が大好きな女の子が、私をライヴに連れていってくれた。ライヴ・ハウスに着いたとき既に演奏は始まっていて、扉を開いたらそこには彼らの奏でる音が鳴り響いていた。静けさの中に満ちあふれる激しくて繊細な音の数々。そして、熱いライヴ・パフォーマンスをしっかりと目に焼き付けた。わずかな時間しか観ていないのに、強く印象に残った。その後、今回配信される『As reason is step forward』を聴いて、まるで時が止まっているような感覚と美しく唄い上げる伸びの良いボーカル、ライヴとはまた違った静けさと激しさに私はすぐに虜になってしまった。目を閉じて聴いていたい、美しくもエモーショナルな音楽。2009年5月から大田垣哲也が加入し、さらに勢いを増した。今後ももっともっと私たちを虜にしてくれるに違いない。
インタビュー & 文 : 小林美香子
→「idea」のフリー・ダウンロードはこちら (期間 : 8/27〜9/3)
INTERVIEW
—バンド名の由来を教えて下さい。
川元裕一朗(以下k) : 以前組んでいたバンドが全部英語の名前だったんで、少し変わった名前にしたかった。そして、最初はアコースティックで音楽をやろうと思っていて、どんなバンド名が良いかなと考えた時、アコースティック=静かなかんじ(笑)。その時のフィーリングで、で良いんじゃないのと思って。今ではバンド・サウンドになって、改名しようかと考えたんだけど、最近そういうギャップも良いかもって思っている。
— どのように結成されたのですか?
k : 最初友達と2人で「電気を使わない音楽をやろう」というプロジェクトを開始したのが始まり。メンバーを集めることとなって、今のベースとドラムに声をかけたんだ。そこから4人でスタートしたわけなんだけど、音楽性が半年もしない間に変わってしまい、ギターをやっていた友達が抜けた。しばらく3人で活動をして、『As reason is step forward』を制作したんだけど、その直後にギターの太田垣哲也が入りたいって言ってきて。何回か会って話して、今年の5月から加入することになったんだ。
— 大田垣さんが加入することになった経緯を教えて下さい。
k : にはホット・ロッキンさが足りないから、その部分は俺が補うって言われて(笑)。最初はちょっと嫌だったんだよね。音源を出して、3人でやっと方向性が固まってきたのに、新しくメンバーが加わると変わってしまうんじゃないかって、すごい抵抗はあったんだ。けれどバンドにもっとエモーショナルなエッセンスが欲しかった。彼はエモーショナルな音を出せて、ライヴ・パフォーマンスも熱い。さらに音楽性や考え方が近いという事が決定的だった。音楽性に関しては、俺が90's emo/US indieとかがすごく好きで。彼もそういうところを通っていて。
— 当初は3人で活動していこうと考えたのですか?
k : そうだね。3人でどれだけの音を出せるかを考えていたね。曲の作り方は空間を意識して、そこに音を並べていく。だから音を重ねすぎないように。シンプル・イズ・ザ・ベストを追求しながら、色んな音を入れて、音をどれだけ散りばめられるかをやっていこうと。 でもそれを考えている反面、逆にもっとエモーショナルで激しいこともやりたいなとは思っていた。シンプルさの中にエモーショナルな要素を上手く混ぜていきたいと。
—ギターの音作りに関してはどのようなことを意識していますか?
k : いつもとても苦労している。スタジオに入るたびに音作りに関しては、相談をしあっている。俺がSG、哲也がテレキャス、それぞれ違うギターを使って音の周波帯やカラーが被らないようにしている。でもお互いのギターが歪んだときに、聴く人によってはちょっと歪みの色が似ているねと言われることもあるんだ。二本あると厚みを出したくて音をつい重ね過ぎちゃうんだよね。いまその部分が1番の課題になっていて。ギターの駄目だしをしてくれる人もいれば、逆に褒めてくれる人もいる。駄目だししてくれたことを100%鵜呑みにせずに良いとこを取って、また音を変えてみたり。こればかりは試行錯誤している。多分永遠に続くんだと思う(笑)。
— 音源はエモーショナルさの中に、静かな部分もありますね。
k : 静かなほうが歌いやすいっていうのがあるね。声の微妙なニュアンスも出しやすいし。『As reason is step forward』を録音した時はさっきも言ったシンプル・イズ・ザ・ベストという考え方があって、音数を少なくしようと。だから、あんまりギターを重ねていない。そして、静けさの中に様々な感情を散りばめたかった。
— 歌詞はどのようなことを書かれているのですか?
k : 「Idea」っていう曲に関してだけは、歌詞があるんだ。それ以外は無いんだよ。「Idea」は1人の女の子がずっと部屋にいるんだ。窓の外を見ながら、これではいけないんだって思って、急いで外に出る。外で色んな経験をするんだけど、何かが違う。なんだろうと思って、家に帰る。部屋に戻って、クローゼットを開けると、そこに自分が求めていた答えがあったということを書いたんだ。本当は自分のなかに持っているものだけど、色んなものに埋もれてしまって、見えなくなってしまう。色んな経験をして、元の場所に帰ってきて、初めてここにあったみたいな。灯台下暗し的な事だね。
他は何を歌っているというのは特に無くて、メロディを優先して考えて、それに合う発音を当てはめている。当てはめた部分に言葉にはできない様々な感情を自分の中に創り出して歌っているね。
— 自主企画の「change!!!」はどんなイベントですか?
k : ライヴ・ハウス以外でも音楽が聴ける場所があるんだから、そういったところでライヴをやろうっていうのが始まり。アーティスト側はノルマもかからないし、かかってもスタジオ代程度。5、6バンド呼べば、そこで横のつながりは出来るだろうし。その点はあんまライヴ・ハウスのブッキングと変わらないんじゃないかと思う。それに高いノルマを払ってライヴ・ハウスに出るよりも、リーズナブルにやれる方がバンドにとって経済的なわけで。安く済んで、場数踏めて自分たちのクオリティを高められるメリットもある。お客さん側からしたら、音環境は良くないかもしれないし、ドリンク・カウンターも無いから、満足は出来ない人もいるかもしれない。けど、500〜1000円で、5〜6バンドのライヴを目の前で観れて、バンドの熱量を感じ取れる。またライヴ・ハウスとは違った、楽しみ方が出来ると思う。それを生まれ育った街でやりたかったんだよね。都内って面白いこといっぱいやっているから、とても悔しいなと思ったの。横浜って都内に比べると、そういうのあまり無いから。横須賀まで行くとあるみたいだけど。横浜だけシーンが出来てなくて、どうしてだろうって。まだ弱いだけかな。シーンが出来上がらないねって嘆いていても、誰かがやらないと始まらない。それで始めたから、もっとこのイベントを広めたいよね。
—このイベントでもっと横浜のシーンを盛り上げていきたいですか?
k : 勿論。その前に横浜の良いバンドを探さなきゃ。「うおっ!」となる面白いバンドがまだまだ少ない気がして。難しいね。だから待つよりも、頭で考えるよりも、とにかく今は行動あるのみ。やっていくからには盛り上げたいよね、絶対。
LIVE SCHEDULE
- 8/30(日) francis' presents「The blue swallows the darkツアー・ファイナル」@吉祥寺WARP
- 9/7(月) 「Transmitter tower」-1st- @下北沢Que
- 9/11(金) Dr.Downer PRESENTS 馬超 レコ発TOUR@横須賀かぼちゃ屋
- 9/25(金) " YMUT in the dark " vol.2 - YMUT Kingdom presents!! -@横浜club Lizard
- 9/27(日) NINE SPICES 2nd Anniversary 2@新宿Nine spices
PROFILE
川元 裕一朗/voice.Guitar.Synthesizer
太田垣 哲也/Guitar.voice.Synthesizer
佐藤 智明 /Bass.voice.Synthesizer
平賀シュウジ/Drum
07年7月結成。
当初のメンバー高根沢、川元でアコースティックをメインに何かやりたいという漠然とした方向性から動き出す。その後、前バンドで一緒だった平賀とベースを弾く予定だった佐藤が加わる形となりスタート。同年10月に1st demo(廃盤)を制作し、11月から地元の横浜、東京を中心に活動開始。
08年3月、高根沢の脱退により3ピースへ。
試行錯誤を重ねながらもコンスタントにライヴを行い徐々に方向性を固めていく。
同時にこの頃から『色彩ト音色ト不協和音』(後の『CHANGE!!!』)というライヴバーorスタジオ・ライヴ限定での企画を行う。
08年9月、長吉健一郎氏の元でレコーディングを開始。
09年3月17日、2nd demo『As reason is step forward』を自主リリース。
リリース直後の5月、太田垣(from All is vanity/jammingO.P.)加入。再度4人体制へ。
- 静カニ潜ム日々 webite http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=shizukanihisomu
オススメの90年代emo & USインディー・ロック
Flowers / Joan of Arc
シカゴのポストロック〜EMO シーンの最重要バンドの最新作。痛々しいほどにエモーショナルだった前作に比して、アルバム・タイトルからも見受けられるように、人生を俯瞰して見つめる視線が感じられる、より穏やか、かつ大胆な作品となった。常に音楽的に、文学的に、進化することをやめないティムの尽きない創造性が、また1つの高みに達したことを告げるシカゴからの最新レポート。
Going To The Bone Church / Make Believe
脱退したティム・キンセラまさかの大復活のMake Believeの 3rdアルバム。インプロビゼーションさながらな様でいて緻密に計算尽くされた演奏と、ひねくれていても確実に感性を刺激する稀有なポップ・センスは健在。絶えず形を変え続けるそのオリジナリティ。名ばかりのPUNKバンドが数多に存在する中で、反体制的なそのスタンスやハードコアにも精通する音楽性は際立って映える。JOAN OF ARC、CAP'N JAZZなどのファンはもちろんの事、昨今のマス・ロック・ファンやインディー・ロック・ファンにも聴いて頂きたい作品。
You Are Here(Japanese Edition) / +/- Plus/Minus
USインディー界で10年以上にわたってリスペクトを集め続けるVERSUSのメンバーであるJames Baluyutが始めた+/-。ソロ・ユニットとして2002年にデビューするが、前作EP『HOLDING PATTERNS』より本格的にバンド化。それから半年、待望の2ndアルバムが到着。EPで片鱗を見せた、静と動が交錯する多彩なサウンドと繊細なメロディーが織り成すCool & Warmな世界が完全に確立された傑作に仕上がっている。
Enter the Vaselines/ The Vaselines
カート・コバーンも愛した伝説のバンド、ヴァセリンズの完全ベスト盤。彼らの全スタジオ録音楽曲19曲と、未発表のデモ音源や80年代にブリストルとロンドンで行われたライヴ音源、全36曲を収録。スコットランドはグラスゴーにて、86年結成し、90年に解散。ヴォーカル/ギターのユージン・ケリーのエッジの効いたスクラッチ・ギターとフランシス・マッキーのメランコリックな歌詞、ユージンの乾いた声とフランシスのキャッチーで個性的な声が上手く絡み合ったサウンドは、今もなお時代を凌駕するエヴァー・グリーンな世界。