女性シンガー・ソングライター、山根万理奈のことを、もう、こう言ってしまっていいのではないだろうか。彼女はシンデレラ・ガールだ。もともと、顔を隠して弾き語りで歌ったカヴァー・ソング60曲以上がYouTubeで話題となり、メジャー・デビューを果たしたシンデレラ・ガールだ。そんな彼女も素顔をみせて歌をうたってから1年以上たつ。いい意味で大きなクセを感じさせないうたごえは、スッと聴き手の心に寄り添ってくるようで、聴く人を選ばない幅広さをもっている。
これまでは、シンガーとして活動していくことに重きを置いていた彼女だが、本作ではほとんどの楽曲を作詞・作曲している。シンガー・ソングライターと呼ばれるのがイヤだったという山根にどんな心境の変化があったのか。島根から上京して1年半。曲作りのことから、歌に対する心境の変化まで、じっくりと話を伺った。
インタビュー & 文 : 西澤裕郎
彼女の原点となる名曲も収録された新作をリリース
山根万理奈 / 好きで悩んでるわけじゃない
【価格】
mp3、wav共に 単曲 200円 / まとめ購入 1,800円
2011年にメジャー・デビューしたシンガー・ソングライター、山根万理奈が全曲を自身のオリジナル作品で構成したアルバムをリリース。YouTube時代から音源化が待たれていた名曲「君を好きになったんだろう」「あなたに」ほかを収録したスペシャルな内容となっている。
INTERVIEW : 山根万理奈
——山根さんは島根県のご出身なんですよね。
山根 : はい。島根県松江市の出身です。1年半前に上京するまで、22年間ずっと島根にいました。
——歌手になろうと思ったきっかけは、覚えていますか?
山根 : 小さいころから歌うことが好きで、島根の小さいコンクールとかに出ていたんです。歌手になりたいと思ったのは、当時年齢も近かったSPEEDがテレビに出ていて「私もこういうふうに歌で人をよろこばせられたらな」と思ったのがきっかけです。
——じゃあ、小学校や中学校から歌っていたんですね。
山根 : 小学生のころは歌手になるために音楽に親しんで、中学で運動部に入って体力を作って、高校で本格的にライヴ活動をして上京しようと、漠然と考えていました。
——そんなに計画的に考えてたんですね(笑)。別のインタヴューで、高校生くらいのころに歌手への夢を胸の奥に仕舞いこんだっておっしゃっていましたよね。
山根 : 高校生になってから本格的にストリート(ライヴ)をはじめて、ギターも本格的に弾きはじめた反面、両親や学校からの反対があって、(プロの)音楽の道はあきらめたんです。
——そこまで反対されたのはなぜだったんですか?
山根 : 反対というか「できるわけない」っていうところですかね。「やらないとわからないじゃん!」っていう気持ちはもちろんあったんですけど、それよりも4人兄弟の長女で親が大変なのもなんとなくわかってるし、そこで、よく思われてないことをやるのはどうなんだろうなって思ったんですよね。
——そこで歌いたいっていう気持ちを我慢しようと思ったんですね。
山根 : 一線で活躍するっていうことじゃなくてもいいかなと思ったんです。自分が歌を好きなことには変わりがないし、言ってしまえばカラオケとか家で歌っていればいいし。
——ストリート・ライヴもその一環だったんですか?
山根 : 最初は夢に向かってという気持ちでやっていたんですけど、人前で歌うようになって「なんのために歌うのか」とか「聴いている人に何を与えられるか」って思うようになって、「自分になにができるんだ?」ってネガティヴに捉えてしまって。それと、周りから反対されることが重なってしまい。
——そういう状況で歌を歌うのってしんどくなかったですか?
山根 : しんどかったですね。進路の時期もあって、スパッとライヴをやめたんです。
——歌とはこれでお別れというぐらいの気持ちで。
山根 : そうです、そうです。高3の学園祭で初めて1人でギター持って弾き語りして、これでお別れだと思って歌いました。
——歌い終わったとき、どういう気持ちだったんですか?
山根 : スカッとした気持ちでしたね。これで終わりということもあって、友だちから「よかったよ」とか言われるじゃないですか。それが単純にうれしかったし、もう「何のために歌うか」ってことを考えなくてすむから。そういう意味で感想がストレートに受け止められて。
——とはいえ、その時点でやりきった感はあっても、スカッとした気持ちはずっと続くわけじゃないですよね?
山根 : 続かなかったですね。
——歌いたい気持ちは、いつくらいにまた出てきたんですか?
山根 : 歌をやめてからは教師になるって夢ができて、それに向かって頑張ろうと思っていたんです。ギターは家で弾くけど、ライヴがしたいとか、そういうことはなかったんですよ。大学に行ってから、軽音楽部に入ってバンドを初めて組んだんですけど、あまり練習の時間もとれないから合わせられなくて、じゃあもう1人でやろうと思ってYouTubeにアップしたりするようになって。
——そのときは「歌うことでなにができるんだろう」みたいなことは考えましたか?
山根 : そのころにはいい意味で吹っ切れて、楽しく歌おうみたいな感じでした。
——でも、やるからには発表したいと。
山根 : そうなんですよね。大学に入ってからちょっと余裕が出て、発表したくなったというか。
——人前に立って歌うことに憧れていたのに、大学に入ってからは顔を見せず、しかも好きなカヴァー曲をwebでアップして歌うようになったのがおもしろいですね。そこから、アーティスト活動をしていくことになったのは、YouTubeをみた人たちから反響があったからですか?
山根 : 反響があったことと、表舞台でやろうっていう声を(現在の事務所バーガーインレコード社長、畑さんから)かけてもらったからですね。
——でも、畑さんからもらったメールを、3ヶ月ぐらい放置したそうですね(笑)。
山根 : はい(笑)。畑さんから連絡がくる前にも「プロになれるよ」とか「歌手になれるよ」とか、好き放題書かれていたんですね。でも、それで調子に乗って「もう1回目指しちゃおうかな」とはならなかったんですよ。そんな状況で、畑さんからもう1回連絡がきて。そこでこれはすごいぞ、と(笑)。どこまでできるかわかんないし、歌手を目指してやってたわけじゃないけど、運命的なものを感じて、思いの丈を全部伝えようと思って。それを伝えて、とりあえず会いましょうってなって、そこから進んでいきました。
——そこまで教師の道を目指してたわけじゃないですか。畑さんから声がかかって選択肢が2つになったわけですが、そこの選択は迷いませんでしたか。
山根 : すーごく悩みました。高校のときにした、歌をあきらめる決心よりも悩みましたね。1個のことが見えると、そっちばっかいっちゃうタイプで、そこしか見えなくなっちゃうんで。歌手になりたいって1回思っちゃったら、そっちしか見えなくなっちゃうですよね。
——うんうん。
山根 : 先生じゃなかったとしても、普通に地元の企業で働けばいいんだよ、みたいな感じで親に言われてて。そこで、親のこと、兄弟のことも考えました。そこでなにも考えず「やりたいやりたい」って言ってたら、ただのわがままと取られてしまうので、デビューが決まった最後の最後に言いました。
インタビューを読むだけじゃなく、曲を聴いてくださいって言いたい
——そうして念願の歌手デビューを果たすわけですが、最初はHanasalさんが楽曲を制作し、その曲を中心に歌っていたんですよね。シンガー・ソングライターってなると、その人のパーソナルな部分が注目されるけど、別にそういうところにこだわりがあるわけじゃなかったんですね。
山根 : 全然! むしろ、そのときは「シンガー・ソングライターって書かないでくれ」って思ってました。なりたいのはシンガーだと思っていたので。
——でも今作は、作詞作曲をほとんど山根さんがやってらっしゃるじゃないですか。そこにはなにか気持ちの変化があったんですか?
山根 : かたくなに「自分の曲じゃないとイヤ」ってなったわけじゃないし、どの曲もぜんぶ好きなんですけど、ライヴをやりはじめたら、自分で書いた曲に反応してくれる人もたくさんいて。1、2年ライヴをしていくなかで、そこに対する要望も高まってきて、それなら自分の曲も歌おうと思いました。
——例えば、どういう反応があったんですか?
山根 : 自分ではそんなに感じてなかったんですけど、自分の言葉のほうがすごく伝わるよって言われたりとか。「オリジナルいいじゃん!」みたいな。
——曲が生まれる瞬間って、自分の部屋だったり、パーソナルなスペースが多いじゃないですか。その曲をアレンジャーさんがアレンジして、プレイヤーさんが演奏して、戻ってくる。1つの曲を作品にしていくのってチームの色が色濃く出ると思うんですね。自分の子どもを1回預けるみたいな印象があるんですけど、今回の曲に関しては、預けることに対しての不安みたいなものはなかったですか?
山根 : 預けるんですけど、ギターを弾いてくれてる石垣(隆太)さんはライヴはほとんど一緒に回っているかたで、曲のことをちゃんと感じてくれてる人だと思っていて。そういう人が近くにいると、預けるんだけど、どこか近いというか、安心してできるんです。
——歌うことが第一にあっても、自分の産み出したものが変に変わっちゃうことに対して抵抗はないですか。
山根 : いままでのイメージとあまりに変わってしまって「それはどうかな?」って思ったら言います。でも、絶対やってみるんです。歌のテイクもいろんなパターンを録ったりするんですけど、全然ちがうと思ってたものが「いい!」ってなったりするし、そこはいろんな人の意見を聞きたいと思ってるので、みんなでいいねってなったものを残したいですね。
——いろんな人のご指導ご鞭撻でいい子になってくれればいいみたいな。
山根 : そうですね。もちろん自分も蚊帳の外ではなくちゃんといるっていうのがいいですね。
——今回「歌うことでなにができるんだろう」っていう気持ちは出てこなかったですか?
山根 : 今作は、なにかを伝えるっていうよりは自分の経験とか想いとかの詰まったアルバムだと思っているので、みなさんがどういうふうに感じるんだろうなっていうのは単純に思います。今までやってきたお客さんがいいって言ってくれてるものを私も信じたいし。自分の子たちなんで、もちろんいいと思って世に出すし、周りも信頼している人たちなので自信を持っていきたいなーと。
——基本的に歌詞は、自分の体験を反映することが多いんですか?
山根 : そうですね。まったく関係ないところから出るっていうのはいままでは少ないですね。作品を見てとか、経験から発生するパターンですね。
——山根さんは、いま東京に住まわれてるわけじゃないですか。環境の変化で自分のつくるものだったりとか歌うことに対しての変化はあるんじゃないですか?
山根 : ありますね。それこそ去年1年は引っ越したばかりで、周りのこともわからないし、仕事以外の人との関係が薄くなっちゃって。それこそ曲をつくろうと思って家にこもりっぱなしみたいな感じで。それまでは学生だったから、毎日複数の友達と会ったり、全然知らない人がそこにいるっていうことがあったのに、そういうのもなくなっちゃって。経験から書いていたものが生まれづらくなってきたみたいなところもあって、今年に入ってから、もうちょっと人に会おうっていうのもあるし、自分の作品の幅を広げたいっていう意味でも、いろんなものに触れてみようとか。映画を見るとか絵を見にいくとか外に出るとか、そういう意識にはなりましたね。
——これまではそういうことを考えずに曲ができていたんですね。
山根 : 曲を書くためになにかをするということがなかったんです。それまでは、自分が普段していることのなかから生まれてきていたんですけど、ちょっとちがうところに足を踏みいれてみようってなりましたね。
——そう考えると、歌手として、曲をつくる人と分業制で、歌うことに専念する手もあると思うんですけど、それはどう思いますか。
山根 : いままでは、マイクがあればわたしは歌いますっていう感じだったんですけど、いまはギター1本でどこかに行って、なんでも歌えたら1番幸せだと思っていて。それは理想の最終型なんですけどね(笑)。たとえば『空な色』のときみたいに曲をつくる人がいてってなると、その人がいないとやってけなくなってしまうし、ライヴも他に弾いてくれる人がいてっていうのもいないとできないし。いろんなことを楽しむためにも音楽的に自立したいと思っています。まだほど遠いんですけど、そういう意味で自立するために自分で曲をもっと書きたいって思うし、弾き語りをもっとやってみようって思うし、そういうところは変わってきたところだなって思いますね。
——根本的に変わらないのは歌っていたいってところなんですよね。
山根 : 本当にそうですね。
——ちなみに、歌をうたう以外で、それに匹敵するぐらいの楽しみってあるんですか?
山根 : ほんとダメ人間なので、寝ることが好きです(笑)。でもそんなぐうたらはありえないんで。前は歌うこと、寝ること、食べることだったんですけど、1人暮らしを始めてから食べることがおろそかになってますね。食べなくてもいいやってなっちゃうんですよ。そこも正していかないとなって(笑)。
——話を聞いてる限り、東京に出てきたからなにかが変わったって感じがしないですね。
山根 : あーーー(笑)。そうかもしれないですね。東京に来たから話題のお店に行こうとか、そんなにないですね(笑)。やっぱりいろんなものがあって、楽しいこともあるけど、ホームシックというか、島根の夜の静けさも好きだし。変わったっていうのはあんまりないかもしれないですね。
——でも、自分のペースを保ってる感じがいいですよね。
山根 : 方言がちょっと抜けたぐらいですかね(笑)。
——(笑)。今作は、どうして『好きで悩んでるわけじゃない』というタイトルをつけようと思ったんですか?
山根 : 収録曲が自分の経験からきていて、だいたい悩んでるときに生まれてるんですよ。ハッピーなときはハッピーにうつつを抜かしてるんだと思うんですけど(笑)。だから今回収録してる曲にも合う言葉だと思ったし、ぱっと浮かんできたんです。これからはハッピーなときもうつつを抜かさず曲を書こうと思うし、自分の経験じゃないところで書くっていうのもやりたいんですけど、やっぱり私は悩んだときに曲が生まれると思うから、悩むのは好きじゃないけど悩んでいこうっていう意味が込められてますね。
——そうしたら、やっぱりこれからいろんな人と出会ったり経験することが、山根さんの曲作りには大切なのかもしれないですね。
山根 : そうですね。やっぱり私は人がおもしろいなって思いますから。
——あと、歌手として尊敬してる人っていうのは具体的にいたりするんですか?
山根 : この人が神がかってますっていうのが私はあんまりいなくて。「もっと聴きこまないとな〜」と思うんですけど。単純に好きなかたはたくさんいるし、この人が好きだなっていう人ももちろんいるんですけど、やっぱり長く歌ってるかたがすごいなって思いますね。
——そういうところもフラットでいいなと思います。この人にあこがれてこの人になりたいみたいな部分もみえなくて。だから、誰でも近づきやすいというか。今作は等身大すぎて、曲の解説を見ていると、どきっとしますもん(笑)。
山根 : ここだけの話、誰かのことを書いてるわけじゃないですか。だから聴きたくないって言われることもあります(笑)。
——(笑)。曲って、歌い手さんや作り手の分身じゃないですけど、すべてが詰まってるじゃないですか。だから、そのアーティストのことを知るには、曲を聴くことが1番近道なんだなって思っていて。こんなこと書くのもなんですけど、インタビューを読むだけじゃなく、ちゃんと曲を聴いてくださいって言いたいんですよね。アーティストを理解することって、そういうことだと思うんですよ。
山根 : そうですよね、ほんとに。わたし、先月まで金髪だったんですよ。賛否両論だったんですけど、曲とあわないとか思われているのかなと思って。「そこはどうなのかな〜」って。
——「この曲を書いてる人、こんなに髪の毛明るいの?」ってこと(笑)?
山根 : はい(笑)。曲を聴いて、みんなが各々でイメージつくってるじゃないですか。だから、もっと森ガールっぽい感じになって、刺々しい歌をうたう山根万理奈はどうですか? とか。本当に好きにしちゃうぞ、みたいなこともしてみたいです(笑)。
——それは楽しみですね(笑)。東京に来てからのこれからの出来事が曲になって、また届くのを心待ちにしています。ありがとうございました。
過去作もチェック
LIVE INFORMATION
「万理奈の悩みはやまねぇ!ツアー」
2013年5月25日(土)@名古屋 K.D.ハポン
2013年5月29日(水)@青山 月見ル君想フ
2013年6月8日(土)@岡山 城下公会堂
2013年6月9日(日)@広島 ライヴ楽座
2013年6月15日(土)@札幌 musica hall cafe
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PROFILE
山根万理奈
1989年7月17日生まれ
島根県松江市出身 A型 151cm