2019年の顔はカネコアヤノで決まり! ──バンドの可能性を信じた新アルバム『燦々』

「愛のままを / セゾン」や「明け方 / 布と皮膚」などの7インチでリリースされた作品が各所で話題に、さらにワンマン・ライヴのチケットも即完売するなど、現在の音楽シーンで最も注目を集めているアーティストのひとり、カネコアヤノ。そんな彼女が前作『祝祭』からおよそ1年半ぶりとなる新アルバム『燦々』をリリース。前作と同じく、林宏敏(Gt / ex.踊ってばかりの国)、本村拓磨(Ba / Gateballers)、Bob(Dr / HAPPY)といった強者バンドマンと作り上げた今作は、より強固になったアレンジと“バンドらしさ”が光る1枚となった。2019年の音楽シーンの話題を全てかっさらってしまうほどの大傑作をつくりだした彼女へのインタヴューを公開です!
1年半ぶりの新アルバム配信開始!!
INTERVIEW : カネコアヤノ

さくらホールへ単独演奏会『燦々』へ行ってきた。大好きなカネコアヤノのめちゃくちゃ染みる弾き語りライヴに僕は大いに満足した。でもこのアルバム『燦々』は、前作から大いに成長を遂げたバンドとしてのアルバムだ。曲の良さを信じ、バンドの可能性を信じたカネコアヤノの勝利だ。このアルバムのリリースによって、2019年の顔はカネコアヤノになったね。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 鈴木雄希
写真 : 大辻隆広
“みんなで作ってる感”はあるかも
──最近のカネコさんの活動を見ていると、チーム感が出てきたなと感じていて。
そうですね。バンドだと思ってやっているし、周りのスタッフさん含めて“みんなで作ってる感”はあるかもしれないですね。
──今作を聴くと、バンド・メンバーと楽しく作っている感じが伝わってきて。アレンジがとてもいいなと。
うれしい! エンジニアの泰さん(濱野泰政)にプリプロから協力してもらっています。お父さんみたいな存在で、私が音楽をはじめた19歳の頃からずっと一緒に見てくれていて。最初の頃はエンジニア以外にもドラムを叩いてもらったり、レコーディングではベースを弾いてもらったりみたいな。いまは基本的にエンジニアとして関わってもらってるんですけど。
──へぇ。泰さんとはどういう出会いだったんですか?
泰さんは大学の同級生のお父さんで。そのとき私は音楽をやっていたけど、人前に出てやったこともなければ、人に聴かせたこともなくて。でもその友人から「お前も音楽やってんなら聴かせろよ」って言われて、断れなかったので聴かせたら「最高じゃん! おれがこれ作りたかったよ」みたいな反応をしてくれたんです。そのときに「俺の父ちゃんが伊豆のスタジオでエンジニアしてるから聴かせるわ!」って泰さんに聴いてもらったら「最高やん! 伊豆で録音するぞ!」と。

──今回もその伊豆のスタジオでのレコーディングだったんですか?
そうです。ほんと、伊豆スタジオ最高ですよ! 隣に宿舎があるので泊まりがけで。
──今回はどれくらいの期間でレコーディングしたんですか?
今回は11〜12日間ぐらいですね。ちゃんと朝ごはんもみんなで食べつつ。みんなで同じ釜のごはんを食べて。毎食泰さんが作ってくれます。
──そこも泰さんなの(笑)!?
料理がめちゃくちゃ上手いんですよ。肉も焼いてくれるし、魚もさばけるし、バーベキューもしてくれる。伊豆スタジオ好きすぎて、毎回「帰ってきたな」って思える場所ですね。
──今作には7インチでリリースされた楽曲も収録しているけど、改めてレコーディングしたんですか?
前の録音のまま入ってます。「愛のままを / セゾン」はCDでもリリースしたけど、「明け方 / 布と皮膚」は7インチしか出していなくて。「明け方 / 布と皮膚」はすごくいい録音ができたんだけど、これが7インチでしか聴けないのはもったいなさすぎるから、このままアルバムに入れてみなさんにも聴いてもらおうじゃないかって。
──そうだったんだ。
そう。いい意味でも悪い意味でもCDってデータっぽいし、7インチで聴こえてなかったところが聴こえるじゃないですか。そこを聴いてくれって思って入れましたね。レコードとCD、両方の良さが伝わるといいなと思っています。
──アルバムのコンセプトってバンドで作っていくんですか? それともカネコさんが作るんですか?
毎回コンセプトみたいなものは決めていなくて、そのときにある曲のなかからセレクトしていくスタンスなんですよね。今回で言えば『祝祭』から『燦々』までの1年半で溜まった曲の中から選んだ。テーマを決めて作るっていうのをやったことがなくて。
──たとえばその1年半でできた楽曲に「ちょっとこの部分が足りないから作ろう」みたいなこともない?
「燦々」「ごめんね」「かみつきたい」らへんは作ったかも。ってことは半分作ってるじゃん(笑)。
太陽が「燦々」とするような気持ちでいられたらいいですよね
──「燦々」なんて今回のアルバム・タイトルになってますよ(笑)。
でもこのアルバム・タイトルはこの曲ができる前から考えていて。「燦々」っていう言葉は、ただただ“煌びやか”という意味しかなくて。ずっと昔から好きな言葉で、いつか自分の作品で使う日が来たらいいなってずっと考えてたんです。ジャケットも1番先にこれに決まってたからぴったりかなって。
──ジャケットの猫は?
猫の名前が「日の出」っていうんですよ。まさに「燦々」じゃないですか!
──「日の出」ちゃんという猫なんだ。
写真家の木村和平くんと撮影をしていたときがあったんだけど、そのとき偶然和平くんが“日の出”に太陽が当たった写真を撮ったんです。背景は普通の部屋の壁なんだけど、光が強すぎて後ろが真っ黒になっているだけで、そこに太陽が当たって眩しそうな“日の出”の顔があるっていう。写真としてめちゃくちゃかっこよすぎたから私がどうしてもジャケットにしたいと思って、それに合うタイトルは『燦々』だろう、と。

──この顔は眩しい顔なんだ(笑)。
ふてぶてしいですよ。性格が姫なんです。朝起きるとお腹がすいてるんでしょうね、「ニャー」って近寄ってきて。そうしちゃったのも私なんでしょうけど、ごはんを手酌じゃないと食べてくれなくて。私もかわいいってやるもんだから(笑)。
──自宅の猫さんだったんですね。
愛してやまない。ジャケットの写真とアルバム・タイトルも決まって、曲も揃ってきて「あと1曲作りたい」って思ったときにできたのが「燦々」なんです。
──この曲には〈悲しくて寂しい夜にもサモエドは笑ってる / そう思えば愛おしい日々〉という歌詞もあるけど、これは犬のサモエドだよね?
サモエドってめっちゃ笑ってるんですよ! かわくて好きなんです。辛いときとか悲しいときってあるじゃないですか。でもそのときにたとえば、サモエドのことを考えると、「サモエドは今日も笑ってるから大丈夫」って。私たちが悩んでクソーってなってるときに、サモエドは無関係にゲラゲラ笑ってるんですよ。そう思うと段々馬鹿らしくなってくるよねっていう。

──なるほど。そのときに太陽が燦々と照っている。
太陽が「燦々」とするような気持ちでいられたらいいですよね。寛大になりたいし、包容できる人間になりたい。
──楽曲のアレンジはどうやって決めていくんですか?
プリプロのときは絶対に泰さんに来てもらっていて。私は「この曲はバーンみたいな感じなんですよ」みたいなことしか言ってないんだけど、泰さんが「こういう雰囲気にしようよ」とかいろんな引き出しからアイデアをだしてくれて。そこからみんなでアレンジの土台を作っていく感じ。カチッと決めるというよりも、イメージからしっかり作っていく感じかもしれないですね。
──なるほどね。
そこからメンバー4人で細かいことを決めていって。ただレコーディング当日にギターのフレーズが決まることもあるし、「燦々」とかはレコーディング中にアレンジしました。
──カネコさんのイメージをまず泰さんが具体的にしていくんだ。
そう。私が「うわー」ってなってるのを泰さんが通訳してくれてるって感じです。たとえば「布と皮膚」では「ここは肩でフラダンスを踊ってる人がいる気持ちになって」ってBob(Dr / HAPPY)に言ったら「わかった」って。なんかみんなわかってくれてるっぽいです。
──「布と皮膚」にフラダンスはどこにも出てきてないような気がするんですけど。
ないね。私もよく分からないです(笑)。

──(笑)。「花ひらくまで」の手拍子も抜群のタイミングだし、秀逸だなと思って。
ここで入ってくるのいいですよね。これも泰さんが言ってくれたんですけど、本村くん(本村拓磨 / Ba / Gateballers、ゆうらん船)も引き出しが多い人だからいろいろアイデアを出してくれて。
──なるほど、バンド楽しそうですね!
バンドは楽しいですね。仲良し。みんな優しいし穏やかなので、リハの後とかもよく4人で遊ぶし。
誰に何を言われようが、やりたいことをやっていきたい
──今作はやっぱりバンドで作り上げたアルバムになったんだなと思いました。
レコーディングって、時間とかいま生きてる空気感とかを記録するものだと思ってて。『祝祭』ではじめてBobと一緒にがっつりレコーディングをして、そこからの約1年半をちゃんと記録したものになってるのかなって気がする。
──今回のアルバムはバンド感もすごく出てるし、聴けば聴くほど発見がある作品ですよね。
みんな私の歌ありきで演奏してくれているから、歌が聞こえるアルバムだなって思う。そう考えると『祝祭』のときからそんなに変わってないのかな。あとBobと本村くんのコーラスがいいですよね。
──「かみつきたい」とか特にコーラスがいいですよね。
あれ、いいんですよ。本村くんもBobもすごく素敵です。Bobがコーラスするとき、“そんなに顔をすべて開く必要がありますか”みたいな顔をしてて、実はめっちゃおもしろい顔をしてるところが個人的に好きです。
──本村くんは1人だけエモ・ロックみたいな歌い方でめっちゃ綺麗なコーラスするから、ライヴだとすごい見ちゃうんですよ(笑)。
「んーー」みたいなね。あの人少女漫画が大好きだし、手癖も女の子らしくて(笑)。少女漫画の心が宿ってるからあの声が出せるんですかね。

──そうなんだ(笑)。カネコさんが曲を作るときって、曲を作ろうと思って作るのか、生活の中で自然にメロディができるのか、どっちなんですか?
両方あるんですけど、ポンポンできるときもあれば、「よし、やらないと」って思わないとできないときもあるから、時期によって違うかも。でも書きたい言葉は日常的に書き溜めていて。
──カネコさんの歌詞は本当に特徴的だし、曲に絶対1つ引っかかる部分があるんですよね。たとえば「布と皮膚」というタイトルも、言葉を見ただけだと意味がわからないけど、このタイトルを見たうえで歌詞を読み直すと、よりグッとくる。それが散りばめられてるのがすごい。
私は語彙力とかもないほうだし、知識も人よりかなり低い人間だと思うけど、それでも書けるから言葉っておもしろい。大事にしたいですね。

──曲を作るときは歌詞が先にあることが多いんですか?
気に入っている言葉を箇条書きにしてあって、その言葉を土台に、メロディも一緒に乗せていくことが多いですね。メロディも言葉も同時進行みたいなことが多いかも。
──なるほど。曲は結構コンスタントにできる?
どうでしょう、でもできなくて悩むことはそんなにないかな。曲ができた瞬間が1番気持ちいいし、まだ生きていけるって思うんです。これがなくなったらただのゴミ人間になっちゃうから(笑)。「ああ、よかった。また人間を取り戻した」って。バイトもほとんど喧嘩とかで辞めてるし、友達を作るのも苦手だし、学力もやばいくらい低いし、家事も苦手だし…… 何もできないじゃんみたいな。本当に音楽をしてなかったらやばいって思う。
──音楽に出会えてよかったですね。
本当に危なかったです。同級生親子が「最高じゃん」って言ってくれてなかったらやめていたと思うし、ふたりがいなかったら、いまのカネコアヤノはいなかった。恩人ですね。

──今回こうやってアルバムを完成させて、次はどんなモードに入っているんですか?
来年はめっちゃでかいところでライヴをしたいとは思っているし、リリースも早くしたいし、レコーディングも早くしたいな。レコーディングをしたくてソワソワしてるから、どんどん曲を作りたい。
──カネコさんのなかで曲げたくないことや信じているもの、つまり信念のようなものってあるんですか?
“変わらないこと”かなとは思ってますね。最近だと、いまのスタイルのままテレビに出ることでお母さんとかにすごく伝わるし、それが親孝行になると思ってて。そうやって「わかってほしいな」とか「おいしいごはんが食べたいな」とかって考えているのが私なんですよ。そんな私から曲ができているから、私が変わらないことが大事かなって。ずっと不安だし、そういう気持ちもそのままでいたいなって思っていますね。
──なるほどね。
音楽で苦しくなりたくないっていうのは思っていますね。ずっとこのままやりたい。デカいところでやりたい気持ちもあるけど、逆にこのあいだやった吉祥寺のキチムみたいなところでもずっとライヴをしていきたい。誰に何を言われようが、やりたいことをやっていきたいと思ってる。もっと人間的に寛大に包容力のある人間に変わっていきたい気持ちもあるけど、一方で昔から私は閉ざしている人間でもあるから、そういう閉ざしている部分も守っていかなくちゃいけないところなのかなって思いますね。やっぱりそこから曲ができているから。
編集 : 鈴木雄希、東原春菜
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前作『祝祭』はOTOTOYだけの特典付きで配信中!
【アルバム購入特典】
『LIVE AT ZAMZA ASAGAYA JAN.15-16,2018』(mp3音源)
1. とがる(2018/1/15)
2. 週明け(2018/1/16)
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LIVE SCHEDULE
『燦々』リリース記念インストアイベント
2019年9月18日(水)@東京 TOWER RECORDS 新宿店 7Fイベントスペース
時間 : START 20:00
2019年9月19日(木)@大阪 TOWER RECORDS 梅田NU茶屋町店 6Fイベントスペース
時間 : 集合時間 18:30 / START 19:00
2019年9月23日(月・祝)@愛知 名古屋パルコ 西館1Fイベントスペース
時間 : START 14:00
林以樂 x カネコアヤノ
2019年10月11日(金)@東京 青山月見ル君想フ
時間 : OPEN 18:30 / START 19:30
出演 : 林以樂(雀斑 / SKIP SKIP BEN BEN) / カネコアヤノ
カネコアヤノ TOUR 2019 “燦々”
2019年11月22日(金)@大阪 梅田CLUB QUATTRO
時間 : OPEN 18:00 / START 19:00
2019年11月30日(土)@愛知 名古屋CLUB QUATTRO
時間 : OPEN 17:00 / START 18:00
2019年12月04日(水)@東京 赤坂BLITZ
時間 : OPEN 18:00 / START 19:00
【詳しいライヴ情報はこちら】
https://kanekoayano.net/live/
PROFILE
カネコアヤノ

弾き語りとバンド形態でライヴ活動を展開中。
2016年4月には初の弾き語り作品『hug』を発表、その後、続々と新作をリリースする。2016年以降、新たなメンバーと大胆なバンドサウンドを展開し注目を集める。
2017年9月には初のアナログレコード作品『群れたち』、2018年4月に新作アルバム『祝祭』を発表し、このアルバム2作は各所で高い評価を獲得する。そして2019年1月に7インチ『明け方 / 布と皮膚』を、さらに4月にはシングル『愛のままを / セゾン』をリリース。
【公式HP】
https://kanekoayano.net/
【公式ツイッター】
https://twitter.com/kanekoayano