mmm INTERVIEW
都内ライヴ・ハウスで撒かれているフライヤーでよく目にしていた「m」3つ。周りのコアな音楽好きからしきりに聞かされていた響き「ミーマイモー」。あまりにもよく目にする/耳にする名前なので、まずは「m」3つの人の存在を確かめるべくライヴに行ったらMCで「ミーマイモーです」と挨拶をしていて、なんと、同一人物だったのか! と驚いたのが2009年。ちょうど彼女がファースト・フル・アルバム『パヌー』をリリースした頃だった。一聴して、その高い歌唱能力とソングライティング力に二階堂和美を思い起こしたが、肝となる部分が違う。きっと、mmmの声と作る曲にはその全てに「女の悲しみと色香」が漂っていて、声が伸びきった後の空白の時間にそれが顔をのぞかせるのだ。観終わった後、心に沈黙とピリリとした刺激が走る。
そんな彼女が、この度新作『ほーひ』を発表する。まず気になったのはタイトル。そして中身を聴いて気になったのは、シャンソン、ポップス、昭和歌謡、童謡、ジャズというジャンルの雑多感。彼女がどういうものを愛し、どういう風に曲を作っているのか。まだまだ謎だらけの彼女の経歴を辿りながら、ゆっくりと紐解きたい。
インタビュー&文 : 水嶋美和
みんなでうたおう! ミーマイモー!
mmm / ほーひ
前作に引き続き、下田温泉(ドラム)、千葉広樹(ベース)、宇波拓(エンジニア、ギター他)を基本メンバーに、さらに多数のゲストを迎えた演奏の記録。心に染み渡るビタースイートな歌声、思わず顔がほころぶユーモア。和やかなフォーク・ポップや、GS調のアップテンポなガレージ・ロック、黒人音楽の雰囲気を感じさせるスローなバラードまで、すっと肩の力を抜かせてくれるようなあたたかな歌、全12曲。
「とりあえず何でも経験しとけ」というスタンス
――「m」3つで「ミーマイモー」って、最初はなかなか読めませんよね。
mmm : そう思います(笑)。元々は本名で1,2回ライブしたんですけど、しっくりこなくって。酔っぱらってアルファベットの「m」をいっぱい紙に書きなぐりながら、この名前で活動しようと決めました。
――本名がしっくりこなかったということは、音楽をやっている自分と普段の自分を切り離したかったから?
mmm : 何となく、オルター・エゴ(別人格)を作った方が良いと思ったんですよね。
――mmmさんの略歴を見ながらお話を聞かせてください。87年千葉生まれ、横浜育ち。その後シンガポールへ移住、アメリカの芸術専門校に入学・卒業、で、日本に帰ってくると。87年ということは… 。
mmm : 今は24歳で、今月で25歳になります。シンガポールに移ったのは父の仕事の都合で、小学校3年生の頃ですね。
――アメリカへの移住は単身ですか?
mmm : そうですね。年齢的には高校入学のタイミングです。
――その年で一人でアメリカに音楽を学びに行くってなかなか出来ないことですよね。ゆくゆくは音楽を仕事にしたいと思っていた?
mmm : いや、ただアメリカに行きたかった(笑)。というより、その頃親が日本に帰ることが決まっていて、一緒に日本に戻りたくなかったんです。そこで姉がアメリカの大学に行くと言いだしたので、私もそこに乗ったんです。アメリカと言っても州が違うから結局遠いんですけどね。だから、音楽で食べていけるようになりたいとまでは考えてませんでした。
――では、アメリカもフルートも日本に戻らないためのきっかけだったんですね。
mmm : そうですね。小さい頃から日本を離れていたので、変な偏見を持っていて、絶対私には合わないと思ってました。あとは「音楽やってるなんてクールじゃね? 」ぐらいにしか思ってませんでした。
――向こうでの生活はどうでしたか? 略歴には「アメリカの良い物悪い物全て吸収し(特にヒッピー・カルチャー)、なんとか卒業」と書かれていますが。
mmm : ヒッピー・カルチャーというより、アートスクールの流行りでした。ドレッド・ヘアーで「LOVE & PEACE」って言ってたなぁ(笑)。
――mmmさんもドレッドだったんですか?
mmm : してましたよー。臭かった! 埃がどんどん溜まっていく感じ。からの坊主。でも、そういう経験があったから今の自分はこうなんだろうなと思います。
――こう、というと?
mmm : オープンな考え方になりましたね。今は「とりあえず何でも経験しとけ」というスタンスです。
――しかしドレッドでフルートって絵的に珍しいですよね。
mmm : 普通はそう思いますよね。クラシック・フルートで入学したんですけど、クラシックはオーケストラに入る為のオーディションなんかがあって、何度も落ちて、挫折したんですよ。もっと自由で楽しくやりたかったんでジャズに移りました。
――となると、ジャズ・クラブで演奏したりしたんですか?
mmm : うちの高校はすごく田舎にあって、町にクラブがなかったんですよ。町に出れるのも週末だけ。生徒と先生、事務員を合わせても500人いないような小さなコミュニティーの中で暮らしてました。授業中にセッションしたり、芸術全般の学校だったので月に1回学園祭とか、発表会のようなものがあって、そこで演奏したり、それぐらい。でもフルートにはずっと自信を持てませんでしたね。真面目な楽器だなあと思ってました。
――高校卒業前にロック・バンドを結成してベース・ボーカルを務めたとありますが、人前で歌うのはこの時が初めて?
mmm : カラオケ以外ではそうですね。そのバンドでは2曲しか作らなかったんですけど。
――ちなみに、どんなロック・バンドだったんですか?
mmm : うーん、何と言えばいいか… オルタナ・ロックなんじゃないかな。ギターはソニック・ユースが大好きだった。でもライヴっていうことも2回ぐらいしかしなかった。
――その頃、歌いたいという気持ちはありました?
mmm : あまり自覚はしてなかったです。でもフルートって口に楽器が付いていて、指と口と喉を使って演奏するじゃないですか。それが口と喉だけ使うって、楽ちんに自分の出したい音を出せるんだな、とは思ってました。
――歌うこととフルートを吹くことは別の感覚ではないんですね。
mmm : そうですね。両方歌ってます。
主婦って残酷なんですよ
――で、帰ってきたのは高校卒業後の2005年。そのままアメリカにいようとは考えなかったんですか?
mmm : 大学はアメリカで決まっていたんです。あっちは夏卒業で、大学入学のためにビザを取り直そうと一時帰国したら「日本に住んでいた期間が短すぎる」という理由でビザがとれなくて、そのまま日本に残らなくてはならなくなってしまったんですよね。「米国に移住してそのまま向こうの職につかれたら困る」ということだそうです。
――なるほど。自分の意志で戻った訳ではないんですね。
mmm : そう。急に日本に帰る事になってしまって、アメリカの友達と「一緒の大学行こうね」なんて約束してたのに、別れる気もなく別れちゃった。もう、荒れましたね。
――でもギターを始めたのはその頃ですよね。なぜギターだったんでしょう。
mmm : その頃には歌うことが好きになってたんですよね。卒業前に友達とよくフリー・セッションしてて、その中で歌う楽しさに目覚めたんです。でも日本では友達もいないし、伴奏も自分でやらなきゃいけないということでギターを始めました。 それと、高校卒業してからフルートを吹く機会もなくなったし、実際あまり好きじゃなくなっていたのでフルートは、やめました。何年か後にフジワラサトシくんに誘われるまでフルートは封印してました。
――ライヴ活動は七針(東京・八丁堀にあるアート・スペース)からですか?
mmm : そうですね。無謀にもギターを始めて半年ぐらいで。mixiのおもちゃ楽器のコミュニティーで七針の店長が出演者を募集していて、連絡したのが最初です。「とりあえず来て演奏して」と言われて行ったら、林谷さん(店長)が足組んでスコッチ持って煙草吸いながら私が歌うの見てて、「こえー」って(笑)。人前で一人で歌うのはそれが初めてでした。そこからよく通うようになりました。
――mmmさんの歌には「女の悲しみ」があると思うんです。そこが叙情的で素敵だなと。曲はどういう風に作っていますか? 以前のインタビューでは夜中に酔っ払っている時や朝起きてシャワー浴びてそのまま素っ裸で作ってると話されていましたが。
mmm : 今もそんな感じです(笑)。
――酔っぱらってる時って必要以上に感情的になりますよね。よく酔っぱらって帰ってTwitterでツイートを連発して、朝起きて焦って全部消すという一連の作業があるんですが(笑)。
mmm : うん、わかりますよ(笑)。私も酔っぱらってる時にばーっと紙に書き散らすんだけど、次の日には添削してます。
――でも、酔っぱらってる時にしか出ないような良い素材が残っている?
mmm : そうですね、普通の状態では思い浮かばない様な言葉の選び方や演奏の仕方をしてる。お酒はガソリンで、エンジンがかかるんです。
――本作を聴く前にまず気になったのは、『ほーひ』というタイトルです。このほーひって… ジャケット的にも… 。
mmm : 風がね(笑)。
――そよいでますよね。いや、そよいでるどころじゃないですね(笑)。つまり「放屁」ということで間違いないですか?
mmm : まぁ、そこを強くは言いたくないんですが、そうです。これは半年ぐらいで作ったアルバムなんですけど、曲もぽんぽんできちゃって録音も一日でほとんど録ったし、だからなんか、「プッ」みたいな。
――(笑)。12曲分の放屁なんですね。
mmm : ミックスもマスターもそんなに時間をかけなかったし、本当に出た状態のままなので。あと、意味よりも響きが好きなんですよね「ほーひ」って。
――前作の『パヌー』や「ミーマイモー」も、伸ばす感じが好きなんですね。
mmm : そうですね。
――ちなみにこれも前のインタビューで拝見したのですが、前作『パヌー』のタイトルは生き別れた兄、「パヌーお兄ちゃん」からとったとの話でしたが… 。
mmm : あれは、嘘ですよ(笑)。
――嘘ですか!
mmm : みんな素直ですねえ。アニス&ラカンカ(mmmと見汐麻衣(埋火)によるユニット)はニュージャージーから来た16歳と18歳という設定なんですけど。
――いや、それはさすがに信じないです!
mmm : でもこの前熊本に遠征した時に「本当に16歳なんですか? 」って質問されたんですよ。罪悪感すら感じますね。
――では、最後の曲の「ケンちゃん」は実在するんですか?
mmm : 実在しません。これは吉本興業で働いている友人からキュートン(椿鬼奴、くまだまさし擁するお笑いユニット)のDVDに中華屋さんのシーンが出てくるから、そこのBGMを作ってくれと依頼されて作った曲なんです。結局「いい曲すぎる」という理由でボツになりましたけど(笑)。その時に「こういうのがいい」と言って見せられたのが昔のドラマ「ケーキ屋ケンちゃん」だったんです。
――「ケンちゃんシリーズ」ですね。
mmm : そういう経緯があって、この曲は一度「ケーキ屋ケンちゃん」の曲をコピってから自分のものに変えていったんです。だから実在しないという訳ではないのかな? それで、「ケンちゃん」がボツになって、「ぼくんち中華屋」を作りました。 これも結局ボツになったけど、、。曲についてはほとんど本当のことを元にしてますよ。
――「主婦は残酷」はフィクションですよね?
mmm : 私主婦なんで。実話ですよ。
――ええ! 若くしてご結婚されたんですね。「女の悲しみ」とか言ってしまってすいません。
mmm : いえいえ、結婚してるからこそにじみ出ているのかもしれないし。私だけかもしれないけど主婦って時に残酷だなと思います。
――でも、そうなると一人でお酒を飲んで曲を作れる時間ってあまりないんじゃないですか?
mmm : 昼がありますよ(笑)。でも確かに、結婚して一緒に住むようになってからはしばらく曲を作れませんでしたね。あと、毎回お酒飲んでる訳じゃないですからね(笑)。
――ああ、すいません(笑)。前作『パヌー』でも感じたことなんですが、今作『ほーひ』は前作以上に曲ごとのジャンルに富んだ作品だなと思いました。童謡、歌謡、シャンソン、ジャジーなものもあれば直球のポップスもある。どういうところから影響を受けていますか?
mmm : 高校でセッションしてたのは確実に影響があると思うんですけど…。音楽を聴くということにおいては、あまり、自分で音楽を掘っていくことはしないんですよね。だから周りの人達かなあ。
――mmmさんはソロの他にもアニス&ラカンカやMARIA HATOでも活動されていますが、ユニットごとに棲み分けはありますか?例えば、アニス&ラカンカ。
mmm : アニカンですね。
――アニカンって略すんですね(笑)。ちなみにアニスとラカンカの関係は?
mmm : 私がアニスで、ラカンカの妹です。ニュージャージーから来たんだけど、お金がないから帰国できてなくて、旅費を稼ぐために音楽をやっているんです。うちら、本当にすごいんですよー(笑)! 私が低めの声、ラカンカが高めの声で、それが一緒になるとどっちがどっちかわかんなくなる感じがあって、いいんです。曲調も、お互いそれぞれの活動で作るのとは違う色合いが自然に出てくるし。アニカンの方がmmmソロよりも明るいですね。
――では、MARIA HATOはどうでしょう。「troubled mind」のライヴ映像を見て思ったんですけど、あれって即興ですか?
mmm : 2008年からやってます。最初は即興っぽい感じでやっていたんですけど、最近はかちっと決めてやっています。曲は主に私が作ってるんだけど、アレンジなんかは柱谷さん (g/b)とたかはしようせいさん(Dr)が引っ張ってくれます。ソロよりもオルタナティヴな感じですよね。あと「troubled mind」のようにmmmの曲をハトでもやってますけど、アレンジをガラっと変えてます。マリアハトもかっこいいですよ(笑)。
――mmm、アニス&ラカンカ、MARIA HATOで曲を作る上で気持ちの違いはありますか?
mmm : アニカンは見汐さんと作ってるから置いておくとして、mmmとマリアハトに関しては作った後に「これはmmmっぽい」「これはハトっぽい」と分けるんです。作る時点ではどっちがどっちというのはあまり考えてないですね。
――他にもoono yuukiバンドや王舟バンドでフルートを吹いたりTenniscoatsやOGRE YOU ASSHOLEの音源に参加したりと忙しそうですが、音楽が嫌になることはありませんか?
mmm : ないですよ。楽しいですから。自分が嫌になることは多々ありますけどね!
――では最後に、今後やってみたいことはありますか?
mmm : 打ち込みで、ちょっとダンサブルな曲を作ってみたい。でも自分一人じゃできないから誰かいい人を見つけなきゃいけないんですね。あと、しっかり楽譜を描いてオーケストラのようなことをしてみたいです!
――音楽面ではまだまだ広がりがありそうですね。
mmm : はい。あと他にやりたいことは… 楽しく生きたいです(笑)。いつ死ぬかわからないご時世ですし、もっと行動に移していきたいです。
mmm『ほーひ』release party
2012年3月16日(金)@渋谷 7th FLOOR
T.B.A...
kiti label Archives
麓健一 / コロニー
中村宗一郎氏をエンジニアに迎え、初のバンド編成でのスタジオ・レコーディングを敢行。スッパマイクロパンチョップによる予測不能で遊び心溢れるドラミング、それを支える緻密でふくよかな旋律の端子のベース、お転婆でありながら流れるようなホソマリのピアノが加わり、瑞々しい躍動感が生まれ、新たな側面を提示することに成功している。一方で自宅録音されたシンプルなアコースティック・ナンバーは言葉とメロディの魅力をストレートに伝えている。
平賀さち枝 / さっちゃん
いまだあどけなさの残る淡く透き通った歌声と、軽やかなガット・ギターにのせて、春を運ぶ歌い手、平賀さち枝のファースト・アルバム。oono yuuki、シャンソンシゲル(ゲラーズ、トクマルシューゴ&ザ・マジックバンド)、笹口聡吾(太平洋不知火楽団)、後藤勇、参加。録音/ミックス/マスタリング・エンジニアは、ゆらゆら帝国はもちろん、OGRE YOU ASSHOLE、浜田真理子、などの仕事でも知られる中村宗一郎。
oono yuuki / stars in video game
oono yuuki、バンド録音による初フル・アルバム。バンド・メンバーは、ギター、マンドリン、グロッケンなどを演奏するoono自身の他に、麓健一(キーボード、フルート)、mmm(ミーマイモー)(フルート)、たかはしようせいfromマリアハト(ドラム)、フジワラサトシ(ギター)、浜重真平(ベース)、ナガヤマタカオ(チェロ)を迎えた計7人。レコーディング・エンジニアには大友良英の諸作や、ROVOなどを手掛けるGOK SOUNDの近藤祥昭を迎え、アナログ・テープ録音によってバンドが持つ生々しさを、その場の空気まで含めて鮮やかに捉えることに成功している。祝祭をイメージさせる壮大さと、繊細なミニマルさを併せ持ったインストゥルメンタル作品群に加え「motor park」、「四月」など5曲ではヴォーカルも披露し、映像や風景を喚起させる独特な詞と淡々と紡がれる切なくフォーキーなメロディが郷愁を誘い胸を打つ。
mmm PROFILE
千葉生まれ、横浜育ち。 シンガー・ソングライター。英語が堪能。 09年春、初の音源となるCD-Rアルバム『fvetill』を鳥獣虫魚より発表、CRJ-tokyoに初登場1位。プロデュースに宇波拓を迎え、不思議なファースト・フル・アルバム『パヌー』をkitilabelより09年12月にリリース。10年6月に宅録音源、『フーアーユー』を美人レコードよりリリース。「マリアハト」というバンド、埋火の見汐麻衣とのユニット「アニス&ラカンカ」でも活動中。oono yuukiバンド、王舟バンドでフルートも吹く。