中期THE BEATLESを再現するユニットが誕生!
世界を変えた伝説のロック・バンドと1文字違い(英字では2文字違い)の名を持つ彼らは、中期THE BEATLESを再現すべく結成されたユニット。結成の発端となる出来事が起こったのは2011年11月。巨大掲示板ウェブ・サイト「2ちゃんねる」で流れた「THE BEATLESの未発表アルバム『RED』がリリースされるらしい」というデマに踊らされ、末に落胆したミュージシャン3人が「ないのであれば作ってしまえ」と集まり完成させたのが本作『RED』。今作を聴いてTHE BEATLESを懐古するもよし、THE BEATLESの現代的な解釈として受け取るもよし。オリジナルへの深い愛に裏打ちされた完成度の高いオマージュ作をお楽しみください。
the Bootles / RED
【価格】
MP3 : 150円 / 1000円
WAV : 200円 / 1200円
【Track List】
1. Heroin Baby / 2. Bloody Mary / 3. Kick in,Court / 4. Surfin United Kingdom / 5. Queen Of Night / 6. At All In The John / 7. Always / 8. King's Lover Mikkel
THE BEATLESもまた、彼らを真似することはできないだろう
妙な話だが、このthe Bootles『RED』は発表される前から、いや、もっと正確に言えば楽曲が制作される前から某ウェブ・サイトに解説が掲載されていた。『RED』“公式”ウェブ・サイトを先に見てみてほしい。(http://vipper.lv9.org/jp/)
そこには2012年1月11日に発表される予定だったTHE BEATLESの未発表アルバム『RED』のリリース情報が掲載されている。無論、そんなものが本当に発売されていたらもっと大騒ぎになっているはずだ。そう、このウェブ・サイトはよくできたただのフェイク。そしてTHE BEATLES『RED』も大型掲示板サイト「2ちゃんねる」で流されたまったくのガセネタだ。それが起こったのが2011年11月、多くの音楽ファンがこのニュースに胸を熱くした。それだけが真実。だってもしもこれが本当だったなら、もはや世界で共通認識となった既成概念“ロック”が、また覆されたのかもしれないのだから。
しかしこの多くの人を落胆させた愉快犯、どうも嫌いになれそうもない。この嘘にはファン同等、もしくはそれ以上の愛を感じるからだ。偽ウェブ・サイトで、偽ポールは『RED』のタイトルの由来についてこう語る。「ある日スタジオのキッチンで蛇口をひねったら、赤く染まった水が出てきた。真っ赤な水だ! びっくりして皆を呼びつけた。するとジョンが天を仰いだ。『恵みのワインだ!』手の込んだイカれた遊びさ」「でもあの『色』がずっと頭に残っていたんだ。みんなも同じだった。結局これがアルバムのタイトルになった。当時の僕らを主張するにはピッタリな色だ。他にも何か理由があったかな。思い出せない」冷静に考えれば、本物のTHE BEATLESのウェブ・サイトにしてはあまりにもチープな出来だ。でも、こんな嘘なら騙されてもいい。そう思った人が多かったから、Yahoo!ニュースで取り上げられるほどにこのデマが拡散していってしまったのではないだろうか。
さて、そろそろthe Bootlesの話をしよう。このデマに踊らされた末に落胆した3人のミュージシャンが「ないのであれば作ってしまえ」と言って完成させたのが本作『RED』。曲名も偽サイトに記された収録曲と同じだ(「Penny Lane」と「Strawberry Fields Forever」は除く)。各曲解説“シタールとギターが絶妙に絡むジョージの『Heroin Baby』”“バロック風のハープシコードと美しいストリングスが奏でるポールの『Bloody Mary』”にも忠実に作られている。仕様も偽サイトの情報のまま。録音も当時の機材を使用。しかしこの音源で驚くべき点は何よりそのクオリティーだ。しかし中の人間のことを知れば、そこにも深く納得がいく。
ボーカル、ギター、ベース、シタールを担当した大島輝之は大谷能生や植村昌弘が参加するトリオ・バンド、simのリーダー。2011年、相対性理論のやくしまるえつこの声を極限まで分解したソロ作をリリースし話題を呼んだ。そしてボーカル、ギター、ベースを務める中村公輔はNeinaや繭といったエレクトロニカ・ユニットでデビュー後、Kangaroo Paw名義でソロ作を発表し、レコーディング・エンジニア、アレンジャーとして多くの作品に携わっているミュージシャン。また、ボーカルと全曲の作詞を務めたTamuraryoは昨年デビュー作『17th reprise』をリリースしたシンガー・ソングライター。ノイズを敷き詰めたトラックに乗る甘い声が印象的な作品だ。そんな日本の音楽シーンを牽引するミュージシャン3人が、「あの4人がこの時期に音楽を作っていたらどんな風になっていたのか」を研究・想像し、自分達なりに噛み砕き、吐き出した音が本作『RED』。「THE BEATLES完全再現ユニット」と銘打たれているが、相手はロック/ポップスの概念をデビューから解散までの7年間で何度も覆し、世界で最も成功したグループ・アーティストとしてギネス・ブックに記録されているほどのスーパー・スター。彼らだけが持ち得た才能、感覚、4人合わさった時に出るグルーヴとサウンドまでもを真似することは到底できまい。しかし本作で特筆すべきは、THE BEATLESもまた、the Bootlesを真似することは出来ないであろうことだ。1960年代にリヴァプールで起こり世界に拡散した音楽を、2010年代の日本人が解釈する。海を渡り、時代を渡り、発信される本人たちには届かないかもしれないアンサー・ソングたち。オリジナルへの深い愛と敬意がなければ成立しえない作品、そして物語だ。
奇跡的な出会いを経て結成されたTHE BEATLESだが、『Abby Road(1969)』制作時にはバンドの解散を意識していたという。様々な音楽性を網羅したこの名盤はそれだけに各々の方向性の決別を示唆していたのかもしれない。一方、the Bootlesは3人のソロ・ミュージシャンが集まって結成されたユニットだ。気になるのは、the Bootlesがこの先続くのか否かである。(text by 水嶋美和)
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the Bootles PROFILE
<member>
中村公輔
大島輝之
Tamuraryo
2011年11月半ば、Beatlesの未発表音源が発売されるという噂が、Twitterを中心に駆け巡った。アルバム・タイトルは『red』。67年初頭、サージェントペパーズ制作直前に作られたが、歌詞の内容が不適切の為マスター・テープの没収となり、数十年の月日を経てこのたび陽の目を見ることになったというものだ。発売を告知するサイトが立ち上げられ、ポールやリンゴ、ジョージマーティンのインタビューや曲の雰囲気、使用楽器なども詳細に書き記されていた。ファンは期待に胸踊り、発売を心待ちにする書き込みがタイムラインを埋め尽くした頃、それはやってきた。釣りでした… 。これは2ch発信のデマで、THE BEATLESが未発表音源を出すことなど無いのだった。このやり場のない気持を一体どこへ持っていけばいいのか? そして、ここに期待に振り上げた拳を、下ろすすべを知らない3人の男たちがいた。Beatlesが未発表音源を出さないなら、自分たちで作ってしまえ! 彼らは偽サイトに記されている通りの仕様で、Beatlesを再現することを思い立ったのだった。
the Bootles official website
2ちゃんねる「THE BEATLESの未発表アルバムが発売か」
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