迷宮に招待されたようだ。のニュー・アルバム『』とインタビュー、双方から受けた印象である。メールを介した彼は、非常にフランクである反面、カギがない為に目の前にある宝箱を開けられない、そんな思いを抱かせた。
事前に描いていた<音楽理論を実践する音楽家>というイメージは、もはやご都合主義者の想像でしかないのではないのか。は音楽家という概念を打ち破ろうとしているか、もしくは縛られたくないのではないか、そう思った。理由はもちろんある。インタビューの返信が、アーティストと書き手という枠ではなく、同年代の私信に近いものだったからである。1回の質問と回答、ましてや電子機器を使ってのやりとりで、お互いのことをわかりあえるはずはない。音楽と音楽家を切り離すことはできない。だから、僕は彼を理解するため、『』を何度も何度もリピートし、耳を傾けている。
は、1982年に東京で生まれ、16歳でニューヨークに留学。フランス、ドイツと渡り歩き、現在はベルリンに住んでいる。留学のきっかけは、「日本の学校に馴染めず居場所がなかったから、アメリカに逃げた」こと。そして「ギターを手にしたことがきっかけで、音楽活動を始めた」という。とはいえ、彼の創る音楽は所謂エレクトロニカと呼ばれるものに近い。土台は打ち込みやプログラミングによって構成されている。
「一人で音楽をやっていたので、選択肢が弾き語りかコンピュータしかなかったんです。プロフィールに音楽理論を学んだと書いてあるけれど、あまり理論とかは気にしていません。歌も好きです。妹にPerfumeのCDをもらったので、それも聴いていました。」
前作『Brand new People』に引き続き、『』には歌が乗っている曲がある。が創る曲の特徴として、ヴォーカルが乗っていない曲でも、メロディが自然と浮かび上がってくることが挙げられる。それは歌への愛着と音楽制作の経験値向上の結果であろう。ギターやピアノのソロの音色が、小刻みに構築されたリズムの上を、悠々と駆け抜ける。仮に理論で構成されていようが、御託を並べる意味を疑ってしまう説得力を持っているのだ。決して、誰かの模倣や理屈で作られた音楽ではない。それは、僕が投げかけたこんな質問への返答から感じることができた。
—ニューヨーク、パリ、ベルリンと各国に移り住みながら音楽を作ってこられましたが、そのような変遷はWadaさんの音楽にかなり影響をもたらしていると思います。そうした経歴によって得ることのできた強みとは何だと思いますか?
「欧米に対する変な憧れが、なくなったことですね」
何気ない回答のように見えるが、冒頭で述べた宝箱を開けるカギの在処を示すヒントであり、宝箱の中にはの核心が入っていると確信している。そして、カギは迷宮の中に隠されているはずだ。だから、僕は何度も『』をリピートしながら、迷宮の中にあるカギを一生懸命探している。
インタビュー & 文 : 西澤裕郎
PROFILE
1982年生まれ、東京出身。デトロイト・テクノやジャズ、アート・ロックなどのエッセンスを混ぜつつつも、しっかりとした音楽の素養をベースに、小気味の良いビートとエモーショナルなメロディーでどこまでも心地良い空間的な響きを幅広い音楽性で表現する注目のアーティスト。1999年、16歳でニューヨークに留学しジャズと出会いジャズ・ギターやボサノヴァなど音楽理論を学ぶ。同時にギターとドラム・マシーンに歌を重ね、シンガー・ソング・ライター的な作曲活動を開始。2002年、19歳の時にパリに移住。パリでは大学に通いながらジャズ・ギターとクラシック・ピアノを学び、同時にコンピューターでの作曲を始める。2004年、ドイツonitorレーベルよりデビュー・アルバム「meguro」を若干21歳でリリース。風景を描写したアンビエント的なアプローチを中心としたこのアルバムから国連のアニバーサリー・フィルムやテレビ番組に収録曲が使われることになった。同時にヨーロッパ(フランス、ドイツ、オーストリア、ロシア)と日本などでツアーを行う。2005年、活動の幅を広げる為に、また2ndアルバムの制作に向けてベルリンに移住。2006年、生楽器を多く取り入れさらなる表現の幅を広げたアルバム「araki」を、2007年11月、ベルリンの著名アーティスト達と様々なコラボレートをした楽曲が並ぶ3rdアルバム「Brand New People」を共にonitorよりリリースする。そして2009年8月、待望の4thアルバム「Labyrinth」をリリースする。
- Takashi Wada website: http://www.takashiwada.com/
- PROGRESSIVE FOrM website : http://www.progressiveform.com/
- PROGRESSIVE FOrM カタログ・リスト : https://ototoy.jp/them/index.php/LABEL/22688
LIVE SHCEDULE
PROGRESSIVE FOrM presents
Takashi Wada album release party☆
2009/8/23(日)@EATS and MEETS Cay(Spiral B1F/青山)
開場/開演18:00 終演22:00
Live :
Takashi Wada (onitor/PROGRESSIVE FOrM)
AOKI takamasa (op.disc/commmons/fatcat records/cirque/PROGRESSIVE FOrM)
Ametsub (PROGRESSIVE FOrM)
kashiwa daisuke (noble)
DJ :
DJ east (daisyworld discs A&R)
HARRY:淑蘭*(BULLET'S/SECOND LOBBY/SENDER LIPS)
Adv ¥3,300 / Door ¥3,800 (共に税込み/ドリンク別)
LAWSON [L-Code 76585] (2009/6/11発売)
release party 出演アーティスト
AOKI takamasa (op.disc/commmons/fatcat records/cirque/PROGRESSIVE FOrM)
1976年大阪府出身、現在はドイツ・ベルリン在住。2001年初頭に自身にとってのファースト・アルバム「SILICOM」をリリースして以来、コンピューター/ソフトウェア・ベースの創作活動を中心としながら自らの方法論を常に冷静に見つめ続け、独自の音楽表現の領域を力強く押し拡げる気鋭のアーティスト。近年では自身のヴォーカルを全面に取り入れた作品やFat Cat Recordsよりリリースされたとのコラボレーション・アルバム、op.discでの4/4リズムを用いたミニマル・トラックへのチャレンジ、英国BBCラジオ・プログラム[One World]への楽曲提供(The Beatles 'i will'のカヴァー)、YCAMでのコンテンポラリー・ダンサー/映像作家との共同制作など、その活動のフィールドはさらなる拡張を見せているが、青木孝允自身の表現が持つ存在感は常に確固たるものであり寸分の揺らぎも感じさせない。
現在Amazonにて10,000円を超す高値の付いている『simply funk』がレコミュニで独占配信中。高音質のWAVも用意してあります。
- AOKI Takamasa website : http://www.aokitakamasa.com
Ametsub (PROGRESSIVE FOrM)
東京を拠点に活動する音楽家。2003年、PROGRESSIVE FOrMのコンピ「forma 2.03」に20歳で参加、2006年、1st Album 「Linear Cryptics」をリリース、sonarsound tokyo 2006に出演する。その後、Vladislav DelayやBlue Foudation、Calm、竹村延和、Numb、等との競演も重ねる。2007年には渚音楽祭、また野外フェスティヴァルSense Of Wonderにも出演、多くのオーディエンスを魅了したライブはスペースシャワーTVの放映に選出される。d.v.dのJimanica(drum)とのコラボレーションも始まり、Jimanica×Ametsubとしてのアルバムが2007年にリリース。初ライブでは、、toeと共演、同年秋には渚音楽祭への出演も果たす。2008年夏にはアイスランドでのライブも敢行。美しい独自の世界観と、壮大な情景を描写する様な音楽性は、今後の活動に期待が高まる。2009年2月、待望の2nd Albumをリリースする。
- Ametsub website : http://www.drizzlecat.org
kashiwa daisuke (noble)
学生時代、プログレッシヴ・ロックに影響を受け作曲活動を始める。2004年にとしてソロ活動を開始し、2006年にドイツのレーベルonpaより1stアルバム『april.#02』をリリース。翌年8月、nobleレーベルより2ndアルバム『program music I』を発表。2008年9月には、大型野外フェスティバルSense of Wonderに出演した。 2009年2月、3rdアルバム『5 Dec.』をnobleよりリリース。同年6月にはヨーロッパ3ヶ国8都市を廻るツアーを敢行し、ベルリンのクラブBerghainではClusterと共演、旧ソ連軍の秘密基地跡で毎年開催されるドイツ最大級のフェスティバルFusionにも出演した。これまでに坂本龍一氏のラジオ番組RADIO SAKAMOTOにて楽曲がオンエアされ、TVコマーシャルやアパレル・ブランドのコレクションでも楽曲が使用されるなど、多方面で注目を集めている。
- kashiwa daisuke website : http://kashiwadaisuke.com/