高橋良和 INTERVIEW
率直に言えば、『AS MEIAS II』からは、Sunny Day Real EstateやJimmy Eat Worldが鳴らしたような90年代のエモーショナル・ロックの郷愁が漂ってくる。ただし、よく耳をすませてみてほしい。ドラム・ビート、ギター上を走るメロディ、英語の歌詞。それぞれの楽器の絶妙なズレに耳をそばだててしまうことだろう。けれど全体を俯瞰して聴いたとき、そこにはやっぱりエモーショナルでキャッチーな曲がある。エモでもなく、ポスト・ロックでもないし、メタルでない。しかし、それぞれの要素が形を崩すことなく点在している。そんな絶妙なバランスを保った5曲を10年の月日をかけて追い求め完成させた、AS MEIASの高橋良和に話を伺った。
インタビュー&文 : 西澤裕郎
結成から10年の歳月を経てたどり着いた本当のスタート地点となる2nd ミニ・アルバムを高音質配信
正式な流通音源としては6年ぶりとなる、待望のセカンド・ミニ・アルバム。ライヴで既に披露していた曲に加え、07年に1000枚限定で発売され瞬く間に完売、長い間廃盤となっていたEPに収録されていた「arouse 」「instant」の2曲を再録した全5曲。OTOTOYではHQD(24bit/48KhzのWAV)の高音質音源での販売。
AS MEIAS『AS MEIAS II』
Label : catune
1. struggle / 2. arouse / 3. way / 4. disappear / 5.instant
アルバム購入特典として、CDと同内容のデジタル・ブックレットをプレゼント
対極的なジャンルの音楽を混ぜて、キャッチーなものにする
——去年、KIRIHITOがアルバムを出した際「どうして9年も期間が空いたんですか? 」って質問を受けることが多かったらしいんですね。ただ、彼らは休んでいた訳じゃなくて、ライヴを中心に活動していたんです。同じように、AS MEIASの『AS MEIAS II』も6年振りの正式な流通音源ということで期間が空いているのですが、何に焦点を当てて活動をしていたのでしょう?
うちらの場合はライヴをやっていたわけでもなかったから、止まっているように見えてたと思うんですね。その間、EPも出しているんですけど、実質止まっていた状態に近かったかな。っていうのも、1stの頃って4人で曲作りをしていたんですけど、みんなの主観性があまりに出てしまうと、とっちらかっちゃうんですよ。それでミーティングになって、最終的にそれをまとめるのが歌い手の僕になったんです。1人で作ることになったので、そこから時間かかっちゃったんですよね。
——1人で作るにあたって、どういうことを意識しましたか?
コンセプトとして、対極的なジャンルの音楽を混ぜてキャッチーなものにするっていうビジョンがあったんです。ただ、その方法が理論的にまとまってなくて、ぼやけたものだったんです。それをちょっとずつ手探りで探りながら、理論を固めていきました。
——「対極的なジャンルの音楽を混ぜる」というのは、具体的にどういう音楽を混ぜようと思ったのでしょう?
デスメタルみたいなジャンルの方法論と、もともと馴染みのある歌もの系ロック・バンドとかエモ・バンドとかそういうものかな。それって混ぜようと思ってもなかなか難しいと思うんですよね。
——確かに「DISAPPEAR」とかエモーショナルですけど、ただのエモ・バンドっぽい曲ではないですよね。
これは一番最近出来た曲なんです。最初は、所謂スクリーモとかを聴いている若い男子にアピールできる曲を作ろうって考えていたんですけど、それだけだと面白くないから、自分の要素を混ぜていきました。ジプシー・キングスを入れたいなと思って作ってみたら、安全地帯みたいになっちゃったんですけど(笑)。
——あはははは。曲ができた時期はバラバラですか?
バラバラですね。「INSTANT」と「AROUSE」は、かなり前から出来ていて、「INSTANT」に関しては1stを作った後には出来ていたんですよ。そこから「AROUSE」までに時間がかかった。その間、僕の中で理論を固める時間が必要だったんです。
——1曲ができるまで時間がかかるんですね。
基本的に曲を作る時は、歌のことを一切考えていないんですよ。インストの状態で聴けるものを作ってきて、あとで別の曲にしようと思って歌を乗せていくんです。
——最初は、メロディもないんですか?
まったくないです。最初は楽器だけで曲を考えているんですけど、歌メロをのせたら、それまでと変わった印象を持たせないとダメだってのがあるんです。なので、バンドで固める時間よりも、その作業のほうが時間がかかるかな。
誰にでもわかるもの、そこで初めて芸術って言えると思う
——メロディに焦点をあてようと思ったきっかけは何だったんですか?
それは、今着ているTシャツのバンドなんですけど、Meshuggahが大きい。彼らは、僕らの何倍も徹底的にやっていて大好きなんです。そもそも、これをやりたくて始めている部分がある。Meshuggahにメロディがついたら、かっこいいだろうなっていうのが漠然とあって始めたんです。
——そこでインストではなく、歌との協調を目指すのはなぜですか?
一般の人でも聴けるものを考えているんですよ。もうワンランク、レベルをあげてもいいんですけど、それ以上あげちゃうと一般の人にも分からなくなっちゃうから、あえて付け加えてないんですよ。
——一般的じゃないと意味がないということですね。
そう。多分、僕のやっているバンドを聴きたいって思っている人は、キャッチーさとかポピュラーさがないと離れてっちゃうと思うから、聴いてもわからないようなことは敢えてやってないですね。
——観賞する側の知識が足りないからと言って、芸術という言葉を盾にしているような人もいると思うのですが、その点はいかがですか?
僕の好きなアート作品っていうのは、誰にでもわかるものが多くて、そこで初めて芸術って言えると思うんですよ。誰もわからないものをやるのもかっこいいのかもしれないけど、僕とは違うやり方なんです。映画でも、すごく売れていて一般的に評価されていても、名作と言われるものがあるじゃないですか。僕はそっちなんですよ。オタクしか好きになれないような名作よりは、いろんな人に知られていて、オタクも喜ぶ映画っていうのが理想ですね。
——そういう風に思うようになったのは、なぜなんでしょう?
なんでだろうな…。イヤらしい言い方だけど、スゴさを分からせるためには分かりやすい方向から攻めていかないと、普通の人にも分からないと思うんです。ただ単にすごいことをやっていても、ぐちゃぐちゃにしか聴こえないこともある。だけど普通の人が入りやすいんだけど、よく聴いたら「なんだこれ! 」ってなっている曲のほうが、スゴさがより伝わるじゃないですか。
本当の意味でのスタートっていう感じはあります
——高橋さんの頭には、理想というか目指している理論があると思うんですけど、その理想を鳴らせるのであればサポート・メンバーに楽器を弾いてもらうことも出来ますよね? そんな中で、今のメンバーである必然性はどこにありますか?
バンドには段階があるんです。まず、一緒にやりたいと思う人の条件が、僕の作った曲を完コピできる人。完コピできたうえで、その人がもともと持っている魅力を出せる人を探していたんです。魚頭(Gt)にしても塚本さん(Dr)にしても羽田君(B)にしても、もともと彼らのやっているバンドを見てかっこいいと思っていたから、まず僕の世界を感じとってもらって、その上で自分らしさを出してほしかったんです。だから、僕の世界を知ってもらうのに時間がかかったってのもあるし、それを知った上でその人らしさを出していく作業だったんです。このアルバムではそれが出来ている。ちゃんと僕の持って来たものを完コピした上で自分らしさを出しているから、別にただ完コピしているだけじゃないんですよ。
——どういうプラスαが加わったんでしょう?
全員我が強いから、その人らしさなんて出そうと思えばいくらでも出せるんですよ。出し過ぎちゃうから、僕の世界観を壊さない程度に控えめに出してうまく収まっているのが今ですね。
——そのバランスが難しかったんですね。
難しい。すごく難しい。でも話し合いを重ねていったら、だんだんわかってくれて、お互い自分がこれ以上やったらやばいなってラインが分かったんです。たがら、今回のアルバムが本当の意味でのスタートっていう感じはありますね。
——今振り返ってみると1枚目のアルバムは、まだ完成形ではなかった?
1枚目は僕が持って来たリフをみんなで工夫するみたいな感じでやっていたんですけど、僕自体の理論があまり定まってなかったし、まだ手探りな感じではありましたね。
——先ほどMeshuggahの話題が出ましたが、Meshuggahはいつごろ知ったんですか?
99年ぐらいに知りました。もともと歌もの系のバンドをやっていたんですけど、そういう音楽性を出し切った感覚が自分の中にあったんですよ。それまではTexas Is The ReasonやSunny Day Real Estateなど、好きなバンドがアメリカにいっぱいいて、そのバンドをずっと追いかけていたんですけど、みんな解散しちゃって聴くものがなくなっちゃたんですよ。その時に音楽の別の楽しみ方を教えてくれたのがMeshuggahなんです。
——なるほど。
みんないなくなってモノマネができないどうしようってなったときに、こういう楽しみ方があるんだって思ったんです(笑)。じゃあこの理論を使って、今まで学んで来たことを当てはめていったらかなり楽しいんじゃないか、しかも誰もやってないなと。でも、いきなりそれが出来るとは思ってなくて、10年越しくらいに出来ていると思ってやり始めました。その10年後がちょうど今なんです。
——では今作はひとつの到達点なんですね。ただ、目標である場所に行き着いちゃったら、また新しい楽しみ方を探さなきゃいけないですよね? そこに行き着いた今、先のことはどう考えていますか?
実は、もうワンランク上の曲をやるかどうか悩んでいるんです。もしかしたらうまくいくかもしれないし、ひどい結果になるかもしれない。そこは悩んでいるところですね。一回ここで一区切りして、また4人で曲を作るやり方に戻そうかなっても思ってたし、シンプルでもっと歌メロを強調した感じにするか、ワンランク上の曲を作るかどっちかで考えています。
——悩んでいるのはなぜですか?
それはさっき言ったみたいに、マニアックな人だけじゃなく、普通の人が聴いて、いいと思えなかったら意味がないし、僕は恥ずかしいと思っちゃう。もしかしたら聴きやすい曲をいっぱい作って、1曲だけ変な曲が入っている感じになるかもしれないですね。今はターニング・ポイントではありますね。
一番は狙わない(笑)
——今作を作るにあたって、音楽以外でインスピレーションを受けたものはありますか?
ありますよ。映画ですね。僕はヤクザ映画とかギャング映画が大好きなんですけど、曲作りも流れが一緒なんですよね。まず静かに始まって、軽いジャブ的な盛り上がりがあって、また静けさがあって、最後大爆発って。1人で組に乗り込んでっちゃうみたいな、そういう盛り上がりがないと燃えてこないじゃないですか(笑)。
——アルバム全体というより、1曲毎にドラマがあるんですね。
そう。1曲1曲で、最後に爆発するように作ってある。戦争映画かヤクザ映画でも一緒じゃないですか。もともと大衆映画が好きなんです。みんなが好きで、かつマニアックなやつも好き。
——マニアックすぎてもダメなんですね。
ダメ。偏ってたら、偏ったものしかできない。バランスがとれてないといけないんです。このバンドで色々なジャンルを混ぜているのは、必要悪じゃないですけど、陰と陽がないといけないって気持ちがあるんです。そのバランスがとれている状態がベスト。すごくきれいな音楽もいいと思いますけど、僕はどこかに毒がないとダメなんですよね。それは音楽に限らず、全部一緒なんです。いま、インターネットとかで世の中がよくも悪くも傾いちゃってると思うんですよ。一回流れ始めちゃったものは止められないから、その中でどうにかするしかないんですよね。一番いいのは一回全部壊しちゃうことなんだけど、それは出来ないから、うまく流れにのりつつも離れたりもしなきゃいけない。同じ方向ばかり見ていたらよくない。
——自分を妄信しすぎるのではなく、立ち止まって自分を疑うことも必要なんですね。
音楽も人生と一緒なんですよ。全部バランスがとれていて、常にニュートラルな状態じゃなきゃいけない。体もそうじゃないですか。何か摂取しすぎたら健康を害するし、極端に走らないってのがベスト。だから一番は狙わない(笑)。10位以内に入ってればいい。曲もそうですよ。やりすぎないように作っています。
——なるほど。AS MEIASの曲も一聴するとキャッチーなんですけど、よく聴くとリズムとかかなり変ですもんね。
これで、リズムにばっか耳がいっちゃうようだと失敗なんですよ。
——そこは本当にバランスがうまく取れていると思います。ここまで落とし込むのは大変だったと思うのですが、どのような環境で制作していましたか?
基本的に家にこもって作っていましたけど、煮詰まったら散歩したり映画見たりしていました。端からみたら、お前さぼってるだろって言われるようなことばかりしてるけど、映画を見ることも僕にとっては大事なインスピレーションのひとつでしたね。
常にコップを空にしておくことが大切
——製作期間に観た映画で、印象に残っている作品はありますか?
ちょっと言うのが恥ずかしい。変態っぽいやつが多いかな(笑)。
——変態っぽい映画(笑)?
同じことばかりしていると、どんどん同じものが溜まっていっちゃうでしょ? 溜まったものを抜かないと新しいものは入ってこない。そのために僕は何かショックが必要だと思って、運動をするか強烈な映画を見るかしているんです。自分にあったショックを与えて、一回自分をからっぽにすることが重要なことだと思うんです。
——なるほど。それは慧眼的な言葉ですね。
僕が思っているのは、こんなのは誰にでもできるんですよ。みんな同じくらいの容量があるから。そこに偏りがあるだけで、みんな同じくらいの力はあるんですよ。五体満足であれば、それほど差はないと思うんです。音楽はライフワークっていうか生き様ですね。音楽に限らず僕は全部一緒なんです。全部バランスよくあることがいいと思っているんです。っていうのは、影響を受ける人がいてそっから変わっていったんですよ。
——それは誰からの影響ですか?
ブルース・リーです。
——意外ですね!
彼の本を読んでから、自分はすごく偏ってたんだなと思ったんです。それから、仕事とか音楽とか普段の人間関係とか、全部同じ見方にするようになりました。
——どんなことが書かれていたんですか?
水のようにって書いてあったんです。逆らうなって。僕が好きなのは、「水はポットに入ればポットになるし、カップに入ればカップになる。なんで君のカップは常に空になってるか? 」って話なんですけど、すごく頭でっかちな男が老師のところに哲学を聴きにいくんですよ。だけど「あなたに何を話してもあなたは何も受け入れないだろう」って老師が言う。「あなたは、お茶が注がれたコップと一緒だ。お茶がなみなみ注がれているところに、さらにお茶を注いでもお茶が溢れるだけだ」って。ブルース・リーの話はそこから来てるんですよ。常にコップを空にしておくことが大切。自我があると、受け入れられるものも受け入れられないじゃないですか? 僕はこうだっていうものが最初からあったら受け入れられない。メンバーに対していつもそう思ってたの。我が強いのを捨てろって言っているんじゃなくて、一回ニュートラルな状態にしてほしかった。受け入れてから、そこで自分を出してほしかったんです。そして、いまニュートラルな状態になっている。今までは結構パンパンに注がれている状態だったけど、みんながニュートラルな状態で自分を出せているんです。
——今作を聴けば、それが伝わると納得しました。
証明したいんですよね、誰にでも出来るってことを。僕に出来ているんだから、忍耐強くできれば、誰にでもすぐできるんですよ!
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toe / For Long Tomorrow
『New Sentimentality ep』以来4年ぶりとなる本作は、原田郁子(クラムボン)をフィーチャリングしたリード・トラック「After Image」、フジ・ロック・フェスティバル07で好評を得た土岐麻子バージョンの「グッドバイ」、そして朋友千川弦(Ex.Up and Coming / Pre.Dry River string)をゲスト・ボーカルとして迎えた「Say It Ain't So」を含む全13曲を収録。新たなフェーズへと突入したサウンドに、ただ圧倒されるばかりです。アルバムをご購入頂いた方には、特典としてジャケット画像(800px × 800px)をプレゼント。
LOSTAGE / lostage
3ピース初となる本作。サウンドのレンジ幅はより太く、圧倒的に音圧を増した作品となった。活動フィールドをインディーズに戻し、原点に立ち返ることで生み出される衝動。セルフタイトルも、この作品に対する大きな覚悟の表れであり、再出発に向けての新たな一歩である。バンド結成以来最高に鋭角、かつ狂気に満ち溢れた作品。
LIVE SCHEDULE
- 2010/12/20(月) @渋谷O-EAST w/toe、dry river string、humunhum、灰汁、LOSTAGE
- 2011/01/09(日) @熊谷HEAVEN'S ROCK w/baloons、ATATA
- 2011/02/13(日) @奈良NEVER LAND w/ LOSTAGE、Z
- 2011/03/26(土) @新代田FEVER (ワンマン・ライヴ)