YOMOYA『Yawn』配信開始!
YOMOYA / Yawn
前作から2年ぶりとなる新作。ドラマーの脱退という試練を乗り越えて届けられた3作目となる本作は、前作に引き続きmooolsやOGRE YOU ASSHOLEらを手がけた斉藤耕治/多田聖樹によるプロデュース。YOMOYAというグループを構成する多彩な要素を曲毎に切り取って見せた、バラエティに富んだ全7曲を収録。2年の間に彼らが辿り着いた新境地を示すに余りある大充実作にして「Y」三部作の完結編。
無限に広がるストーリー
2010年11月のライヴを最後に、YOMOYAからドラマーの東孝治が抜けた。多くの音楽ファンに新たな時代を予感させたデビュー・アルバム『YOURS OURS』、彼らの代表曲ともいえる「フィルムとシャッター」、ライヴのクライマックス曲「雨上がりあと少し」を収録する『Yoi Toy』の2作品において、2007年から3年間、YOMOYA独特の浮遊するサウンドの骨となるリズムを築いてきた東。彼が居なくなることはバンドにとっても大きな痛手になるのではないか? と懸念していたが、どうやら余計な心配だったらしい。3人となった新生YOMOYAの新作は『Yawn』、訳せば「あくび」。バンドにとって大きな変化を迎えた後だというのに、なんとのん気なタイトルだろう。肩すかしを食らわされた気持ちでこの作品を聴いてみると、そこには私が想像したのんびりと退屈な感情を表した音など存在しなかった。いや、こんな類の「退屈」、誰も想像しないだろう。
作品はシティ・ポップ調の「Baby」から始まる。都会の退屈、軽快な憂鬱、ほんのり切なく、洗練された知的なメロディが音のイメージを膨らませる。曲が進むにつれ、雨がやみ雲の合間から日が差すかのように、光を受け輝きはじめる音の粒が実に爽やかな曲だ。そこから繋がる「KITAINEIRO」は、レーベル・メイトであるカナダのエレクトロニカ・アーティスト、I AM ROBOT AND PROUDによるフィーチャリング作。きらめいたデジタル音の中で山本の温度ある声が浮き上がり、今までのYOMOYAにはなかった底ぬけの明るさが感じとれる。最後にオリジナル・ヴァージョンも収録されているが、こちらもスペ―シ―で音数の多い、SFコメディ映画のように賑やかな曲だ。
YOMOYAにとって、退屈という言葉が停滞と同意義でないことがよくわかった。作品冒頭に来る明るい2曲を過ぎ、「体温」が始まる。この曲は元々YOMOYAの持ち味であった浮遊感、なめらかな歪み、叙情的な儚さなど、あらゆる要素を研ぎ澄まし前面に押し出した様な曲だ。単純明快な言葉でも音でもない、でも何かを必死に伝えようとしている。それはまるで水中から人の呼び声を聞くかのように、くぐもり婉曲しながらも着実に伝わってくる。
次に続く4、5曲目のタイトルがまさに「プールサイド」「水圧」だったのにはどきりとした。この曲を聴き、予感は確信に変わる。YOMOYAの楽曲から受ける浮遊感は宙に浮いた時のそれではなく、水圧に阻まれ底に足が付かない時に感じるものなのだ。だから心地のよさだけではなく、息苦しさも伴う。それでも求めてしまうのは、初めて知る感覚だから。「雨上がりあと少し」といい、タイトルに水を連想させる名を付けると言う事は確信犯なのかもしれない。そこに気が付いてしまったせいだろうか、シューゲイザーの色が強い6曲目「一秒、いらないさ」も、聴きながら大雨の中に立っている感覚に襲われる。完全にYOMOYAの世界に取り込まれてしまった。と思えば最後は先述の「KITAINEIRO (original version)」で宇宙に放り出されてしまうのだ。これのどこが退屈と?
『YOURS OURS』『Yoi Toy』『Yawn』、YOMOYAのY三部作はこれで完結する。「あなた(たち)のものわたしたちのもの」「いいおもちゃ」「あくび」この並びだけで1つの物語を作れそうだけれど、当然、YOMOYAはこれからも活動を続けて行く。これから新たなメンバーを迎えるのかもしれないし、このまま3人で活動を続けて行くのかもしれない。今作を聴き、YOMOYAの最大の魅力は隠されている部分にこそあるのではないかと考える。「雨の音」によってかき消されている街の音。「水圧」によって届き切らない誰かの声。「退屈」によって隠されている日常の部分。見えない、聴こえない部分を想像で補い、ストーリーは自分次第で無限に広がる。だからこそ、彼らの音楽は生々しくも美しく聴こえるのだ。その魅力が失われない限り、このバンドにどんな変化が訪れようと私はYOMOYAの音楽を聴き続けるのだろう。
(text by 水嶋 美和)
YOMOYAの過去作もチェック
YOMOYA / YOURS OURS
2003年より活動する4人組。エレクトロニカ、ポスト・ロック、オルタナ、USインディー、フォークなどを消化した、高次元の音楽性と人懐っこさが同居したサウンド、電飾を施したステージで繰り広げる激しさと繊細さが交錯するライヴ・パフォーマンス、そしてなにより文学性や叙情性を感じさせるメロディー、日本人の心の琴線に触れる声を武器に、アラブ・ストラップの前座を務める傍ら、ドン・マツオのバック・バンドを務めるなど、邦楽洋楽の垣根を軽々と飛び越える稀有なバンドとして、存在感を示し続ける彼らの、待望の初公式音源にして、日本語ロックの新たなる金字塔。大名曲「イメージダメージ」「I Know, Why Not?」を含む全8曲、堂々完成。
YOMOYA / Yoi Toy
人懐っこくもオルタナティヴなバンド「YOMOYA」の2nd。 日本語ロックのニュー・スタンダードとも言うべき、ゼロ年代型シティ・ポップの名盤。 前作『YOURS OURS』より約一年ぶりの新作。
RECOMMEND
Owen / I Do Perceive.
EPに続いてリリースされたこの3rdアルバムは、シンプルながら、その一音一音があまりにも多くのものを物語る、芳醇の極みともいえる作品に。ポスト・ロック、音響、エレクトロニカ、スロウ・コア… その全てにリンクしつつも、どれとも異なる唯一無二な唄の力を感じられる、間違いなく彼のキャリア最高作。録り下ろしの新曲、『(the ep)』収録曲のラジオ・ライヴ・ヴァージョン、そしてあのExtremeno名曲のカヴァーという、ファン必聴の超レア・トラックスを追加収録。
L'Altra / TELEPATHIC
シカゴ音響派出身ならではの丁寧かつ繊細な音作りで、聴くものをL'Altraワールドへ誘い、ピアノやストリングスを用い、男女混声の透き通った音世界に感動さえ覚える。シカゴ音響派、スロウ・コア、サッド・コア近辺の音が好きな方にはおすすめの作品。
INFORMATION
- 2011/05/27(金)@下北沢club251
- 2011/06/19(日)@TOWER RECORDS新宿
- 2011/07/03(日)@TOWER RECORDS梅田NU茶屋町
PROFILE
YOMOYA
03年より活動するトリオ。08年6月、アルバム『YOURS OURS』でデビュー。ポスト・ロック、オルタナ、USインディー、フォーク、J-POPなどを消化した高次元の音楽性と人懐っこさが同居したサウンド、電飾を施したステージで繰り広げる激しさと繊細さが交錯するパフォーマンス、そして文学性や叙情性を感じさせるメロディー、日本人の心の琴線に触れる声が最大の特徴。11年5月、3rd『Yawn』リリース。
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