“ふんどし”を締めなおした彼らが放つ4年半ぶりの快作ーーmoools、4人編成初のニュー・アルバム『劈開』完成
代表曲「ジッポの絵柄になりなよ」など、摩訶不思議でありながら、どこはハっとさせられる詩世界と独特のコード進行で作られたオルタナ・サウンドで国内外のファンを魅了してきたmoools。1997年の結成時より、スリー・ピースでの活動を行ってきた彼らに、ロック、即興など、シーンを選ばない活動を行う才人、浜本亮(Gt)が2010年から加わった。そして4人編成以降初となる今作『劈開』は、トリオ時代とは違う、立体的なバンド・アンサンブルに彩られた快作となった。上質なメロウ・ソウル曲「退屈」や異様な集中と緊張に満ちた15分にもおよぶサイケデリック・チューン「ペチカ」など、その音楽性はじつに多彩だ。今作からの音楽的なレンジの拡張は、どのようにして行われたのか。そしてアメリカツアー、レーベルの移籍を経て、バンド自体はどのように変化していったのか。今作への想いと今後の決意をたっぷり語ってもらった。
moools / 劈開
【配信形態】
alac / flac / wav / mp3 : 単曲 257円 まとめ購入 1,851円
【Track List】
01. 単位
02. 退屈
03. 風景が油へ
04. あることないこと
05. 例の海
06. 乗り上げた暗礁からずっと
07. 職務質問
08. 一秒二秒
09. はしご
10. ペチカ
※特典に、〈モールスまつり しおりポスター大原画.pdf〉をプレゼント!
INTERVIEW : moools
自分たちの音楽を俯瞰して聴いて、ジャンルを広げてくれたんです
ーースリーピースのバンド感って不動のものだと思うんです。浜本さんが加入した時点で、どんな変化がありましたか? もしくはどんなことに期待しましたか?
酒井泰明(以下、酒井) : 最初は、僕と浜本君の付き合いしかなかったんです。スタジオで顔を会わせた時に、波長が合うかどうかも分かんなくて不安だったのは確かなんですけど、わりとみんな気が合ったんです。1人増えたからって、極端に居心地とか立ち位置が変わることがなくて、そこはすごく良かったです。
ーーベーシストからみてどうでした?
有泉充浩(以下、有泉) : しっくりきたって感じです。3人の期間は長かったんですけど、「前から居たんじゃない?」ってぐらい。
ーー3人から4人になることで、目指した方向性はありましたか?
酒井 : 自分の中で、ギタリストとしての天井は知っているんですw。だけど自分の頭で作る、鳴っている音楽はわりと上手く弾けているって感覚はあって。上手いこと弾けてないのを面白くしてるってのが、今までのモールスだったんですけど、逆にそれが弾けるっていう面白さが、4人になってから出来るようになったのが楽しくて。便利っていうと言葉が悪いんですけど、浜本君が加入して、パッと解放感が生まれたんです。リズム隊の2人も、こういうギタリストの後ろでやりたかったと思うんです。
有泉 : ヤスさん(酒井)は、ライヴ中にギターを弾いていない時間が長いから......だからそういう時間にちゃんと弾いている人がいるっていう安心感はありますよ(笑)。
ーー浜本さんは、加入してみてどう感じましたか?
浜本亮(以下、浜本) : 僕は、mooolsを正統派なロック・バンドだと思っていたんですけど、周りの人の受け取り方は、違和感を感じるくらい逆で。だからこそ「王道のエレキ・ギターを弾いてやろう」って思ってます。その時点では、レコーディング作品としてはどうなるかはわからなかったんですけど、ライヴは絶対かっこ良くなると思っていました。
酒井 : 浜本君に入ってもらった最初の頃は、鍵盤やパーカッションで参加してくれてもいいって甘いこと言っていたんだけど、やるうちに、やっぱりギターを弾いてほしいなって。さらに、レコーディング時には、自分たちの音楽を俯瞰して聴いて、ジャンルを広げてくれたんですよ。
ーー浜本さんのフレーズは、酒井さんがイメージを伝えるのですか? それともお任せ?
酒井 : まちまちです。みんなで色々意見を言い合いながら。
内野正登(以下、内野) : ドラムが、こういうフレーズで叩いているから、こういう風に弾いてほしいとかはあります。
浜本 : 僕が聞く時もありますしね。「どっちの感じがいい?」 とか。
ユーモアが減っているんです、自分の中で
ーーこのアルバムを聴かせてもらって、今までのmooolsのアレンジや楽曲の面白さはありつつも、すごく歌詞が聴きやすいと思ったんです。
内野 : 今回歌詞を聴かせようっていうのは命題としてありました。プロデューサー(多田聖樹)やキーボードで参加してくれているKafkaからも、口酸っぱく言われて。僕らでやっちゃうと、どうしても演奏重視になっちゃいますし。
ーーでは、今回のアルバムのコンセプトは歌詞にあるのでしょうか?
内野 : 特にコンセプトがあったわけではないんですけど、録音してミックスしていく段階で、「歌詞はちゃんと聴かせましょう」とはなったんです。だから、聴きやすくなったって言ってもらえるのはすごく嬉しいですね。
酒井 : 仮ミックスをみんなで聴きなおして、全体のボーカルを上げる作業があったよね。
ーー酒井さん以外のみなさんに聞きたいのですが、酒井さんの歌詞をどう思われますか? 僕はものすごく変だと思うんですよね(笑)。
内野 : ほんと、こんな歌詞を書く人はいないですよ(笑)。ただ、すごく好きなんです。
有泉 : 僕は考えが及ばないので、もう無視です(笑)。作業としては無視です(笑)。
ーー曲作りやライヴでは、歌詞と感情とサウンドを合わせていくと思うのですが、酒井さんの歌詞はそういうタイプでもないのかなと。
内野 : でも、詞でフレーズが決まったりしますよ。詞を聴きながらドラムを叩いていたら、フレーズが落ちてくる時とかあります。それは明確な感情じゃなくて、イメージだと思うんですけど。
酒井 : 僕はライヴ中よく歌詞を間違えるんですけど、(内野が)1番指摘してきますよね。毎回間違うよねって。正しいのを教えてもらうんですよ(笑)。
浜本 : ソングライティングの方式として、酒井さんのやりかたは、他にないと思うんですよね。僕とは全く違うやり方をしてるし。似てる部分もあると思うんだけど、mooolsでは、全然違う部分を楽しんでいます。
ーー酒井さんは、毎日どんなことを考えて歌詞を制作しますか?
酒井 : 家でギターを弾かないんですよね、ビックリするぐらい。高校の時から作曲を頭の中で毎日してて。ギターはまた別ものなのですが、普段何を考えてるかっていうと、曲のこと考えてる。
ーーその曲には歌詞も入ってますか?
酒井 : そうですね。もうクセで、ずっとその生活をしてる。その曲がいい感じになってきたらバンドで試すみたいな。ずっとそれを繰り返してますね。
ーー今作の歌詞に批判要素はありますか?
酒井 : 特に明確なものはないです。ただ今まで作ってきた歌詞と今回のものとは違うのかなって。年齢なのかも分からないですけど、今までとは毛色が違う曲がたまたま集まってきたと思います。
ーーどんな風に違いますか?
酒井 : ユーモアが減っているんです、自分の中で。もっと入れることも出来るんですけど、入れるのを途中で止めてるって感じが多いです。今までの歌詞の作り方からだんだん変わってきたのかなってのはじんわりとありますね。前までは、一回作ったものをさらに変えてく作業をしてきたけど、それをしない曲が出てきました。あまり練り直さなくなったんです。
ーーそれはなぜですか?
酒井 : わかんないんですよ(笑)。今まではサービス精神が過剰だったんですけど、そこまでおもてなしをしなくなったのかな。
ーー内野さんが、酒井さんの歌詞で好きな部分はどこですか?
内野 : ぱっと聞いて意味がわからないって歌詞でも、何か絵が見えるような部分ですね。で、歌詞に合わせながらドラムを叩いていると、そこに自然とフレーズが落ちてくる。ほんと面白いんですよ。だから歌詞を間違えられるとムカつくんですよ(笑)。
結果的に大好きな作品が出来て良かった
ーー今作は「ペチカ」をはじめ、長尺の曲が収録されています。そのような曲が多くなったのはなぜでしょう?
酒井 : 曲作り前のセッションの時間が増えたよね。今作を作るとっかかりは、大体セッションなんです。で、やるうちに手応えがでてきたので、長い曲にも挑戦するようになったんです。
ーー「ペチカ」がそれの筆頭?
酒井 : そうですね。みんなで「ああでもないこうでもない」って言いながら。
内野 : 「ペチカ」が1番最後に仕上がったんですけど、どうしても「ペチカ」を入れたかったんです。「ペチカ」を入れることによって、僕はこのアルバムが完成すると思って。セッションを何度も重ねて、レコーディングで4、5回テイクを録り、その中で良いものを選びました。
浜本 : プリプロやって、デモを作ってというやり方では「ペチカ」は出来なかったです。だからセッションが大事だったんじゃないかなと。
酒井 : ホントの一発録りみたいな感じで大枠だけ決めて、細かい部分はその場でやる感じで録ったんですよ。
ーー普段のスタジオでは、どれくらいセッションに時間をかけますか?
内野 : スタジオ2時間だったら1時間ぐらいとか。
ーーそれは歌アリで?
内野 : 歌はないかな。セッション中に面白いフレーズがあったら酒井が持って帰って、なにか歌をつけてくるんです。
ーー浜本さんが入ってからは、そのセッションの時間は増えた?
酒井 : 元々あったんですけど、その時間がやっぱり増えたよね。
ーー初期のmooolsの作品に比べて、前作ぐらいからジャムっぽい曲も増えたなと思っていました。
酒井 : その部分はあるかもしれないですね。初期はしっかり作っていた部分もあって。でも、2000年頃アメリカから帰ってきた時に、明らかに自分達の空気感が変わったんですよね。そこから180度違うバンドになった。風通しのいい感じになったんですよね。その変化は、今もずっと続いているかな。
ーー前作から今作で、7 e.p.からP-VINEへの移籍、メンバーの加入等の環境の変化は、バンドにどのような影響を及ぼしましたか?
酒井 : これからバンドとしてどうするのかを、環境を変える時にメンバーといっぱい話し合ったんです。レコーディングとは別に、自分たちはどう活動するのが正しいのかみたいなのは延々話していました。何を変えるかっていった時の選択肢は少なかったんですけど。ライヴをやるということは変わらないけど、心構えとか方向をどうするかは、ふんどしを締めなおそうと思いましたね。
ーーそれはどのように締めなおしたんですか?
酒井 : 表として見えるのはライヴしかないので、そこをしっかりやる。環境を変える選択をしたからには、出来ることと出来ないことがあって当たり前だけど、ちゃんと頑張ろうってよく話し合うようになった。決して楽しい話だけじゃないんです。自分達だけで出来ないことがたくさんあるのを整理する時間が必要だった。現状を把握するのにみんなバタバタしてしまったけれど、結果的に今は良かったのかなって。
浜本 : ゴールの無い話だけど、話さなきゃいけないこともあった。でも、結果的に大好きな作品が出来て良かったです。
有泉 : バンドを長いことやってると良いことも悪いこともあるけど、悪いことをいちいち言ってもダメだし、今こうやって一つのアルバムが出せてることが一つの答えなんじゃないかなと。ほんとうに良いものが出来たと思っています。
インタヴュー : 飯田仁一郎(Limited express(has gone?))
文 : 高木理太
moools過去作、関連作をご紹介
LIVE INFORMATION
paionia presents 『正直者はすぐに死ぬ』
2014年8月23日(土)@下北沢GARAGE
時間 : open 18:00 / start 18:30
出演 : paionia / moools / SICK OF RECORDER / かたすみ(O.A)
料金 : 前売り¥2,800 / 当日¥3,300
moools presents 『2B』with Hello Hawk
2014年9月6日(土)@代官山晴れたら空に豆まいて
時間 : open 18:30 / start 19:30
出演 : moools with Hello Hawk
料金 : 前売り¥2,500 / 当日¥3,000
PROFILE
moools
1997年、酒井泰明、内野正登に有泉充浩が加わり、活動開始。以降下北沢、渋谷周辺の都内ライブ・ハウスを中心に精力的なライブ活動を展開。モデスト・マウス、フォーク・インプロージョン、ディアフーフ、プラス/マイナス、ヴァーサス、二階堂和美、fOUL、友部正人、あぶらだこ、イルリメなど国内外、メジャー/インディ、ジャンルを問わず幅広いライン・ナップとの共演を果たす。2002年より自主企画「モールスまつり」を立ち上げ、キャルヴィン・ジョンソン、ザ・マイクロフォンズ、ラヴ・アズ・ラフター、リトル・ウィングス、ザ・マジック・マジシャンズ、ブラッドサースティ・ブッチャーズ、スパルタローカルズ、キセル、トクマルシューゴ、ビヨンズなど、国内外の様々なアーティストをゲストに迎えている。酒井、有泉はインストゥルメンタル・グループ、カバディ・カバディ・カバディ・カバディ、内野はtoddle、Swarm’s Armのメンバーとしても活動しており、有泉はレーベル7e.p.(セヴン・イー・ピー)を2002年に立ち上げ共同主宰している。2010年に浜本亮(g)が加入し、4ピース・バンドとなったmooolsが前作から4年ぶりとなる6作目のアルバム『劈開』をリリースした。