後藤まりこが音楽を続ける理由──歌と真剣に向き合い、弾き語りで作り上げたアルバム『POP』
後藤まりこ史上、最も赤裸々で素直な表現を行う弾き語りプロジェクト、後藤まりこアコースティックviolence POP。坂本慎太郎やOGRE YOU ASSHOLEらを手がけるサウンドエンジニアの中村宗一郎氏と二人三脚で作られたという新作アルバム『POP』は、素の後藤まりこを感じられる、あたたかみのあるサウンドに仕上げられている。今回のインタヴューでは、今作の楽曲の話から、ミドリ解散から10年経ってもなお、彼女が音楽を続ける理由を伺いました。また、今作のリリースを記念して、12月23日にはオンラインでの配信ライヴを開催。さらに、ライヴ後には彼女にとって、はじめての試みとなるオンライン・サイン会を開催。ぜひ、チェックを。
『POP』リリース記念、オンライン・インストア・イベント開催!
今作『POP』のリリースを記念して、オンライン・イベントの開催が決定。こちらは2部制になっており、第1部はアコースティック・ギター弾き語りによる配信ライヴを開催。この様子はOTOTOYのLiveチャンネル(https://ototoy.jp/live/) で公開され、だれでも無料で視聴が可能です。
そして、第2部はZoomを使ったオンラインサイン会を開催。参加ご希望の方は、12月4日18:00より予約受付がスタートする今作『POP』を購入し(通常配信は12月16日0:00よりスタート)、指定の時間にメールで送られてくるZoomのURLにアクセスすると、後藤まりこ本人とのオンラインでのトークができるほか、本人がその場で書いたデジタルサイン入りのジャケットデータが後ほどメールで届きます。お見逃しなく!
〈後藤まりこアコースティックviolence POP『POP』リリース記念 オンライン・インストア・イベント〉
日時 : 2020年12月23日(水)
20:00〜 アコースティック配信ライヴ
配信URL : https://ototoy.jp/live/
20:45〜 Zoomオンラインサイン会
オンラインサイン会参加券付きアルバム『POP』のご予約はこちら
https://ototoy.jp/_/default/i/185
INTERVIEW : 後藤まりこ
弾き語りは、内面がむき出しになる。後藤まりこの存在を知っているくらいの人は、「こんな美しい一面が」と感嘆の声を上げるだろうし、彼女の音楽を深く聴いてきた人は「後藤まりこそのままだよね」と満面の笑みで言い放つだろう。『POP』はそういう凄いアルバム。
インタヴュー : 飯田 仁一郎
文 : 西田 健
写真 : 宇佐美 亮
後藤まりこアコースティックviolence POPは誰かに委ねたくなった
──今作『POP』はどれくらいの期間で書き上げたんですか?
後藤:アルバムでいうと、今年の春にできた“江ノ島メモリー”がいちばん古い曲で、それから10月ぐらいまでにババっと作りました。
──まさにコロナ禍にずっと作っていたんですね。
後藤 : 2018年くらいからアコースティックでの活動はしていて、ライヴでやっていた曲もあったんだけど、いまの自分のモードと違うなって思って作り直したくなった。
──どんなモードだったんですか?
後藤 : 歌詞にちゃんと向き合うじゃないけど、「まぁ、これでいいや」とかじゃなくて、あとから読んだときに、「このとき自分ってこうだったな」って形に残っても大丈夫な歌詞を書きたくて。
──いままでいちばん歌詞に向き合ってみてどうでしたか?
後藤 : こんな歌詞が書けるんやって。こんな自分は、はじめましてじゃないけど、結構自分でも意外でしたね。
──そもそもアコースティックでの活動を音源にしようと思った理由はどういうところからだったんでしょう。
後藤 : 曽我部恵一さんと“結婚しようよ”という曲を出したときに、チラッと「後藤さん、弾き語りは出さないの?」って言われたんです。「部屋で歌っているやつでもいいし、誰かに録ってもらってもいいし」みたいな感じで、何気なく会話のなかでアドバイスをしてくれて。それが自分で腑に落ちるところがあって、そこから弾き語りでレコーディングしようと思いました。
──曽我部さんがきっかけだったんですね。DJ後藤まりことしての活動と、今回のような後藤まりこアコースティックviolence POPでの活動は、後藤さんにとって大きな違いはありますか?
後藤 : いざライヴってなったらモードは一緒なんですけど、DJ後藤まりこの方は人に任せられなくて、自分で最後まで作りきりたいし、これからも育てていきたいと思っていて。でも、後藤まりこアコースティックviolence POPはいい意味で人の手を借りたかったんです。誰かに委ねたい部分があって、自分ひとりで録音をしたくなくて。それで今回はエンジニアの中村宗一郎さんに委ねてみようかと。
──人に委ねたくなったのはどうしてでしょう。
後藤 : 結構あからさまに歌詞を書いていたので、すこし恥ずかしい気持ちがあったからなのかもしれない。でも、恥ずかしいことって悪いことではないと思うんですよね。
──確かにそうですよね。中村さんにエンジニアをお願いしてみてどうでしたか?
後藤 : 中村さんがかなりテイクも選んでくれて、自分的には歌っていて不安になるところも、「大丈夫だから次に行こう!」ってどんどん進めてくれたんです。柔らかい人だし経験もあるから、僕1人でやっていたらずっと同じところをやっていたかもしれないんですけど、「ここまでできていたら大丈夫! はい、次」って進めてくれるからすごくよかったですね。
サラリーマンとして1年ほど働いてたんです。
──では曲ごとにも話を聞かせてください。1曲目の“ひかるさかな”は、いろんな音が入っていておもしろいサウンドに仕上がっていますよね。
後藤 : 前まで作っていたオケがあったんですけど、途中で嫌やなと思っちゃって、録音の前日に寝ずに家でガーっと作ったんです。効果音は、iPhoneで録ったセミの鳴き声とか風鈴の音をサンプリングしました。
──ところどころ入っている効果音は、全部後藤さん自身で録られたんですね! この曲はどういう情景で書いたんですか?
後藤 : 久しぶりに兄に会ったときに、亡くなった母の写真を見せてもらったんです。僕、母にビビるくらい似ているんですよね。それからずっと母の写真を持っているんですけど、見張られているような、背筋が伸びて恥ずかしいことできないなみたいな思いがあって。「あなたのなかで忘れていくこともあるかもしれないけど、それはなくならないし、自分の中にありますよ」って向こう岸で手を振っているような情景です。いろんなものへの決別とかの意味も含めて前向きな曲ですね。
──なるほど。タイトルはなぜ “ひかるさかな”なんでしょう?
後藤 : 曲を書くときにモデルがいたんですけど、その人のギターの弾き方がめちゃくちゃ魚っぽいというか。ノイズが乗ったギターを弾く人って泳ぐように弾いていると思うんですよ。僕の好きなギタリストたちは、全員泳ぐようにギターを弾いていて、「魚みたいやな」って思っていて。
──歌詞の「ギターの海を泳ぐ」はそういう意味だったんですね。
後藤 : ギターというものは世界一かっこいい。これは、誰かに向けてとか、なにかをがんばれとか、そういうのじゃなくてぼんやりとした抽象的な曲なのかもしれないです。
──2曲目の“明日の糧”はかなり明るい曲ですね。
後藤: 歌詞は「忘れることは難しいな」とか吐露しているところもあるけど、前向きなポジティヴな曲ですね。この曲を作る前に悲しいことがあって、悲しいモードのまま歌詞とか曲を作ったら、その曲を歌うときにまた悲しい気持ちになるじゃないですか。でも悲しいことを悲しいって言っているだけだったらダメだとは思っているから、無理にでも楽しい感じの曲にしました。
──MVも可愛らしくて楽しい感じになっていますね。
後藤 : 手伝ってもらって自分で作りました。編集も自分で。正直、3日前ぐらいまで全く考えられていなくて「なにがいいんやろう?」と思ってダイソーに行ったんですよ。そこで人形を買ったから、「この人形にしよう!」って思って、割り箸を人形にぶっさして作りました。ギターの白い犬は、発泡スチロールを買ってきて(笑)。
──素敵なPVだと思います。“わかってたまるか”では、結構痛みとか悲しみの感情を感じます。この曲は、悲しいできごとを誰かと話しているときにできたんですか?
後藤 : “わかってたまるか”は、恋愛とかじゃないんです。僕、すごく人のことを信じやすいんですよ。だから、目に映るものを全部疑おうと思っていて、そうじゃないとおもしろくないし、自分に対してこうであったほうがいいよと言っているのかもしれないです。
──なるほど。続いて“恋は病気”は打ち込みのトラックで作ったような曲ですね。これは後藤さんが全部プロデュースしたんですか?
後藤 : そうです。この“恋は病気”と“ヨイヨイヨイ”は中村さんにすごく相談して「こういう音を使ったらいいんじゃないか?」ってアドバイスをもらいながら作りました。“恋は病気”は、僕自身ある人のことを忘れられていないんだけど、ちゃっかり別の人に恋をしている自分がいて。馬鹿になっちゃうというか、恋はまさに麻薬みたいな感じなんですよね。自分でいけないってわかっていたとしても、やってしまうみたいな。なんなんでしょうね。
──恋はしててもいんじゃないですか?
後藤 : いやー、最初はいいんですよ。でも、どうせ傷つくでしょ。傷つくのを分かっていても恋をしてしまうし。
──後藤さん、恋はしたくないんですか?
後藤 : したいよ! 表裏一体(笑)。
──その葛藤がおもしろいなと思いました。“ヨイヨイヨイ”は、パーカッションも入った楽曲ですが、これはそのまま酔っ払いの曲ですか?
後藤 : “ヨイヨイヨイ”は、本当にそのまんま酔っぱらって歩いているときの曲ですね。新宿でホテルに入ったんですけど、そのまま相手が寝てしまって。それでおもしろくないから、また飲みに行こうかなと思ってひとりで出ていって、結局それが楽しいなと思っている曲です。
── “ふあっきんでいず”は、どういう情景でつくられたんですか?
後藤 : 歌っているときに拳をあげたかったんですよ。心の中で「オイ! オイ!」って声が聞こえる曲を作りたくて。弾き語りで会場が座りであっても、お客さんには拳をあげてほしいです。
──なんで拳をあげたかったんですか?
後藤 : 拳をあげているときは強くなるからですね。僕、もともとビビりで、すぐひよってしまうし、精神が弱いんですよ。だから、自分を奮い立たせるというか「やらないといけないぞ! やるぞ!」みたいな感じです。
──この歌詞のなかの「やめたい歌 カレーうどんで乾杯」っていうのは、どういう意味なんですか?
後藤 : 以前、僕が「音楽を辞める」ってSNSで言っちゃったのを、中村さんが見てくださっていたんです。そのあと、中村さんのスタジオに行ったときに「引退するときに音楽を辞めるって言わんでいいんやで。辞めるって言わなくてよくて、休憩したらいいし、辞めることをやめなさい」って言われたんです。それが心に刺さって。それが「辞めるのをやめた」っていうことなんですよ。後半の「カレーうどんで乾杯」は、僕がいまいちばん好きな食べ物がカレーうどんなので、「好きなものでも食べながら乾杯でもしようや」って思って書きました。
──いい話ですね。“どこにでもいる人(私)の歌”は、これもまたおもしろい曲ですね。パンク・ミュージシャン、サラリーマン、恋愛迷子という3人の登場人物のストーリーが曲になっています。
後藤 : この曲に出てくるモデルは全部自分なんです。
──え! サラリーマンもモデルは後藤さんなんですか?
後藤 : 実はDJ後藤まりこをはじめたぐらいの時、サラリーマンとして1年ほど働いてたんです。
──働いてみてどうでしたか?
後藤 : 全然無理でした。結局誰とも仲良くなれなくて、やっぱり無理でしたね。そこの会社の人にはすごく感謝しているけど、もうサラリーマンは……。
──なにがいちばん無理でしたか?
後藤 : 机を並べて仕事をすること。後ろに人が通るし、左右に人がいるし、パソコンを見られている気もするし、なんか嫌なんですよ。でも、“どこにでもいる人(私)の歌”は自分のことを3つ書いているけど、割とみんな当てはまることが多いかなと思って。
──意図的に、みんなに当てはまるように書いたってことですよね?
後藤 : あんまりにも、すっとんきょうなことを書きたくなかったし。全く知らないより向き合って聴いてもらえるかなと思って書きました。
──最後の曲“江ノ島メモリー”ですが、このアルバムの中でこの曲が最初にできたんですよね。
後藤 : コロナでライヴもできなくなったじゃないですか。緊急事態宣言もあって、誰にも会えなくて。とにかくライヴで人に会いたかったんです。
ミドリを解散して、もう10年経つんですよ
──歌詞のなかの「会いたい」の対象は「みんな」なんですね。アルバム全体の話なんですけど、『POP』というタイトルを付けた理由はなぜですか?
後藤 : 僕は以前ミドリというバンドをやっていて、そのグループの曲の中で大事にしていた曲の1つが“POP”っていう曲だったんです。2010年の12月にミドリを解散して、もう10年経つんですよ。その“POP”のなかに「10年後も思い変わらず あなたを好きでいたなら私を見てください」っていう歌詞があって「あ、本当に10年経った」と思って。そんなことを歌っていた僕が10年も音楽を続けられるなんて思っていなくて、その続けられていることがすごくうれしくて『POP』って付けました。
──10年前を振り返って、いまとの大きな違いはなんですか?
後藤 : なにも変わっていないです。バンドじゃなくなったっていうだけですね。やっぱり人間は変われないです。
──では10年前を思い返すと、自分はどんな人でしたか?
後藤 : とにかく無茶苦茶だったと思うし、いまでも苦手なんですけど、10年前は人にしゃべって自分の気持ちを伝えることがもっと苦手で。本当に「ワー」とか「ダー」とか雰囲気の言葉や抽象的なもので済ませがちだったけど、人とコミュニケーションを図れるようになったし。10年前の無茶苦茶やった僕を好きやった人からすると、いまの僕はひよっているように見えるかもしれない(笑)。
──10年間音楽を続けられてきた理由はなんなんでしょうか?
後藤 : やっぱり好きなんでしょうね。音楽を作ることが好き。音楽をすることが僕にはちゃんと目的であったんだなと。でも手段にはなりたくなくて。10年って長いようで短いじゃないですか。振り返ってみたら、その当時観に来てくれていた子が、高校生とか大学生だったんですけど、いまはもう大人になっているわけで。ちょいちょい「昔ミドリのライヴに行っていました」って人と一緒に仕事ができるようになって、めちゃくちゃうれしいと思ったんです。みんな大きくなったなって思って。
──後藤さんにとってPOPとはなんでしょう?
後藤 : たぶんPOPって言葉の意味を捉えていない部分もあると思うんですよ。語感が好きとかPOPという見た目が好きとか。たぶんカタカナでポップって書いたら僕はグッと来なくて、POPだからグッとくるんですよ。「自分にとってのPOPとはなにか」というのはまだ言葉にはできないところかも。“POP”っていう曲に思い入れがあるからアルバムのタイトルにしたっていうのはあるんですよ。でも、僕にとっての「POPとは?」って言われたらまだ説明ができない。これからわかっていきたいと思いますね。
──12月17日には北沢タウンホールでライヴが行われますが、『POP』に収録されている曲以外にも披露される予定ですか?
後藤 : 曲のストックはいっぱいあって、いまもどんどんできています。アルバムに入っている曲以外もいっぱいあります! 楽しみです。
編集 : 西田 健
LIVE INFORMATION
後藤まりこアコースティックviolence POPワンマンライブ
〈じゅーねんごのPOP〉
日程 2020年12月17日 (木)
会場 北沢タウンホール
開場 18:30
開演 19:00
チケット 前売料金 全席自由 3,500 円 (税込 整理番号付 )
プレイガイド先行受付
11/3(火) 18:00 ~ 11/8(日)23:59
チケット一般発売 11/14 (土) 10:00
お問い合わせ:エイティーフィールド 03-5712-5227 (平日12:00~19:00)
(プレイガイド チケットぴあ(Pコード )、ローソン(Lコード 70674)、e+)
過去作はこちらにて配信中
新→古
過去の特集ページはこちら
PROFILE
後藤まりこアコースティックviolence POP
『後藤まりこアコースティックviolence POP』は、主にアコースティックギターを使用した後藤まりこが<歌>と向き合った弾き語りのプロジェクトであり、彼女の様々な活動の中でも最も赤裸々で素直な表現。
■Twitter:https://twitter.com/510yavai
■HP:http://510mariko.com/