受け入れ、変化し、演じる姿が生み出す自分──安月名莉子「be perfect, plz!」2ヶ月連続インタヴュー前編

OTOTOYではデビュー直後から、その活動を追い続けているシンガー・ソングライター、安月名莉子。これまで3枚のアニメ主題歌シングルをリリースし、その度に異なる曲調、異なる雰囲気で表現の幅の広さを見せてきた彼女が、ニュー・シングル「be perfect, plz!」をリリースしました。TVアニメ『慎重勇者〜この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる〜』のEDテーマともなっている今作は、前作でもタッグを組んだタナカ零とともに生み出され、安月名の新たなる魅力が輝く一作になっています。
毎回リリースのたびに、新しい姿を見せている安月名莉子だが、果たして彼女が描くシンガー像とは一体どのようなものなのか? ここまで活動してきて、幅のある楽曲を歌い上げきた彼女がいま一体何を目指しているのか、「be perfect, plz!」からその内容に迫ります。そして、なんと今回のインタヴューは前編と後編(後編は12月に公開予定)の二本立てでお届け! いまシンガーとして大きな飛躍を遂げている安月名莉子に注目を!
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INTERVIEW : 安月名莉子

“be perfect, plz!”は一聴しただけではなかなか展開や構造に法則性を見出せない複雑な楽曲だ。咀嚼できないまま猛スピードで曲が進んで行く。しかしそれが、アニメのどこかぶっきらぼうな、ひとりでどこまでも進んで行ってしまいそうな主人公・聖哉に必死に付いていくリスタルテのはやる気持ち、あるいは心躍る様子が表れているようで可愛らしい。
安月名莉子にはこれで3回目のインタヴューとなったが、今作でようやく彼女がどんな人間なのかが見えてきた気がする。自身もシンガー・ソングライターとしての夢がありながらも、現在はアニソン・シンガーとしての道を歩む彼女は、単に聴き手を優しく包み込むタイプのアーティストとは違った等身大な魅力がある。自己表現と演技する自分との間で葛藤する姿もリアルだ。デビューから約1年。彼女はいま、自分とは何かを掴みつつある。
インタヴュー&文 : 荻原梓
写真 : 西村満
今回は自分に対して響く曲
──今回もすごい曲ですね……。なんか安月名さんの曲って、普通じゃないものが多いですよね。
なんでしょうね。私も毎回、曲をいただくたびに驚いてます。でも、どれにもどこか癖になる箇所があって、今回の「be perfect, plz!」だと皆さんと一緒に歌えるパートがあるのもポイントです。そしてオリジナルのダンスもあるのですが、MV用の振り付けと、ライブ用の振り付け、そしてアニメでリスタルテが踊っている振り付けと、全部で3パターンの振りを覚えたんです。
──混ざっちゃいそうですね。
そうなんです。リスタルテの踊っているアニメエンディング映像は分かりやすいいウインクやピースがある可愛らしい踊りなので、みなさんとライヴで一緒に踊れるのが楽しみです。
──乗り易いリズムなのでライヴでも盛り上がりそうですよね。さて、そんな新曲ですが、前回のシングル「Glow at the Velocity of Light」(TVアニメ『彼方のアストラ』ED主題歌)に引き続き、今回もタナカ零さんが制作に関わってますね。今作は作詞・作曲・編曲のすべてをひとりで手がけてますが、タナカさんの楽曲についてはどんな印象をお持ちですか?
歌うのがとにかく難しいです。前回の表題曲は作詞をしていただいたのですが、カップリング曲の「たたくおと」は作詞作編曲もしていただきました。それもメロディもアレンジも難易度が高い曲で。でも心に強く残るキャッチーさもしっかりあるんです。今回の「be perfect, plz!」も、細かい音符がたくさんあって、このメロディはこの次どこに飛ぶんだろう……。というワクワク感が常にある曲で、歌い甲斐があります。レコーディングも難しかったです。ひとつひとつの音符をはっきり、ちゃんと言葉の意味が伝わるように心がけてました。
──この曲って女神・リスタルテ視点ですよね。なので慎重すぎる主人公を支える役、つまり相手を前へ踏み込ませる側の立場なので、ある意味”応援歌”的。
はい。なのでワントーン上げて、明るめの声で歌うようにディレクションしていただきました。ただアニメの話数が進んでいくと、とあることをきっかけにリスタルテにも主人公の聖哉ばかりに頼って後を追うだけじゃなくて、自分の力で自分の道を切り開かなきゃという思いが芽生え始めるんです。そういう前向きな思いを自分自身に言い聞かせる言葉も歌詞には入ってます。
──単に相手のことばかり歌っているんじゃなくて、自分のことも歌っている。
そう思います。いままで歌ってきた曲は自分と重ね合わせられる部分があったのですが、今回は自分に対して響く曲という感じで、自分で歌っていても自分自身が元気づけられるというか……歌ってる自分が頑張らなきゃってなります。

──なるほど。自分自身にも響いているんですね。
それと、リスタルテの純粋な気持ちとか、自分で進んで行かなきゃなっていう決意とか、リスタルテの心の動きが全部書いてあるので、アニメと照らし合わせられる部分が今作は特に多いと思います。
──「たたくおと」といい、タナカさんと安月名さんはとても良いコンビですね。
嬉しいです。タナカさん、本当に天才だと思います。自分の中にないものがたくさん出てきて正直悔しいなって思うこともあります。いままで体験したことない世界に連れていってくれるような……本当に出会えてよかった。あと、ボキャブラリーがどこまであるんだろうといつも思います。アニメの原作を知ってから曲をいただいたので、”ステータス”とか歌詞に出てくると高まるんです。
──アニメに関連するワードがあった方が気分が乗りますか?
そうですね。『彼方のアストラ』の時もそうでした。今回だと〈どれだけかさねた涙目チェーンクエスト〉みたいなフレーズがあると、”勇者に立ちはだかる強い敵が出てきた”みたいなイメージと重なって気持ちが奮い立つというか。
──1番好きな歌詞はどこでしょうか?
サビ前の〈あなたへおねがいはいっこだけ〉です。リスタルテちゃんの可愛らしい気持ちがストレートに出てる部分なので。

まさに”慎重”な撮影でした(笑)。
──MVもまた幻想的で綺麗な作品に仕上がってますね。ロケ地はどこですか?
富士山の周りです。1日で5箇所回りました。
──「Whiteout」のMVも富士山の麓でしたよね?
そうでしたね。今回はすごく暑い日に撮ったのですが、洞窟の中は逆に白い息が出るくらいすごく寒かったです。足場もダンス用ではない上に、前日が雨だったので足場が悪くて。衣装が一着しかないから私がコケて泥まみれになったらその日の撮影ごと終わりになっちゃうっていう、まさに”慎重”な撮影でした(笑)。
──焚き火のシーンや松明、洞窟からの光など、全体的に光が印象的な作品だと思いました。
後半に向けて光が差し込んでくるシーンが増えてきて、幻想的で希望に満ち溢れたものを撮っていただいたんです。歌詞のストーリーにも合っていますよね。
──滝でのシーンも綺麗ですよね。
あのシーンは意外と大変な撮影だったんです。ターンするほど足が沈んでいくという……。なのでその場で振りを変えてくださったりして。
──でもその大変さを感じさせない自然な笑顔が素敵なシーンになっています。
嬉しいです。確かに1番笑顔だったかもしれない。
──監督さんからの特別な指示などはあったんですか?
いえ、「感じるままに」って。こういう動きをしてくださいみたいなのはありました。それで自然な表情を撮れたんじゃないかと思います。ただ、私も頑張りました、周りのスタッフさんはもっとすごくて。映像見ると綺麗ですが、実際はめちゃくちゃ過酷な撮影で、カメラマンさんなんて命懸けでした。足元がすごく滑るし、それに靴の中まで水がびしゃびしゃになるシーンなんて初めての経験でした。でも出来上がったものが綺麗すぎて合成されてるんじゃないかと思われるかもしれませんけど、本物の自然です! って声を大にして言いたいです(笑)。あの洞窟はいつもは開いてなくて誰も入れない場所らしいです。
──その場所を選んだのは監督さんですか?
そうです。監督さんがこの前「監督したTVドラマでここで人を突き落とすシーン撮ったなんて言えない……」ってツイートしてて、リツイートもできないしなって(笑)。MVも公開したばかりだったので「ごめんなさい、これ反応できません!」って心の中で謝ってました。

私、アニソン界の女優になりたいって思っているんです。
──ははは(笑)。いやでも、素晴らしいMVになってます。
ありがとうございます。今作でまた”新しい自分”を見せることができたかなと思います……。毎回毎回インタヴューで”新しい自分”って言っている気がしますが、なんかそれもすごく自分の中では納得していて。私、アニソン界の女優になりたいって思っているんです。
──アニソン界の女優?
これだけ毎回、曲のテイストや歌うアニメのジャンルが違うと「方向性が分からない」とか言われることってあると思うのですが、私はそういうの全然気にしなくて。作品を重ねていく内に「あの時のあの曲を歌ってたの安月名さんだったんだ」って言われることって嬉しいなと思うようになったんです。前までは自分の名前を覚えてもらうためにはどうしようと悩んでいましたが、ようやく1年経って最近は「『彼方のアストラ』の主題歌を歌ってた人、『慎重勇者』も歌ってる人なんだ」って反応も増えてきました。そういう声を聞くとやっぱり間違ってなかったなって思えます。アニメを見て知ってくださった方が主題歌を聴いて「感動した」って言ってくださると、アニメに寄り添うことが実感できて嬉しいんです。なので、これからもどんどんいろんなものを演じていこうと思っています。
──アニソン・シンガーっていまたくさんいますけど、安月名さんのようにもともとシンガー・ソングライターとして活動してた人がアニソン・シンガーになるパターンって少ないですよね。珍しいタイプだと思います。
確かにギター抱えてる人ってあまりいないですね。そこは強みだと思いますが、だからと言って特に自分をこう売っていきたいみたいなものは持っていないです。方向性とかいうのも自分にはなくて。いまはこの活動がすごく楽しくて、人の前でしゃべるとか、生のライヴとか大好きで。
──曲を作りたいっていう自分と、一方で、曲を貰って作品のために歌う自分とが葛藤してるアニソン・シンガーって安月名さん以外にいない気がします。「自分を出したい、でも演じる自分も好きだ」という、その葛藤こそが安月名さんという感じがするんです。
それこそ最初の『やがて君になる』(安月名が初めて主題歌を担当したアニメ)なんて本当の自分がどれか分からないっていうテーマでした。私も自分自身の性格が分からないし、何が自分なのか、いまでもずっと模索し続けてる状態です。
──安月名さんってシンガー・ソングライターとしての夢を持っているのに、人に作ってもらった曲を歌う時もすごく楽しそうなんですよね。そこが話してて清々しいです。人によっては自分で作って歌いたいなって人も多いと思います。
曲をいただけることが本当にありがたいんです。自分では絶対書けない曲ばかりで。スタッフさんが「全曲安月名のために、その時の感情が重ね合わせられるような今歌うべき歌をもらってる」って言って下さるのですが、演じる自分と本当の自分の二面性だったり、「Glow at the Velocity of Light」の〈変わりたい 変われない〉みたいな、あまりにも自分にリンクしてる部分が強いなと感じるときがあります。もし自分が書いたら結構ゆったりしたバラードとかダークなものになっちゃうと思うんです。デビュー前の自作曲はそういうものが多かったので、今回みたいに明るい曲とか、自分にないものをいただけることがすごく嬉しくて。だから自由自在に曲を作って歌詞書いて採用してもらえるくらいまでは、まだまだ自分の引き出しを増やしたい気持ちが強いです。
──まさに”レベル上げ”の最中だと。
本当に(笑)。でもたぶん、これからもずっと”新しい自分”って言い続けますね。そうやって言い続けられるこの環境が幸せです。
インタヴュー後編は12月中旬に公開予定! こちらもお楽しみに!

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編集 : 伊達恭平
LIVE INFO
安月名莉子 Memories Live 2019
2019年12月22日(日)@青山RizM
時間 : OPEN 17:30 / START 18:00
ライヴ詳細はこちらから
https://www.azuna-riko.com/live
安月名莉子の過去作はOTOTOYにて配信中!
過去の安月名莉子へのインタヴュー記事もチェック!
PROFILE

幼少よりミュージカルやTVへの出演を通し、役者としての表現を学ぶ。
大学進学と同時に自身の思いを形に残すためシンガーソングライターとしての活動を開始。 2018年10月放送TVアニメ『やがて君になる』のOPテーマ「君にふれて」でメジャーデビュー。同時に『Re:ゼロから始める異世界生活 Memory Snow』の挿入歌「Memories」の歌唱に抜擢される。
2019年2月、TVアニメ『ブギーポップは笑わない』のEDテーマ「Whiteout」をリリース。本作のMVではコンテンポラリーダンスを自ら踊り注目を集める。
さらに5月にはゲーム『夢現Re:Master』では「ニエ」役として声優としてのデビューを果たす。
その才能はアニソンシンガーにとどまらず、シンガーソングライターとしてもギターテクニック、繊細な歌唱力が認められオーストラリアのギターメーカー Cole Clarkとエンドース契約を果たし、2019年3月Cole Clark Guitar presents東名阪のツアーを敢行する。また、2019年12月にはCole Clark 安月名莉子シグネチャーモデルの発売を予定。
11月6日(水)、TVアニメ『慎重勇者』EDテーマ「be perfect,plz!」の発売が決定している。
卓越したギター演奏と寄り添う声で、こころを歌い上げる。
安月名莉子 オフィシャルサイト
https://www.azuna-riko.com/
安月名莉子 公式twitterアカウント
https://twitter.com/azuna_riko