原点回帰ではなく数多の経験を経て到達した新しい境地なのだろう。今年9月に発表された配信限定シングル「MY DEAREST FRIEND」は、それまでのエレクトロ路線をよりポップな<うたもの>に仕上げた作品で、飾り気のない姿でワン・カットで歌うPVからは、これまでにないほどシンプルで決意表明のような印象が感じられた。それに続く配信限定の第2弾シングル「バラ色の世界」はしっとりとしたバラードであるが、ポップで<うたもの>という点において変わらない。この作品で、ACOがどういう音楽を指向しているのかがより明確になっている。
1995年のデビュー以来、様々な共演者に恵まれた彼女であるが、そのせいでイメージが先行してしまう部分も少なからずあった。ゲストとして参加したDragon Ashの「Grateful Days」のミリオン・セラー然り、30万枚を越える売上を記録した「悦びに咲く花」然り、音楽業界最前線での活動は一番の核を見えにくくさせたことは否めない。それ以降、ACOはエレクトロニカに傾倒していくのであるが、そこでもアイスランド出身のMUMのプロデュースやエイドリアン・シャーウッド、トリッキーなどとの共演がピック・アップされることとなる。それだけ彼女の素質が求められているということではあるが、ACOのアイデンティティが前面に押し出されたシンプルな作品が発表されないことは残念でもあった。
音源としては約3年半振りとなる配信シングルを経て、現在はアルバムを製作中だという。バラエティにとんだ内容になりそうだという発言の通り、配信による3曲もすべて色の違う作品となっている。エレクトロニカ寄りの「MY DEAREST FRIEND」、バラード色の強い「バラ色の世界」、ポップなロック要素のある「AHAHA!!」。曲調は違えど、共通しているのはACOの<うた>が前面に出ていることで、彼女の持ち味がしっかりと聴き取れる作品に仕上がっている。メジャーなフィールドで活躍し、多くの共演を経て行き着いた場所は、ポップなうたで多くの人たちに音楽を届けたいという気持ちだったのだろう。同じく日々の生活に向かい合う人たち、特に女性に向けられていると感じられる3曲は、今のポップ・シーンに欠けている歌い手と楽曲の必然的な繋がりを感じさせる。ポップ・シーンに今必要なアーティストとしてACOの活動に期待が膨らむ。(text by 西澤裕郎)
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PROFILE
ACO
1995年シングル「不安なの」でデビュー。1996年1stアルバム『Kittenish Love』を発表。その後、1999年、砂原良徳(ex 電気グルーヴ)と共作した「悦びに咲く花」がドラマ主題歌となり注目を集め、同年「悦びに咲く花」を収録した4thアルバム『absoluteego』を発表する。このアルバムは「Grateful Days」にACOが参加するなど親交の深いDragon Ashの降谷建志らも参加した事で大きな話題となり、ACOはトップ・アーティストとして地位を確立した。以降、Mum、エイドリアン・シャーウッドや岸田繁(くるり)をはじめとした国内外の様々な才能と、共作やバンド結成、活動等を経て、ポップさと先進性を兼ね備えた個性的なアーティストとして日本の音楽シーンで大きな存在感を示したことも記憶に新しい。また、アーティスティックな容姿と存在感は女性を中心にファッション・アイコンとしても人気を集めた。その後、数年のソロ活動休止を経て2007年12月19日初のベスト・アルバム『ACO BEST〜girl's Diary』リリースを期に再びソロ・アーティストとしての活動をスタート。今年2009年は永き迷宮から解き放たれたヴォーカリストACOとして、久方ぶりのソロ楽曲の制作に取りかかる。
- ACO web : http://www.naturalize.jp/ACO/