大好きだった京都を離れて4年も経った。最近になって、京都という土地とそこで生まれる音楽シーンがとても魅力的であると強く感じるようになった。BOROFESTAで京都には行くし、京都には多くの音楽仲間がいるけれど、その思いは年々強くなってくる。そんな思いが積もって「今の京都ってどうなっているんだろう? 」と、一度上京して、昨年京都に戻ったシンガー・ソングライターのゆーきゃんに今の京都の音楽シーンのことを聞いてみた。ここにその内容を、京都音楽シーンに最大の敬意を込めて記す。そして、ゆーきゃんが監修したこのフリー・ダウンロード・コンピは、あまりにも凄い! 気合いの京都スペシャル号です!
インタビュー&文 : JJ(Limited Express (has gone?))
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ゆーきゃん監修による今の京都を知るためのコンピレーション・アルバム! 1ヶ月限定フリー・ダウンロード開始
All Along Kyoto Tower (京都タワーからずっと)
1. We are 69 years apart (HOTEL MEXICO )
2. woo lino sunte on lino (YeYe)
3. 壁 (my letter)
4. 最後のうそ (興梠マリ)
5. 踊り場から愛を込めて (chori)
6. WONDERLAND (ワゴンズ)
7. 方向喪失フェスタ (LLama)
8. 夕暮れそらに (竹上久美子)
9. TRIPMEN (VIDEO MIX) (TRIPMEN)
10. wddo - cradle (pasteur)
11. ヴァーチャファイター20XX (FLUID)
12. 修羅場 (bed)
13. 甘い砂(空に沈む/DEMO) (欠伸-ACBIS-)
14. January never keeps secrets (demo) (neue nahel)
15. Saturday (空中ループ)
配信期間 : 2011/06/17~2011/07/17
ジャケット・デザイン : 足田メロウ
マスタリング : 高橋健太郎
>>ゆーきゃんによる収録アーティスト解説
ライヴ・ハウスがメディアに対して提案力を持ち始めた
――ゆーきゃんが上京してから再び京都に戻った後、京都の音楽シーンに何か変化はあった?
一番強く感じたのは、ライヴ・ハウスが力を持ってきたなと。個人やバンドの企画じゃなく、ライヴ・ハウス主導のイベントが増えてきましたね。それに対してお客さんやバンドが反応して人が集まる。段々「この人ここでよく見るな」って人が増えてきて、ライヴ・ハウス中心のコミュニティが出来始めている。MUSE HALLや陰陽、METROといった以前からの場所に加えて、とくに最近はVOX hallとnanoに行くと、出来上がりつつあるコミュニティ感を強く感じます。
――それはかなり理想的な形だね。それによってバンドにはどういう変化があった?
ライヴ・ハウスがどのバンドを選んでどう見せて行くかを考え始めたことで、バンドといわゆる“業界のオトナ”達との距離が縮まったと思います。例えば、KYOTO MUSEの行貞店長は京都大作戦のサブ・ステージのキュレーターに名を連ねていて、そこにTurntable FilmsやLainy J Groove、MUSEによく出ている若いバンドを送り出している。あと、最近はワゴンズや空中ループ、竹上久美子などがラジオでよくかかるんですが、それにはVOX hallがアルファーステーションのDJや制作サイドの人とバンドと繋げているという理由もあると思います。ライヴ・ハウスがメディアに対して提案力を持ち始めたんですね。
――CLUB METROは?
クラブ・シーンの話になるけれど、WORLDとLAB.TRIBEとMETROの共同企画のKMF(Kyoto Music Festival)というイベントがアルファーステーションで番組を持っていて、その中でMETROのプロデューサーの林(薫)さんが今週の注目イベントを紹介されています。それを聞いてイベントを知ったり、遊びに来る人は結構いますね。
もちろん一時期に比べれば弱くなったとは思うのですが、力はあると思います。去年、Turntable Filmsがアルファーステーションのヘビー・ローテーションになったんですよ。そこから、京都のローカルではあるけれど街のみんなには知られているようなバンドになりました。そういえばHALFBYも番組をもっていて、SECOND ROYALのレーベル・メイトがゲストでたくさん出演していましたね。耳の早いリスナーが、ラジオから情報を得るという図式はまだ生きているんじゃないでしょうか。
――nanoは?
nanoは小さいハコなので、世間の一般的なリスナーに何かを提案するということはまだそれほど出来ていませんが、店長の土龍(モグラ)君がバンド・マンに対してすごく親身になってアドバイスをする人なので、「店長が熱い人らしい」「ボロフェスタをやってる人らしい」という評判を聞きつけた人が少しずつだけど集まって来ている。僕らが音楽を始めた時のライヴ・ハウスにあった、あの「適当な」感じは無いですね。もちろん磔磔や拾得といった老舗の「適当さ」は、じつは物凄い「懐の深さ」の表れなので、どちらがより良い、ということは言い切れないですが。
――じゃあ、ライヴ・ハウスのシーンとしては、今はすごい良い状況?
それを判断するにはもう少し時間がかかりますね。いい状況には違いないけれど、今はまだ「完全な、モデルになれるような成功者」が出ていないような。
――そこに今一番近いバンドって誰でしょう?
あんまり具体的な名前を出すと、「お前は何様やねん」と言われそうなのですが… 京都在住という括りで今一番突き抜けているのはモーモールルギャバンでしょう。あとはSOFT、騒音寺といったベテラン、それから片山ブレイカーズ&ザ☆ロケンローパーティーやNabowaじゃないでしょうか。その次に誰が来るかというのはこれから試され始める感じ。東京と京都を行き来していると、京都で話題になっていても、東京で広まるまでにはタイム・ラグがあるのがよくわかるんですが、空中ループやTurntable Filmsは全国的な名前になりつつあるように思いますね。もちろんぼくのよく知らない世界もあって、パンクやヒップホップにはもっともっとヒーローがいるのかもしれませんが。
――メディアに若いバンドが登場するようになって、ライヴ・ハウスが提案力を持ち始めて、実質の集客面ではどう?
全国的なメディアに名前が出るようになったからと言ってお客さんが呼べるわけではないんです。京都では特に学生の存在が大きくて、学生が見に来るバンド=お客さんが集まるバンドという図式は昔からずっとあると思います。学生のバンドが友達を呼んで集客を増やす、ライヴ・ハウスもそれを或る程度あてにする、その一方で、たとえ知名度が全国的であってもをお客さんが集まらないバンドもたくさんいますね。
常に色んな所で色んな世代の誰かが何かをしかけようとしてる
まずOUTATBROはCLUB METROを根城にして自主企画を打ち、Qomolangma Tomato、Crypt Cityやuri gagarnを呼んだり、LITEやmooolsのツアー・サポートをしたりしている。オルタナティヴやパンクの文脈でネットワークを作りつつ、これから世に打って出ようとしている感じでしょうか。彼らのファンは大学生から30代まで幅広く、さっき言った区分にそうと、どちらでもあってどちらでもない気がします。僕、つまりゆーきゃんは一度「京都」という地図からドロップ・アウトしてしまったのと、あまりにもいろんなことをやりすぎているので、今言った京都バンド・シーンの相関図にはあまり関係ないところにはじかれてしまっている気もしますが、自分のことになるとよくわからないというのが正直なところです。
――ゆーきゃんより上の世代のミュージシャンはどう?
たとえばAUXはMOJO WESTでフリー・パーティーをやっていますし、ULTRA BIDEのHIDEさんも自分のイベントをずっと続けていますよ。もう一つ下がって、同世代ではFLUID、キツネの嫁入りやたゆたうといったバンドが自主イベントを企画し続けているし、the dokurosやスズメンバなどもずっとコンスタントに活動を続けていて、新しいファンを獲得しています。磔磔、拾得、UrBANGUILDにOOH-LA-LA、あたりが僕らとそれより上の世代にとってはやはり使いやすい場所のようですね。常に色んな所で色んな世代の誰かが何かをしかけようとしてるのは確かです。でも、京都の良い所でもあり悪い所でもあるのが、先ほども言ったように学生の力が強いということなんですよね。「第一線」とか「全国区」とかいう形容詞を手に入れるためには、京都においては学生に支持されることが、ほぼ必須項目といってもいい気がします。
――じゃあ、今の京都の大学生は何で動くんでしょう? 一時期はくるりがめちゃくちゃ影響力を持ってたけど。
このあいだ、北山の汚点紫というカフェに岸田君がふらっときて歌ったらしいんですよ。その情報がツイッターで出回って店内に人が溢れて、カフェなのに戦場のようだったと聞きました。くるりは、今でも十分影響力を持ってると思います。でもそれは大学生に限ったことではないですね。
――ジャンルごとの話でいくと、今うたもので一番元気なバンドは空中ループ?
ライヴ・ハウスごとに実力も集客も異なると思うんですけど、僕の行動範囲内で空中ループの名前はよく耳にしますね。去年のミナミ・ホイールではCLUB QUATTROに出たんですけど、入場規制がかかってました。
――うたものといえば、ふちがみとふなとは?
ふちがみとふなともそうなんだけど、mama!milkや長谷川健一のように、拾得やUrBANGUILDを中心に活動しながらカフェでも演奏している人達は、自分の周りのシーンを盛り上げようという意識とは関係ない場所にいるように見えます。それよりも「音楽を中心にした生活、そのなかで満足のゆく活動をしてゆく」というスタンスで活動している。そういうスタンス、空気のなかで活動する素晴らしいミュージシャンは、今も昔も京都には多いですね。
京都には、言わずと知れたR-Rated Recordsというレーベル/共同体があります。ANARCHYはこのあいだNasとDamian Marleyのツアー・サポートで、IMPホールでライヴしていました。彼らは数年前からずっとシーンを牽引し続けている存在ですね。アンダーグラウンド・ヒップホップは、まだ東京ほどの盛り上がりは見せていないと思います。BLACK SMOKER RECORDS、MIC JACK PRODUCTIONやPOP GROUPのラッパーを呼んでもそれほど反応がないと、知り合いのオーガナイザーが嘆いていました。場所としてはWHOOPEE'Sがいち早くPSGを呼んだりしていて、牙城のような気がします。あそこのイベントでは、オープン・マイクの時間があって、エントリー制で一人15分、ラッパーとDJのコンビが入れ替わり立ち替わりパフォーマンスをするんですけど、それがすごく面白いんです。
――じゃあ、パンクは?
ソクラテスには開店当初からJAP CORE系のバンドがよく出ています。何気にビッグ・ネームが来ていることが多くて、こないだはBLACK GANIONが出ているのを知らずに、隣のスタジオで練習していて、びっくりしました。あと、nanoではSNUFFY SMILEが毎月イベントをやってますね。WHOOPEE'SではF.I.B.やnimあたりも元気ですし、ごくまれに遊びに行っても、幅広い年齢層がパンクの文化を支えています。細分化はあるのかもしれませんが、京都でパンクの元気がなくなることはないでしょう。
インディー・ロック系のダンス・ミュージックという意味では、SECOND ROYALが元気ですね。京都の内外にレーベル自体の魅力が十分伝わっている感じがします。
――じゃあ同じエレクトロでもPsysex等がいるアンダーグラウンドなシーンはどう?
夜の音楽って元々アンダーグラウンドなものだから、メディアではあまり語られないけど確実にシーンとしては存在していて、海外からすごいビッグ・ネームを招いて、さくっと200人ぐらい動員したりしています。Psysexの糸魚さんは、METROの副店長でPAもやったりされるいて、DJやクリエイターからの支持も厚いです。ひととひとのつながりが大きな盛り上がりになる、という点はバンドの世界よりも強いですね。