稀代のストーリーテラーとして──【対談】Homecomings(福富優樹、畳野彩加) × スカート
Homecomingsが、はじめて日本語歌詞に挑戦し、バンドとして新たなはじまりを期待させる意欲作『WHALE LIVING』をリリースした。これまでもストーリーテラーでいることに重きを置いていた彼らだが、日本語で歌うことで、その世界はより広がった印象を受ける今作。今回OTOTOYでは、ポップ・ミュージックの新たな担い手で、インディー・シーン随一のストーリーテラー、スカートの澤部渡を迎えて対談を実施。2組の出会いやバンドに訪れた転換期など、さまざまな話をしてもらった。意外にもメディアでの共演ははじめてだという彼ら。2組を活動初期から知る音楽ライター、松永良平を進行役に、和やかな雰囲気で進んだ対談の様子をお届けします。
Homecomingsが新たな扉を開いた新アルバム、ぜひハイレゾで!
スカートのメジャー1stシングルも配信中!
INTERVIEW : Homecomings(福富優樹、畳野彩加) × スカート
Homecomingsに初めて音楽雑誌の取材をしたのは、おそらく僕(松永)だ。2013年の初夏、京都のセカンドロイヤルにお邪魔して、メンバー4人にインタヴューした。まだまだ受け答えもたどたどしく、福富優樹の末っ子キャラっぽい愛されぶりをよく覚えている。
いっぽう、スカート澤部渡に初めて取材をしたのも、おそらく僕だ(そっちはメディアではなく個人ブログだったが)。2011年の暮れ、ミニ・アルバム『ストーリー』を出す直前で、大きな体に期待と不安の両方を抱えていたっけ。
だから、両者がそれぞれにいろんな時期を乗り越えて、こうして対談の場にいるということには、かなり特別な感慨があえる。スカートは17年にメジャー・デビューを果たしたし、Homecomingsは今年、映画『リズと青い鳥』の主題歌「Songbirds」が評判を呼び、さらには今月リリース(10月24日)の新作『WHALE LIVING』ではバンド初となる日本語詞での曲作りに挑み、あらたな魅力を見せることに成功した。そこで、“バンド・サウンド+日本語ポップ"の先輩としてスカートが大きく浮上したというわけなのだろう。
これまでもライヴやイベントでは共演してきた両者だし、京都α-STATIONにそれぞれ出演中という共通点もある。それ以上に、漫画(スカート)、アメリカ青春映画(Homecomings)というバックグラウンドと自分たちの音楽を結びつけて表現するスタンスにも、じつは通じ合うものがある。対談ではHomecomings新作についてのみならず、澤部、福富、畳野彩加の作曲談義や、最近聴いている音楽にも話が及んだ。
インタヴュー&文 : 松永良平
写真 : 作永裕範
編集補助 : 三浦智文
2バンドの出会い、そして最初の印象は……
──Homecomingsとスカートは、イベントではよく一緒になっている印象でしたけど。
澤部渡(以下、澤部) : 去年の『20/20』リリース・ツアーでも広島公演(2017年12月3日@4.14)でゲストに来てもらったりしましたね。
──でも、今回の対談は、何と言ってもHomecomingsの新作『WHALE LIVING』のリリースで、彼らが日本語詞に踏み出したというタイミングで、その道の先輩としてのスカートという存在が俄然大きく浮上してきたという面があると思うんです。まずは両者の出会いから聞いていきましょうか。
澤部 : METRO(京都)でのライヴかな?
福富優樹(以下、福富) : そうですね。2013年1月(13日)のイベント〈HOMESICK× フレデリック〉で、スカート、オノマトペ大臣、昆虫キッズと、僕らがやった時ですね。当時僕らが憧れていた人たちが、京都にドーンとやって来たタイミングでした。その日のことは本当によく覚えてますね。漫画雑誌『ユースカ』~『ジオラマ』的な文化がまるごとMETROに来る日みたいな(笑)。スカートにはそういうイメージがありましたね。
『ユースカ』
森敬太が主宰する自主制作漫画レーベル〈ジオラマブックス〉発行の自主制作漫画誌。漫画家やイラストレーター、音楽家といった各方面のクリエイターが参加している。
澤部は“スカートとオカダダ”、“スカートとみゆととfeat.mochilon”、夏目知幸(シャムキャッツ)のユニット“ズボンドッグス”としても参加した。
──澤部くんは、そのカルチャーの一端を担う人っていうイメージだったんですね。
福富 : そうですね、漫画の人というイメージがありました。
──いっぽう、澤部君はHomecomingsのことはそのときすでに知ってました?
澤部 : いえ、たぶん知らないはずです。まだあのときはホムカミも結成してすぐくらいでしたよね。
畳野 : そうです。2012年に結成で、徐々にライヴをし始めたぐらいだったのかな。
福富 : 音源もひとつも出してなくて、缶バッチにダウンロードコードがついているのしか物販がなかった。逆に、僕はスカートはずっと聴いていました。METROでのライヴでも『ひみつ』(2013年3月)に入っている「おばけのピアノ」とかもやってたような気がします。CD-Rで『月光密造の夜 live at shibuya WWW』が物販に出ていて、それを聴いた記憶もあります。
澤部 : それくらいの時期でしたね。懐かしいです。だから、僕がちゃんとホムカミのことを認識したのは、そのときがはじめてで、ちゃんと聴けたのは音源が出てからでした。ココナッツディスク吉祥寺店で、HomecomingsとTeen Runningsのスプリット7インチ(『SPLIT EP』2013年3月)を買って聴いていましたね。
──あらためて、どういう印象を持ちました?
澤部 : 若いのに、こういう音楽やっている人も珍しいっていうのが最初です。すごく胸にくるメロディとかがしっかりあったのをよく覚えていますね。あとは、アナログで出していたっていうのもかっこいいですよね。そのころそういう形態で出すアーティストがほとんどいなかったから。
福富 : それに関してはパイオニアですよ、僕らは(笑)
一同 : (笑)。
──若い世代で、バンドで音楽を作るというのが流行らなくなってきているとも言われてましたよね。
澤部 : そうかもしれないです。2013、2014年ぐらいって、バンド・サウンドが無くなりつつあったというか、僕の皮膚感覚ではそういうのがあった気がする。若い子はラッパーが多い、みたいな。それこそ「生楽器持ち込んでるぜ、ダセェ~」なんていわれる日が来るのかな、なんて話をうちのメンバーとしていたり。
畳野彩加(以下、畳野) : 最初のEP(『Homecoming with me?』2013年6月)を出した時ぐらいに、「懐かしい」というワードだったり、「この年齢で昔っぽい音楽をやっているんだね」とか、よく言われてましたね。そこで初めて自分たちの作る音楽というものを自覚した感じがあります。それまではそんなこと考えたことがなくて、ただ純粋にギターポップの曲をやろうと言って始めただけだったんですよ。なので、周りから自分たちの音楽が〈Kレコーズ〉みたいとか言われて、その視点で改めて自分の音楽を聴くみたいな感じがありましたね。
福富 : 同時代でザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートとかが出てきたころだったので、それにも影響を受けながらやっていた感じです。後になってから、時代をさかのぼってよりルーツの音楽を聴くようになりました。
お互いに訪れる“27歳”という転換期
──スカートとHomecomingsの音楽って、スタイルとはまた別のところで通じあっている部分がある感じがするんです。澤部君には漫画っていう大きなバックボーンがあって、その存在が音楽を作る動機になっていたりする。いっぽう、Homecomingsは映画。特にアメリカの青春映画からの影響がどんどん作品に入っていた感じがありますよね。
畳野 : そうですね。もともとメンバーが映画好きというのがあって。日頃からメンバー同士で映画の情報を交換したりはしていますね。あとは、映画とライヴが融合したイベントを自分たちもできたらいいなと思っていて、それがいま、イラストレイターのサヌキナオヤさんとやっているイベント〈New Neighbors〉として実現することになって。自分たちは本当に好きなことをやっているという感じがします。
澤部 : めちゃくちゃいいですね。
福富 : サヌキさんとは、一緒に僕らのCDのアートワークを作っていくうちに、こっちもどんどん影響されていくというか、作品がビジュアル化されていく感じがありましたね。
──Homecomingsの場合は、歌詞もそういうアメリカのカルチャーとリンクしている感じがあって。前作『SALE OF BROKEN DREAMS』(2016年5月)では、英語詞であることのこだわりもかなり強くなっていたと感じてました。そんななか、今回の新作『WHALE LIVING』はついに日本語詞でのアルバムとなったわけですが。
福富 : 前のアルバムまでは、自分たちの英語のスタイルでやっていました。その中に和訳の歌詞を入れて、アメリカ映画の世界観を自分たちの独自に構築し直すという狙いがあったんで。だから逆に言うと、前作が満足いくものになったことで、一区切りできた感覚はあったのかもしれないです。
いつか日本語の歌詞をやりたいなっていう気持ちも、ずっとあったんです。それが今のタイミングになったのは、バンドを5年くらいやっていて、フル・アルバムも2枚出して、なんとなくバンドとして疲れているなという感じがあったからだと思います。この方法でやれる寿命が来たというか。アルバムを作る機会があるのは、もう最後なんじゃないかという考えがあったんですね。だから、やりたいことは全部やっておかないといけないな、と。
──スカートにも、似たような意味での転換期ってあったんでしょうか?
澤部 : 強いて言うなら、宅録からバンドの録音に変わった瞬間が今のところ1番エポックだったとは思いますけどね。その次だと、僕は『CALL』(2016年4月)っていうアルバムでやりたいことを全部やり切った感じがあったんで。それから先どうしようっていうのはすごく悩んだところではありました。だから、『CALL』がひとつの転換期かな。あのアルバムを出して、僕は死ぬんじゃないかって感じはありましたね(笑)。
──その次に澤部君が選んだステップが、〈ポニーキャニオン〉というメジャー・レーベルの移籍だったわけですよね。新しい窓を開くみたいな。
澤部 : まあ、そういう機会がたまたま来たからその状況に乗っかっている感じではあります。物事はなりゆきなんでね。
──でも、そのなりゆきが動かす状況があるわけで。Homecomingsに話を戻すと、実際に日本語でやると決断した瞬間があったわけでしょう? それはいつ頃?
畳野 : そうですね、去年の冬くらいにそういう話をしていました。その方向性で結論が出てから、「じゃあ、これを最後のアルバムにしよう」ぐらいの話が出たんですね。そのタイミングで京アニ(京都アニメーション)から映画『リズと青い鳥』の主題歌(「Songbirds」)のお話と、京都新聞のCMキャラクターを務めるお話と、チャットモンチーのトリビュート盤(『CHATMONCHY Tribute ~My CHATMONCHY~』)に参加する話を、今年の1月に連続していただいたんです。それで、「最後だ」なんて言っている場合じゃないなって、みんな喜んで。その制作をやっているうちに、4人の気持ちが変わっていったんです。そういうことってあるんですね。
澤部 : 僕にもあるんですよ、それ。『CALL』を出す直前の話だけど、自主制作でやれることをやりきったのがミニ・アルバム『サイダーの庭』(2014年6月)だった。そのあと「これで最後だ」って思いつめていた時期が結構長かった。あとは、喉も傷めたり、僕の27歳はハードすぎる1年を過ごしたんです。それが、28歳になった途端に、鈴木慶一さんの45周年の公演にゲスト・コーラスで出演するとか、スピッツのシングル「みなと」に口笛で参加するとか、それまでの1年の辛さにおつりがくるくらい重要な時期になったんです。その1か月のおかげで「あと10年は音楽続けないといけないぞ」みたいな気持ちになれた。
畳野 : うちらもその転換期が27歳だったんですよ。
物語の語り手として
──今回、Homecomingsで日本語詞の曲を作るのは初めての試みでしたよね。苦労もあったと思いますが。
福富 : いままで書いてきた世界観をどんなふうに日本語で曲に落とし込んでいったらいいのか考えました。前からメロディより歌詞を先に書いていたし、英語のときは日本語から先に書いて英語にしていたんで、逆にいろんな縛りもなく自由に詩を書けているという感覚があったんです。でも今回は、たとえば、韻を踏むこととか、どこまでやればいいのかを決めるのが大変でした。実務的というか、体と頭で考えることが多かったですね。
澤部 : ホムカミって詞先なんだ。
畳野 : そうなんですよ。しかも今回は、完全に仕事分担をしていたんです。最初に福富が書いた歌詞をもらって、それに私や福富がコードとメロディを付けていくみたいな。でも、今回は日本語で、本当に勝手が違うので、身近な存在であるシャムキャッツやミツメ、スカートを聴き直しました。この人たちはどんな歌を乗せているのかなとか。日本語の入れ方や言葉の当て方も改めて知りました。歌謡曲とかも聴いて、研究しましたね。いままでは2コードとかで、簡単に曲を仕上げていたんですけど、今回はコード進行をこだわるようになったり、複雑にしないと難しかったですね。
──詞先ならではの楽しさであり難しさなんでしょうね。スカートはどうですか。
澤部 : 僕は詞先よりも曲先の方が多いですね。今回のホムカミの曲は結構ドキッとするが瞬間多いですよ。説明しづらいんですけど、あんまり歌にされない言葉とかが、自然にフックとして出てくるとドキッとします。日常の延長を描いていたりするんだけど、ときどきそれがざらつくような瞬間があって。なんかそれがかっこいいなって思いますよね。
──福富くんは、サードでやったようにアルバムを覆う歌詞の世界観は設定したんですか?
福富 : 前作は、ある街を設定して、そこに登場人物がいっぱいいる感じにしました。短編小説みたいな感じです。でも、今回はストーリーを考えて、長編小説みたいな感じにしました。その場面場面を曲にしていくみたいなイメージはありましたね。
澤部 : ホムカミはアメリカっぽいといつも思っていたんですけど、今回のアルバムはイギリスって感じがしませんか? タイトル曲のドラムがリンゴ(・スター)っぽい感じがしたんだけど。
畳野 : だいぶこだわりましたね。シンバルの金物の音だったり。あの曲だけドラムを違う所で録っていて。
澤部 : そうなんだ。あの1曲の印象で、アルバム全体の印象がひっくり返るくらいの変化があったんですよ。それがすごくおもしろかった。
──澤部くんが感じたブリティッシュ感っていうのは、福富君の歌詞があってそこに曲をつけたときに生まれたものだと思うんですけど、何か参照する音楽や映画はあったんですか?
福富 : 僕が作った曲も何曲かあるんですけど、そこではいままで使いたくても使っていなかった分数コードとかを使ったりしました。日本語だからこそ、そのコードが乗るというか。ギターの話で言うと、これまではセーハするコードが多かったんですけど、今回はローコードで抑える場面が増えましたね。
澤部 : 分数コードみたいな感じは、いまそう言われるまで気が付かなかったですね。
福富 : その使いどころのよさは畳野のセンスだと思います。たぶん僕が全部作っていたら、結構これ見よがしな感じになっちゃったのかな、と。その点でもバランスはいいのかなと思いますね。
──ラストの「Songbirds」だけは、もともとシングルで発表された通り英語詞でした。
福富 : この曲は、何となくアルバムのエンディング・テーマっていう感じがあったんです。1曲の中の世界観っていうか、人と人との距離っていうのをテーマにしているんですけど、それがアルバムのテーマにもなるなと思って、エンドロール的なイメージで最後に置こうっていうのは最初から考えていましたね。
澤部 : この曲だけ英語だけど、アルバムを通して聴いたとき、「なるほど!」って思うんですよ。
──あと、福富くんが書いた歌詞で主語を「僕」で書いている曲をそのまま変えずに、畳野さんが歌っていますよね。「私」とかにすべきかもしれないけど、あえてそうすることで生まれる物語の語り手感が出た気がします。
畳野 : 語り手感を出したかったんです。あまり感情移入しないように、というか。「僕」って言っているけれど、男女どっちの意味でもあるみたいな。その辺を分からなくすることの方が、意味合いが広がる感じがあったんですよ。
澤部 : 音楽って、小説やマンガとは違ってやってる人の顔が出るから、フィクションがフィクションじゃなく聴こえる部分がどうしてもあるんですけど、Homecomingsはその辺を、あくまでも物語の案内人という立ち位置を日本語でもしっかりと守ったという感じがします。
福富 : いままでやっていることが生きている感じはしますね。いまここで日本語になったことがすごくよかったというか。これより前だったらちょっと早かったというのもあるかもしれないです。
澤部 : 僕は英語が身近にないから日本語を選択しているというだけなんです。でも、英語の曲をやれたらかっこいいですよね。やっぱ日本語って身動きが難しいじゃないですか。ホムカミの「HURTS」のMVを見ると、日本語字幕がついてますよね。「英語だったらこんな豊かな文章ができるんだ」って、めちゃくちゃ羨ましく思った瞬間なんですよね。日本語だと、こういう描写がなきゃいけないのにとか思いながらもメロディの制約とかで削る部分とかがすごく多い。そこが羨ましいです。
福富 : うれしいです!
今回は「最新作が1番いいな」っていう感覚があります(福富)
──スカートのニュー・シングル「遠い春」には、「遠い春」(映画『高崎グラフィティ。』)、「忘却のサチコ」(テレビ東京系ドラマ24『忘却のサチコ』)という映画やドラマの主題歌が収録されていますよね。Homecomingsの「Songbirds」ともつながる話ですけど、クライアントから発注があって書く曲というのは、どういう感じですか?
澤部 : 僕は楽しくやってますよ。やっぱり自分の曲を書くとなると、何もない所に土台を組んで、そこの上に何か作らないといけない。でも、発注があるとあらかじめ土台が出来ているので、その意味では楽しいですね。あと30歳にもなるとよほどのことがない限り曲なんてできないですよ(笑)。
一同 : (爆笑)。
澤部 : というのは冗談ですけど(笑)。でもやっぱり10年以上作っていると、「自分が作りたいものって何だ?」っていう当たり前の欲求がわかんなくなる時があるんですよ。そんな時に他の人から「スカートのこういう部分が欲しい」みたいなリクエストがあって、改めて自分と向き合う機会が増えるというのは、実は健康的なんじゃないかと思いましたね。そういう仕事に触発されて「自分もこういうことをやりたいんだ」みたいなことがまたできつつある感じがします。
福富 : ちなみに、澤部さんは自分の作品でどれが1番好きなんですか。
澤部 : やっぱり『エス・オー・エス』(2010年12月)になるのかな。もしくは『CALL』。もちろん『20/20』も気に入っているんだけど、あらゆる意味で思い入れを優先するとなると『エス・オー・エス』になるし、転換点という意味だと『CALL』。でも、こんなに自分の昔の曲に思い入れがある人っていうのは特別だと思うよ。時々、昔の曲を聴き返して、「このよくわからないエネルギーって何だったんだろう?」って考える。『エス・オー・エス』を越えるっていうのが当面というか、もっというと人生のテーマになるのかなと思っています。
──Homecomingsは過去の作品を振り返ることはありますか。
畳野 : たまに聴いてしまったりすることはありますね。
澤部 : おふたりが自分で好きなアルバムは?
福富 : 僕は1番新しいアルバムが好きですね。いままでは最新作が1番いい作品という感覚がなくて、ひとつ前の方が良かったかもって思うことがあったんです。「前の良かったところを残しておけばよかったな」みたいなことを考えてしまってました。でも、今回は「最新作が1番いいな」っていう感覚があります。
畳野 : 私は、『Somehow, Somewhere』は結構好きかもしれない。あのときの、衝動でできた感じというか、最初の『Homecoming with me?』があってこその、つたないんだけどエネルギッシュな感じが良かったかなって思います。でも、やっぱり、いまは最新作が1番いいかな。
福富 : 3枚目にして、ようやくいろんな人に聴いて欲しいと思えるようなアルバムができたとは思います。
──ちなみに、今回の『WHALE LIVING』というタイトルは、何か参考にしたものはあったんですか。
福富 : これは1、2年位前から頭の中に遭った言葉なんです。僕は結構そういうのが多いんですよ。ふと頭に浮かんで、ノートの端っこにメモをしたりする。『SALE OF BROKEN DREAMS』のときも、あの言葉がふと思い浮かんで、そこから物語を書いていくという感じでしたね。
──日本訳すると「クジラの生活」?
福富 : 「LIVING」っていうのは和製英語みたいなニュアンスで、それこそ家のなかのリビングみたいな感じなんです。だから、クジラの住処的な感じ。
畳野 : それに関係するんですけど、今作のジャケットは、実は壁紙なんです。サヌキさんの絵を1回印刷して、それを壁に貼って写真で撮ったんです。だからよく見るとざらざらしてる。わざわざサヌキさんが大阪まで行って、撮ってきてくれたんです。
福富 : というのも、アルバムを形のあるもので聴かれる機会が減っているなと思っていて。もしかしたら、次のアルバムを作る時、またそういう流れが加速しているとしたら、「はたしてアルバムというものが人の手に届くのか?」ということを思って。そんなわけで今回、アルバムというフォーマットの作品にこだわってみようというところはありましたね。
澤部 : そうだね。その感じはすごく伝わってきたな。壁紙にしてそれを撮影して、なんてすごい話ですよ。これはやっぱり、たとえばスマホの画面とかでは分からないよね。
畳野 : そうなんですよ。だからブックレットにも絵をたくさん描いてもらってるし。ケースからCDを取ると、下がアイスになっているんですよ。で、裏がそのアイスを溶かしたあとみたいな。やっぱり、仕掛けがあるものが好きで、作品を買った人だけが分かるみたいなのを入れたりしますよね。
日本語だとおもしろそうなことができるし、フレッシュな感覚で曲を作れている(福富)
──アートワークのざらざら感に関連するかもしれないけど、音にもそういう生活のノイズがちょっと入ってますよね?
畳野 : あれは、福富とエンジニアの荻野(真也)さんが2人で考えて入れてくれて。レコードノイズだとか、雨の音や波の音のアイデアとか。
福富 : そうですね、ミックスをしながら考えた感じですね。
畳野 : 荻野さんは今回、アルバムに結構携わってきてくれました。バンド4人プラス荻野さん、みたいな感じで作ったところはありますね。
澤部 : 4曲目の「Parks」でちょっと音数が少なくなって、すぐまた戻るところあるじゃないですか。あそこの部分めちゃくちゃ好きです。バンドな感じがすごくしていいなと思っちゃいました。
畳野 : ありがとうございます。いままでやってこなかったアレンジというか、ザ・ストロークス感を出したかったんです。
福富 : 曲の間奏部分に4つコードがあるんですけど2個目のコードは、ランディ・ニューマン感を醸し出したい、みたいな話はしていました。
──ランディ・ニューマン感。それもまた新鮮なワードですね。
福富 : ランディ・ニューマンをここ1年ぐらいずっと聴いているんですよ。だから、次のアルバムはそんな感じにしたいなとか思ったりしますね。
畳野 : ほんとに⁉
福富 : 結構4人とも最近そういう感じの曲聴いているじゃないですか。
澤部 : 僕は最近ペイヴメントの『Terror Twilight』(1999年)がめちゃくちゃよくて、びっくりした。大学生で聴いていたときは、そのアルバム以外の作品を聴いていて、正直、ペイヴメントのよさがぜんぜん分からなかった。でも『Terror Twilight』聴いたらもう、めちゃくちゃいいね(笑)
福富 : ですよね! 僕らもあのアルバムが1番好きで、カヴァーしたりしているんです。
澤部 : あのアルバムの良さがわかったら前のアルバムどんどん聴けそうだなって思ってる。とにかく曲がいいなと思ってさ。でも調べてみたら、本人たちもファンもあんまりいいアルバムだとは思っていないらしくて。ベスト盤とかでも1曲しか選曲されていない。昔からのファンにとっては音が整いすぎているのかな、とか思ったけど。
福富 : あのアルバムはナイジェル・ゴッドリッチがプロデュースしていて、澤部さんも大好きなポール・マッカートニーの『Chaos and Creation in the Backyard』(2005年)も同じプロデューサーだし、そのつながりみたいなのも感じられますね。
澤部 : 僕には1980年代から1990年の洋楽を聴けていないというコンプレックスがずっとあって、それが30歳を過ぎてようやくなくなってきたというか。だから、ティーンエイジ・ファンクラブとかも最近よく聴くようになった。『Songs from Northern Britain』(1997年)。あれが、すごくよかった。
畳野 : 私も、彼らをずっと聴いてはいたんですけど、『Songs from Northern Britain』だけは最近になってようやく聴きました。すごくいいですよね。
澤部 : 最近ようやく分からなかったものが分かりだしてきた気がして、それがいまは純粋に楽しいですね。あらためて、音楽を聴くことが楽しい。
──Homecomingsに対しても、今回「日本語の歌詞でどういうことやっているんだろう?」ってみんなが興味を持って聴くことで、音楽の聴き方が変わるかもしれない。そういう楽しみも獲得している感じはありますよね。
畳野 : そうですね。私たちも今回あらためて(日本語で歌詞を書く人は)みんなすごいなと思ったし。
──今後にHomecomingsが、もう1回英語の歌詞に戻ることもありますか?
畳野 : いまの時点だと、英語でやる感じはあまりないですね。
福富 : 英語の曲も何曲かは作ったりはしているんですけど。でも、日本語だとおもしろそうなことができるし、フレッシュな感覚で曲を作れているんで、いまはこの感じが楽しいですね。
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DISCOGRAPHY
Homecomings
新→古
【過去の特集ページ】
・『SYMPHONY』特集
https://ototoy.jp/feature/2017070503
・『SALE OF BROKEN DREAMS』特集
https://ototoy.jp/feature/2016051201
・『I Want You Back EP』特集
https://ototoy.jp/feature/20140321
・『Homecoming with me?』特集
https://ototoy.jp/feature/2013061300
平賀さち枝とホームカミングス
新→古
・『カントリーロード / ヴィレッジ・ファーマシー』特集
https://ototoy.jp/feature/2018012404
・『白い光の朝に』特集
https://ototoy.jp/feature/20140920
スカートの過去作はこちらから!
新→古
【過去の特集ページ】
・『20/20』特集
https://ototoy.jp/feature/2017101801
・『CALL』特集
https://ototoy.jp/feature/2016112600
LIVE SCHEDULE
Homecomings
Homecomings「LETTER FROM WHALE LIVING」TOUR
2018年11月30(金) 会場:広島4.14
※ワンマン
2018年12月1(土) 会場:福岡UTERO
※ワンマン
2018年12月8(土) 会場:金沢GOLD CREEK
※ワンマン
2018年12月15(土) 会場:北海道・苫小牧ELLCUBE
出演 : NOT WONK、YOU SAID SOMETHING
2018年12月16(日) 会場:北海道・札幌COLONY
出演 : NOT WONK
2018年12月22(土) 会場:大阪・梅田シャングリラ
※ワンマン
2018年12月24(月・祝) 会場:名古屋APOLLO BASE
※ワンマン
2018年12月25(火) 会場:渋谷CLUB QUATTRO
※ワンマン
【その他詳しいライヴ情報はこちら】
http://homecomings.jp/live
スカート
Major 1st Single「遠い春」リリースツアー〈far spring tour 2018〉
2018年11月18日(日)@宮城・仙台enn 2nd
時間 : OPEN 17:30 / START 18:00
2018年11月25日(日)@札幌・KRAPS HALL
時間 : OPEN 17:00 / START 17:30
2018年12月2日(日)@福岡・INSA
時間 : OPEN 17:30 / START 18:00
2018年12月14日(金)@大阪・Shangri-La
時間 : OPEN 18:30 / START 19:00
2018年12月16日(日)@愛知・名古屋TOKUZO
時間 : OPEN 17:30 / START 18:00
2018年12月19日(水)@東京・キネマ倶楽部
時間 : OPEN 18:00 / START 19:00
【その他詳しいライヴ情報はこちら】
http://skirtskirtskirt.com/live
PROFILE
Homecomings
京都在住の4ピース・バンド。The Pains of Being Pure at Heart、Mac DeMarco、Julien Baker、Norman Blake(Teenage Fanclub)といった海外アーティストとの共演、3度に渡る〈FUJI ROCK FESTIVAL〉への出演など、2012年の結成から精力的に活動を展開。
2016年2ndフル・アルバム『SALE OF BROKEN DREAMS』、2017年に5曲入りEP『SYMPHONY』をリリース。同年新たなイベント〈New Neighbors〉をスタート、Homecomingsのアートワークを手掛けるイラストレーター、サヌキナオヤ氏との共同企画で彼女たちがセレクトした映画の上映とアコースティック・ライヴを映画館で行っている。
FM802「MIDNIGHT GARAGE」での月1レギュラー・コーナーは3年目に突入、2018年4月からはじまった京都αステーションでのレギュラー番組「MOONRISE KINGDOM」は毎週水曜23:00放送中。また4月21日全国ロードショーとなった映画「リズと青い鳥」の主題歌を担当。2018年10月24日待望の3rdアルバム『WHALE LIVING』をリリース。
【公式HP】
http://homecomings.jp
【公式ツイッター】
https://twitter.com/homcomi
スカート
どこか影を持ちながらも清涼感のあるソングライティングとバンド・アンサンブルで職業、性別、年齢を問わず評判を集める不健康ポップ・バンド。強度のあるポップスを提示し、観客を強く惹き付けるエモーショナルなライヴ・パフォーマンスに定評がある。2006年、澤部渡のソロ・プロジェクトとして多重録音によるレコーディングを中心に活動を開始。2010年、自身のレーベル〈カチュカ・サウンズ〉を立ち上げ、1stアルバム『エス・オー・エス』をリリースした事により活動を本格化。これまで〈カチュカ・サウンズ〉から4枚のアルバムを発表し、2014年に発表した12'single『シリウス』で〈カクバリズム〉へ移籍。続くアルバム『CALL』(2016年)が全国各地で大絶賛を浴びた。そして、2017年10月にはメジャー1stアルバム『20/20』を発表。また、そのライティング・センスから多くの楽曲提供、劇伴制作に携わる。近年では藤井隆のアルバム『light showers』に「踊りたい」(2017年)を提供。「山田孝之のカンヌ映画祭」(2017年)ではエンディング曲と劇伴を担当し、映画「PARKS パークス」(2017年)には挿入歌を提供、自身も映画に出演している。2018年に入っても映画「恋は雨上がりのように」の劇中音楽に参加。マルチ・プレイヤーとしてスピッツや鈴木慶一のレコーディングに参加するなど、多彩な才能、ジャンルレスに注目が集まる素敵なシンガー・ソングライターであり、バンドである。
【公式HP】
http://skirtskirtskirt.com
【公式ツイッター】
https://twitter.com/skirt_oh_skirt