アルビニ&ボブ・ウェストン、USオルタナの最強音職人が手がけたMONO新作、ハイレゾ配信
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世界的にも高い評価を受ける4人組インストゥルメンタル・ロック・バンド、MONO。2014年の『Rays of Darkness』『The Last Dawn』から約2年ぶりとなる新作をここにリリースする。『Requiem For Hell』と題された、この新作ももちろんワールド・ワイドでリリースされる。轟音のバンド・サウンドを中心に、彼らのひとつの特等ともなっているストリングルも含めて、圧倒的な世界観を描き出している。
OTOTOYでは本作をハイレゾ、24bit / 96kHzで配信するとともにTakaakira 'Taka' Gotoにインタヴューを行った。
MONO / Requiem For Hell
【Track List】
01. Death In Rebirth
02. Stellar
03. Requiem For Hell
04. Ely’s Heartbeat
05. The Last Scene
【配信形態 / 価格】
左 : ハイレゾ版
24bit/96kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
アルバムまとめ買いのみ 1800円(税込)
右 : 通常ロスレス・圧縮版
16bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
アルバムまとめ買いのみ 1200円(税込)
INTERVIEW : Takaakira 'Taka' Goto
世界で最も尊敬しているミュージシャンTakaakira 'Taka’ Gotoには、毎回MONOが作品を出すたびにインタビューをしている。そして作品のことだけでなく、世界で起こっていることや、世界をツアーすることで考え方が変化していくのを聞くのが楽しみにもなっている。本作はダンテ「神曲」をコンセプトに制作されたのだという。Gotoが言うと、それが神秘的なものではくリアリティのあるものとしてイメージできるのは、やはり彼らが年間100本以上のライヴを何年も世界中で続けているからだ。1曲目「Death In Rebirth」で、永遠に続くヘビーノイズが流れる。これこそ、世界中で彼らにしか鳴らすことができない、バンドの歴史のノイズだ!
インタヴュー : 飯田仁一郎(Limited Express (has gone?))
構成 : 鶯巣大介
写真 : 大橋祐希
17年間の活動をへた4人のケミストリーをシンプルに
──今作『Requiem For Hell』の構想はどんなところから始まったんでしょうか。
オーケストラを入れるのはもういいんじゃないか、じゃあ何をやったらいいんだって、すごい煮詰まって作ったのが前作2枚で(2014年に同時リリースした『The Last Dawn』『Rays of Darkness』)。今回はもうそういうことを考えるのをやめて、17年間ロック・バンドとして活動してきた4人のケミストリーをシンプルに残すべきだろうなと思って。年齢的なものもあるかもしれないけど、自分から出てきたものは生きた証だし、自分が良いと思ったものは世に残していきたいなと。でも丸くならずにトゲトゲしく録ったけどね(笑)。もっとロックでいいんじゃないかってずっと思ってたから。
──もっとロックで、というのは具体的にどういうことですか?
それはアメリカに対してのアプローチというか。僕らは上モノのオーケストレーションだったり、バンドのハーモニー、メロディの作り方は完結してきてて。MONOしかできないことっていうアイデンティティーをすごい追究して、もう誰が聴いても世界にこういうサウンド・スタイルを持ってるバンドはいないってところまではこれた。でもその反面オーケストラってロック・ドラム、ベースがないじゃないですか。だから下半身に来る感じの音がなくて。アメリカのバンドと対バンすると、そのロック・バンドとしてのなんたるかってものを感じるところがあって。アメリカで40日間とか毎日ツアーをやっていくなかで、中域低音のいわゆるロックのパワーをもっと出して、よりアグレッシヴ、エモーションなサウンドにしたいと思ったんだよね。
──サウンド面ではそういう意識があったと。タイトル曲「Requiem For Hell」はストリングスを取り入れつつノイズが続く約18分の大作ですね。
ほかにもいろいろあったんだけど、この曲はストラヴィンスキー(1882-1971)っていうロシアの作曲家の「春の祭典」って曲からインスピレーションを受けていて。コンテンポラリーダンスの曲なんだけど、変拍子と不協和音の塊なの。パリでの公演のときにファンからブーイングが起きて、ふざけんじゃねぇっていう人と聴きたい人の間で暴動が起きちゃったような曲で(笑)。今回は不協和音をぶつけていくっていうか、そこに少し興味があったんだよね。それで闇を表すなら僕は絶対「春の祭典」くらいの不協和音を残したいと思って。常に全曲の下にすっごいノイズが入ってるんですよ。
──闇を表すためにノイズを入れるっていうのは、つまりどんな意図があったんでしょうか。
人間の不協和音っていうのは不調和のことだよね。テロが起きたり、欲にまみれて政治にも国にも争いがあって、エゴとエゴがぶつかりあってる現代社会は、俺のなかでは不調和で溢れていて、不協和音は避けて通れないものというか。現代人っていうのは不調和のなかで、なんとなく自分を合わせて生きていかなくちゃいけないから、そういう音も常に入ってる。だからノイズは形を変え、何回も出てくる。
ダンテの「神曲」をコンセプトに
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──なるほど。今回の作品のコンセプトはダンテの「神曲」のストーリーと重なる部分があったそうですね。ジャケットもグスタフ・ドレが同作のシーンを描いた絵を採用したとか。
でも今回はどれをどういうふうにアルバムに使うかって考えずにただ曲を書いたんですよ。コンセプチュアルなところに結びついたのは、全部の曲を書き終えたあとにダンテの「神曲」を読んでからなんです。たまたま読んだら「あぁ、そうすればいいんだ」ってジグザグだったパズルが完成して。
──読んだのは曲を書いたあとだったんですね。
「神曲」のコンセプトは魂の救済なんです。病みきった魂が生きながらにして地獄、煉獄、天国を抜けて。死後の世界を見せられて、現世に戻っていって魂が救済される話なんですよ。これはおもしろいと思って共感できたんです。それでストーリーに沿うような曲順にしていって。例えば1曲目「Death In Rebirth」は死ぬときに走馬灯のように生まれてからの思い出が蘇って、そのテンポが早くなっていって、最後白い渦のなかに突っ込んだあとに地獄に入っていく。そういうコンセプトになっています。
──なるほど。ダンテの「神曲」を読んだとき、どのように感じたのか詳しく教えてもらえますか。
あんな何百年以上も前にそういうものを書いた人がいるのにも関わらず、まだ世界からは戦争がなくなっていない。要するに魂が救済されていないんですよ。どんな宗教もどんな教えも何の役にも立っていない。やっぱり人間とはそういうものなのかもしれないけどね。教育だったり、宗教だったり、言葉だったり、その代わりになるものがアートだったりするじゃないですか。人の道標になるものであるはず。僕は音楽をアートして受け止めてるから、音楽を通してそういうものを表現したいと思ったんだよね。
──さきほどノイズを入れたのは闇を表すためとおっしゃってましたよね。現代が不調和の状態であると感じるなかで、わざわざ闇を表現しようと思ったのはなぜなんですか?
中国の陰陽っていう考え方があるじゃないですか。その太極図って黒と白がまぜこぜに描かれていて、その黒のなかにも白が丸くあって、白のなかにも必ず黒の丸がある。そのバランスっていうのは宇宙の法則だと思うし、人間って幸せじゃないこととか、影や死があって、幸せとか光、生を感じる生き物で。例えば、すごい大病にかかったから健康のすばらしさが分かるとか。だからアートとして希望を表現したいのであれば、同じだけ人間の闇を表現しなければいけない。
──あぁすごく腑に落ちました。だとすると今作でMONOが描いた光はどの部分になるんでしょう。サウンド的には、僕は闇にあたる1曲目の延々と続くノイズが非常に気持ちよく感じたんですけどね(笑)。
あれはライヴだと半永久的に続きますからね(笑)。でもあのノイズが終わったときに無音が音楽になるじゃないですか。ノイズが鳴っているときは何が起きているか分からない。でも終わった瞬間に無音になって、初めて音楽として成り立つ瞬間ってわかります?
──あそこは印象的な空白でした。ノイズも終わるからこそ気持ちよさがあるというか。
無音の瞬間に存在が現れるんですよ。今回僕が希望を表したのは、その無音のあとの2曲目「Stellar」のストリングスの調べです。あそこが希望なんですよ。「Stellar」って星のことなんですけど、「神曲」は地獄篇、煉獄篇、天国篇の3章の最後は必ず「Stellar」っていう言葉で締められているんですよ。ダンテは地獄なのか、どこなのか、歩いているときに道が分からないけど、星を目指して歩くんです。その希望の道標、それを今回のアルバムの2曲目に、そのノイズのあとに入れたかったんですよね。
自分をタフにしてくれる人生の題材
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──神曲を読む前に曲は完成していたとはいえ、そこまでストーリーに沿う内容になっているんですね。だとすると3曲目「Requiem For Hell」はどんな位置づけなんですか。
特にハリウッド映画とかだと、ハプニングが起きて、最後はピースフルな方向に向かっていくじゃないですか。でもこの曲の場合はその逆なんですよ。最初はMONOで初めてエイト・ビートを使おうと思って、1人の男が自分の足で上手く歩いている感じというか。誇り高い希望のファンファーレが鳴ってるんですよ。けどその盛り上がっていくなかで挫折して、曲もカオスになっていくんです。最初の音が地獄の門のファンファーレに変わるんですよ。そういう闇のなかに落ちていく曲を書きたくて。世の中には、昨日までは良かったのに、今日の何かで全部が変わるってことがあるじゃないですか。でも僕は自分がすごく大変で辛いことにあったら、それはガーッと伸びるタイミングだなと思うようにしていて。その地獄さえも、自分をタフにしてくれる人生の題材だと思うんです。なのでカオスのなかでも、ここから絶対に抜けだしたいっていう力強さというか、そういう気持ちを思って作っていきました。
──それは闇があってこその光というか、先程の話に連なる部分ですよね。4曲目の「Ely's Heartbeat」は友人のお子さんの心臓の音を入れたと聞きました。
今回これだけは「神曲」のストーリーに加えたものなんだけどね。僕らが10年以上所属してる、ニューヨークの〈Temporary Residence〉っていうレーベルのオーナーに初めて子供ができたんですよ。生まれる前からずっと、お母さんのお腹に当てて心音を聴いてる動画を送ってきていて(笑)。でもこれって世界で一番美しい音じゃない? それでこの子宮のなかにいる子供の心臓の音を入れて、曲にして、プレゼントしようと思ったんだよね。お母さんのお腹のなかって、何もないすごくピースフルで、すばらしい完璧な世界ですよ。世界がどんなになっても愛は消えないというか。それをイントロダクションにして、生まれてきた子供が笑顔でスキップするような曲を、地獄のあとに入れたかったんですよね。だからアルバムのストーリー上では、子供に誇りと尊厳を託していく感じというか。人間はいつかは死ぬじゃないですか。生命を残して、僕らはまた新たな旅路を歩いていくって流れですかね。
──振り返ってみると、今回の『Requiem For Hell』はダンテの「神曲」に出会わなかったら成立してなかったかもしれませんね。
この5曲の何曲かは使ってなかったかもしれないし、違うものになってたかもしれないね。歩いてるときは分かんないけど、知らない間に、霧のなかから教会が現れるみたいな。あぁこういうことだったのかって。でも長い目で見たら、あのときのことは、ここに自分を引っ張ってきてくれたのかって、あとで気づくことがあるじゃないですか。曲を書いてるときに、僕は分かんなかったけど、あとからあぁこういうことかって思うことばっかなんですよね。だからいつも、いまは目で見えなけど、これは後できちんと分かるっていうふうに思ってます。
世界で一番MONOの音楽を理解してくれる人=アルビニ
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──今作は久しぶりにプロデュース/エンジニアとして、スティーヴ・アルビニを迎えていますけど、彼とはそのコンセプトを共有したんですか? どんな作業だったのか教えてください。
いや、スティーヴ・アルビニにはデモも聴かせないし、僕らは一発録りでセカンド・テイクくらいまでしか残さない。今回はミックスまで含めて1週間くらいかな。早かったです。スティーヴ・アルビニはイコライザーも触らないしね。生まれて初めて彼と会った日に「バンドが90%で、俺のできることは10%、もし悪い音が鳴ってるとしたら、それはバンドが悪いんで」って言われました。でも13年前にレコーディングした初日の夜に「Taka、こんなに楽なレコーディングはない。何にも触ってない」とか言ってたね(笑)。一緒に3枚のアルバムを録って、そこから違うエンジニアとやってきたんだけど、でもやっぱり今回久しぶりに仕事をして、世界で一番MONOの音楽を理解してくれる人だなって思った。
──2009年の『Hymn To The Immortal Wind』以来の関わりとなりますね。
実は僕のなかでは、次の10枚目のアルバムでアルビニとタッグを組んでやったらいいんじゃないかなと思っていたんだけどね。でもクラシックの世界ではベートーベンが第九を書いて死んで以来、実際に多くの作曲家がナンバー9(交響曲第9番)を書いて死んでいるんです。僕はベートーベンが好きすぎて、それが怖いんですよ。それで、もしかしたら今回がMONOとしての遺作になるのであれば、録音はスティーヴ・アルビニでいいのかなとか思ったりして。
──そんな気持ちがあったんですか…。
それに離れてほかのプロデューサーとかエンジニアとやってたけど、彼だったらどういう音になったかなって、正直ずっと頭にあったから。あとは初めて仕事をしてから13年の月日が経っているので、自分たちがあの頃と比べて、どのくらい成長したのかを感じてみたかった。久しぶりに仕事したけどやっぱりすばらしかったなぁ。
──どんなところでそう感じました?
この人以外では録れないなってくらい、欲しいものが全部そこにあるっていうか。特にいまっていろいろ実験的なことを取り入れながら新しい音楽を作っていくっていうのが、ミュージシャンの宿命でもあるんだけど、なんとなく僕らはそれと逆の方を向いていて。無駄を削ぎ落として、一発録りのグルーヴを残したいっていう気持ちが今回はあったから。でもスティーヴ・アルビニだと、たった4人でしか鳴らしていないのに、その4人の音が一個の音楽になっていて。ひとつひとつの音はクリアじゃないのに、別次元の宇宙が存在してるというか、それがすっごい楽しかった。
──このあとすぐチャイナ、ヨーロッパと長いツアーに出て、2月には東京でワンマンがありますよね。これはどんなライヴになりそうですか?
ちょっと長めにやろうかなって思ってます。日本だけのスペシャル・ショーにしたいなと。またツアーに出ちゃうんで、なかなか日本ではライヴができないので。ぜひ見に来てくれたらと思っています。
これまでのインタヴュー記事:編集長、飯田によるMONOインタビュー・シリーズ
5thアルバム『Hymn To The Immortal Wind』リリース時
https://ototoy.jp/feature/20090302
オーケストラとのNYでのライヴ・アルバム『HOLY GROUND: NYC LIVE WITH THE WORDLESS MUSIC ORCHESTRA』リリース時
https://ototoy.jp/feature/20100403
『For My Parents』リリース時
https://ototoy.jp/feature/20120825
『Rays of Darkness』『The Last Dawn』2枚同時リリース時
https://ototoy.jp/feature/2014111201
Takaakira 'TAKA' Gotoソロ・リリース時
https://ototoy.jp/feature/2015042300
過去の配信作品
SCHEDULE
MONO
“Requiem For Hell” Live in TOKYO
2017年2月12日(日)
@代官山UNIT
開場18:00/開演18:30
前売りチケット:3,800円 (別途1drink)
お問い合わせ先:代官山UNIT
チケット前売り情報
一次先行:ぴあプレリザーブ10月13日(木)~10月20日(木)
http://w.pia.jp/t/mono/
二次先行:e+プレオーダー 11月17日(木)~11月24日(木)
http://sort.eplus.jp/sys/T1U14P0010843P006001P002204899P0030001
一般発売日:12/3(土)
Pコード:312-541
Lコード:71206
PROFILE
MONO
Takaakira 'Taka' Goto (Guitar)、Tamaki (Bass, Piano)、Yoda (Guitar)、Yasunori Takada (Drums)
1999年結成、東京出身4人組インストゥルメンタル・ロック・バンドMONO。オーケストラとシューゲーズ・ギター・ノイズを合わせた、オリジナルな楽曲スタイルが非常に高い評価を受け、もはやロック・ミュージックの域では収 まらない音楽性を発揮し、イギリスの音楽誌NMEでは”This Is Music For The Gods=神の音楽”と賞賛される。ライヴにおいても23名のオーケストラを従えた編成でのスペシャル・ショーをニューヨーク・東京・ロンドン・メルボルンで2009年に行った。
毎年およそ150本におよぶワールド・ツアーはこれまでに50カ国以上に渡り、日本人バンドとして世界で最も多くのオーディエンスを獲得したバンドの1つともなっており、ロックミュージックの中ではファンから世界最高のライブバン ドの一つと名声を受けている。
NYでのオーケストラとのライヴ・アルバムを含め9枚のアルバムをリリースし、国内外でも高い評価を獲得し続けた中2015年には、コラボレーション作成した短編映画"Where We Begin"でカルフォルニアの国際的なフィルム・フェスティヴァル「Idyllwild International Festival of Cinema」からベスト・ミュージカル・スコア賞"The Marshall Hawkins Awards: Best Musical Score - Featurette"を受賞。
2016年3月にニュー・アルバムをプロデューサーにスティーヴ・アルヴィニを迎え、シカゴの「Electrical Audio」にてレコーディング。9作目となるニュー・アルバム "Requiem For Hell"2016年10月14日リリース。
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