
4/8 SuiseiNoboAz@新代田FEVER
正直、SuiseiNoboAz(以下、ボアズ)のライヴをしっかり見たのはこの日が初めてだった。音源を聴いた時も良いとは思ったけど、皆が騒ぐほど凄いものとは思えなかった。1月のアルバム・リリースの熱狂にも取り残されて三カ月が経った今、追いかけるタイミングも失っていた。完全にあまのじゃくな心境の中、今日、私の足を新代田FEVERに運んでくれたのはファンジン「STORYWRITER」に掲載されていたボアズについての論評だった。彼らを語る時、特に男性は、一つ昔話を添えて話す。それも決まって思春期の頃に出会った「かっこいいもの」について。ノスタルジーと興奮を伴ったその文章にすっかり高揚させられてしまって、行き場の無いそわそわ感に決着を付けるべく彼らのツアー・ファイナルに向かった。
オープニング・アクトは東京のインディー・バンドとして交流が深いthe mornings。ニュー・ウェーブ? ポスト・ハード・コア? ポップ? 相変わらず彼らの音楽はジャンルでは形容しがたいけれど、曲が進むにつれてthe mornings独特の音が構成されていく感覚は数読パズルを解いていく快感に近い。拍子をコロコロと変化させて、なかなか踊らせきってくれない所も、なかなか正解に辿り着けないもどかしさにそっくりだ。時々パズルが解けて突き抜ける瞬間がある。それに気が付いた時には既に体が揺れている。
次に続くはLimited Express (has gone?)。『SuiseiNoboAz』Special Thanksの一番最初に名前が載っている飯田仁一郎(JJ)は、ボアズ・メンバーの元同居人でもあり、これまた付き合いの濃厚なバンドだ。ドラムにTKDが加わり、より一層パンク色が強くなった彼らのライヴは、とにかく凄い。凄くなかった事が無い。関西時代では私達を安心して躍らせてくれていた彼らのライヴは、東京に来てからは何が起こるかわからないハラハラ感を帯びている。それでも体は勝手に踊るのだから、ライヴに安心感など不要なのだろう。ライヴ後のトイレ待ちで隣り合わせたお姉さんに「何を見に来たんですか? 」と聴くと、「ボアズなんだけど…さっきのバンド、超かっこいい! ファンになっちゃった! 」と嬉々として答えていた。

そして本日の主役、SuiseiNoboAzがステージに登場する。最初の一音で納得。男気とは、耳で伝わるものではない。肌で感じ取るものなのだ。あまりに高すぎる周りの評価にライヴが始まる直前まで構えていたけれど、二曲目「水星より愛をこめて」の時には既に髪をふり乱しながらリズムに合わせてフロアを足でだんだん蹴り続けていた。それからアルバムに収録されている曲が続き、音源との印象が違って驚いた。まさか、そんな、こんなに突き上げられる曲だったとは!ライヴの途中でトイレに抜けようと後方を向くと、いつのまにかフロアは人で埋め尽くされていて身動きが取りにくい状態になっていた。フロアの人達と向かい合う形になって彼らの目を見ると、もはやそこには懐かしさやノスタルジーは無く、今、ステージ上で起こっている事の目撃者にならんと、ギラリとした興奮を宿していた。
そんな訳だからトイレから帰還してもなかなか前の方には行けず、しばらく後方の少し落ち着いたスペースでライヴを楽しんだ。が、うずうずしてしょうがない。そのフラストレーションが頂点に達した時、最後の曲「プールサイド殺人事件」が始まった。フロアの爆発とモッシュに乗じてステージ前の混沌に飛び込む。誇張ではなく本当に、本能的に、前に行かなくちゃと思った。これからの邦楽ロックの歴史に影響を与えるであろうこのバンドの、このライヴの、この興奮の中に今立っておかなければ!
アンコールの「メキシコかアイダホ」では再びモッシュが起こり、ダイヴした人の足が降る中で、みんなで気持ちよさそうに「ジーザスった! 」と叫ぶ。何なんだよ「ジーザスった」って。そうか、「メッセージは特に無い」のか。また人が降ってくる。ぶつかってくる。この興奮を共有しようとしている。演奏が終わってもアンコールは止まなかった。談笑をなるべく避けて一人で帰る井の頭線、耳にイヤホンを突っ込んで1月に彼らがリリースしたアルバムを大音量で聴く。興奮が蘇る。次のボアズのライヴまで、この音源で余韻に浸り続けよう。(text by 水嶋美和)
SuiseiNoboAz 1st album release tour「Get Behind Me Babylon」
2010/04/08(木)@新代田LIVE HOUSE FEVER
Live : SuiseiNoboAz / Limited Express (has gone?) / the mornings
DJ : 西村道男