エレクトロ・シーンの震源地
いま関西のエレクトロ/エレクトロニカ・シーンがおもしろい。AUTORA、SUZMENBA、dubdub on-sengという旬なアーティスト3組が揃って新譜をリリースし、その勢いは確実に全国へと飛び火している。OTOTOYでは、関西のエレクトロ・シーンでなにが起きているのか? を探るため、自らdj colaboyとして活動する一方で、バイヤーとしても絶大な信頼を集めている関西の音楽シーンのキーマン、森田氏へ直撃インタビューを試みた。歴史を遡って紐解いて見えてきたものとは?
関西のエレクトロ/エレクトロニカ・シーンを盛り上げる3組の新作を配信中!!
AUTORA / AUTORA
国籍不明の民族音楽? 辺境の地の電子音楽? 第三世界の流行曲? 元TANZMUZIK、Hoodrumのヤマモトアキヲと、speedometer.こと高山純。エレクトロニカ、アブストラクト、テクノ、アンビエントを超え、2人のマエストロが到達した新境地。それは“グローバリズム”と“モダニズム”に逆行する“エキゾ・ミュージック”の新機軸。不可思議なサウンドで結成当時から話題騒然の“AUTORA(アウトラ)”待望のデビュー。
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SUZMENBA / Because brain tells me!
耳に残る旋律と新しい言語感覚は、気がつけば口ずさんでしまうポップ・ミュージック! 脳が教えてくれた音楽! ハッピーな音楽! いろいろなものに虜にされたあげくにできた音楽! 楽しく歌い楽しく演奏。ときにバキバキときにゆるゆる。聴く時の気分や場所によって、万華鏡のようにくるくると変化するきらびやかな作品です!
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dubdub on-seng / Tropical Garage
ラテン、カリプソ、サーフミュージック、はたまたアンビエントからテクノまで、この凄まじく美しいキャリアと(バカ)テクニックを持った二人が、ギターとドラムのみで繰り広げるトロピカルでマジカルなご機嫌ミラクル☆ワールド。もしくは壮大なギャグ! ? 2010年夏、ダブダブ旋風到来〜〜〜〜〜〜〜!!!
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世界中で最高に面白いことが起きている〜dj colaboy INTERVIEW〜
関西の音楽シーンと一括りにされども、やはり街ごとに色はある。今回はリリースされるAUTORA、SUZMENBA、dubdub on-sengにちなんで、大阪と京都を比較しつつ、関西におけるエレクトロ・シーンについて、TSUTAYA西院店(全国のTSUTAYAの中でも類を見ない程のディープなセレクトで、コアな音楽ファンやアーティストを従業員に擁している)バイヤーでもあるdj colaboyこと森田氏の手を借り、深く探って行きたいと思う。
音楽の中で面白い事をやるか、面白い事をやるための音楽か。どちらが先に来るかで音楽の色は大きく変わる。そして恐らく、大阪の音楽シーンは後者に当たるだろう。面白いか否か、判断されるのはまずそこだ。あふりらんぽ、オシリペンペンズ、BOGULTA、DODDODO、neco眠る。強烈なインパクトと影響力を与えるアーティスト勢が、世界で一番面白い事をすべくしのぎを削り合う大阪アンダーグラウンド・シーン。彼らの音楽に共通する「両極端な奇妙さとポップさの同居」はどこから来るのだろうか。
「僕はイルリメ君のファンで、当時、彼がほぼレギュラーで出演していた『狼煙』や『波華横丁皿三昧』といったイベントに通っていたのですが、ある時『波華〜』にゲスト出演していたOORUTAICHIに大層驚愕した記憶があります。大阪のアンダーグラウンドのイメージは僕の中では彼に集約されているので、一言で言うと”エキゾ”でしょうか。彼の弟のBIOMAN擁するneco眠る、AUTORA、ALTZさん… 皆エキゾチックだと思います。『波華横丁皿三昧』自体とても濃いイベントで、CDRしかリリースされていないような西海岸のアンダーグラウンド・ヒップ・ホップの音源だけでDJをしたり、GEBOさんやART OF VIBESのメンバー、イルリメ君がフリー・スタイルしていたり、MIX CDやオリジナル音源を毎回配布していて、1回行くと10枚くらいCDが貰えたり、サービス精神旺盛な濃いイベントでした。」
確かに大阪にはアイデアに富んだ濃いイベントが多い。アイデアが実行と直結しているのは、思い立ったらすぐ行動のせっかちな大阪人の気質のせいか、商人の町である大阪の街の気質のせいか、単なる面白い事好きなだけか(おそらくこれだろう)。そして関西エレクトロ・シーンを語る上で外せないのは、やはりOORUTAICHIの存在だ。筆者も彼を初めて知った時にとてつもない衝撃を受けたのを覚えている。そして彼のライヴを追いかけるうちにDJ SHABUSHABU、真保☆タイディスコ、gulpepsh、KA4Uと、どんどんシーンのディープな方に向かっていった。そうやって芋づる式に聞いた事の無い音を掘り当て続けると、その先はすべて同じ根っこ=MIDI_saiというKA4U発のブレイク・コア・イベントでつながっていた。大阪にはMIDI_saiがある。では、森田氏の住む京都の音楽シーンはどこを中心に盛り上がっているのだろうか。
「やはりMETROじゃないでしょうか? 京都エレクトロニカ・シーンの重鎮・PsysExこと糸魚健一氏が店長を務めてらっしゃいますし。」
京阪を神宮丸太町駅で降り、地上に上がるまでに見えてくるクラブ兼ライヴ・ハウス「CLUB METRO」。ありとあらゆるジャンルのイベントが連日行われているため、付近でたむろしている人の客層が日によって年齢から服装まで全く違うのが面白く、近くを通りかかる時にはよく観察していた。そして音楽イベントのみならず、映画や文学などをテーマにカルチャー・スクールを開き、講師を招き講演会を開いたり映画上映会を実施したりしている。今ある京都のアンダーグラウンド・カルチャー/サブ・カルチャーを守り、作り、発信してきた場所の中でも、ひと際大きな存在だろう。そこの店長である糸魚氏について、彼はこう述べる。
「レイ・ハラカミやRUBYORLAの影響力も多大ですが、自分でイベントを企画し海外アーティストを招聘して“シーン”を作り上げているPsysExは京都エレクトロニカ・シーンを語る上でまず欠かせない存在でしょう。METROの名物エレクトロニカ・イベント『PATCHWARE ON DEMAND』には、カールステン・ニコライ、フェネス、テイラー・デュプリー、ミカ・ヴァイニオ、そして今度はオヴァルが来るそうですし、エレクトロニカ/サウンド・アートの主要アーティストのほとんどが京都公演の際にMETROを訪れています。これはやはり糸魚さんの尽力による所が多いと思います。マニアックな電子音響のイベントにも結構、人が入っていたりしますしね。」
しかし、無論METROだけではない。大阪と同様、京都でも夜中各地で音楽が鳴らされている。
「東京にはOATHの様なフリーもしくは安価で、敷居は低いけど踏み入れたらディープな音楽に触れられるDJバーがあり、常々うらやましく思っていました。けれど、糸魚さんが七条河原町ZEN CAFEでフリーで行っていた『page of documents』というラウンジ・パーティーが9月より北白川のprintzで再開予定で、これは結構面白いと思います。京都でもCAFE INDEPENDANTS、JAPONICA、VILLAGE、nanoなどではフリーのDJパーティーが行われているので、ちょっとでも興味のある方は足を運んでみればよいのではないでしょうか? 」
今回ファースト・アルバムをリリースするAUTORAは、TANZMUZIKやHOODRUMで知られる鬼才ヤマモトアキヲとspeedmeter.こと高山純で構成されている。エレクトロニカ黎明期から活動しているというが、今ではすっかり日本に浸透したこのジャンル。黎明期には他にどんなアーティストが居たのか。
「まず、AUTORAの場合はエレクトロニカというより日本のテクノ黎明期では無いでしょうか。エレクトロニカとはAphex TwinやAutechreの様な、どちらかというとホーム・リスニングのための音楽です。ちなみに混同されがちなエレクトロは、元々はAfrika Bambaataaや昔のDr.DreとかHIP HOPの一種なんですね。今はまた違う感じの音を指す言葉になっていると思いますが、ロックの要素が強いダンス・ミュージックの事を指します。テクノは4/4拍子のダンス・ミュージックでエレクトロよりもっとシンプルでストイックなイメージです。はっきりと区別するのは中々難しいですね…。AUTORAのヤマモトアキオさんは、田中フミヤさん主宰の‘とれまレコード’から作品をリリースしていました。DJユースに特化した日本のインディー・テクノ・レーベルの走りです。CDでのリリースもありますが、ほとんどが12インチでのリリースで、90年代前半には石野卓球も変名でリリースしています。」
「そして、日本でエレクトロニカの火付け役となったのは、間違いなく当時京都に住んでた青木孝允(音楽)と高木正勝(映像)によるsilicomだと思います。アルバム・デビュー前に2000年に岐阜のIAMASで行われたライヴを見て、他に類をみない生々さのある電子音楽で驚愕した記憶があります。」
ここまでの話を聞くと、日本のエレクトロニカは京都から派生した様に思えるが、
「そこまで大げさなものではありません。けれど芸大生など若いお客さんも多いので、活気があって盛り上がっているというのは事実ですね。」
さすがは学生の街・京都といったところだろうか。
「傾向として、やはりsilicom以降は音と映像のユニットが増えましたね。最近ではintextというユニットがスタイリッシュでオススメです。イベントではCAFE INDEPENDANTSで行われている『nightcruising』がオススメです。ライヴもDJもエレクトロニカ・オンリーで、良質な電子音楽が安価で楽しめます。」
では最後に、バイヤーとして、関西シーンの土壌や傾向をどう思うか尋ねてみた。
「僕の勤務しているTSUTAYA西院店、JETSETさん、TOWER RECORDSさんあたりが京都では大手だと思いますが、皆それぞれ制約がある中で担当者の趣味をゴリ押してる感じはあります。アーティストの皆さんも商業的に成功する、というよりはマイ・ペースでやりたい事をやっている感じはします。それが商業的な成功に繋がれば何よりですが。」
関西音楽シーンに見える良い意味での切迫感の無さは、恐らくここから来ているのだろう。生活を目的としないからこそ、仕事ではなく表現活動として音にストイックに向き合えている。まだ誰もやっていない事を探すべく、好奇心に任せて突っ走れる。
以前、ファンジン『StoryWriter』内のインタビューでneco眠るの森雄大が「世界で一番面白い事が身近で起こっている」と答えていたのに対し、深く共感した記憶がある。エレクトロニカに限らず、むしろ音楽に限らず、関西のアンダーグラウンド・シーンで起こっている事は、世界を見ずとも世界レベルで面白い事だと確信できる。大げさだと思うなら、とりあえず来て見てほしい。納得させられる自信は大いにあるのだ。(text by 水嶋美和)
SUZMENBA過去リリースの2作品も同時配信!
SUZMENBA / enitohanicolte
男女混合ボーカルにラップ感覚の歌唱、エレクトロニカでもありフォークでもあり、ただただ気持ちよく聴かせられるポップ楽曲群! プレイ・ボタンを押せば、やさしさ・あたたかさ・かわいさなど、陽の部分を大いに感じるグッド・ミュージックの数々に顔がゆるみっぱなしになることは確実!
SUZMENBA / faint memory
本田未明の移り行く感情を火薬にして作った、カラフルで大きさのまちまちな癇癪玉が全部で19個。耳元で心地良く破裂するSUZMENBAの極上ポップス・ソング・アルバム! やんちゃなのに、しっかり聴かす極上メロウと朴訥な空気感! 京都の春風に乗ってザラザラと走り回れ!!
関西発エレクトロ/エレクトロニカの注目盤
shabushabu / SONO FX
伝導バイクで巡る東海道五十三次! ? 前人未到の未開拓ビーツ〜しびれクラゲの盆踊りまでをひとつのポットに! 京都が世界へと誇る、これぞ奇天烈メイド・イン・ジャパン! ゲストには盟友、ウリチパン郡のOORUTAICHIをはじめ、元SUBHEAD(サブヘッド)のJason Leach(ジェイソン・リーチ)などが参加しているほか、現場で大きな支持を得ているKABAMIX(カバミックス)がマスタリング、元 CITRUS(シトラス)で現在は、yoga'n'ants(ヨーガンアンツ)としても活躍中のtone twilight(トーン・トワイライト)の江森丈晃(エモリ・タケアキ)が前人未到のアートワークを手掛ける完全布陣。2009年大きなインパクトを残すに間違いない要注目盤。
KUMARU EXPO 2010 / V.A.
DJとして活躍するshabushabuと真保☆タイディスコによって立ち上げられたレーベル「KUMARU RECORDS」が放つ究極のオムニバス・アルバム。彼らと親交の深いアーティスト、もしくは本人参加のユニットの曲を集めた相関図コンピレーションだ。収録アーティストにはOORUTAICHI(from ウリチパン郡)、岡本右左無(from neco眠る)、BIOMAN(from neco眠る)、GULPEPSH、SUZMENBA、KOVSKEらが参加。
speedometer. / sence of wonder
大阪の藤井寺を拠点に高山純のソロ・ユニット、speedometer.の2002年発表の4作目となるフル・アルバム。SOUL SCREAMのE.G.G.MAN、Ticaの武田カオリ、そしてROVOの藤井裕ニをゲストに迎えてエレクトロニカ、音響、ジャズ、ヒップ・ホップ、など様々なジャンルを縦横無尽に行き来する広がりのある作品。
AOKI Takamasa / SILICOM two
1stアルバム『SILICOM』から1年。あらたに提示された本作品は、青木孝允のメタ・テクノ的なアプローチが、デビュー作以上に過激に全面展開 された。2001年、日本国内はもとより、パリ/バルセロナ/イスタンブール などでの様々な経験を生かし、そこでのライヴ・パフォーマンスを前提に制作された プログラムをもとに楽曲を昇華しつづけ、その細部までコントロールし尽くされ たmax / mspによる電子音、あらゆる定型を逸脱しながらもリスナーの耳を満たす音響アプローチは、最も挑発的なパフォーマンスであろう。高度な実験性と豊穣な音楽性、またDJツールとしての卓越した機能性とを合致させ、 それを表現した彼の才能、及びこのアルバムの素晴らしさは言うまでもない。
dj colaboy 主催EVENTを要チェック!
dj colaboy
HOMESICK主催。人と人、人と音、音と音をつなぐ。
「SECOND ROYALとHOMESICK(仮)」
日時 : 2010年11月19日(金) 22:00〜
場所 : 京都metro
出演 : やけのはら / ドリアン / LUVRAW&BTB / HALFBY / HANDSOMEBOY TECHNIQUE and more!