面影ラッキーホールの歌詞世界は、いつも女の目線で語られる。そこには必ず男が居て、その関係に円満なものはない。aCKyが歌う主人公の女性は、男に裏切られ、捨てられ、それでもすがりつこうとする。そして、その悲しみの中ですら幸せを感じている。このような「男が強く女が弱い」という価値観は今でこそ奇異なものとして扱われるが、昭和ではこの価値観こそがメイン・ストリームだった。
歌謡曲はJ-POPと名を変え、女性が歌う男性の人称は「あなた」から「君」となり、最近では「草食系男子」「肉食系女子」という言葉が流行した。昭和から社会的な男女の事情は大きく変化したが、面影ラッキーホールは昭和の価値観の中で歌っているということだろうか? いや、違う。「ラブホチェックアウト後の朝マック」なんて、タイトルだけで生々しい。彼らの音楽も、昭和歌謡をベースにR&B、HIP HOP、FUNKなどブラック・ミュージックの要素を取り入れ、どのジャンルにもくくれない新しいものとなっている。これは歌謡曲、J-POP、その先にある音楽なのかもしれない。結成時から面影ラッキーホールの価値観を支えてきたaCKyとSinneryangに話を伺った。
インタビュー&文 : 水嶋美和
オトトイでは特典付きで配信開始!
面影ラッキーホール / typical affair
【特典】
アルバム購入者には「無修正ネイキッド・ヴァージョン・ジャケット写真」が同梱されます。
【Track List】
1. ラブホチェックアウト後の朝マック / 2. セカンドのラブ / 3. ゆびきり / 4. ゴムまり / 5. 背中もよう / 6. 今夜、悪魔は天使に負けない / 7. 涙のかわくまで / 8. SO-SO-I-DE(LIVE at EAST)
aCKy × Sinneryang インタビュー
——頂いた資料を読んで気になったんですけど、メジャー・デビュー作が過激すぎて発禁処分?
aCKy(以下、a) : 元々出る予定だったレコード会社から過激だ下品だってNG出されちゃって、結局別のレコード会社が引き継いでくれたんです。だからタイトルが『代理母』なんですよ。
——今作も過激ですよね。
Sinneryang(以下、S) : そう? 過激かな?
——過激というか、濃いです。昭和歌謡のムードが立ち込めてますね。
a : 僕は1968年生まれなので小さい頃からテレビで「ザ・ベストテン」がやってたり、父親が好きで家でもよく流れてたので、昭和歌謡は好き嫌いというよりも原体験なんです。でも中学生あたりでそういうのを聴くのが恥ずかしくなってきちゃうんですよ。
S : これは高級な音楽じゃないってね。そこから洋楽、ロック、パンクと掘り下げて、より過激で先鋭的な表現を求めてアンダーグラウンドものを聴くようになる。そこまで行った時にふと、自分が小さい頃に聴いていた歌謡曲の方がよっぽど先鋭的だったって気付くんですよね。町田町蔵よりもなかにし礼や阿久悠の方が強烈だった。
——面影ラッキーホールは1992年から活動してますよね。最初から歌謡曲ベースの音楽だったんですか?
a : 最初はもっと違いました。物語性を帯びてない歌詞だったし、もっと騒がしかった。
S : でもメッセージ性はあったよね。ストーリーではなくアジテイトに近かったというのと、ワン・コード、ワン・ループでやる原始的なファンクやアフロの雰囲気があった。
——メンバーはずっと同じですか?
a : 結成当時からは僕とSinneryangだけです。CHAGE & ASKAみたいなものですね。
——どういうことですか?
a : CHAGEとASKAのことは知ってるけど、後ろの人達のことは知らないでしょ?
S : それを言うならチェリッシュじゃない? 松崎夫妻のユニットだと思ってたよね。あれ、6人編成のバンドなんですよ。
a : 「てんとう虫のサンバ」の人だよ。
——ああ、わかります(笑)。では、どういう変遷を辿って現在のようなスタイルに至ったのでしょう?
a : 寺山修二みたいな退廃的なものを好きになっちゃう時期ってあるじゃないですか。
S : その「アンダーグラウンドはしか」みたいなものを、僕らはちゃんと克服したんです。
——何かきっかけはあったとかではなく?
S : 無い! 段々変わっていったから。あなたも好きな男の趣味とか変わっていくでしょ?
——うーん、あー(笑)。
S : ドラマや映画のようなきっかけなんて無いんですよ、人の人生に。
——でも曲ごとにはストーリーがありますよね。それも主人公はいつも女性。これは何か理由はあるんですか?
a : 僕らそんなにルックスが良くないから。隙間をやってかなきゃいけないでしょ、ダメな子って。
S : B’zみたいな男前だったら男目線でもいけるけど、そういう訳にもいかないじゃないですか。だからまだ誰もやってない事をやらなきゃなって、つまりはマーケティングなんですよ。
A : 本当は子供が死んじゃう曲なんて嫌なんですけど、そういう曲って誰も書かないでしょ。
——「ゴムまり」は辛い歌詞ですよね。悲しくなりました。
S : それが狙いです。
——音楽自体に悲壮感は漂ってないから、歌詞を読んでこんなに暗い詞だったんだってびっくりしました。
a : あとびっくりといえばね、みんな曲を聴いて二枚目を想像してライヴに来るから、よく驚かれるんですよね。だから本人を見ないまま聴くのがいいと思います。
——そんなこと言わないでください(笑)。aCKyさんはこういう歌詞をどういう所からヒントを得て書いているのでしょうか?
a : ラブホテルの落書き帳とかですかね。
——今ってまだ落書き帳とか置いてるものなんですか?
a : 郊外のラブホにはまだ置いてますよ。
S : どこの出身ですか?
——大阪です。
a : 大阪って休憩が1時間単位だったりしますよね。
——よく知りません(笑)。
S : 大阪で言えば、箕面とか池田の郊外のラブホに行けばあるよ。ところで運転免許の更新する時ってどこに行ってます?
——今はもう東京なので、府中ですね。
S : びっくりしません? 来てる人達見て。
——何にですか?
S : だって、未だに上下シャカシャカのジャージを着てる人がいっぱい居るんだよ。日本人の平均って免許証の更新会場にあるなって思うんです。近所で考えても、結局年収で住む地域が分かれるからだめ。高校、大学なんて受験で頭のレベルも分かれるからもっとだめ。でも免許証の更新に来る人って、共通項が生まれた月だけなんだよね。あれこそ日本の平均だなって思うんです。だから100万枚売れるってことは、上下シャカシャカの人達にもいい曲って思われるってこと。でもそんなの無理だよね。
——じゃあ、面影ラッキーホールの音楽はどの層に照準を合わせてるんでしょうか?
S : あなたですよ。
——私!?
a : シャカシャカの人達のこと、自分とは別ものだってちょっとばかにしてるでしょ? 僕らのライヴに集まる人はそういうのを俯瞰的に見てる人達なんですよ。
——ライヴの客層の年齢はどれぐらいですか?
a : よくわかんないことになってる(笑)。
S : でも20年近く活動を続けてるから、時代によって来る人も変わっていくんだよね。90年代は女の子が9割。しかも変なもの好きの子たち。最近はおしゃれを気取ってる人達も来てるね。
——歌詞の話に戻りますが、ラブホの落書き帳からワン・フレーズをとって、それをヒントに物語を作る?
S : 松任谷由実がお忍びでファミレスに行って、女の子の生態を探る為に会話を盗み聞きしてるって伝説じゃあるじゃないですか。ユーミンがファミレスなら俺らはラブホだってことですね。
——そんなに行ってるんですか?
S : 最近はあまり行ってないよね。aCKy、わざわざアパート借りてそこをラブホ風に改造してたもんね。
a : お子さんがいる人と付き合ってた時期にラブホ代がすごく高くついちゃって、それなら郊外のアパートを借りた方が安いかなって。そこを生活感なくして俺専用のラブホに変えたんだけど、いざ完成するとなかなか行かないもんなんですよね(笑)。もう手放しました。自分のとこだと落書き帳も見れないし。
歌にでもしとかなきゃリアリティ持てない
——俺専用のラブホってすごいですね(笑)。しかし落書き帳の内容ってそんなにディープなんですか? 一言ぐらいしか書いてないですよね。
S : 断片から物語を想像するんです。男は女性の襟足から全裸を想像するでしょ? 1を聴いて10を知る。
——音楽はどういう風に作ってるんですか?
S : 昔はセッションで作ってましたけど、今は仕事も忙しいんで完全分業制。
a : 例えば「殿様キングスみたいな曲作って」って言って、出来たものに歌詞をあてるという流れですね。
S : バンドを長くやってて、仲は悪くないにしても、始終べたべたして運命共同体みたなのは気持ち悪いじゃないですか。僕らには朝まで語り合うような夢無いしね。
——無いんですか?
S : 夢はあるよ。もうすぐ住宅ローン完済だから!
——あ、そっち (笑)? バンドに夢は?
S : 無い!
a : 暇つぶしなんですよ。車に凝ったり年上の女性に凝ったりするのと同じ。今はお願いされているから音楽をやってるだけです。
——私が面影ラッキーホールの存在を知ったのが「わたしだけにかけて」のPVで、田代まさしさんが出てたんですよね。
S : 知ってる人を増やそうと思って田代さんに登場してもらったんだよね。マーケティング通りだよあなた!
——それにまんまと引っかかった訳なんですけど(笑)、それを見てすぐにライヴ情報を調べたんですけど、何も出て来なかったんですよね。音楽の活動としてはあまり活発ではない方ですか?
a : その時はまだ大阪? 東京?
——まだ大阪ですね。
S : 「大阪で生まれた女」だ(笑)。
a : 「東京へはよう行かん」はずなのにね(笑)。
——BOROの話でも私の話でもなくて(笑)、ライヴはあまり頻繁にはされないんですか?
a : あまり好きじゃないんです。曲を作るのも。苦しいです。楽しくないです。
S : 頼まれなきゃ絶対できないですよ。
——でも、頼まれたらやるんですね。
S : 頼まれるのが嬉しいからやる。受身なんですよ。
a : アイドルのオーディションで友達として付いて行ったらそっちが合格しちゃったってパターンがあるじゃないですか。もしくは勝手に応募されちゃって、とか。そういうのが好きなんですよ。「私、アイドルになりたい!」っていうのは嫌なんです。
S : でも真面目な話、お願いされてやるのと自分でやらせてくれっていうのは全然意味合いが違うんだよ。曲を作って発表するっていうのは、誰かからお願いされて初めて出来る行為。自信がないから、俺の話を聞けなんてとても思えない。そう思える奴ら全員頭おかしいよ。恥知らず。
——今はインターネットの普及で、誰でも自分の作品を発表する場を持てる時代ですよね。
S : この間の震災の時でも「魂を鎮めるために僕の曲をアップします」だとか、プロでもない奴がブログで食べ物の批評したりだとかさ、恥ずかしい行為だと思うよ。何かを語ることっていうのは、メディアっていうフィルターとかいくつかのハードルを越えて、許可を頂いた人間だけが初めて出来ることなんだよ。
——aCKyさんも同じ考えですか?
a : そうですね、ブログとかツイッターとか…。みんな、自分が発信していることが世界に繋がっているっていう自覚が足りないと思います。困るんですよ、aCKyがどこで誰と何してたっていうのをつぶやかれると。
——(笑)。音楽の活動は自分の欲求があってしている訳ではないんですね。しかしこの裏ジャケット、過激ですね。
S : そんなことないですよ。
a : それが何に見えるわけ? ちょっと雑に使うとそうなるじゃないですか、口紅って。
S : あなたの心の中にいやらしい気持ちがあるからじゃないの?
——そう来ましたか…。
S : これ30禁だから気をつけてね。
——私まだ30歳になってないです。
a : じゃあ聴いたらダメですよ。もっと人生の辛酸をなめたあとに聴いてください。でも小さい頃ってご飯時のお茶の間でこういう曲がかかってたんですよね。それで親とよく気まずい空気になってた。そういう禍々しいものが好きだったんです。
——女が耐えて騙されて汚されて捨てられるというディープでシビアな曲を、お二人と同世代の人は小学生の頃から聴いてるんですね。
S : 80年代中盤のバブル期以前は街全体の匂いとしても残ってた。やっぱりそこに共感する人も多かったから、大量生産されてメイン・ストリームになってたんでしょうね。今売れている「お父さんお母さんありがとう」なんて曲、昭和に出てても当たり前のことすぎて誰も共感しないし売れてないですよ。でも今売れてるってことは歌にでもしとかなきゃリアリティ持てないってことでもあるんですよね。
a : 当時の歌謡曲を聴きながら、大人の世界は怖いものなんだろうなって思ってました。男の人だけが働いて、女の人はそこにぶらさがってなきゃいけない時代だったから、女にとって男に捨てられるということは死も同然だったんですよね。広瀬香美みたいな自分からしかけて意中の男性をゲット! なんて歌は無かったよね。
S : それまでは山本リンダみたいに「狙い撃つ」しかなかったもんね。あの時代、能動的な女はあそこまで極端に現実味のない形で表現しなくちゃいけなかったんだよ。
——でも男の人が歌う歌謡曲もあるし、ラブホの落書きにしたって男の人が書いているのもありますよね。女目線に絞って女言葉で歌うのはなぜなんですか?
a : 歌って、いつのまにか尾崎豊みたいに自分が主人公じゃなくちゃいけなくなったじゃないですか。でもそうじゃない昔の歌謡曲って、作詞家と作曲家がいて、歌い手とは関係が無いところで物語が完成していくんですよね。そういう時にものすごいものが生まれたりするんですよ。
S : 歌われているテーマに歌い手が関係していないというのをより具現化するには、こういう格好だったり女言葉だったりと、実像からどんどん離れていく必要があるんです。あと、僕ら二人ともソウルに衝撃を受けていて、ムキムキの黒人がオイル塗ってすごく高いファルセットで歌って振りかえりざまに決めポーズって、気持ち悪いじゃない。それが平均的日本人の反応として一番自然だと思う。
——衣装も奇抜ですしね。
S : すごくショッキングだったんだよね。僕ら黒人音楽がすごく好きで、だけどその黒人音楽のどの要素を取り入れるかって言ったら、気持ち悪さというか、違和感なんですよ。それを出すために日本人の僕らは、女言葉でああいう歌い方をしてるんです。だからモーリス・ホワイトとかと同じなんです、意味的には。
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PROFILE
面影ラッキーホール
「はじめに言葉ありき」が最大の特徴。1曲ごとに完結したストーリーを持ち、それまでは演歌という限られたジャンル特有のものだった「1人称のおんなうた」の概念をはじめて他のフォーマットに持ち込んだ功績は大きい。 ワーグナーの総合芸術論を理論的背景としてバンド活動を行っている為、他メディアとの連動を、常に念頭に置いた作品作りがなされている点も見逃せない。もう少し俗世間的に言えば、全作品がタイアップ狙いという、レコード会社や広告代理店が聞いたら泣いて喜びそうな制作スタンスなのだ。実現したかどうかはともかく、代表曲を列挙すると「あんなに反対してたお義父さんにビールをつがれて」は発泡酒メーカー、「好きな男の名前腕にコンパスの針でかいた」は文具メーカー、「俺のせいで甲子園に行けなかった」は夏の全国高校野球大会とのタイアップを前提に書かれている。勿論、音楽性には特に観るべきところはないが、これは才能の欠如によるものではない。「政治に全く無関心であることで、積極的に政治に参加する」というスタンスを音楽でも実行しようとしている事の決意表明と受け取って頂ければありがたい!