DIYなエレポップ・ソロ・シンガー、武井麻里子ーー5人の作曲家を迎えた1stミニ・アルバムをハイレゾ配信
2015年6月よりエレポップ・ソロ・シンガー / 作詞家として活動スタートした武井麻里子が、1stミニ・アルバム『NEW』をリリース。武井が音楽性に共感したという5名に楽曲制作を依頼した本作には、SAWAによる「白昼夢★バカンス」、CICADAの及川創介が手がけた「瞬間 / simulation」、Her Ghost Friendによる「PARADE」、おかもとえみによる「ロマンティカ」、空中分解による「STAR PLAYER」といったバラエティ豊かな5曲が収録されている。OTOTOYでは本作をハイレゾ配信するとともに、HP制作や流通まで自分の手で行うDIYな精神を持った武井の活動について、そして本作について、ロング・インタヴューを敢行した。武井麻里子の描く芸術作品にぜひ触れてみてほしい。
5人のアーティストが描いた武井麻里子が詰まったミニ・アルバム
武井麻里子 / NEW
【Track List】 1. ロマンティカ
2. 瞬間/simulation
3. 白昼夢★バカンス
4. PARADE
5. STAR PLAYER
【配信形態】
24bit/44.1kHz(WAV / FLAC / ALAC) / AAC
【配信価格】
単曲 250円 / アルバム 1,200円(税込)
INTERVIEW : 武井麻里子
取材を終えてみて、武井麻里子というアーティストが芸術作品に対するリスペクトを強く持った人なんだということが伝わってきた。それは、彼女が10代のころに感じていた規律に縛られた息苦しい時代を芸術作品によって救われたからであり、彼女自身のなかに芸術作品としてアウトプットしなければならない行き場のない思いがつまっているからこそでもある。このたびリリースされた『NEW』というミニ・アルバムは、ソロ活動をはじめるまでに武井が携わってきた音楽にまつわる活動で得た知識や縁が作品に反映された作品だ。そして、武井麻里子が踏み出す新たな一歩でもある。ライヴのような現場やアーティストの物語から離れても作品として強く輝きを放つ作品が、このリリースをきっかけに増えていけばと望む。武井麻里子がなぜ、そこまで芸術作品に魅かれるのか、本人に話を訊いた。
インタヴュー&文 : 西澤裕郎
写真 : 大橋祐希
規律の中に生きていることが、どこかで恐ろしかった
ーー今回のアルバム・タイトルは『NEW』ということで、新たな一歩を踏み出す意味を込めてつけられたのかなと思ったんですけど、実際のところどうなんでしょう?
武井麻里子(以下、武井) : 今まで、バンドやユニットで常に誰か同じ方と一緒に何かを作ってきたんですけど、今回は音楽性に共感した方たちに1曲ずつ曲を書いてもらっていて。みなさん、それぞれ違った武井麻里子のイメージを持ってくださっていて、私が歌うことをイメージして書いてくださったからこそ、曲調もバラバラなんですけど、まとまっている部分もあるんです。それぞれの曲を聴いたら、他の人には見えていないと思っていた自分の内側が意外に伝わっているんだなと思ったり、自分の知らない武井麻里子に出会えたこともあって『NEW』というタイトルをつけました。
ーー武井さんはどういう音楽をルーツに持っているんでしょう?
武井 : もともとバンドが好きで、当時憧れていたロック・バンドのオーディションを受けて加入するという劇的な出来事があって(笑)。ナンバーガールさんも好きだったし、チップチューンも好きで、YMCKさんとかcapsuleさんとかも大好きでした。
ーー楽器はやっていたんですか。
武井 : ピアノを6年間やっていました。でも、やめたくてしょうがなかったです(笑)。
ーー当時、武井さんは規則の厳しい学校に通われていたそうですが、そういった生活から、バンドのヴォーカリストになってデビューというのは大きな転換だと思うんですけど、なにかきっかけがあったんですか。
武井 : 規律の中に生きていることが、どこかで恐ろしかったんだと思うんです。自分らしさを上手く発揮できなくて…。音楽を通してそれを脱したいという気持ちがあったのかもしれないです。今は、自分らしさを取り戻して、それこそ新しい自分という形で生まれ直した気がちょっとしています。
ーーバンドでのデビューをきっかけに音楽活動を始めていきますが、その後いくつかの段階を経て、2015年6月からはソロ活動をスタートされました。事務所にも属さずということでかなりDIYですが、どのような想いを持ってはじめられたんでしょう。
武井 : ソロをやると決めてから、自分がいいなと思っていた方に楽曲制作のオファーをしたら、ほとんど断られずに書いてくださって。他にも色々なかたがすごくあたたかく手を差し伸べてくれて。始める前後は不安もすごくありましたが、そこではじめてこれまでの全部に意味があったんだなと思えたんですよ。それまで築いてきた人のつながりと音楽が、全部ソロに集約されている感じがして、それが嬉しいですね。
ーー最初のシングルから、SAWAさんとDJ OBAKE(Her Ghost Friend)さんが楽曲制作に携わっていらっしゃいますが、曲の内容に関してのディレクションもしているんですか?
武井 : 私は全部任せる派なんですよ。みなさん芸術家なので、私が変に注文を出すよりも、純粋にこうだっていうものを出してくださったほうが絶対にいいものになる気がしていて。だから、本当にほぼ何の希望も出してなくて、自然とこうなっているんです。
ーー初シングルのタイトルが『五感☆採集 vol..1』だったり、五感☆採集というワードがよく出てきますが、この言葉にはどういう想いがあるんでしょう?
武井 : 武井麻里子のソロ活動のテーマが『五感☆採集』で、おこがましいんですけど、いろんなクリエイターさんの五感を少しずつ取り入れさせていただくという気持ちでつけたんです。作曲家さんだけでなく、イラストレーターさんとか、デザイナーさんとか、芸術家さんたちの五感を採集していく活動っていうのがソロの基軸です。
自分のコンプレックスの部分を芸術として昇華できた
ーー最初に「他の人には見えていないと思っていた自分の内側が意外に伝わっているんだと思った」とおっしゃっていましたが、それはどういう部分のことなんでしょう。
武井 : それは空中分解さんに作っていただいた「STAR PLAYER」から感じたんです。ぱっと見、私のことを明るくて元気で健やかなイメージを持ってくださってる方が多いかなと思うんですけど、空中分解のPOCOさんは「まりちゃんは「太陽」と「月」だったら、月だと思う」とおっしゃってくださって。ある種の暗さみたいな部分を察知したひたむきな曲で、闇から光に向かっていく部分がすごいなと思いました。そこに自分で触れるのはすごく恥ずかしいんですけど… 実際のところ、そんなに明るい人間じゃないし、常に1人でいることが多いんです。
ーー武井さんは自分のことを非リア充だと思いますか?
武井 : うーん、親友はいるし、リア充な部分もあるんですけど、大学とかでは常に1人でいたんですよ。だいたい図書館で…(笑)。小中高でも浮いていたし。自分の見せたくない部分をうまく拾って美しい形で楽曲にしてくれたのがPOCOさんで、自分のコンプレックスの部分を芸術として昇華できたのが「STAR PLAYER」って曲なんだと思います。
ーーそれに対して、SAWAさんが手がけた「白昼夢★バカンス」は、まさにSAWA節が出てますね(笑)。
武井 : SAWAさんは本当に明るくつよい方で、尊敬しています。ものすごいしっかりされている方なんですけど、すごく心が自由なんですよね。そんな明るい感性とご一緒させていただいたのは楽しい体験でした。
ーーおかもとえみさんの「ロマンティカ」はアルバムの1曲目で、なかなか落ち着いた曲で幕を開けますね。
武井 : ちょっとブラック・ミュージックな感じですよね。曲の持つ雰囲気が、もしかすると、自分の元々の感性に近い所があるのかもしれません。それで1曲目にしました。サビはキャッチーで、歌詞を繰り返すんですよね。そういう曲が1曲目のほうがいいかなって。
ーー今作の歌入れは、曲によっては武井さんが家でやっているそうですね。
武井 : そうなんですよ。がんばってPro Toolsの使い方を覚えたので、デモをもらって、歌を録って、それぞれの作曲家さんにまた送って、アドバイスなどいただいて… を繰り返して、エンジニアさんにミックスしてもらう感じでした。エンジニアの遠藤ナオキさんのおかげで、家とは思えない仕上がりになってます。ちなみに、今回のCDのプレスとかも自分で発注しているんですよ(笑)。
ーーそれはすごいですね。自分でやるほうが性に合ってるのかもしれないですね。
武井 : DIYも活動のテーマにしているんです。去年、〈武井麻里子&おのしのぶ企画DIY女子祭り〉っていう企画をやったんですけど、AZUMA HITOMIちゃんに出てもらったり、全部自分でプリントを染めたストラップのグッズを最近出したり(笑)。あとは、手作りのクッキーを特典にしたり、ホームページも全部自分で作っています。ジャケットも今回、会場版は自分でデザインしているんですよ。
ーーそこまで拘りがあるのであれば、楽曲に関しても、こうしたいとかリクエストが出てきてもおかしくなさそうですけどね。
武井 : そこに対してはリスペクトがあるし、聖域だと思うので。とにかく、みなさん芸術家だから口を出さない方がいいと思っているし、だからいいものができると考えています。
ーーそこを尊重して芸術と捉えられるのって素晴らしいと思うんですけど、なぜそれほどリスペクトを持てたんでしょう。
武井 : 単純にそのほうがいいものができると思っているし、私も詩に口出しされたらすごく嫌だと思うんですよ。1個直せって言われると、全部直さないと気がすまないだろうし。みんなそうかなと思うんです。
痛みや悲しみが美しく描かれているものにすごい救われる感じがする
ーーちなみに、音楽以外で好きで触れてきた芸術はどういうものがありますか。
武井 : 私、ミニシアターで働いていたんですよ。それが縁で染谷将太さんが撮った映画に出たり、面白い展開もあったりもしました。ミニシアター系の映画や、園子温さんの映画もすごく好きです。あと、大学では小川洋子さんの小説をひたすら研究していました。書くのが好きで、論文を書くのも好きでした。
ーー音楽、小説、漫画、映画など、アウトプットの形は別々ですけど、武井さんが好きな作品、それぞれに感じる共通項はどういうものだと思いますか?
武井 : ちょっと闇があるもの… かもしれないです(笑)。園子温さんの映画もそうですけれど、古屋兎丸さんの漫画とか、小川洋子さんの小説にも、仄暗さがあるんですよね。痛みや悲しみが美しく描かれているものが好きで、それにすごい救われる感じがするんです。音楽だとtujiko norikoさんとかSpangle Call Lili Lineさんとかすごく好きで。あと、平沢進さんの音楽も大好き。逆に、空気公団さんのような毛布みたいに優しい音楽も好きです。
ーー商業作品というより、芸術作品というべき作品が好きなんですね。ちなみに、園子温監督の映画だと何が好きですか?
武井 : 『恋の罪』とか『冷たい熱帯魚』とか… だいぶ前なんですけど、『うつしみ』とか知ってますか?
ーーもちろん。僕は『紀子の食卓』が好きなんですよ。
武井 : あれも、だいぶ暗いですよね(笑)。あと、今敏作品とか、アニメにもかなり影響を受けていますね。
ーー今作の楽曲ではCICADAの及川創介さんの制作曲もありますけど、この曲が1番、最近のクラブっぽい感じのする曲ですね。
武井 : そうですね。この曲もこういう風にしてとはリクエストしていないんですけど、それがよかったのかなと思います。この曲はすごくライヴで人気がありますね。聴かせる感じもありつつ、皆で盛り上がれる雰囲気が最高にお気に入りです。
ーー武井さんはいつから詩を書いていたんですか?
武井 : 10代ですね。つらかった時とかに、したためていました(笑)。
ーー今、その時の歌詞を読み返したりすると、苦しかった自分の跡がそこには残ってたりしますか?
武井 : 苦しかった自分がそこにはいると思います。逆に今では思いつかないようなきらきらした言葉があったりもしますけど。今の活動は、完全に新しいことってより、当時の自分のやりたかったことが形になってきている気がしていて。会場版の裏ジャケも、当時撮った写真なんですよ。それを芸術として出すことで、救われる感じがあります。これを商業にしていきたい気持ちもあるんですけど、壮大なリハビリみたいな感じもあるんですよね。
ーーそれじゃあ、今後どういう風に活動していくのが武井さん的には理想なんでしょう。
武井 : すべての物事のやりとりとか、営業とかも、全部自分でやらなきゃいけなくて、時々「はー…」ってなるんですけど、1人だからこそ、後ろ盾がいたら逆にできないことをできるのが今の音楽シーンな気がしていて。作曲家さんたちも、芸術家同士として話をしてくれるというか、仕事なんだけど、ちょこっと仕事じゃないって距離感で書いていただいた曲が多い気がします。だからいいものになったと思っています。1人でできることをしっかり追及していきたいですね。
ーー3月17日にはリリースパーティーがありますが、JaccaPoP、Maison book girlが出演されるそうで。今日の話で出てきたアーティストもそうですけど、しっかり音楽と向かいあっている方たちばかりですね。
武井 : 音楽が好きなんですよね。それを1番大事にしないとおかしくなると思っているので、忘れちゃいけない部分だなと思います。ライヴも本当に好きで、自分が出演するだけでなく、色々な素晴らしいアーティストさんのリハを観ている時間は、本当に楽しくて… 毎回ワクワクドキドキしています。
ーーこれからやりたいことはいっぱいありそうですね。
武井 : そうですね! やりたい事、立ちたい舞台は本当にたくさんあって。むずかしくても1つ1つ叶えられていきたいと思ってます。私は1人で活動しているので、そういった意味でも、助手(※武井麻里子のファンの呼称)のみなさんと一緒に目指していきたいという思いが強いです。
RECOMMEND
ヒップホップやR&Bといったブラック・ミュージックと、トリップ・ホップやエレクトロニカのミニマルな要素を組み合わせたサウンドに、紅一点の女性ヴォーカリスト・城戸あき子の歌声が乗る、都会的で上質なポップ・ミュージック。そんな音楽的嗜好性を明確に持った5人組バンド、CICADA(シケイダ)が、1stフル・アルバムをリリース。
SAWA / 踊れバルコニー
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Her Ghost Friend / 恋する惑星、果てしない物語(24bit/48kHz)
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>>Her Ghost Friendへのインタヴューはこちら
LIVE SCHEDULE
武井麻里子1stミニ・アルバム『NEW』リリースパーティー
『brand NEW me』
2016年3月17日(木)@渋谷LOOP annex
GUEST : JaccaPoP / Maison book girl
時間 : 19:00 / 19:30
料金 : 3,000円 / 3,500円(+1D)
・『NEW』会場限定版発売
・記念Tシャツ販売
・武井チョイス! 感謝をこめて… 来場者へのプレゼント抽選会あり
サワソニ vol.17
2016年3月19日(土)@渋谷Glad
出演 : 武井麻里子 / SAWA / sora tob sakana / Malcom Mask McLAren / つばさFly / エコ怪獣 / 吉河順央 / 柚餅子みこ / Kit Cat / リナチックステイト / KOTO / Saoriiiii / エムトピ
時間 : 13:30 / 14:00
料金 : 3,500円 / 4,000円(+1D)
PROFILE
武井麻里子
2015年6月に活動開始のエレポップ・ソロ・シンガー / 作詞家。自身の活動に関するアート・ディレクションやwebデザイン、一部の作曲もその成長中のDIY力で務める。 「五感☆採集」をテーマに掲げており、さまざまなクリエイターの五感とコラボレーションしながら活動中。 デビューと同時にシングル『五感☆採集 vol.1』をリリースし、SAWA,Her Ghost Friendからの楽曲提供や、 個性的な歌声とファンと向き合った真摯なパフォーマンスが話題を呼び、CDショップ初月ヒットチャート1位を獲得。 ライヴではCICADA、おかもとえみらの提供曲、AZUMA HITOMIとのコラボ曲も披露し着実に注目をあつめる。 9月『五感☆採集 vol.2』リリース! 禁断の多数決、空中分解からの提供曲を収録。 渋谷パルコ内2.5Dでリリース・パーティーも主催、満員にて大成功を収める。 10月にはシブカル祭。2015へも活動開始4か月にして出演決定と躍進を続け、 2016年2月にはゆるめるモ! 等の作曲家として活動中のマモルと太鼓の達人専属ユニット「まりんべーす」を結成、「太鼓の達人 ホワイトver.」に楽曲が収録! そして、満を持してソロ活動開始からわずか8ヵ月でミニ・アルバム『NEW』流通決定!
武井麻里子 official HP
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