“1stアルバムらしさ”にこだわった、完全無欠でない愛くるしさ──No Buses『Boys Loved Her』

活動初期からOTOTOYが大注目しているロック・バンド、No Busesが1stフル・アルバム『Boys Loved Her』をリリース! Tomato Ketchup Boysとの共同企画が東京・大阪ともソールドアウトし、今年の8月には日韓合同音楽フェス〈Music and City Festival〉に出演するなど、国境を超えて今後の活動が期待されるバンドである彼ら。今作は2年以上前に作られた曲を中心に収録、“1stアルバムらしさ”にこだわって作られたという。もちろんOTOTOYにて配信中ですよ! UKロックやガレージ・ロックに多大な影響を受け、好きなものを追求していったことが現在に繋がったと語った、No Busesのフロントマン、近藤大彗に今回も単独インタヴューを実施した。
No Buses、1stアルバム『Boys Loved Her』
INTERVIEW : 近藤大彗(No Buses)

取材を終えたあとの雑談で、フロントマン・近藤大彗の思わぬルーツが垣間見えた。小学校の頃、デザイナー志望の従兄にもらったシド・ビシャスのTシャツを着ていたら、「そこに描かれている人物がどういう人か知った上で着ろ」と言われ、セックス・ピストルズについて調べたという。その頃はよさに気づかなかったというが、No Busesのスタンスに音楽とファッションが色濃く出ているのは、そうしたルーツと無関係ではないだろう。まだ現役大学生だというのが恐ろしいくらい熱心な音楽リスナーであり、センスに溢れた4人組バンド、No Busesの記念すべき1stアルバムについて、近藤に話を訊いた。
インタヴュー&文 : 西澤裕郎
写真 : 作永裕範
自分が聴いたり触れたりしたものを新鮮に
──No Busesの楽曲を聴いていると、20歳前後のアーティストが作ったとは思えないくらい、1990年代〜2000年代のUK / USガレージ・ロックへのリスペクトを感じます。どんな音楽体験をしてきたら、こういう作品ができるのか率直に興味があります。
僕自身、高校に入ってから音楽を聴くようになったんですけど、どの時代に作られた音楽だとしても、自分がそのとき聴いたり触れたりしたものを新鮮に感じると思うんです。だから、最近のものが新しいと感じるってわけでもなくて、そのとき聴いたものを自分たちの中で違和感なく受け入れられているからなんじゃないかなと思います。MV制作に関していえば、最初の頃はお金がなかったから、それなりのクオリティーのものしか作れなかったんですけど、最近は自分たちの雰囲気を客観的にわかりつつ制作できているのかもしれないです。
──お金の問題っていうのは、録音機材とかが揃えられなかったということ?
音源についてはそうですね。でも楽曲制作に関しては当時としてもその時なりに妥協せずにやっていました。MVに関しては、たまたまライヴ写真を撮ってくれていたRyogo Suguroさんが手伝ってくれていて。Suguroさんも動画を作るのは、はじめてだったらしいんですけど、大学にグリーンバックの施設があったので、そこでiPhoneで撮影して合成して。だから、最初は1円もかからずにMVも作っていました。

──芸術系の大学なんですか?
外語大なんですけど、ちょっと珍しくていろんな施設があったんです。
──洋楽が好きなのは外語大に在学しているというのも影響しているんでしょうか。
もともと高校で洋楽を中心に聴いていたんですけど、身の周りに僕が聴いてるジャンルを好きだったり、楽器ができたりするような友達があまりいなくて。バンドが組みたかったけど組めない状況だったから、外語大に行けば洋楽が好きな人がいるだろうし、そういうサークルもあるだろうと思ったんです。もともと大学は行く気はなかったんですけど、そういう動機もあって行くことにしました。
──そういう理由で外語大を選ぶって珍しいですね。実際音楽の趣味のあう人は多かった?
「UKロック、ガレージロックが好きです!」みたいな看板が出ていて、そこに書いてあったバンド名が自分の好きなものとマッチしたので、そのサークルに入ったんです。そこのサークルの中で見つけたのが、いまのギターとベースで。ドラムだけ大学が違うんですけど。

──世代としては、高校生の頃にはスマホとか持っていました?
持っていて、YouTubeとか見れる機会はあったんですけど、あまり見ていなかったですね。
──それこそ、スマホでSNSをしたり、YouTubeで動画を見たり、いろんなコンテンツがせめぎあってるなかで、音楽のアルバム1枚を聴き続けるって集中力を必要とする行為だと思うんですけど、そこに近藤さんが没頭したのは、なんでなんだったんでしょうね。
僕が高校生ぐらいのとき、サブスクリプションを使っていなくて。CDショップに行ったり、中古CDショップの300円アルバム・コーナーみたいなところで、なんとなくよさそうなアルバムを買って帰って、音楽を掘っていたんです。それで、良い曲はiPod classicに入れて聴くみたいなやり方をしていたので、時代としては昔っぽい聴き方をしていたと思うんですよね。
──自分の身銭を切って買うことで、その音楽を聴く集中力もあがりますもんね。
そうですね。必死に選びますよね。あまりバイトもしてなかったので、何枚も買っていたらお金はきつかったですね(笑)。だから、ちゃんと選んで聴いていました。
1stアルバムって、完全無欠であってほしくないんです
──サブスクが普及してシングルの配信が増えたじゃないですか? アルバムを買って聴いてきた身としては、なかなか慣れないというか、まとめて聴きたいって思っちゃうんですよね。
1曲だけだと判断できないですもんね。時代に沿った出し方だと思うんですけど、アルバムの方がバンドの形というか、人となりみたいなところが分かるし、長い時間、音楽に浸れるのはいいことですよね。
──そういう意味で言うと、No Buses の1stアルバム『Boys Loved Her』は30分強くらいの作品ですけど、何かしら意識しているんでしょうか?
30分にしようと思ってしたわけではなくて。1曲の中で無駄な部分を削りたいという考えて作っているんです。同じフレーズを何個も出したくなかったり、印象的なフレーズは使ってみたり、そういう感覚で作っているので曲が短くなるのはあるかもしれないですね。そのあたりは、僕やメンバーの好みだったりすると思うんですけど、聴いていて違和感のある長い場所とかはいらないなと思うんで、削っちゃうって感じです。
──30分ですけど、非常に聴きごたえのあるアルバムになっていると思います。記念すべき1stアルバムですけど、どんなことを意識して作りましたか?
僕の思う1stアルバムって、完全無欠であってほしくないんです。誰からも何も言わせないみたいな感じのものに惹かれないというか。バンドって、その人が歳を取った分だけビルドアップしていくと思うので、アルバムも1枚ごとに成長していってほしいんですよね。単純に僕たちの演奏技術の問題もあると思うんですけど、バンドをはじめて3年というぎこちない部分がナチュラルに出ているだろうし、そういうバンドの経過が出てほしいなと思って作っています。拙いところはある思うんですけど、僕が好きな1stアルバムもそういうものが多かったりするので。
──具体的に、どのバンドの1stアルバムが頭に浮かびます?
ザ・ヴァインズの『HIGHLY EVOLVED』とか、ロス・キャンぺシーノスの『Hold On Now, Youngster…』とかですね。技術とか音楽理論とかだけじゃない、愛くるしさみたいなのが詰まってるアルバムたちだと思うんです。アークティック・モンキーズの1stアルバムも、センスみたいなのが光っていると思うし、そうところがいいんですよね。
──ザ・ヴァインズのクレイグ・ニコルズみたいに、好きなものに対して一直線になるタイプのアーティストもいれば、お客さんに受けるようなものを読みながら楽曲を作れる人もいますよね。近藤さん自身は、どういう性格や特性があると思いますか?
どちらかといえば、好きなものに一直線になるタイプですね。めちゃくちゃ器用でもないので「こういうものが売れるな」という感覚で曲を作れる気が全くしないです。本当に好きなものしかできないというか。それは、アーティスト的なことというよりは、ただただ「ひとりの音楽好きが音楽を作っている」みたいな感覚。正直、曲を作っているか作っていないかの違いだけで、僕たちの作品を聴いてくれるような人たちと基本的に一緒だと思っているんです。だから、「おれはアーティストだ!」というよりは本当に好きだからやっている感じですね。
──No Busesは音楽好きなメンバーで結成されていますけど、「自分たち自身が純粋な音楽リスナーである」ということは、バンドの音楽性において重要なことだと思いますか? 変な話、あまり音楽を聴かないアーティストもいるじゃないですか。
そういう意味でいうと、音楽を好きで聴いているということは僕らのバントにとって大事なことですね。
──ちょっと話が逸れてしまったんですけど、1stアルバムの曲順はどのような基準で並べていったんでしょう。何かしら核になるような曲があったんでしょうか。
『Boys Loved Her』に入っているのは2年以上前に作られた曲ばかりなので、それらをどう配置していくかって考え方だったんですけど、1曲だけ作り変えたんです。それが7曲目の“Ill Humor”なんですけど、アルバムの並びを作るにあたって重要になっていて。1回作り直した結果、パンチのある曲になったので、それがあることによってアルバムの配置が安定して。そこから曲順はすんなり決めれましたね。
──どういう部分を変えたんですか?
まるっと変えましたね。最初はビートを変えて、もとのリフなりバッキングなりベースも変えてみたんですけど、これは違うなってなってギターも変えた結果、全部変わりました(笑)。
──そしたら、原曲と共通している部分ってどういうところなんでしょう?
“ソリットさ”ぐらいだと思います。曲としては、全く違う曲になりましたね。
僕はこの国に産まれたということが染み込んでいるから
──それによって1stアルバム『Boys Loved Her』が形作られていったのはおもしろいですね。曲によって、ベースとドラムが全面に出て聴こえる曲と、あまり出てないような印象の曲があるように感じたんですけど、それはなんでなんでしょう。
アルバム全体というよりは、曲の特性を意識してミックスをしたからかもしれないです。それぞれの曲によってギターを効かせた曲もあったり、ヴォーカルがよい曲があったり、ビートがかっこいいからみたいな曲もあったりするからかもしれないですね。
──ちなみに、曲を作るにあたってリファレンスはあったりするんですか?
9曲目の“Rat”は、ストロークスのビート感とかガレージ・パンク的な要素は意識していたと思います。

──No Busesの楽曲は英詞ですけど、歌詞を書くときにテーマ性を持たせたりしているんでしょうか?
曲のメロディとバッキングを作り上げて、そこにこういう歌詞が乗るかなみたいなイメージが出てきて、いい感じの詞をチョイスして、その方向に向けて書いていくような感じですね。
──例えば2000年代にも、洋楽に影響受けてやっているバンドは少なくなかったと思うんですけど、どこか借り物感があった気がしていて。その点、No Busesとか、TENDOUJIとかって、海外の音楽の影響を自分たちのものとして消化できているのがおもしろいなと思って。それがどうして可能になっているのか、ご自身でどう分析されます?
出てくるメロディ感とかに、どうしても土着的なものが含まれていると思うんです。そこを排除するか、しないかってところは重要だと思っていて。僕はこの国に産まれたということが染み込んでいるから、同じ音楽をやっていても、なんか違うなって部分が出てくるんだと思うんです。同じ英語圏でも、たとえばフランスとオーストラリアとか違うし、なんでそういうのが出るのか僕もわからないんですけど、そこを削っちゃうのは音楽をやる上でもったいないことだと思っていて。洋楽に寄せるために削っちゃう人もいると思うんですけど、ナチュラルに出たメロディが客観的に聴いて日本人っぽいなと思ったりしつつ、そこを配慮しちゃうと、自分たちの良さがなくなるというか、やっている意味がわかんなくなってきちゃうんですよね。

──2000年代ぐらいまでは音楽批評が機能していて、良くも悪くも日本っぽい部分があるとあまり評価されていなかったと思うんです。そういう批評文化が薄くなってきたことで、いい意味で、そういう声を気にせずできるようになった部分もあるのかもしれないですね。そうやって作った作品が海外でも評価されていることに大してはどういう気持ちですか?
そこは素直に嬉しいですね。自分たちが好きでやっているだけって言えばその通りなので、それを聴いてくれる人がいたり、いいって言ってくれる人がいろんなところにいることは大変幸せなことなんだって感じます。
──最初の頃はライヴをしてもお客さんが入らなかったそうですもんね。そのとき、お客さんに受けるものをやろうとせず、好きなものを追求していったことが、現在に繋がったっていうのはすごく幸せなことですし、自信にもつながりますよね。
極論を言えば、人がどうとか関係ないと思うんですけど、心の糧にはなりますよね。
──ちなみに、MVで近藤さんは踊ったり、ユーモラスでチャーミングな面をたくさん見せていますよね。そこにはどういう意図があるんでしょう。
最近はましになってきたんですけど、特に初期の頃は恥ずかしかったんですよね。メンバー全員シャイなので、カメラに映ることが恥ずかしくて。真剣にかっこつけれないんですよ。それもあって、ゆるい感じになるんです。そういうところでみんなの性格が出ていますよね。
──そういうことだったんですね(笑)。1stアルバムのタイトルは『Boys Loved Her』ですが、どうしてこの言葉を選んだんですか?
“Rat”っていう曲の中に〈Boys Loved Her〉って歌詞があるんです。2年前に作ったEPでも使っているタイトルなんですけど、これからどんどん刷新していこうみたいな気持ちもかけてあるんですよ。「Boys」っていうのはバンド側で、「Her」は作品みたいな感じですね。
──「Her」は、これまでバンドメンバーが好きで聴いてきた作品ってことなんですね。ちなみに、バンドにとって2枚目は鬼門というか、1枚目よりも作るのが難しいですよね。
1枚目を作るかなり前から2枚目のビジョンは見えていて。そこに対する自信はあります。アルバムの単位でいうと方向性は変わると思うんですけど、これまで出したシングルとかで今回のアルバムに入ってない曲もたくさんあって。2枚目も楽しくできそうなので、1stアルバムを出して躊躇するアルバムにはならないと思います。
──バンドとしてのビジョンは、現時点でどういう風に考えてらっしゃいますか?
バンドがというより、これからどういうアルバムにしていこうかみたいなことを考えることが多いですね。次やりたいことも観えているんですけど、まずは2ndアルバムを完成させて、客観的にアルバムとして聴けるようになってから、もう少し整理して深く考えようかと思っています。
編集 : 東原春菜、鈴木雄希
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過去の特集ページ
LIVE SCHEDULE
2019年10月25日(金) ボロフェスタ2019 @KBSホール (京都府)
時間 : OPEN17:00 / START17:55
詳細 : https://borofesta.jp
2019年11月5日(火) @下北沢 BASEMENT BAR (東京都)
時間 : OPEN19:00 / START19:30
出演 : HAPPY、No Buses
2019年11月12日(火) @WWW (東京都)
時間 : OPEN18:30 / START19:30
出演 : South Penguin、Dos Monos、No Buses
2019年11月16日(土) @TSUTAYA O-nest (東京都)
時間 : OPEN18:00 / START18:30
出演 : キイチビール&ザ・ホーリーティッツ、ステレオガール、Helsinki Lambda Club、No Buses
2019年11月29日(金) @LIVE HOUSE Pangea (大阪府)
時間 : OPEN19:00 / START19:30
出演 : Newdums、No Buses
PROFILE
No Buses(ノーバシーズ)

2016年結成。
その名の通りArctic Monkeys を中心にUKロックから多大な影響を受けた4人組インディー・ロック・バンド。 幾度かのメンバー・チェンジを経て現体制となり、2018年4月に1stSingle『Tic』を発表。そのMVは日本にとどまらず世界中で高い評価を受けた。
《夏には出れんの!?サマソニ!?》から選出され〈SUMMER SONIC2018〉出演。その後のリリース作品はすべて3カ月で完売。
2019年9月11日待望の1st Album『Boys Loved Her』をリリース。 国境を超えての活動が期待される今最注目のバンド。
【公式ツイッター】
https://mobile.twitter.com/no_buses_band
【公式インスタグラム】
https://www.instagram.com/nobusesband/