青山陽一5年ぶりのフル・アルバム配信開始!
ブルース、ファンク、ソウルをベースに、情緒、風情、わびさびを感じさせるポップ・ソングを発表し続けてきたシンガー・ソングライターの青山陽一が、5年ぶり、通算11作目となるフル・アルバム『Blues For Tomato』をリリースする。奥ゆかしさの中で時おり牙をむく、切なさと激しさを併せ持つメロディー。叙情的でロマンチックな反面、俯瞰的な冷たさをもつ歌詞と、独特のうねりをもつグルーヴ。今作は彼の天然のポップ・センスと思春期時代に吸収してきたブラック・ミュージックが、実に好バランスで融合している。
前作『DEADLINE』(2006年)をリリースした後、彼は1人弾き語りツアーを周り始め、ギター教室を開き、昨年開催された彼が敬愛するスティーヴ・ウィンウッドのカヴァー・コンテストでは青山陽一 the BM’sで全世界2位を獲得した。今回のアルバムの為にあらためてスタジオで録音された「Can't Find My Way Home」は、今作のボーナス・トラックとして収録。リリースは無くとも活動としては活発だったこの5年、どのような心の動きがあったのか。そしてその後に生まれた今作について、直接話を伺った。
インタビュー&文 : 水嶋美和
青山陽一 / Blues for Tomato
ブルースやソウル、ファンクをベースにしつつも、オルタナ~ポスト・ロック以降の世代や、キリンジなどの邦楽リスナーもすんなりと受け入れられるロック、ポップ・ソングを作り上げるその才能、センスはまさしく唯一無二! シンガー・ソングライター、ギタリスト、青山陽一のじつに5年ぶりのフル・アルバム!
【トラック・リスト】
01. 炎とは何のことか / 02. お花見ブルー / 03. Empty Song / 04. Claytown / 05. 毎度の調子
06. Blues For Tomato / 07. Life Is Very Short / 08. 新しいカメラで / 09. Cloudy Hazy
10. 25時 / 11. 夏は喧騒なり / 12. Can't Find My Way Home
本当に旅芸人ですよ
――フル・アルバムとしては5年ぶりのリリースとなりますが、この5年間の活動について教えてください。まず、Twitter(@yoichiaoyama)のプロフィールに「旅芸人修行中」とありましたが、1人で弾き語りツアーを始めたのはいつ頃ですか?
青山陽一(以下、青山) : 2008年ぐらいですね。それまではバンド中心で3カ月に一回のペースでしかライヴをやっていなかったんですが、そろそろ1人で全部成り立たせられるような力を付けた方がいいんじゃないかと思って始めました。
――そう思ったのはなぜでしょう?
青山 : 必要に迫られたんですよね。バンドで活動すると経費もかかるし、スケジュールを合わせるのも大変だし。1人で動けるようになる必要性が出てきたんです。
――弾き語りツアー以外に、新しい活動はありましたか?
青山 : 人とセッションする機会が増えました。2007年の正月からはギタリストの鬼怒無月さん主催の「新春ギターサミット」に出演していて、鬼怒さんと僕と酒井泰三さんと今堀恒雄さん、あとはナスノミツルさんがベース、植村昌弘さんがドラムでインプロビゼーションを毎年やっています。
――あまり青山さんに即興演奏のイメージが無かったのですが、それ以前にも即興でセッションすることはありましたか?
青山 : 今まではポップス畑の人と関わることが多く、鬼怒さんのようなインプロ中心で活動してる人とは接点はありませんでした。僕自身そこまで尖ったことをやってこなかったんですけど、即興には割と興味があったんですよ。
――やってみてどうですか?
青山 : やっぱり面白い! 自由に出来るし、とても刺激的です。あと最近、ギタリストの星川薫さんを中心にブルースのカバーばかりするバンドを結成しました。次のライヴが2回目で、まだバンド名も決まってないんですけど。これは活動というよりは同好会みたいなものですね。
――青山陽一 the BM’sとしてのバンド活動はどうですか?
青山 : the BMsも、2年前はオルガン・トリオとして固めていこうと思ってたんですけど、最近はトリオではなく4人になったり、ドラムとベースとギターだったり、編成がかなりフレキシブルになってきましたね。その日スケジュールが空いている人に声を掛ける感じで、ラフな形で続けています。
――この5年間はライヴを中心に活動されていらっしゃいましたが、活動の中で気になるのはギター・レッスンを始めたというところです。どういうきっかけがあって始めたのでしょうか?
青山 : 今年の頭からなので最近なんですけどね。なぜかと聞かれると、それはまあ仕事はした方がいいだろうという実質的な理由もあるんですけど(笑)。でもやっぱり自分の基礎を考え直すいい機会になっています。昔弾けなかったものが弾けるようになった理由を探ったり、面白いですよ。
――ライヴ、レッスンと忙しそうですが、楽曲はその合間に作るという感じですか? それとも一定期間に集中してまとめて作る?
青山 : ちょこちょこ作ってはいたんですけど、今作『Blues For Tomato』には10年ぐらい前の曲も入っています。最近の書き下ろしは「お花見ブルー」「毎度の調子」「Life Is Very Short」「Cloudy Hazy」「25時」「夏は喧騒なり」ぐらい。
――では、一番古いのは?
青山 : 「炎とは何のことか」「Claytown」「新しいカメラで」ですね。
――そうなんですね。古い曲を新作のアルバムに入れることはよくしますか?
青山 : いや、そういう発想は今まで全然なくて、今作も全部書き下ろすつもりだったんです。昔の自分が考えていたことを、今の作品に収録するのは何だか後ろ向きな気持ちだなと思って。
――そこを踏みこめたのは、何か心境の変化があったのですか?
青山 : 作った当時はそこまで思わなかったけど、聞き返すと結構いい曲あるなと思って。使わないと勿体ない気がしてきたんですよね。
――歌詞の書き直しはしましたか?
青山 : ちょっと直したり、タイトルを変えたりはしたけど、大幅には変えてはいないですね。でもそれにしては、奇しくも今年の3月11日以降の感じがする歌詞も結構あるなと思ったりして。不思議だなと思いました。
――例えば、どこの部分でしょう?
青山 : 一曲目の「炎とは何のことか」の最初「ある日試験中 白衣まとって/小さな猛獣 隔離している」とか、「仕方ないのは知っているが/君は家には帰れない」とか。まあだから何だって話ではないんですけど。元々悲観的な歌詞が多いし(笑)。
――青山さんの歌詞って第一印象としては柔らかいんですけど、核心を突くような言葉がよく隠れている気がします。歌詞はどこから書き始めますか?
青山 : いかがわしい歌が結構多いなと自分では思うのですが(笑)。コンセプト立てて歌詞を作る方ではなく、音楽と並んだ時によく響く言葉を選んでますね。歌詞に自分の主張を入れることはないです。
――でも、青山さんの歌詞には情景がありますよね。
青山 : そうですね。何を言いたい訳ではないんですが、書いているうちに何となく情景が見えてきたり、話が出来上がっていったりはします。
――曲はどういう風に作りますか?
青山 : 今作ろうと思ったらすぐに作れるタイプです。
――では、作れなくなったことは今までありましたか?
青山 : それはないかな。だって、3つぐらいコードを並べてメロディを付けたらもうそれで曲は出来るじゃないですか。出来の善し悪しは別ですが、その時気に入らなくても残しておいたら後々気に入るかもしれないし。
――今作で一番古い曲が10年前ということで、そこから多くの楽曲を作ってきたかと思うのですが、その中で今回のアルバムに入れる基準となったのはどこですか?
青山 : 基準… 何でしょう。でもたくさんある中からいい曲を選りすぐったというよりは、古い自分の曲を掘り出して「お、使えるな」と思って拾い集めてこのアルバムが出来たので、言葉でうまく説明できる基準ってそんなにないんですよね。たまたま今の自分にひっかかるメロディや何かがあったんでしょう。
これから一体僕に何が出来ることやら考え中
――Grandfathersを85年に結成してから25年以上のキャリアとなりますが、Grandfathersを始めた頃はどういう音楽(活動)をしようと思っていましたか?
青山 : 若い頃だったので、人のやっていないことをやってやろう、驚かしてやらないと世には出れないぞという気負いはありましたね。音楽としては、メンバーの趣味がバラバラだったのでどういうものになるかわからず、やみくもに手探りし続けていました。
青山 : 21歳で始めて、28歳までやってたのかな。最近また活動を再開したんですが、当時とは全然違うものになっていますね。
――40過ぎて、どういう風に変わりましたか?
青山 : 解散後もそれぞれで音楽を続けてきて、そこで得たものを持ち帰ってまた一緒にやっているので、音楽的には大きく変わりました。あと、昔は僕が作曲とボーカルを全部やってたんですけど、今はみんな作って来て、それぞれ歌う。完全に3等分でやってますね。
――Grandfathersが青山さんにとって初めてのバンドですか?
青山 : そうですね。
――それ以前に音楽活動は?
青山 : 中学生の頃にギターを始めて、その時は学校の文化祭に出るぐらい。でも割と早い時期からオリジナルを作っていたので、中高生にやり始めたことの延長でやっている感覚は今もあります。やっぱり思春期に聴いていた60、70年代のブルースやブラック・ミュージック、そこから派生したロックの影響は大きいので、結局そこに戻っていきますね。
――今まで音楽をずっと続けてきた中で、変わらないものはありますか?
青山 : やっぱりグルーヴのあるもの、体を動かしたくなるビートやリズムやファンクな感じの音楽を作り続けたいというのはありますね。あまり僕の音楽にそういうイメージは無いかもしれないけど、ダンス音楽という認識で作ってます。
――ポップスは意識しますか?
青山 : いろんな人が「ポップじゃなきゃ」って言うけど、果たしてポップとは何なのか、最近特にわかんなくなってきてます。みんなで楽しめるものであればポップなのかもしれないし、「ポピュラリティー」という意味では売上に結びつくものこそがポップなのかもしれないし。理屈っぽくなってもあまりよくないので、そこはそんなに考えないですね。気持ちいいビートと素敵なメロディがあれば、後は運を天に任すしかないです。基本的にはブルースやソウルの人間なので、本当はもっと太い声でシャウトする音楽がやりたいんですけどね。でもこういう声しか無いので、これに合った音楽を作らざるを得ない。そこらへんはいつも葛藤してます。
――青山さんのブログを拝見しましたが、今年の8月で48歳になられたんですね。そこで「まだまだ磨かねば」と書かれていましたが、今後の活動について教えてもらえますか?
青山 : うーん… まず、新作に向けてって話でも、このアルバムというフォーマット、概念自体がいつまで成り立つのかもわからないしね。
――成り立たなくなるとすると、単曲販売のみ?
青山 : 単曲で配信のみになるとか?
――でも曲数もアルバム・タイトルも曲ごとのタイトルもジャケットも全部含めての作品だし、そこに価値があるという認識は変わらないかなと思うのですが、どうでしょう。
青山 : もちろんそういう感覚は無くなってほしくないと思うんだけど、自分を振り返ってみるとアルバムを最初から最後まで聴くことってそんなに無いし、全部PCに入ってるからつまみ聴きが多いしね。最近アナログ盤を好む人が増えてるみたいだけど、世の中全体の動きとしては、物に愛着をもつ人は減ってきてるんじゃないかな。
――では、成り立たなくなったとして、青山さんはどうしますか?
青山 : どうなるんだろう。ライヴが無くなることはないと思うんですよね。生演奏をする人が居て、それを聴く人が集まるという空間自体は。録音物も本当は無くならないで欲しいですけど、今はタダで音楽が手に入ってしまう時代なので、産業としての音楽は危ういところまで来てるんじゃないかな。考えなきゃいけないですよね、残っていくためには。それでも無くなってしまったら、そこからは本当に旅芸人ですよ(笑)。
――これから新たに挑戦したいことはありますか?
青山 : 挑戦… あまり考えたことないですね。現状維持という訳ではないけれど、このままクオリティを上げ続けて音楽をやっていければと思います。他に何も出来ないし、もう引っ込みのつかない年齢にもなってきたので。これから一体僕に何が出来ることやら考え中。日々、悩んでおります(笑)。
LIVE INFORMATION
2011年10月29日(土) @仙台PETER PAN
2011年11月03日(木・祝) @梅田ムジカジャポニカ
2011年11月04日(金) @京都SOLE Cafe
2011年11月05日(土) @名古屋parlwr
2011年11月23日(水・祝) @タワーレコード新宿店7F
2011年11月25日(金) @大分AT HALL
2011年11月26日(土) @熊本・長崎書店3階リトルスターホール
2011年11月27日(日) @福岡Juke Joint
2011年11月30日(水) @下北沢lete
2011年12月10日(土) @吉祥寺ROCK JOINT GB
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PROFILE
青山陽一
1963年8月26日、長野市生まれ。1985年からGrandfathersのメンバーとして活動し、解散後の1992年よりソロとして活動開始。シンガー・ソングライター、ギタリストとして2006年までに10枚のアルバムを発表し、近年はさまざまなフォーマットでのライヴ活動と、復活したGrandfathersでも活動中。2009年の5曲入りCDに続き、2011年は11枚目のフル・アルバム『Blues For Tomato』がリリースされる。