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音楽はフィジカルなものである。の『』を聴いて、そんな印象を抱いた。湘南・藤沢発の3人組である彼らの結成は1996年。すでに10年選手であるが、メンバーは結成当初と変わらない。りゅうた(Vocal、Guitar)が高校の学園祭で他の2人のバンドを見てすぐに声をかけて始まったというが、まさにその時の光景が目に浮かぶくらい音を鳴らすことへの喜びが伝わってくる。ジャム・バンドと言われる所以は、初めて音を合わせた時の感動を追い求める姿勢が反映されているからなのだろう。
彼らの音楽を聴くと、音楽は自由であるということも再認識させられる。音源から演奏時の息づかいだったり、セッションの軌跡が溢れ出ている。そこが本当に身体的で、バンドとしての積み重ねられた息づかいを一つ一つの音から感じ取ることができる。曲の途中でリズムが転調したり、突然激しくなってみたり、それでも1曲としての物語がある。まさに、音楽自体が彼らの人生であり、どんな道を進んでもそれが音楽になっていく。バンド名の通り、包み隠さない裸の音が鳴っている。
インタビュー & 文 : 西澤裕郎
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メンバーを変えてやるなんてことは考えられなかったし、そこはこだわりだと思う。
ー活動歴14年目ですが、として譲れない部分はいつ頃確立されたのでしょう?
りゅうた(Vocal、Guitar)(以下 R) : 2000年くらいに自主で音源を作った時には、自分の中で譲れない部分が出来上がっていました。それは中学生の頃、オールマン・ブラザーズ・バンドとかスティーヴィー・レイ・ヴォーンとか、そういうイナタい系(※泥臭い、ブルージー)から、50年代〜80年代〜90年代までかっちり聴いていたのが大きいですね。
ー中学生でオールマン・ブラザーズ・バンドを聴いてたんですか?
R : 小学生の頃から聴いてたし、さかのぼると生まれる前から聴いていると思うんです。両親がバンドをやっていたので、小学生の頃から米軍基地に行って母親が歌っているのを聞いてた。本当だったら家でイエスとか聴いていたかったけど、同年代の人とのコミュニケーション・ツールとして新しい音楽も聴いていましたね。
ぶん(Bass、Chorus)(以下 B) : 僕はメタルが好きで、ガンズ・アンド・ローゼズ狂だった。すごくロックしたいって感じでしたね。
ーメンバー間でやりたい音楽は衝突しなかったんですか?
B : むしろ、僕の場合はすごく教えてもらっていました。
R : 余計なことを考えさせる前にどんどん曲を持って行った。僕の頭の中にあるものを、抽象的だけど出していったら、メンバーがちゃんと応えてくれたので、媚を売ることなく好き勝手にやってこれた。トリオだからそれぞれの役割は自然と出来上がっていたので、ある程度こうしてくれって注文はしても、細かい部分は各々で好きなフレーズをぶち込んで、その集大成になっている。僕たちは、呆れるくらいリハーサルやセッションをするんです。コトコト煮込んで、みなさんに聴かせられるようになるまで練習する。はまってしまうと一日12時間とかスタジオに入ってしまうので、一歩も出ない日もあります。そのうちドラムがふらっと倒れて終わる(笑)。
ーそれだけストイックにやってきて、メンバーの脱退がないなんてすごいですね。
R : ほんとにガキの頃からこのメンバーでやってきたし、その頃の理想を今でも掲げてやってこれているんです。大人になると現実を見なきゃっていう人も周りにいたけど、諦めるのは本人たちの勝手。をやる上で、メンバーを変えてやるなんてことは考えられなかったし、そこはこだわりだと思う。僕より歌がうまいヤツはいっぱいいると思うし、他のやつに歌わせてギターだけ弾いていればいいじゃんとか、ドラムももっとうまいやつを入れればいいじゃんとか、そういうことじゃない。足りなかったり、足りていたり、凸凹しているところを3つで補ったり、ガタガタな歩幅でも一個で向かって行くところにオリジナリティがあるんじゃないかなと思ってます。
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お客さんとの距離も重要。距離が近いほうが反応がすごくいいんです
ー歌詞にメッセージはありますか?
R : 歌詞に関しては、自然と詩が降りてくる感じがある。僕はソウル・ミュージックが好きなんです。心が震えてメロディとギターを弾いてるので、その時自然と出てきた音がかっちりはまってジーンとくる、そこを伝えたい。だから、メッセージ性は自然と込められていると思います。本当に思っていないことは歌いたくないし、体裁よくまとめた感じにもしたくない。どこか影もありつつ、ちょっと考えさせられたり、でも答えはひとつでもない、捉え方がいくつもある。だから歌詞はすぐ作れるわけじゃない。すごくショックなことだったり、人と人との心の葛藤を見た時、なんだよちくしょーとかじゃなく、もっと大きな目で感じられる部分があって、そうした感情も音楽にのせると何の攻撃性もなくなって、むしろ心地よい変化を見せることもある。わかりやすく言いたいとは思ってますね。
B : らぞくの歌詞には禅的な世界観があるよね。
ー『』にはインスト・ナンバーの「」が収められていますよね。
R : この曲はバンドとしてのメッセージですね。歌ものには、歌のしばりがある。でもインストにすると、3つの関係性だけで曲が進行したり成り立つからすごく自由。どういう展開でも持って行けるんです。音合わせの時に、一番根本的な部分で音楽してるなって感じることができる。そこに共感してくれるお客さんも結構いますね。理想としてはポップな歌もの主体なんですけど、歌ものの途中でジャムが入って、中学校のころにあった『魔王』みたいな感じですごい物語展開になっていく。物語の途中で魔王が来てものすごく暗くなったと思ったら、いつの間にか明るくなって魔王は去っていたみたいな、そういうのをシナリオなくその場で作れていけたらいいなって思う。そういうことが出来た時に、歌ものではないジャムの部分が抽出されたって感じるかな。
ーインスト曲の後の「」は、対照的にかっちりとした歌ものですよね。
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R : ギャップというかメリハリをつけられるようになったんです。今までだったら、同じくらい長い曲を3連発くらいいっていたけど(笑)。
ーどうして、メリハリをつけられるようになったんですか?
B : 周りからの意見が大きかったですね。スタッフの人や他のバンドの人とか色んな人の意見に耳を傾けるようになったんです。
ーメリハリをつけた曲順に変えてどう感じましたか?
R : 最高ですね。僕は自分のバンドの大ファンなので、どんな並びでも好きだし、なんかバンド的にエムっけがあるのかな。出来上がったものに対して曲並びとかを言われて変化して、まるで自分がやっていないように聞こえるっていうのがすごく嬉しくて。今回はいまのとこの最高傑作だなと思ってます。今の一番いい状態がとれている。
ーそうしたメリハリは、ライヴにも反映されていますか?
R : ライヴにも反映されましたね。最近渋谷でやった時、『今までで一番よかったよ』って言われた。今まで14年間もやっているのにですよ(笑)。昔より減ったけど、スタジオとライヴ・ハウスを行き来するだけの時があって、いちいちライヴ・セットを考えてられないねって時に、割烹料理スタイルっていうのを編み出したんです。何も決めずに楽器持ってライヴ・ハウスに行って、お客さんのノリとパーティの雰囲気を見て1曲目から決めて行く。やっている最中にまたジャムっていって、次あれやろうっていう風にやっていた。ただ時間が押すし、外れた時にはすごく汗をかくっていう一回一回がすごく疲れるスタイルだった。今はそのスタイルでやれる場所っていうのも確立できているから、そうじゃない場所では『今日はメリハリをつけよう』、『今日は自由にやろう』って考えられるようになってきましたね。
ーフジロック・フェスティバルや上田ジョイントなど、野外の大ステージでも割烹スタイルで演奏されたんですか?
R : フジロックの時はガチガチに決めていった。こっちもガチガチだったしね(笑)。逆に上田ジョイントは割烹スタイルで出来たかな。
B : お客さんとの距離も重要。距離が近いほうが反応がすごくいいんです。フジロックの場合ステージから客席まで2呼吸くらい距離があったから、こっちでやっていることを見てもらうって感じだった。近いと一体感というかレスポンスとかがあって、お客さんと一緒にライヴをやっていると感じられますね。
R : 最近は、大きい会場での一体感も掴めてきているから、逆に曲に助けられているって思う時もある。お客さんみんなが好きで、どこにいっても人気ある曲ってのがあって、それを演ればどこでも盛り上がるわけです。変に挑戦したり捻くれたことをやろうとすると、失敗するってだけで。もちろん、敢えてひねくれたことをやることで、新しい道を発見したりするっていう欲張りな願望もあったりする。ただ、割烹スタイルでのやり方は終焉を迎えてはいますね。こういう展開だったら、こういう風に進んでいくっていう筋道が見えるようになってきたから。
ーの音からは、3本の楽器が融解して混ざり合うような印象を受けます。
R : それがジャム・サウンドっていうんじゃないかな。全体で1個の音を鳴らしているっていう。バンドっていう一つの楽器を、ベースを使って、ギターを使って、ドラムを使って、一緒に鳴らしているっていう感じがの理想のバンド・サウンドでもあります。本当は独立しているんだけど、独立したものがあわさったところでひとつになっている。長年の熟成されたものだから、このサウンドは誰にもマネできないんじゃないかなって自負はあります。14年かけないと出来ない。そこは強みであり、世界レベルじゃないかなって思っています。
音楽には行き止まりがないんですよ
ージャム・バンドに限らず、シンパシーを感じるバンドはいますか?
R : フィッシュを観に行った時、一回バンドを辞めようと思いましたね。僕らが『やりたい』って思うことを全部やっていたんです。それどころか、それを越えた所までいっている。その瞬間、『自分は何て小さかったんだろう』、『何もやれていなかったんだろう』と思って、30分くらい会場の端で頭かかえていましたね。環境って怖いなと思う。地元のライヴ・ハウスでやっていた時、出てくるバンドはパンク・バンドばっかりで、そういう状況ではパンクしかやれない。パンクっていうカテゴリーに入ってないと仲間にしてくれないし、出してもらえない。それが本当にイヤでした。もちろんパンクは好きですよ。でも、もっと他にも音楽はあるんだし、自由にやりたかった。それがオリジナルを作るきっかけでもあるんですけど、すごく自由な感じでやるようになっていった。その後、下北沢とか東京に出てくるんですけど、そこでも何系何系っていう嵐で、カテゴリーが飽和しているだけのことだった。『どこに行っても同じだな』って思って落ち込んでいた時に出会ったのがフィッシュだった。だから彼らに出会うまで、はジャム・バンドとかそういう括りではなかった。どっちかっていうと、ジャム・バンドってクリッターズ・バギンとかオーガニック・グルーヴ系の前衛的なインプロのバンドのことだと思っていたから。
ーにとって音楽は人生以上のものなんだなと伝わってきます。
R : 音楽には行き止まりがないんですよ。音楽自体が僕にとって夢なんですけど、風船みたいに吹き込めばどんどん膨らんで行くし、割れないんです。それで空飛んでっちゃって、手離れたらどこ飛んで行くかわかんないなって。行けば行っただけ先があるし、ずっと続いて行く。何かに憧れてやっていたわけではないし、ただただ興味があって。いまだにやりたいこととか、興味が持てることっていうのが尽きないから音楽も尽きない。あと、出会う人との関係性で興味が違う方向に向かうこともあるし。生きていれば興味は尽きることないだろうと思う。だから本当に一生付き添って行きたいと思うし、そうなるんだろうなって。求めれば求めた分返してくれるのは音楽だし、趣味がないとか言いたいことないっていう人がいるのであれば、音楽を聴いてみたらいいと思う。のめり込んじゃえば面白いし、与えられた人間関係以外の部分も見えてくると思う。
(最後の質問中にドラムのけんさく登場)
ー何か言い残したことがあれば(一同:笑)
けんさく(Drums、Chorus) : 是非ライヴに足を運んでください。ライヴでは、CDの曲も変化していると思うんで、そういうのを楽しみにしてもらえると嬉しいです!
体に響くグルーブを感じろ!!
The whole world is sacred sound MUSIC TOUCHES YOU / Soft
昨年より新たにメンバーに加わった、Tama(トランペット)、Taroo(Bata/パーカッション)、KND(エフェクト)を含む7人編成となった新生SOFTの初作品! 結成16年のキャリアに新風を吹き込みながら、ネクスト・レベルへと進み出した新生SOFTの全貌が遂に現れる!
Life is Beatfull / 犬式 a.k.a. Dogggystyle
2005年発表、記念すべき犬式のファースト・アルバム。ヒット曲「月桃ディスコ」、「Life is Beatfull」やLiveでの定番曲「真冬のラスタファリズム」、「太陽の女」を含む全11曲。
AfroSoundSystem / JariBu Afrobeat Arkestra
日本では珍しい、Afrobeatバンド『JariBu Afrobeat Arkestra』の1stアルバムついに完成!! 10人編成バンドの完全1発録音による臨場感溢れるサウンドを是非体感してください。Afrobeat president『Fela Kuti』のカバー曲「J.J.D」収録。
PROFILE
1996年結成、今年で10年目を迎える湘南・藤沢発、竜太(G.Vo.)、ぶん(B.Cho.)、兼作(Dr.Cho.)による3ピースなピースフル・バンド、らぞく! メディアや流行にとらわれないオリジナリティ溢れるサウンドと、即興性のある変幻自在のパフォーマンス。「ハヤイノニマッタリ、マッタリナノニハヤッ! 」その2極両端あわせ持つ、筆舌に尽くしがたい表情豊かなROCKバンド、それが、らぞく!! 唯一無比のグルーヴとセンスで、いわゆる「和JAMシーン」では頭一つ抜きん出ている彼らが、待望の6曲入りアルバムをリリース! PEACEでROCK、SOFTでFREAKY。間違いなくブッ飛んでいる、ファンタスティックな最新型湘南サーフ・ジャム・ロックをお試しあれ!