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結成15年を迎えたテルスター。4枚目のフル・アルバムとなる今作で掲げたテーマは「愛」。捻くれたモノと形容されることの多い彼らも、歳をとって「愛」を歌うようになったのか? はたまた、いつもの通りの捻くれた「愛」なのか? それは以下のインタビューを読んでもらいたいのだが、横山マサアキ(vo,ba)は今までも、そしてこれからも、自分に忠実に音楽を作ろうとしている。
以下のインタビューで筆者は意図的に少し意地の悪い質問を投げかけている。しかし、横山はまっすぐに僕の目を見て、はっきりとした口調で質問に答えてくれた。新しい音楽や変化ばかりに興味が行きがちだが、テルスターは変わらない。理想のポップスを鳴らすために、周りに流される事なく音楽に向かい合っている。難しいことを難しそうにやることは簡単だけれど、それを誰にでもわかるように伝えることこそ難しいことだ。ひとつの物事でも視点を変えたら全然違うものに見える。人が見ないような視点から歌詞を書き、ポップスとして歌い上げる。そんなテルスターの音楽に対する「愛」を単刀直入に伺った。
インタビュー & 文 : 西澤裕郎
2月2日(火)〜2月28日(土)の間にテルスターのニュー・アルバム『We Love You! You Love Us!』をまとめ購入頂いた方に、2つの特典をプレゼント。
【特典1】
アルバム購入者全員に、あるアーティストのテルスター・カバー曲をプレゼント。どのアーティストが演奏しているのかは、音源をもらってからのお楽しみ。音源は2/23(火)以降にメールにてお送り致します。
【特典2】
抽選で10名様に、テルスター・オリジナル・トイレット・ペーパーをプレゼント。
※アルバムを購入された時点で応募、受付されていますので、別途応募の必要はありません。「特典2」の当選者には3月1日(月)にメールにてご連絡いたします。
感謝の気持ちを素直に歌えるようになった
——表題曲にもなっている『We Love You! You Love Us!』というタイトルですが、いつごろ思いついたのですか?
前作『心ふるわせたこと』をリリースしてから約5年のスパンが空いているんですけど、次のアルバムに対して新しいビジョンをなかなか見つけられなかったんですね。時間をかけて色々なことを考えていくうちに、『We Love You! You Love Us!』というテーマがみつかったんです。
——以前インタビューで「目的や動機がないと歌えない」とおっしゃっているのを見かけたのですが、前作から5年間というスパンが空いたのは、ビジョンを探すのにそれだけの時間が必要だったということですか?
そうですね。僕の場合、“ライヴをして、CDを出して、ツアーを回って、それが楽しい!”っていうスタイルでは納得できない部分があって、ちゃんと自分の中に<何を表現したら自分らしいバンドなのか>、<どういうことを作品にすれば、世の中に対して意味のある気持ちを伝えることが出来るか>というはっきりしたステイトメントが出来ない限り、なかなか次の一歩に進めないんです。曲は作ろうと思えば作れるんですけど、そういう風に自分の中で温めるまでにどうしても時間がかかってしまうんですよね。
——その中で、今回のビジョンは「愛」。
愛(笑)! 正確に言えば、感謝という意味合いが強いですね。愛という言葉に集約すると意味が大きすぎるので説明が出来ないんですけれど、紆余曲折ありながらもバンドを約15年間続けてこれた。それは、テルスターを聴いてくれている皆さんのおかげで、「You love us」のYouは聴いてくれている人たちのこと。テルスターが今回も無事にCDを出せたり、ライヴが出来るっていう感謝の気持ちを素直に歌えるようになったんです。
——前作『心ふるわせたこと』はテルスターにとって集大成的な作品だったと思うのですが、その時はまだ感謝という気持ちは作品に反映されていなかったんですか?
テルスターを15年くらいやってきた中で、感謝という気持ちが作品を作る燃料になったことがあまりなかったんですよ。それよりも世の中の既存のものに対する反骨心や反発心、自分の中にある心のわだかまりなどを吐き出すことが音楽をやる原動力になっていたんです。そこから大人になったのかおじさんになったのかわからないんですけど、今作では感謝の気持ちが生まれた。そういうものを表現してみたいなと思ったことが、前作ではなかったことかもしれませんね。
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——今作のテーマは「愛」ですが、聴き手に対する感謝と同時に音楽に対する愛も見えると思いました。例えば、3曲目の「ソウルミュージック」がポリスの「ロクサーヌ」を下敷きにしていることや、8曲目「時代は変わらない」がボブ・ディランを引用していることからも明白です。音楽に対する愛情も素直に出そうと思ったのですか?
前のアルバムで、「愛を歌ってはいけない」みたいなことを歌っていたんですよ(笑)。前はこういうことをやりたいというアイデアがあっても、<テルスター的にはよくないんじゃないか>とか、考えすぎていた部分があったのかもしれないですね。例えば、ポリスを聴いてポリスっぽい曲をやってみたいと思ったときに、別にテルスターがやらなくてもポリスがやったほうがいいじゃんっていう考え方だったんですけど、自分たちがやってみたら自分たちらしい曲になるっていう余裕と自信が出てきたんだと思います。
——これまでは「この曲いいな」と思っても、テルスターというフィルターにかけて取捨選択をしていたということですか?
そうですね。作品にする時に、聴いてくれる人のことを気にしすぎていたんでしょうね。素直に愛を歌いたかったんですけど、そういうこともあって歌えなくなってしまった。でも今回こうやって歌えるようになったのは、フィルターにかけなくてもいいと思えるようになったからなんでしょうね。素直になれたと思うんです、全体的に。もちろん今まで通り捻くれた部分や卑屈な部分も歌詞にあったりするんですけど、基本的に好きなことをやらなくちゃ意味がないですからね。今まで好きなことが出来ていなかったかといえばそんなことはないんですけど、今作はやりたいことを一番素直に出来たと思います。こういう風に聴かれるんじゃないかとかそういう部分をあまり意識せずに作れたという意味で、今回は一番素直かもしれないですね。
完璧なフォルムが頭の中にあって、そこにどれだけ自分の音楽を近づけられるか
——ものごとを表だけでなく裏からも切り取った歌詞を、ポップなメロディで歌う。それがテルスターの魅力だと思っているのですが、歌詞とメロディに対してそれぞれどのような意識を持っていますか?
音楽に関してはすごくポップスが好きで、3分半の歌謡曲が大好きなんですよ。ただ、歌謡曲は大好きなんですけど、歌謡曲が歌っている内容は大嫌いなんです。基本的に歌詞に関しては惚れた腫れたとかが好きじゃなくて、それよりも思慮的な歌詞が好きなんです。ただ、メロディに関しては短くて1回聴いて覚えられて、しかも耐久性があるっていう。それが一番好きな、自分の中でのポップス感なんですね。
——具体的に横山さんの言うポップス感を体現している音楽ってどういうものがありますか?
僕がよく聴いているのは筒美京平の音楽だったり、洋楽でいうとバート・バカラックだったりポール・マッカートニー。要するに、普遍的で万人受けするメロディが好きなんです。僕らはロック・バンドだからこそ歌謡曲をやらなければと思っているんです。バンドなんで、かっこいいのは当然。それプラス音楽シーンのど真ん中を行くもののがいいですね。聴く人を選んだり、選民意識を抱かせるような音楽があまり好きじゃないんです。これを聴いていると格好いいとか、これを聴いていると詳しいとか、そういう選民意識を持ってしまいがちなのはどの音楽にも言えるんでしょうけど、なるべくそこに縛られたくないですね。そうじゃないと、自分を守ることになってしまいますから。だから、大きなものに入っても通用するものを作りたい。そういう点は意識していますね。
——テルスター結成時のコンセプトに、「weezerやRentalsのサウンド」と「筒美京平のメロディ」っていうキーワードがありますが、世代的にweezer周辺のポップス感に共通点を持っているように思います。
weezerは高校生、大学生の頃に周りのみんなが聴いていたんです。その時から歌謡曲は好きだったんですけど、weezerは僕の中ではメロディがとにかく歌謡曲だったっていうのがポイントだった。90年代初頭は、アメリカのロック・バンドで頭一つ抜けていいメロディを作っていたのが彼らだと思うんです。weezerのメロディ・ラインは日本人が好きなメロディだと思っていて、すごく筒美京平的なメロディを感じますね。アメリカ人の好きなメロディって多分もっと大味なイメージがあるので、アメリカ人にはキッチュに聴こえるかもしれないですけど。
——メロディに対するこだわりは、結成当時から意識しているのですか?
実は、バンドを始めたときからゴールがあったんですよ。バンドって大体やっていくうちに色々音楽性が変化していったりすると思うんですけど、僕の場合、最高のもののイメージが頭にあるんですよ。そこにどれだけ自分の音楽を近づけられるか。それが何なのかははっきり説明できないんですけど、とにかく完璧なフォルムのすごくかっちょいい音楽が頭の中に存在していて、それに近づける作業っていうのをずっとしているような気がしますね。だから、自分のセンスを変えていくとか新しいものを取り入れて行くっていうスタイルじゃなくて、自分の中にある理想郷に近づいていくっていう作業をしていたような気がします。そういうところが、自分で自分のことをミュージシャンぽくないなと思うんですけどね。それがどういうメロディなのかはよくわからないんですけど、とにかく素晴らしいイメージがあって、そこに出来るだけ近づきたい。今回だいぶそこに近づけたと思っています。
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いい意味でも悪い意味でも誤解が生じるってのは、いいことだと思います
——時期は少しズレますが、前作のアルバムを出された一時期、テルスターが青春パンクなどに括られることもあったじゃないですか。そのことに対して違和感みたいなものはありましたか?
その時は青春パンクも下火だったですけどね。だから、いまさら何でそんなこと言われるのかっていう感じもしましたけど。でも世代的にブルーハーツとか好きだったし、そういう資質がどこかしら自分の中にあるんじゃないですかね。日本語で歌う部分や生活感のあるバンドの出で立ちというか、そういう部分を切り取ってみると、僕らが青春パンクっぽく思われる要素も多分にありますね。だから、そういう風に言われるのも全然イヤじゃないですね。
——結局、切り取るメディアや人の捉え方の問題ですからね。
お金でも物でも、何かが動くダイナミズムにキーワードってあると思うんですよね、絶対に。誤解される部分もすごく含めた上で、そういうのが音楽のおもしろさでもあると思うし。そもそも、ものが動くダイナミズムって絶対に誤解も込みですからね。1対1のコミュニケーションじゃないですから。映像にのったり、音楽にのったり、字になったり、WEBになったりするっていうところで、いい意味でも悪い意味でも誤解が生じるってのは、いいことだと思いますけどね。だって、本当の僕たちを分かって下さいって言っても、テレビや雑誌でしか見た事がない人の全てを分かることが出来る分けないじゃないですか。だから批判があるっていうことは、僕にとってありがたいことなんです。だって、批判があるっていうことは、気にしているってことですから。本当にどうでもいいことって気にしないじゃないですか。例えば、隣のラーメン屋がまずいなって時に、うまくなればいいのにと思っているから言うわけじゃないですか。本当にどうでもよければ、そういう話題もしないですからね。批判があるっていうことは、以前と何かが変わったかもと、思わせる何かしらのパワーを与えたってことですから。それは素晴らしいことだと思いますね。
——「愛」の反対は「無感心」って言いますしね。
そうですね。無関心が一番さみしいですね。
——では、少し意地悪な質問をさせてください。先ほど頭の中に理想の音楽像があるとおっしゃっていましたが、理想を体現する完璧な音楽が出来てしまったらどうしますか?
ここで音楽を辞めるって言うのが一番かっこいい答えだと思うんですけど(笑)。うーん、でも満足しちゃうでしょうね、やっぱり。だから今はすごく満足しています。でも、本当に完璧なものはできないと思うんです。自分のことだから粗を探して、また違った課題をつくって何かをやると思うんです。
——理想には近づくけど、手に掴んだと思ったら蜃気楼だったみたいなものみたいな感じですか?
そうですね。ミュージシャンって多分みんなそうなんじゃないですか。毎回ちゃんと作ってやるけど、やっぱりこうしとけばよかったと思うから、音楽を続けているのであって。最初に描いた理想を100だとすると2010年1月の時点では85点くらいですかね。でも来年になると70点くらいに減っているかもしれないんで、これからも理想を体現するために音楽を追い求めていきますよ!
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テルスター PROFILE
「くるり」や「BEAT CRUSADERS」などの全国ツアーへの参加、「ASIAN KUNG-FU GENERATION」、「銀杏BOYZ」を迎え、おこなわれた自主企画イベントや「スペシャ列伝」、「COUNTDOWN JAPAN」などで唯一無二のライブ・バンドとして、その存在と地位を確立したテルスター。
様々なアーティストが認めるソングライティング・センスに磨きをかけ、邦楽オルタナティブ・ロック/ポップの金字塔となるであろう待望のニュー・アルバムを2010年2月2日に『We Love You! You Love Us!』をリリース。
- official site : http://www.badnews.co.jp/telstar/
LIVE SCHEDULE
- 2/9(木)『We Love You ! You Love Us!』発売記念プロジェクト〜LOFT CIRCUIT 2010@下北沢SHELTER
- 2/18(木)『We Love You ! You Love Us!』発売記念プロジェクト〜LOFT CIRCUIT 2010@新宿Naked LOFT
リクエスト受付はyokoyama_telstar@yahoo.co.jpまで!
- 3/18(木)『We Love You ! You Love Us!』発売記念プロジェクト〜LOFT CIRCUIT 2010@新宿LOFT PLUS ONE
- 4/8(木)『We Love You ! You Love Us!』発売記念プロジェクト〜LOFT CIRCUIT 2010@新宿LOFT
一癖も二癖もあるポップ・ソングを紹介!
はしけ / シャムキャッツ
泪と笑いのズッコケROCK4人組(全員長男)登場! ココロにするりと入り込むポケット・サイズのポップ・ミュージック。くるり/はっぴいえんど/サニーデイ・サービス/ユニコーンなど、邦楽史に名を刻むポップ・ミュージックを背景にした秀逸なメロディー・センスと、トーキング・ヘッズやXTC、近年ならばクラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーをも匂わすひねくれたサウンドとのコンビネーションは、聴く者の記憶にストーカーのようにまとわりついて離れない。たよりないのに愛しい、クセもの過ぎるヤング・ジェネレーション。
Tokyo Long Letter / Qurage
モッコという一人の男が放出するヘンテコながらも、どこまでも優しい音楽を届けてくれる"Qurage"によるファースト・アルバムが、自身の運営する「ZOMBIE FOREVER」より遂にリリース。親近感と危機感の狭間を自由に行き来する怪しい軟体生物の優しい音楽! moorworksよりリリースされたシングル曲から開始される今作。さかのぼって、最後にもまたさかのぼるというコンセプトのもとオモチャで器用に遊ぶ(時折不器用に! )ポップな楽曲が目白押し! 一遍の物語という完成されたものより、まさに手紙のようなラフな気持ちで全編聴けるのが、本当に気楽で気持ちよいのです!
さよならキャメルハウス / WATER WATER CAMEL
全国の植物園からお寺まで、小学校から洋裁学校まで、長年に渡る柔軟なライブ活動、文化活動によって独自のネットワークを持つスリー・ピース・バンド。音楽とは特に敗北者の為にあります。弱い立場にいる人間にとって、素晴らしい音楽がいったいどれほどの救いになってきたことでしょう。敗北と再生という、今時代に最も必要とされているテーマのひとつを強烈に意識した作品です。今哀しみの淵にいる人々を静かに支えることの出来る意義あるアルバムです。