瀧川ありさ、音楽とともに人生を歩む理由─TVアニメ『ドメスティックな彼女』EDテーマ「わがまま」
2015年にアニメ『七つの大罪』EDテーマ「Season」でメジャーデビューし、その後もアニメ『終物語』EDテーマの「さよならのゆくえ」など話題作をリリースし、今やシーンの中心人物のひとりとなったシンガー・ソングライターの瀧川ありさ。ニュー・シングルとなる「わがまま」は、放送中TVアニメ『ドメスティックな彼女』のEDテーマとなっており、アニメのテーマを踏まえて瀧川が生み出した作品となっている。オトトイでは今作をハイレゾ配信するとともに、瀧川ありさへの初インタヴューを敢行。彼女が今作へ込めた想い、そして常に自身の人生とともにあった音楽との関係についても語ってもらった。
TVアニメ『ドメスティックな彼女』EDテーマ「わがまま」ハイレゾ配信開始
INTERVIEW : 瀧川ありさ
インタビューをするまで、瀧川ありさというアーティストは掴み所のない人だと思っていた。これまでに掲載されてきたインタビューを読んでも読んでも、なぜ音楽を作っているのか、その心を読み解くことができなかった。もちろん、このインタビューですべてがわかったとは言わない。しかし、ここまで音楽によって救われ、音楽とともに生きてきたアーティストはそうそういない。それがピュアに伝わる取材となったことは間違いない。インタビューを読んだあと、再び彼女の楽曲を聴いてみてほしい。また違った曲の表情が見えてくるはずだ。
インタヴュー&文 : 西澤 裕郎
写真 : 黒羽 政士
本当に何をするにしても音楽が鳴っていました
──今日のインタビューに備えて、瀧川さんの過去インタビューや発言を読んでいたんですけど、「平成が終わった最初の夏にNUMBER GIRLがいる世界線に生まれてほんとによかった」というツイートが特に興味深くて。解散から約16年ぶりにNUMBER GIRLが再結成を発表したわけですけど、どんな気持ちでこのつぶやきをしたんでしょう。
瀧川ありさ(以下、瀧川) : 私の世代って、NUMBER GIRLに影響を受けているミュージシャンがすごく多いと思うんですよ。なので自分からはあまり言わないようにしていて(笑)。今回もツイートするか迷ったんですけど、平成が終わった初めての夏にNUMBER GIRLがいる世界ってすごいな…… と純粋に思ったままつぶやきました。高校時代もずっと聴いていたし、自分がやっていたバンドでもオマージュ曲を作っていたので、実はバリバリ影響を受けています。
──the band apartもお好きなんですよね? オルタナ・ロックもよく聴かれるんですね。
瀧川 : 自分がいまやっている音楽とは違いますけど、オルタナが好きです。バンアパさんはテクニックがすごいから、高校生のときに私では太刀打ちできないなって思って(笑)。中学生のときから友達と〈ロック・イン・ジャパン・フェスティバル〉に行ったりもして、新しい世界に飛び込んでいくような思春期を送ってきました。
──その一方で、ハロプロ好きという熱い記事も拝見しました。
瀧川 : ハロプロに限らず他のアイドル楽曲も聴きますし、昭和歌謡もアジア圏の音楽も聴いています。
──山下達郎さんもお好きなんですよね。ジャンルや年代を問わず、たくさんの音楽を聴かれているんですね。
瀧川 : ひとりっ子ということもあって、幼い頃からテレビが好きで。特に音楽番組にかじりついて自分の好きな音楽を探していたんです。たとえば、『COUNT DOWN TV』の1位から100位までを覚え続けるみたいな。小学生になってからは、すごい量のCDをしょっちゅうレンタルしてPCに取り込んで聴いていました。いまでこそストリーミングでいくらでも音楽を聴ける時代ですけど、寝ている時も音楽を流していたし、本当に何をするにしても音楽が鳴っていました。
──寝ているときも音楽を聴いていたんですか?!
瀧川 : いまでも聴きながら寝ています(笑)。そうすると「ここのコードはこうだな~」みたいな夢を見るんです(笑)。小学生のときはイヤホンをして寝ていたので、起きたときにコードが首に絡まることもあって。親母にいつも心配されていました(笑)。
──何かを聴いていないと、落ち着かないんですね。
瀧川 : たぶん無音でいるのがダメなんですよ。勉強中も聴いていましたし、外出しても街に流れているBGMをShazamします。その感覚が当たり前だと思っていたので、友達にBGMの話を振ったら「え? なんの話?」みたいになって、みんなそこまでBGMを意識しないで生きているってことを知ってショックを受けたこともあります。まあそれがBGMの役割ですが、私は音楽ばっかりに耳がいっているんでしょうね。
音楽で人と繋がれないのであれば、やる意味はないと思った
──まさに音楽中毒ですね。いろいろな音楽がある中で、瀧川さんがグッとくるポイントって、どういう部分なんでしょう。
瀧川 : リズムやサウンドですね。歌というより音で把握しているので、サントラやインストも好きなんです。例えば、洋服屋さんで好きなBGMがかかっていると服がよく見えてくるし、逆にBGMが好みじゃないと、そのお店で服を買わない(笑)。リズムが立っている曲が好きですね。
──いろいろな方に取材させてもらいましたけど、群を抜いて音楽が好きな方だなと思います。音楽がないと生きていけないくらいだなと。
瀧川 : 飲みに行くとか、そういうことを全くしないで音楽にぜんぶ費やしてきたので、それが当たり前なんです。みんなが遊びに行く時間、私は家に帰って音楽を聴きたいと思っていたタイプなんです。
──その根底には、自分の作品に還元したいという意識もあるんですか?
瀧川 : う〜ん。自分で表現するときもそうなんですけど、救われたいだけなんですよ。性格的にいろいろ考えがちなので、音楽を聴いて「あー幸せ」って思っていたい。無音になるとズーンとしちゃうんですよね(笑)。仕事的にたくさん聴かなきゃというわけではなくて、自分の心を安定させておきたいというほうが大きい。忙しくなって音楽が聴けなくなると病んでくるので、心のために聴いているのかなと思いますね。
──瀧川さんの作っている音楽は、今まで話してきたアーティストの楽曲とは違う作風だと思うんですけど、それはどうしてなんでしょう。
瀧川 : 最初は「学校のみんなが喜んでくれるものを作ろう」という気持ちで曲を作り始めたんですけど、どんどん自分が好きなサウンドを作っていった時期もあって。でも、誰も自分の音楽に見向きもしなかったんです。そのとき、みんなが喜んでくれる音楽をやらないと自分で音楽をやる分には意味がないなと思ったんです。自分が生きていくうえで、音楽で人と繋がれないのであれば、やる意味はないと思った。バンドを解散した後、1人になったときに改めて「独り善がりな音楽はやっていられないな」と思って、メジャー・デビューのタイミングで普遍的なものを意識して大衆的な楽曲を目指すようになりました。
──そういう経験があっての今なんですね。
瀧川 : あと、似合わないのもありますね。自分の声質や立ち姿に合うものがそれぞれある。自分のやりたいことと、似合うものは違うことに気づいた。最初は嫌だなってときもありましたけど、いまは自分が輝くものをやりたいという気持ちに変わりました。
仮面を借りて心の仮面を外しているような感じ
──価値観が多様化している中、普遍性を探すのも難しいと思いますが、瀧川さんは曲制作において何を大衆性と考えていますか?
瀧川 : 私はドン・キホーテが好きで、よく夜中に行くんですけど、そこで流れている音楽というか。テレビの音楽番組で流れているような音楽もそうなんですが、普段の暮らしの中にスっと入ってきてくれる曲ですかね。思春期に大衆性の真逆の思考に向いた分、今は改めてみんなが歌える曲の素晴らしさを感じます。曲を作るとき、既聴感のあるメロディは嫌だったんですけど、逆に「ちょっと聴いたことあるくらいにしておこう」くらい、みんなが覚えやすいメロディを目指したり、そういうことも意識できるようになりました。
──過去のインタヴューで、瀧川さんの人間性と楽曲との距離感の話をしていましたよね。瀧川さんの人間としての魅力を高めることが、楽曲の魅力も高めていくことに繋がると思いますか。
瀧川 : 前作のアルバム『東京』は、自分をフィーチャーするというコンセプトで作ったんです。私は自己顕示欲が比較的弱いタイプなので、自分の名前を名乗るのに違和感があった。それくらい、サウンドと自分を切り離していたんです。だけど、お客さんは私を観にライヴに来てくれているので、そこは変えようと思って。正直、曲以外の部分はずっと自信がないんです。しゃべるときもわりと立ち振る舞いがわからなかったりして、それじゃダメだなと思って。私は人付き合いが苦手だから、自分を乖離させて音楽で人とつながりたいというところから始めているんです。自分に自信があったら音楽をやっていないだろうなって気持ちもあったんですけど、自分を愛して認める努力が曲を作るのと同時に必要なんだなと感じています。
──世の中には自信がない人もたくさんいると思いますし、そこに共感する人もいると思いますよ。
瀧川 : そうですよね。でも、私の音楽を聴いてくれる人にも失礼なので、せめてミュージシャンのときは堂々としていたいなと思います。
──最新シングル「わがまま」は、TVアニメ『ドメスティックな彼女』のエンディングテーマです。アニメの作品性を元に、曲の世界観も作っていったんでしょうか?
瀧川 : 脚本を読ませていただいて書き始めたんですけど、アニメ作品のテーマがあってこそ、生まれた曲ですね。『ドメスティックな彼女』の根っこにあるものは、すごくピュアなものだなと感じたんです。忘れていた中高生のときのこんがらがっている感情を思い出して書きました。ひとつテーマをいただくことによって、逆に自分を開示できるとも思ったんです。この作品性を借りることで、自分を表現できるかもしれないって。ゼロからだと億劫になってできないですし、恥ずかしくて歌えない。でもこの作品があることで、ひとつ自信が乗っかるというか。
──作品が媒介になって、自分を出せるようになったということ。
瀧川 : はい。仮面を借りて心の仮面を外しているような感じというか。
──それはおもしろいですね。『ドメスティックな彼女』を媒介として、瀧川さんのどんな部分を表現しているんでしょう。
瀧川 : 自分の感覚だけだと、ど恋愛ソングは出てこないんですよ。というのも、昔から恋愛ソングを聴くと疎外された感じがあって(笑)。聴いてくれる人たちにそういう思いをさせたくなくて、親でも友人のことでも誰にでもあてはまるよ、という言い方をしながら曲を作ってきたんです。でも今回は、恋愛感情で湧くような気持ちが自然と出てきたんですよね。
──「わがまま」には、恋の儚さやつらさが溢れていますね。
瀧川 : 大人になる手前のモヤモヤとした気持ちを表現したかった。根っこにあるピュアさを出すためにジャケットも教室のイラストなんです。思春期の子も、大人でも聴ける曲にしたいなと思って。「大人になってもこの感覚はずっとあるよね」と思えるようなバランスを考えました。
──作詞作曲は瀧川さんで、編曲は重永亮介さんです。ストリングスの入ったオーケストラっぽいアレンジが印象的ですね。
瀧川 : 前作の『東京』はストリングスを入れずに生歌だけで表現するという縛りでやったんですけど、オーケストラも好きなんですよ。今回、作品性を表現するために、バンド外のサウンドに関してはプロの方にお願いをして。作品に染みるサウンドにしたかったんです。2番のAメロのリズムは、わがままな感じは残しつつ(笑)。
──カップリング曲「always」も、ピアノとストリングスによるシンプルなアレンジです。いまはそういう音が瀧川さんにはまっている?
瀧川 : 「always」は、8話の特別エンディングの曲なんです。ハッピーエンドで終わる話だったので主題歌っぽい曲というか、自分の曲のなかでありそうでなかったほうに振り切ったバラードになりましたね。
音楽を作ることでどうにか幸せになりたいなと思っていて
──元となる作品があることによって、作りやすい面もあるんですね。逆に、好きに作っていいよというときはどう作っていくんでしょう。
瀧川 : それが問題なんですよ(笑)。前作『東京』はそれに近い状況で作っているんですけど、家でポロロンとギターを弾いて歌っていると、だんだん沈んできて、暗い曲しかできなくて。
──そこには、瀧川さんのさみしさが反映されている?
瀧川 : だと思います。さみしいくせに1人で居たいタイプなので、自己矛盾とずっと戦っているような感じなんです。音楽を作ることでどうにか幸せになりたいなと思っていて。どう足掻いても音楽をやらないと自分が納得できないんだろうなと思うから、いろんな曲を作りたいし、明るくなりたいと思って明るい曲を作ることもあります(笑)。
──いろんなことにアンテナが立っていて、常に吸収することで、いまの瀧川さんが保たれているのかもしれないですね。
瀧川 : たしかにインプット量が多すぎるのかもしれない。私、家にある全部のデバイスを開いているんです(笑)。すべてのデバイスで、動画や曲を流していて。ギャラクシーの新機種が発表になったじゃないですか? あれ3タブ開けるらしくて、最高! って思いました(笑)。いまは、それをテレビとパソコンとタブレットでやっている状態なんです。
──インプットするものは音楽以外のものもですか?
瀧川 : はい。私、人の話を聞きたいんですよ。こうしてインタヴューを受けていても、インタヴュアーさんの話を聞きい(笑)。普段人と関わっていない分、ドキュメンタリーやインタヴューで人が考えていることを知ろうとしている。そのなかで自分はこういう人間なんだって浮き彫りになってわかることが多いですね。
──インプットだけじゃなく、アウトプットしたものを聴いてもらえる状況にいるわけじゃないですか? それによって生きやすくなりましたか?
瀧川 : ……生きやすくはなっていないですね(笑)。むしろ、生きづらいからやれている感じというか。インプットしているだけだと自分を好きになれないので、アウトプットして初めて答えが出るのかなって。自己表現をしないとゴチャゴチャになると思います。いろんなものを見聞きして、感じていることをまとめたいと思うし、表現しないといけないんだなと思って活動しています。
──瀧川さんは10年後はどんなことをやっていると思いますか?
瀧川 : やり方はわからないけど、音楽はやっていると思います。最近、女性の方から「30歳をすぎて楽になった」と聞くことが多くて。「20代のときは謎の不安や、歳をとりたくない気持ちがあったけど、30歳をすぎたら楽になって人生が楽しくなった」って。だから、10年後は楽しみです。「人生はなんとかなるけど甘くはない」って言葉が好きで。なので気張らず、ありのまま生きていきたいです。
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LIVE SCHEDULE
〈 瀧川ありさワンマンライブ 2019“Altair” 〉
2019年5月6日(月・祝)@代官山LOOP
時間 : OPEN16:30 / START17:00
PROFILE
瀧川ありさ
1991年、東京生まれのシンガーソングライター。
奥田民生率いるユニコーンをはじめ、CHEMISTRY、ゴスペラーズ、最近では西野カナといった人気アーティストを発掘してきた、 伝説のスカウトが惚れたグロッシーヴォイスと、風景を描くように紡ぎだされる歌詞とメロディーが魅力。
2015年3月、アニメ「七つの大罪」のエンディングテーマ「Season」でメジャーデビュー。 同年7月に2ndシングル「夏の花」をリリース。さらに「SUMMER SONIC 2015」へ初出演を果たす。 11月にはアニメ「終物語」のエンディングテーマとしてロングヒット中の3rdシングル「さよならのゆくえ」をリリース。 女子高生100人が選ぶ「クルコレランキング」で、デビュー曲から3作連続で1位を獲得。
同年11月に、初のワンマンライブをTSUTAYA O-nestにて開催。チケットは即日完売となる。 2016年2月には、原宿アストロホールにて2ndワンマンライブを開催。1stワンマンと同じく、即日即完となる。
2015年の活動が評価され、「第30回日本ゴールドディスク大賞」新人賞獲得。
2016年4月6日には、自身初となるバラード曲である4thシングル「Again」をリリース。
さらに、2016年6月には恵比寿LIQUIDROOMを含む東名阪ワンマンライブツアーの開催も決定するなど、 ライブアーティストとしてもシーンの内外から熱い注目を集めている。
>>>公式HPはこちら
http://www.takigawaalisa.com/
>>>公式ツイッターはこちら
https://twitter.com/AlisaTakigawa