worst taste『逃避行は終わらない』INTERVIEW
バンドを追い続けていると、思いもよらなかったようなドラマが起こっておもしろい。今回紹介するworst tasteにしてもそうだ。約3年ぶりとなる『逃避行は終わらない』は、間違いなく彼らの最高傑作といっていいだろう。しかし、本作のリリースとともにベースのコジマはアメリカへ2年間の留学へと旅立つ。最高傑作を作り、バンドの状態が一番いいときに、メンバーが海外に行ってしまうというのは、バンドにとっても、ファンにとっても複雑な心境であろう。しかし、そうしたドラマが起こるのは、辞めることなく、バンドを続けているからこそのことだ。worst tasteは、結成から10年以上バンドを続け、もうすぐ30歳近くになる。その間に周りで活動を辞めていくバンドも多かっただろう。それでも、バンドを辞めることなく、続けてきた。その軌跡がこのアルバムには収められている。しかし、それは決して、本作がworst tasteの集大成であるということを意味していない。2012年のworst tasteの身体感覚がビビッドに切り取られている。この作品は、worst tasteのこれまでが収められていると同時に、現在の彼らが収められているのだ。本作を聴いていると、2年後のworst tasteがどのように切り取られるのか、そうした期待感も出てくる。それくらい、本作は今の彼らの姿が反映されたアルバムなのである。そんな彼ら3人に、正面からじっくりと話を訊いた。
インタビュー&文 : 西澤裕郎
写真 : 丸山光太
worst taste / 逃避行は終わらない
音楽イベント「東京BOREDOM」主催のworst tasteが、満を持して放つサード・アルバムにして初のフル・アルバム! 前作で打ち出された無駄を削ぎ落としたソリッドなパンク・サウンドを軸にしながらも、より奇怪でありつつキャッチーな、音楽的にも深化した仕上がりに。録音・ミックスは松石ゲル(ザ・シロップ、PANICSMILE)、マスタリングは7 e.p.のプロダクション・チームとしても知られる斉藤耕治&多田聖樹が担当。
1. ハイパーUP / 2. ソウルメイトクライシス / 3. 侵入 / 4. 悪夢の予告を予感して / 5. STOP LIAR / 6. ステップを踏んで / 7. ディスコミットロマンチスト / 8. 脱落の朝日 / 9. 赤い旋律 / 10. 逃避行は終わらない
ようやくworst tasteになれたかな
——今作を聴いて、worst tasteのイメージが大きく変わりました。感覚としては、Green Dayが『American Idiot』を出して大幅にイメージが変わったときに近くて、パンク・バンドとして初期衝動から一線を越えて、メロディアスなストーリー性が出て来たというか。このアルバムを作るにあたって、どのようなことを意識して作り始めたのでしょう。
タナカカイタ(以下 : カイタ) : 今回は自分らのやりたいことを全部詰め込みましたね。だから、一番やりたかったことが、このアルバムに詰まっています。
コジマナオト(以下 : コジマ) : でも、意識的に変えようっていうわけではないですね。
カイタ : そう、僕らが元々好きなのは、パンクやハードコア、オルタナティブなんですけど、他の音楽も色々聴くし好きなんです。1つの音に特化したものがやりたいっていう人もいると思うんですけど、僕らはそういうものが特にないので自然にそうなっていきました。だから、根幹はあんまり変わってないかもしれないですね。表現したい物もあまり変わっていないし。
コジマ : 今回は歌詞の情報量も多いし、言葉中心に作ってる感じもあるよね。
——意識的にではなく、言葉も自然と増えていったということですか?
カイタ : 歌詞自体は、ストーリー性がなくても、日本語としてつながっていなくても、俺は絶対にいいと思っていて。それがバンドの面白さだと思って、ずっとやってきたんですけど、今回はちゃんとストーリー性をもってやっている曲もあります。
——カイタさんの言葉のセンスってすごくおもしろいですよね。歌詞だけじゃなくて、ライヴのステージだったり、打ち上げでの乾杯だったり、しゃべる言葉とリズムがカイタ節としか言いようがなくて、本当に面白いんですよね。曲はある程度話して、方向を共有してから作するんですか? それとも、完全にジャムる感じですか?
カイタ : 2パターンですね。最初っから「ビートはこういう感じで」って全部決めて持ってきたのを、メンバー間で共有して曲ができるっていう方法と、1つ線だけ引いて、それをいじくり回して出来ていく方法ですね。
——なるほど。順番は前後してしまうのですが、worst tasteが結成されたときのことをお聞きしてもいいですか? 以前、コジマくんに聞いたんですけど、カイタさんのメンバー募集の紙を見て、コジマくんが応募してきたところから始まったんですよね。
コジマ : うん。俺が16か17ぐらいのときのことですね。
カイタ : 埼玉の大きな楽器屋2、3件でメンバー募集をしたんです。好きなバンドにThe Damnedとかブランキー・ジェット・シティとか色々書いていたんですけど、電話をかけてくる人はあまり知らなくて「全然集まんないな~」と思ってたら、コジマから「The Damned知ってるよ」って電話がかかってきたんです。「あ、そうなんだ~、俺も好きなんだよね」って言ったら「聴いたことないけど好きだよ」って(笑)。
全員 : はははは(笑)。
カイタ : とりあえず一回会ってみようってなって。ちゃんとやり始めたのが高校卒業してからですね。
——カトウさんはどういうきっかけで加入されたんですか?
カイタ : 2006年いっぱいで当時のドラムが辞めるってことになって、その後任を探していたんです。
カトウマオ(以下、カトウ) : ちょうど自分がやっていたバンドがなくなったんで、働いていた楽器屋の同僚に「何か面白いバンドありますか? 」って聞いたら、音源が入ったMDを2つ渡されたんですよ。「どっちか募集してるから、聴いてみて」って言われて。それで「worst taste面白いっす」って言ったら「じゃあコジマくんに連絡しておくよ」ってなって、そこからオーディション的なものをやらされました(笑)。
カイタ : はははは(笑)。
——とはいえ、worst tasteは、なかなかドラムが決まらなかったですよね。色々なドラマーの中でも、2人のこだわりや相性が、カトウさんとしっくりハマったわけですね。
カイタ : 最初はしっくりはハマらなかったですね(笑)。
——ははは(笑)。じゃあどういう理由で加入に至ったんですか。
カイタ : 僕らは、そんなにギターとかベースとか上手いわけではないけど、ドラムに対する要求だけはすごい多くて(笑)。その要求に耐え抜かない人は辞めていって、耐え抜いた人は残るみたいな。
全員:はははは(笑)。
カトウ : 「バスドラの音が小せえ」とか「聞こえねえ」とか言われました。最初すごい小さかったのに、いつの間にかパワー・ドラムになっちゃいました。
カイタ : 入ったころより筋力がマジでアップしてるよね。
——そうして現在の3人になったworst tasteですが、今回の制作は大変だったんじゃないですか? というのも、2012年の8月からコジマ君がアメリカに2年程留学してしまうんですよね。
カイタ : アルバム作るときはいつも大変ですけど、今回は期限がパツパツだったので、ものすごく大変でした。コジマがアメリカ行くのがだいたい8月と決まっていたので、今年の1月から3ヶ月みっちりスタジオで練り込んで、それからレコーディングをしようという話になったんですよね。でも、その時点で曲が詰められてなかったり、アレンジの部分でもうちょっと作り込みたいところがあって、さらに曲も1、2曲ぐらい足りなかったんです。
コジマ : そうそう。
カイタ : それからなんとか曲を作って、レコーディングまで間に合わせるようにやっていたけど、10曲本当にできるかなという不安もありました。でも今回は追い込む所まで追い込んで、絶対良い作品を作りたかったので、良い作品を作れるような状況じゃなかったら、やめにしようと思っていました。でもアメリカに行く前に形として作品を作っておきたかったから、なんとかしてやろうと頑張って、どうにか間に合いました。なので、制作期間はかなりヘビーでしたね。
——コジマくんがアメリカに行くっていうのは、バンドにとってすごく大きなことだと思うんですけど、他のメンバー2人はどういう受けとめ方をしていますか。
カイタ : コジマがアメリカに行ってしまうのは大きいですね。この2年間は自分たちの中でまた新しい可能性を見つけていく期間だと考えています。戻ってきた時にその2年間で色々広がったものを3人でやれればいいです。worst tasteという名前ではこの3人でやっていきたいし、これからもやっていくんですけど、2年間は俺とマオくんと、あとゲストを入れてやっていくっていう形にはなると思います。
——バンドがいい状態になってきている中で、2年間アメリカに行っちゃうのはコジマくんとしても悔しいんじゃないですか?
コジマ : 悔しいです。この話は1、2年前くらいからあったんだけど、最初は活動がストップしちゃうんじゃないかということもあったし、どうするんだって思っていたけど、アルバムができそうになってきたころぐらいから、こういうものを一個残せてるんだったら、新しい可能性を見つける期間と捉えて面白くできそうだなっていう考えになってきたかな。自分にとってもこのアルバムができたのはすごくでかいです。
——カトウさんも今回の作品に対しての手応えは感じましたか?
カトウ : 今の段階では最高なものを作れたと思いますね。僕が加入して5年くらい経つけど、ようやくworst tasteになれたかなって。前作の『ダンスで決めて! 』は結構いっぱいいっぱいで、メンバーなのに責任感もあまりなかったんですけど、今回のアルバムではようやく同じラインに立てたかなっていう。
コジマ : だから今日インタビューも来たんだね。
カトウ : そう!
全員:(笑)。
カトウ : ようやく同じラインに立てて、このタイミングでコジマさんがアメリカに行くので、逆に今度は俺とカイタさんでそこを詰められるんで面白いかなと思いますけどね。
生活が変われば音も変わるし考え方も変わる
——今回のアルバムと前回のアルバムの間に、worst tasteも主宰に名を連ねる、東京BOREDOMもあったり、バンド活動以外の経験も大きいんじゃないかなと思います。あと年齢がもうすぐ30近くになりますよね。そういう環境の変化も音楽性に影響を与えているんじゃないかなって。
カイタ : それはあると思います。性格も変わりましたよね。
コジマ : うん。
カイタ : イベントやライヴをやる経験というのは絶対引っ付いてくると思います。あと、年齢は大きいですね。環境とか感覚とか、自分の生活やみんなの生活が変わっていくっていう面で、生活が変われば音も変わるし考え方も変わると思います。
——具体的にどう変わったと思いますか。
カイタ : 昔はライヴとかにしても、「よっしゃー、圧倒的なものを見せつけてやる」っていう感じがあって。それがロックの醍醐味の一つで、「俺たちがライヴをやって全然違う空気にしてやる」って強く思っていたんですけど、今はもうないですね。すごい物を見せてやるっていうのはそんなになくて、単純に「やるべきことをやる」っていう感覚というか。あまりそういう我がなくなってきて、感覚的にはその方がいい物が作れるし、いいライヴができると思うようになりました。
——コジマさんはうんうんとうなずきながら聞いていたんですけど。
コジマ : うん。ライヴに関しては今言っていた通りで、活動の仕方についても、これまでは生き急いでいる感があったんです。このままじゃ… っていう焦燥感はあったと思うんですけど。
カイタ : それがよく働いていたときもあったんだよね。
コジマ : そうそう。他のバンドを見ても、そういうのがバンドのかっこよさにつながっていることも多々あるから。うちらに関して言えば、それがなくなってきたのは、年齢や生活の変化によるんじゃないのかな。単純に長期戦になるとしんどいっていうのはたぶんあると思うんですよ。生き急いで焦燥感全開で音楽に立ち向かっていくっていう場合に。
カイタ : でもライヴをしてるうちに、気づいたら焦燥感が全開になってたりするんだけどね(笑)。
コジマ : まあ、それはある(笑)。だから別に、前よりなくなったとか言ってるけれども、端から見ればそんなことないのかもしれない。でも、前はもっと、いっぱいいっぱいな感じっていうのがあったよね。
カイタ : いっぱいいっぱいっていうか、もう、本当に、「よっしゃーやったる! ぶっ殺したるぜー! 」っていう気持ちでやってたから。
コジマ : そうだね。だから要するに一言で言えば「ぶっ殺す」って頭ん中で思うことがなくなったかもしれない。特定の何かに対してとかね。いい曲があっていいライヴができればそれでオッケーみたいな。
——前作のときはまだ「ぶっ殺す感」はあった?
カイタ : そうですね。
——それがだんだん薄くなってきたと。
カイタ : 薄くなってきてるっていうよりは、まあ、あまりなくなった。
——確かに、音楽とのつきあい方って、二十代後半から変わっていくと思うんですよ。例えば家庭が出来たりする歳じゃないですか。その中で音楽で生計をたてていくっていう場合もあれば、別の仕事をしながら音楽を作っていくとか、もしくは、土日とか週末で仲間内でやるとか、いろんなつきあい方があると思うんですけど、worst tasteはこれからどういう音楽とのつきあい方をしていきたいですか?
カイタ : 僕の理想としては、音楽で生計をたてようとかっていうのは全然ないです。僕のつきあい方としては、長い目で続けていきたいです。いい作品をコンスタントに作りながらやっていくっていうのが、一番しっくりくるつきあい方だと思うし、その中で東京BOREDOMだったり、いろんな物があったりする。でもやっぱり生活の一部だから、スタンスとしては音楽を中心にはしたいですね。
——お二人はどうですか?
カトウ : 続けていくっていうことが、一番難しいかもしれないですけどね。そんなに難しく考えてないです。今、状況的には茨城に住んでいて、普通にサラリーマンをやっているんですけど、平日にライヴも出来ますし。
カイタ : そうですね。結局音楽が根底にあるから、みんな、それができなくなるような仕事だったら、しないと思うんです。
——なるほど。正直に言うと、今作は前作よりも全然好きです。
カイタ : あ、それは嬉しい。
——演歌にあるような情みたいな部分が、パンクの激しさの中にあって、それがメロディアスでエモーショナルで、僕はすごく気持ちよく聴けたし、全然長さを感じませんでした。これは、ちゃんと今のworst tasteがアルバムに反映されているんだなって思ったんです。
カイタ : ありがとうございます。もともとこのアルバムを作る時に、何度も聴ける物を作りたいっていうのはすごくあったので、音作りや曲順はこだわりました。
コジマ : その時期の自分達の今をバッツリ切り取ることは本当にやりたいことなんです。むしろそれがやりたいことだって、今思いました。そういう身体感覚みたいな物に敏感になりつつ、結構厳密にジャッジしていくっていうか。これはこう、こっちはこう、みたいなそういう作業で、なんとか今の自分達をばしっと切り取るみたいな。今しか出せない物を、思い切り出す作品にしたかったんです。
——僕ももうすぐ30歳で、worst tasteと同じく東京で生活をしているので、作品に共鳴するってことは、コジマくんが言っていたような身体感覚とか皮膚感覚がリアルに反映されているアルバムなんだと思います。一年前は、まだ「ぶっ殺すぜ感」がすごくあったから、今作はすごい驚きでもあり、いい衝撃というか、とても素晴らしい作品だと思いました。
カイタ : いつでもそういう風に裏切っていきたいですね。
——もしかしたらまた次全然がらっと変わる可能性もありますもんね?
コジマ : またぶっ殺すとか言ってるかもしれないですからね(笑)。
カイタ : 超速い曲しか無くて終わっちゃうとかね。そういうのもいいかもしんない。
——コジマ君が旅立つ前に最高の物が出来て、逆に2年後も楽しみですね。
コジマ : この2人(カイタとカトウ)は今まで噛み合わないことの方が多かったから、俺がいない間に仲良くなっていてほしいですね(笑)。
——あははは。今日の話とアルバムを聴いて、今のworst tasteはすごくいい状態なんだって伝わってきました。ぜひ、この先も楽しみにしています。
コジマ : これから楽しみだよね。
カトウ : 楽しみですよね、ほんと。
カイタ : また次の作品が出来たら、こうやって話が出来たら嬉しいです。
——ぜひ、やりましょう! ありがとうございました。
LIVE SCHEDULE
worst taste&SpecialMagic
(Ba)新間功人 from.ふくろ / (key) 蓮尾理之 from.385/bonanzas / (DJ)MEMAI from.HALBCH
2012年8月20日(月)@青山月見ル君想フ
w/ 下山 / ちくわテイテイスティング協会 / 吸引式テクノポップユニット
2012年10月30日(火)@東高円寺二万電圧
w/ GROUNDCOVER. / BACTERIA / FIREBIRDGASS / SPEARMEN
2012年11月10日(土)@新宿ロフト
「東京BOREDOM」
worst taste PROFILE
2001年結成。ひねくれた歌詞、よじれたグルーヴをぶっとい鉄柱にくくり付けて脳天めがけてフルスィングしたようなバンド・サウンド、狂気の中のユーモアたっぷりなポップ・チューン、計算されてないようで実は超緻密? な楽曲云々、とかそんなのもどうでもよくなるようなケタ違いの熱量が最大の武器。これまでに『おなか痛い』『ダンスで決めて!』の2枚の全国流通盤を発表、その他多数のオムニバスにも参加。2004年より自主企画「潜水フェティズム」を開始、現在までに12回を数える。2009年には地下音楽フェス「東京BOREDOM」の立ち上げに主催として参加、東京大学で1000人を超える観客を集めたり、中華料理屋や民家を巻き込んだ異色ライブ・サーキットを開催したりなどしている。2012年8月、サードにして初のフル・アルバム『逃避行は終わらない』をリリース。録音・ミックスは松石ゲル(ザ・シロップ、PANIC SMILE)、マスタリングは7 e.p.のプロダクション・チームとして知られる斉藤耕治&多田聖樹。