのは嫌だなと思っていたけど、90まで生きても夏を体験できるのはあと50回いくかどうかなんですよね。だから、瞬間瞬間のことをちゃんと味合わないともったいないと思うようになってきて。娘がいるんですけど、娘のおしめ替えるのがすごい辛くて。いつまでこれ続くの? 苦行か?と思ってたんだけど、こういうことができるのもあと1年もないわけだから、一瞬一瞬を見逃したらもったいなって思うようになった。今は、日に日にウグイスの鳴き声が変わっていくのをおもしろいなって感じるようになりましたね。
──最後にくる13曲目の「海は見ていた」はどういう位置付けなんですか?
スガ : ちょっと話それるんですけどいいですか? 俺は海育ちで、人間が海をどういう風に解釈するのかが重要だと思っているんですよ。というのも、地球にいる生き物はどれも90%は水で、皆海の延長だと思っていて。人間はそのうち宇宙に飛び出すと思うんですけど、それも結局海の延長だと思います。結局海はありとあらゆる生き物のこととか季節をずっと見続けてきたわけじゃないですか。もし海に意識があるとしたら俺らがひたすら繰り返している12ヶ月やいろんな人の人生を最後までを見続けているわけで。永遠性みたいな、そういう視点を最後に与えたかったのかもしれない。
ジャズからも距離を置きたい
──話が変わりますけど、セシル・テイラーが亡くなりましたね。
スガ : 亡くなっちゃいましたね。でも俺はあの人には憧れちゃうかな。最後まで誰とも思想を分かち合わず、すべて謎のまま死んでしまったっていう。あの人のインタヴューを読むと、全部インタヴュアーに逆質問するだけだったりするんですよ。「君はそれをどう思ってるのかね?」みたいな。だから結局彼は何一つ答えを与えてくれないし。だいぶ特殊ですよね。
──ピアニストだとジャッキー・バイアードとアンドリュー・ヒルが特にお好きなんですよね。
スガ : 好きですね。あとジェイソン・モラン。 年下だけど(笑)。
──その3人に共通することってありますか?
スガ : マイナーな中のマイナーというか、ジャズっていうマイナーな場所でさらにマイナーなところを目指しているっていう志ですね。ジェイソン・モランとかもジャズの人だけど、やってることがマイナーで自由すぎだし、意識的に王道から逸れようとしているようにも見えて。セシル・テイラーに関してはちょっとわけ分かんなすぎて、意図も意味もよく分からないままだった。
──ロバート・グラスパー以降のジャズの新潮流はどう見ていますか?
スガ : 俺はそういうところからは距離を置きたいかなと思ってて。もっと言ってしまえばジャズからも距離を置きたいかなって。このアルバムもジャズっぽくはないし。言ってしまうと、日本人のジャズっていうのは全体的ににせものなんで。アメリカのジャズに近づけば近づくほど、にせものなところが見えてきてしまうだけなので。本場そっくりに演奏することは今はもう可能なんだけど、それに価値を与えるってことは俺の人生の中ではもうないですね。若い頃はどれだけ本場、本物のジャズに近づけるかを目指したこともあったんですけど、多分これは無理だなと。客観的に見てこいつジャズじゃんっていう日本人に会ったことが無くて。そんな中で唯一すごいと思ったのが山下洋輔さんでした。あの人は完全にジャズじゃない意識で演奏していた時期があって、あの時の山下さんは猛烈に輝いてた。
──『キアズマ』のころですね?
スガ : そうそう。あの頃の山下さん全然ジャズじゃないじゃん! って。黒人色とかまったくないし、俺はそこを本当に尊敬しちゃった。もしかしたら山下さんは思いつきでやったのかもしれないんですけど、すごく画期的だったと思う。でも、いまのジャズ界って、どれだけお行儀良くジャズが出来るかみたいなところに行っちゃってるじゃないですか。俺はそれにはあんまり関わりたくないかな。
ミュージシャンは音楽じゃないところから吸収したものを音楽にするのが仕事

──自分と近いスタンスの人とかは思い浮かばないですか?
スガ : いまのところ共有できる人はそんなにいないですね。むしろジャズじゃない、ロックとかやってる人のほうが近いかもしれない。ジャズはお行儀が良いぶん、作法守っていて、ちゃんとジャズっぽくしようみたいな方向にいきがちだから。
──具体的にシンパシーを覚えるアーティストは?
スガ : コーネリアスはあんまり聴いたことない音楽で、すごく面白いなって思いました。そんなに聴き込んでるわけじゃないですけど、耳に残るなって思ったらコーネリアスだったってことが何回かあって。ただ、いまはほとんど好んで音楽は聴かないですね。
──自然に耳に入ってくるものだけで充分という感じですか?
スガ : それだけでお腹いっぱいになっちゃうから。そもそも、音楽家が音楽好きってナンセンスだと思ってて。例えば画家が美術館に行くのが大好きだったとして、そんな画家はダメだなと思うし。音楽聴くのが好きなミュージシャンってどうかしてるんじゃないかって思っちゃう。
──ということは音楽以外の部分から色々なものを拾ってくる?
スガ : そう。それを音にするのがミュージシャンだと思うから。良い音楽聴いてそれからインスピレーションを受けるっていうのは変だなって。やっぱミュージシャンは音楽じゃないところから吸収したものを音楽にするのが仕事だと思うから。
──ロマンチックですね。コーネリアスも昔はレコード・コレクター的な気質の人だったんですよ。ただ、ある時期かそういうことを止めて、日常からヒントを得るようになったって言ってました。
スガ : そうでしょ。表現ってそこからだと思いますよ。俺も若い時はジャズ大好きだったからすごいたくさんCD買ったりしてたけど、今はもうそれをやっちゃダメだと思ってて。今何が流行ってるのかなって聴いてると多分ダメなんですよ。なんか踊らされて終わるっていうか。
──ちなみに、山下洋輔さんから教わったことで一番大きかったことってなんですか?
スガ : いろんなところで言ってるんですけど、要は自分でやっていることには自分で責任を取れってことですね。俺は山下洋輔さんに憧れてフリー・ジャズをやってたんですけど、山下洋輔がやってるから自分もやっていいんだって意識で演奏してたんですよ。でも、山下さんにある時それを咎められて。お前のやってることはお前の責任だから、自分で決めてやれって言われたんですよ。それで自分はすごくはっとして、意識が変わりましたね。自分でやることは全部自分で選ばなきゃいけないし、責任も全部自分で取らないとけない。
──オーネット・コールマンも言ってましたね。「自分のことはすべて自分で決めることにした」って。
スガ : 自由っていうのは多分選択なんですよ。あらゆる瞬間にこっちが良いって決められるのが自由で、それができないのが不自由だと思う。例えば、お客さんから求められたものに対して流されずにいかに自分で決められるか。俺がもうこれやりたくないって思ったら、いくらお客さんが求めていても止められないと。そこにこそ自分が自由かどうかっていう分かれ道があると思う。結局、自分で選んで得た評価が自信に繋がるわけじゃないですか。だから、山下洋輔の物真似でずっと行くっていうのも可能だったんですけど、そうすると自分の評価が分からなくなっちゃうと思う。これからも、あらゆる音に責任を持てるようなスタンスは変えたくないですね。

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・『彼にしか為し得ない、繊細かつ狂気的なタッチ——スガダイロー、11.2MHz DSDピアノ・ソロ作を発表』
https://ototoy.jp/feature/201511130
PROFILE
スガダイロー

ピアニスト。1974年生まれ。神奈川県鎌倉育ち。洗足学園ジャズ・コースで山下洋輔に師事、卒業後は米ボストン・バークリー音楽大学に留学。帰国後「渋さ知らズ」や「鈴木勲OMA SOUND」で活躍し、坂田明や森山威男、小山彰太、田中泯らと共演を重ねる。
2008年、初リーダー・アルバム『スガダイローの肖像』(ゲスト・ボーカル、二階堂和美3曲参加)を発表。2010年には山下洋輔とのデュオ・ライヴを実現。スガダイロー・トリオ(東保光、服部マサツグ)での活動のほか、向井秀徳(ZAZEN BOYS)、七尾旅人、中村達也(LOSALIOS、ex.BLANKEY JET CITY)、志人(降神、TriuneGods)、灰野敬二、U-zhaan、仙波清彦、MERZBOW、吉田達也(ルインズ、是巨人、ZENI GEVA)らと即興対決を行う。
2013年あうるすぽっとにて開催された[N/R]プロジェクト、スガダイロー五夜公演『瞬か』では飴屋法水、近藤良平(コンドルズ)、酒井はな、contact Gonzo、岩渕貞太、田中美沙子、喜多真奈美、7組の身体表現家と共演し好評を博す。
2011年に『スガダイローの肖像・弐』でポニーキャニオンからメジャー・デビューを果たし、2012年には初のソロ・ピアノ作品『春風』、志人との共作アルバム『詩種』、2013年自己のトリオにて『刃文』、2014年『山下洋輔×スガダイロー』『GOLDEN FISH』をVelvetsun Productsよりリリース。2015年7月、KAAT神奈川芸術劇場にて上演される白井晃 / 構成・演出『ペール・ギュント』では初の舞台音楽を担当。
2015年4月より、FMヨコハマ / FM 84.7 にて初の冠ラジオ番組「スガダイローのジャズニモマケズ」(毎週土曜日夕方6時30分〜6時45分)放送開始。
【公式HPはこちら】
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【公式ツイッターはこちら】
https://twitter.com/sugadairo