ディケイドを超えて作られたオルタナティブの傑作──worst taste、渾身の最新アルバム『悪夢に笑え!』
2001年埼玉で結成された三人組オルタナティブパンクバンド、worst tasteが、実に10年ぶりとなるアルバム『悪夢に笑え!』をリリース! 長きに渡り活動してきた彼らだが、この激動の時代をサバイヴし、バンドとして様々な変遷を経ていくなかで、どのようなことを想い、表現者として歩んできたのか。いま、この時代にバンドとして音楽を鳴らす意味について考えさせられるような、濃厚なインタヴューをお届けします。
worst taste、10年ぶりのアルバム『悪夢に笑え!』
INTERVIEW : worst taste
毎年数多くの飲食店がオープンするが、そのうち10年続くのは1割と言われている。バンドの場合、さらにその確率は低くなるのではないだろうか。
2022年6月29日に10年ぶりのアルバムをリリースしたworst tasteは、タナカカイタ(Vo.Gt)とコジマ(Ba.Key.Cho)が10代だった2001年に結成され、20年以上オルタナティブシーンを渡り歩いてきたバンドだ。誰もが知っているようなチェーン店ではないし、ミシュランの星を持っているわけではないが、これだけキャリアが続いているというだけで十分”奇跡”のバンドだ。
もちろん「ただ続いているからすごい」という話ではない。今作『悪夢に笑え!』は長年培われたworst taste節と、壊れかけのテープレコーダーズでも活動していた440(Dr.Cho)のグルーヴが絶妙に絡み合っている傑作だ。以前からのファンには待望のカムバックであり、初めてのリスナーには未踏の音楽体験を届ける。まさに、理想的なオルタナティブアルバム。
前作がリリースされた直後に仕事の関係でコジマが渡米してからのバンドヒストリーを紐解きつつ、このアルバムの軌跡を詳らかにしたい。
インタヴュー&文 : 張江浩司
撮影:フクシアヤミ
Spacial Magicの最初のライヴは「ひどかったね」
──『悪夢に笑え!』は10年ぶりのフルアルバムですが、前作『逃避行は終わらない』がリリースされたタイミングのインタヴューもOTOTOYに掲載されてるんです。
タナカカイタ(以下 : カイタ) : あ、そうだったそうだった!
前作『逃避行は終わらない』リリース時のインタヴュー
──2012年の夏、アルバムが完成してコジマさんが渡米する直前ですね。
カイタ : 6月に札幌、福岡、大阪とかツアーで回って、7月に東高円寺二万電圧でレコ発やって。
コジマ : その直後の8月にはもうアメリカに行ってますね。
カイタ : で、9月にはもう新しいメンバー集めて、「worst taste&Special Magic」でライヴが決まってた。
──このSpecial Magic名義はどういう意図だったんですか?
カイタ : worst tasteは、結局おれとコジマが作ったバンドだから、その二人が揃わないならworst tasteっていう名前ではやりませんっていう。せっかくだから、いろいろ試してみたいよねってことでスリーピースの編成にこだわらずやってみようと。
──カイタさんと、当時メンバーだったドラムのカトウマオさんに加えて、新間功人(Ba、1983、ex.ふくろなど)、蓮尾理之 (key、siraph、LAGITAGIDA、385など)、DJ MEMAIの5人編成でスタートしています。
カイタ : 1回目のライヴはね、よくなかった。
一同 : ははははは(笑)。
カイタ : とにかく、ひどかったね……。
コジマ : アルバムも出したんだから「バンドを止めない」っていう意識が、たぶん強かったんだと思うんです。
──クオリティよりも、とにかくやってみるという。
カイタ : 遊びの部分でもあったから。例えばアリ・アップはThe Slitsをメインとしてやってるけど、別のプロジェクトのNEW AGE STEPPERSでも歌っていて、いろいろなゲストともやってて、それに似た感じかな。蓮尾くんはすぐ辞めちゃったんだけど、残った4人の編成でボロフェスタとか東京BOREDOMとかにも出て、けっこうライヴをやってたんです。で、2013年の1月くらいにマオと連絡がつかなくなった(笑)。
──10年前のインタヴューでコジマさんが「この2人(カイタとカトウ)は今まで噛み合わないことの方が多かったから、俺がいない間に仲良くなっていてほしいですね」と言ってるんですけど、心配が的中してますね(笑)。
カイタ : すごく真面目で遅刻もしないやつだったんで、最初は心配したんですよ。もしかしたら事故にあってるかもしれないし、何かでトラブって監禁されてるかもしれない(笑)。
コジマ : せっかくアメリカに住んでるから、こっちでも活動できるようにしたいという話をしていて、おれの生活が落ち着いてきたんで具体的に計画しようというタイミングだったんです。思い返すと、マオも自分の生活があるしバンド活動が負担になってきて、でも言い出せなくてみたいな鬱憤が溜まってたんでしょうね。
カイタ : バンドに戻る意思はなさそうだったんで、もう新しいドラマーを探そうと。ちょうどタニくん(LLRR)がotoriを辞めるときだったから、そこで誘って。そこからMEMAIとタニくんと3人でやる編成を1年半くらいやったのかな。3人では台湾でもライヴしたね。