キツネの嫁入り、新作から1曲フリー・ダウンロード開始
京都の4人組、キツネの嫁入りの2ndアルバム『俯瞰せよ、月曜日』が完成。5月25日の発売に先駆け、収録曲「エール」をフリー・ダウンロードで配信開始! 一足先にアルバムの断片を感じとってみてください。さらに、4月21日、22日に行なわれた、彼らの企画イベント「スキマアワー」のレポートをお届けします。「学校で聞く学校で教わらなかった音楽」をコンセプトに掲げ、京都・木屋町の廃校とライヴ・ハウスを会場に繰り広げられたこのイベント。果たして2回目の開催となった今回は、どんなイベントになったのでしょうか。ノスタルジックで濃厚な2日間の模様をご覧ください。
>>「エール」のフリー・ダウンロードはこちら(期間 : 5/3〜5/10)
キツネの嫁入り『俯瞰せよ、月曜日』2012年5月25日発売
レーベル : ギューンカセット
【収録曲】
俯瞰せよ、月曜日。
東西南北
エール
雨の歌
せん
結局、そう
ヤキナオシクリカエシ
ブルー、始まりと終わりと。
家探し
>>『俯瞰せよ、月曜日』特設ページ
LIVE REPORT 4/21&22 スキマアワー
2011年9月、京都で始まったイベント、スキマアワー。その第二弾が2012年4月21、22日に行われた。前回に続き掲げられたコンセプトは「学校で、教わらなかった音楽」。会場はもちろん昨年と同じく京都木屋町にある廃校、元・立誠小学校の講堂、職員室、和室(体操用の教室だったとのこと)と、そのすぐ近所にあるライヴ・ハウス、UrBANGUILDだ。1日目は昼の部と夜の部の二部構成で、20時を過ぎるとこぞって下校、UrBANGUILDへ移動。2日目は学校のみで20時まで行われた。その中でどんな音楽の授業が繰り広げられていたのか、ここに残しておきたい。
【21日・昼の部】
15時に到着し、聴こえてくる声を辿ると最も大きい会場、講堂に着いた。靴を脱ぎ行儀よく体育座りしている人たちを見て、小学校の朝礼を思い出す。けれど、ほぼ全員が大人なので、ノスタルジーと小気味よい違和感が胸をよぎる。そんな中で響くのは、小学生の頃によくテレビやラジオで聴いた声。「さよなら人類」で大ヒットを飛ばしたたまの元メンバー、柳原陽一郎がギターとピアノで弾き語りをしていた。たまをいち早く卒業した彼だが、今も音楽を続けている。「Blue Eyes」「ブルースを捧ぐ」と哀愁漂うブルースを演奏したのち、続くはまさかのそのヒット曲「さよなら人類」。そして最後に「希望を込めて」と言葉を添え、喜劇王チャーリー・チャップリン作曲による「スマイル」をカヴァーし、拍手の中ステージを去る。彼が演奏しているのを見ながら、ぼんやりと「音楽を続けていくこととは」という問いと答えが浮かんだ。が、終わって拍手の音にその答えを見失ってしまった。また見に行けば掴まえられるだろうか。
そして和室の教室へ移動。ここでもみんな靴を脱ぎ、行儀のよい体育座りで。本当に音楽の授業みたいだ。彼らの視線の先で歌っているのは女性シンガー・ソングライター、Predawn。「天使の声」と絶賛されている彼女の声はとても素朴だ。高揚や感動、劇的な何かが起こる訳ではないけれど、彼女の声とガット・ギターとメロディーに耳と胸を沈めていくのはとても穏やかで心地がいい。Predawnのライヴを見終え、すっかりうっとりしたところで職員室へ移動。ピアノとスティールパンのユニット、うつくしきひかりを見てさらに陶酔しようとするも、満員で部屋から人が溢れている状態。漏れてくる音だけでしばらく楽しみ、再び講堂へ向かい、この後に演奏する石橋英子 with もう死んだひとたちのリハのこぼれ音をこっそり聴きに行った。
早くも度肝を抜かれてしまった。しかし、本番はもっとすごかった。もう死んだひとたちは、ジム・オルーク、須藤俊明、山本達久、波多野敦子で構成されている。隙のない完璧な音なのに、全体を通してつかみどころがないのに、聴く人が音楽に思いを寄せる「瞬間」、入りこめる「隙間」がちゃんとある。メロディーはどれも柔らかでありながらもそれ以上にシビアで、居心地の良さと転調による裏切りが絶妙なせめぎ合いで繰り返される。6月に新作をリリースするとのことで、この作品が良くない訳がないでしょう。大満足で講堂を出て再び和室へ、昨年のスキマアワーの中で一番記憶に残っていたゆーきゃんを見に。ライヴ・ハウスでの彼の演奏にはいつも緊張が張り詰めていて、彼のこぼす言葉ひとつひとつを拾いながら進むべく、みんなが静かに集中力を研ぎ澄ませている。去年ここで見たライヴは、寝転びながら、天井に彼の言葉が消えていくのをぼんやりと眺める感じだった。今年も寝転びさえしなかったけど感覚的には同じで、彼の言葉を拾うでも読むでもなく聴き流し、その向こうの風景を見るような演奏だった。「少し早いけれど夏の曲を」と、「サイダー」を演奏。夏はこれから来るというのに、夏を見送ったような郷愁を覚える。
そして1日目の元・立誠小学校でのトリを務めたのはコトリンゴ。彼女には「ゆるふわでかわいい声」「CMソングの人」というイメージがあったが、もう、とんでもない! この日は彼女のピアノにベースとドラムを加えたバンド・セットでの演奏だったのだけれど、こんなに骨太な音楽をやる人だったのか。暗がりの客席の中で、肉体的なリズムが際立つ。それに乗せるコトリンゴのピアノは銀河のように激しく瞬き、ファンタジックでロマンチック。「CMソングの人」だなんて、「ゆるふわ」だなんて、申し訳ない! 彼女は生命力を燃やしながら覚悟の音を奏でる音楽家だ。
【21日・夜の部】
コトリンゴが終了し、観客はこぞって夜の部の会場、UrBANGUILDへ。京都のバンド、スーパーノアがトップ・バッターを務めた。演奏が始まり驚く。「あれ? ドラム変わってる? 」どうやら先月の3月にメンバーが脱退し、今はサポートを入れて演奏しているとのこと。彼らの音はいつも爽やかで煌めいているけれど、それと同じぐらい渋みもある。それは結成からの8年で様々な経験をし、それぞれそれなりに年をとったからだろう。だから、メンバーが抜けたことによりバンドにあいた穴はけして小さくはないと思う。けれどこの日、その穴の存在を気付かせもしないほどに彼らはいいライヴをした。そして続くはmoools。この日ライヴを初めて見たのだけれど、周りの人がよく「日本一のポップスはmoools! 」と騒いでいて、見てみればなるほど、その意味がよくわかる。飄々としていながら、振り返るとすごくキュートな笑顔で、前を向き直すとニヒルな笑みを浮かべている、という感じに奇妙、かつ愛嬌のあるパンクスなポップスだ。「気象衛星」ではなぜだかちょっと泣きそうになった。その「なぜだか」の部分こそが、言葉ではない、音楽だけが請け負える感情の部分なのだろう。mooolsの演奏も終わり、パーティーはまだ続くが私はここで戦線離脱。しかし朝から晩まで音楽を聴き続けるのはなかなか体力がいる。どんなに好きでも疲れるものは疲れる! なのに明日も楽しみにしてしまうのは、小学校という場所で、教育に良しとされなかったパンク(「姿勢」の意味で)な音楽を聴けるという楽しい後ろめたさと、何より出演陣のバランスの良さだろう。授業は翌日も続く。
【22日・昼の部】
到着し、聴こえてくる音と声に耳を澄ませると昨日と同じく講堂に辿り着いた。中で演奏しているのはキツネの嫁入り。童謡やお伽話のような懐かしくも少し怖い言葉を並べ、優しくゆるやかな音の中にはプログレッシヴなひねりが加えられている。実はこのバンドこそが本イベントの主宰、つまりは仕掛け人だ。この日は生憎の雨だったが、キツネの嫁入りの音楽はバンド名の通り雨の日によく似合う。外から聴こえる屋根にぶつかる雨の音が、キツネの音に彩りを加えていく。最初から見れず心残りなのは、昨年豪雨の中で聴いた「雨の歌」を聴けなかったこと。次にリリースされる新作に収録されているとのことで、絶対にこの日演奏していたはずなのに。あと、どうやらこの場には当日の出演者のみならず前日の出演者も、加えてたまたま京都にいたヒカシューの巻上公一もいたとのこと。学校で聞くヒカシューを聴けたら… 唾を飲む。実現を期待する!
そしてGo Fishを見るべく和室へ移動するが、満員で座る隙間がない。ここに来て、キツネの嫁入りの時から薄々感づいていたことが確信に変わる。「昨日より人が倍ぐらいいる! 」仕方なく部屋の外からガラス戸越しに彼らの演奏を楽しんだのだが、これはこれでまた一興。少しカーヴをもったガラス戸は、彼らをまるで水の底で沈めたように、少しだけ景色を歪ませた。そして水中から聴くように、ゆっくりとした速度で届く彼らの音と声。2日間の中で最も幻想的な空間だった。
続くは職員室にて、福岡のトロピカル・バンドnontroppoのボーカルを務めるボギーのソロ。起立、礼、着席と、始業の合図でライヴはスタート。どこぞの校歌から始まる。いや知らないよ。どうやら彼の母校の校歌らしい。そりゃ知らねえよ。演奏は続く。「美しい歌を」と言い演奏し始めた曲は確かに旋律が美しく、切ない曲… と思いきやサビは「うんこ」の連呼。ちなみにここは職員室である。そして「北島三郎こそがブラック・ミュージック」と熱弁した後に、まさかの「カヴァーしたんですよね。まあここではやりませんけど」。そして彼曰く「ブルース・シンガー」森進一の「襟裳岬」をカヴァー。ここまでの私のレポートを読むとかなりイロモノと思われてしまいそうだが(それは否定しないが)、ボギーの声はとても美しく叙情的で、歌もかなり上手い。ギターも渋く、よく知っていた演歌は哀愁漂うブルースへと生まれ変わった。と思いきや「ミュージック・スタート! 」という掛け声と共にMCハマーの「U can’t Touch This」が流れ始め、ラップするわダンスするわ「ERIMO! 」「MISAKI! 」のコール&レスポンスに人を巻き込むわ。歌い終わると息切れしながら黒板に「MCハマー」と書き、「森!(M) 進一(C)! ハマー」と叫んだ。後ろの人がぼそりと「森ちんいち…? 」と呟く。最後は真面目に、「青い春」。この曲は本当に素晴らしい。日本のどの名曲と並べても劣らないほどに、悲しくて愛おしくて泣ける。この滲んで心に沁み入る青春歌に共感しながら年をとりたいものだ。最後はサビを大合唱。感動のままに終わるかと思いきや、どこからともなく海援隊の「贈る言葉」が。ボギーは客席の真ん中に椅子を置いてその上に立ち、「お前たち、輪になりなさい! 」「仲間はずれの奴はおらんか~! 」。そしてみんなで肩を組み「贈る言葉」の大合唱。最後はわーっとボギーことボギ八先生を胴上げ。拍手が起こり、「卒業だー! 」というボギ八先生が叫び、実はもう始まっていたトクマルシューゴにわーっと全員で大移動。黒板に残されたボギ八先生が書いた「性教育 岬 MCハマー」という文字だけが教室に残った。
思いあまってボギーについて書きすぎた。続くは講堂にて、トクマルシューゴ。これがまた満席で中に入れず、「胴上げさえなければ… 」とボギ八先生を逆恨み。しかも当のボギ八先生は講堂内で、しかも結構いい位置で見ている。なぜだ。しかし、遠目に見ながらも、雨の音と混じらせながら濡れた校庭を眺めつつ聴く「Parachute」「Rum Hee」は最高だった。そしてラキタを見に3階の和室へ。ピンク色のセーターをさらりと一枚着ていやらしく見えない色男はラキタぐらいのものだ、と、いやらしいことを考えながら彼のリハを見守り、本番。ラキタはこちらが恥ずかしくなるほどに真っすぐに歌を歌えるミュージシャンだ。素直で優しいけれど、真っすぐなものほど尖り、人を刺す。リハの時は見守るような暖かな視線で見ていたが、終盤には緊張感をもったピリリとした視線で彼のことを見ていた。そして職員室でとうめいロボを見る。彼女の背景にはボギ八先生が黒板に書き残した言葉がそのままになっていて少し吹いたが、すぐに小さく細っこい彼女の世界に飲み込まれた。白くて猟奇的な言葉をこぼし、ある瞬間に激しく厳しい、だけどごまかしのない言葉を、遠くまで叫ぶ。少ししか見ることはできなかったが、ものすごく生々しく辛辣な言葉で人間を表し、それを美しく歌うことができるシンガーだと思った。
そして次は大トリ、Jim O'Rourke Bandを見るべく講堂へ。昨日の石橋英子 with もう死んだ人たちと全く同じメンバーで、メインが石橋英子からジム・オルークに変わるだけなのだが、全くもって違うものだった。なんてことは、2人の存在感、メンバーの演奏力、表現力のレベルを知っている人には言うのも無粋か。広い講堂内の隅々まで渡るヒリヒリとした静かな空気の中では、軽く咳込むことすら憚られる。メロディーもリズムも閃きもダイナミックもミニマルも、全てが一つの音楽として奏でられ、穏やかになれる瞬間と気を抜くとやられてしまいそうな瞬間が不規則に訪れ、全ての音が、全ての拍が、危ういバランスで保たれていた。ふと周りを見渡すと、多くの人がこの音とこの映像から多くのものを吸収しようと目を凝らしているのがわかった。最後のアンコールを終え、止まない拍手の中でスキマアワー第二回は幕を閉じた。
実はこのレポートはイベントの一週間後に書いている。一週間過ぎても全く余韻は冷めない。先述にある通り、スキマアワーの主宰はキツネの嫁入りが務めている。彼らが自主企画イベント「スキマ産業」を始めたのは2005年。バンドの中心人物、マドナシは「自分の場所を自分で作るために始めた」と以前話してくれた。その拡大版がスキマアワーという訳なのだが、2年連続でスキマアワーを訪れて思うことは、もうこれはバンドのためでなく、京都の音楽シーンのため、いや、日本の音楽シーンのためのイベントに膨れ上がっているということ。こういった様々な規模の様々なコンセプトのイベントが日本各地でバンド主体で行われることは、そこに多くの人が訪れ、お目当て以外の音楽を知りTwitterやブログなどに書き、また音楽が拡散することは、ものすごく希望のあることのように思えてならない。また来年も見に行きたい。ていうか、やるでしょ? キツネの嫁入りはまだ満足しているようには思えない。
キツネの嫁入り presents スキマアワー
2012年4月21日(土・昼) @元・立誠小学校
出演 : 石橋英子 with もう死んだ人たち(ジム・オルーク、須原俊明、山本達久、波多野敦子) / コトリンゴ / 柳原陽一郎 / Predawn / うつくしきひかり / jaaja / dry river string / ゆーきゃん
2012年4月21日(土・夜) @木屋町UrBANGUILD
出演 : 吉村秀樹(bloodthirsty butchers) / moools / bed / スーパーノア
2012年4月22日(日・昼) @元・立誠小学校
出演 : Jim O' Rourke band / トクマルシューゴ / Gofish / ラキタ / とうめいロボ / ボギー / Accovio / キツネの嫁入り
キツネの嫁入り PROFILE
・マドナシ : Vo / Guitar
・ひさよ : Cho / Piano / Accordion / 木琴
・藤井都督 : Cho / Contrabass
・カギ : Drums / percussion
2006年頃から京都を中心に活動中。京都・大阪のライヴ・ハウスを使用した「スキマ産業」。京都木屋町の廃校を使ったフェス「スキマアワー」を主催。なんとなくの癒しの言葉や、あやふやな応援、ありきたりの恋愛歌等の要素を一切排除した歌詞。辛辣かもしれない、誰しもが身に覚えのある「誰かのせいにしたくなる、絶望的とまではいかないにしても、嘆きたくなる日常」を目の前に突きつけられる言葉達は、変拍子を織り交ぜ、アコギとアコーディオン・ピアノ・木琴・コントラバス・ドラムにより繰り出される破壊力のある楽曲により、それでいてポップ・ミュージックというフィルタを通過した、唯一無二の「キツネの嫁入り」でしかない音世界として昇華される。
既存の何かに対しての「警鐘と終焉、そして始まり」を「夕焼けと朝焼け=オレンジ」になぞらえ、この街に、人々の心に、流れる川に突き刺し、それに掴まるもよし、行き先を変えるもよしの「一つの杭」をコンセプトに、キツネの嫁入りは、時代・国・場所を越えて、人々の心に残るだろう歌と音を確実に突き刺し、残す。今そうじゃなかったとしても、いつか、その心に響く事を信じて。2012年5月大阪の老舗レーベル、ギューンカセットより、待望の2nd Album『俯瞰せよ、月曜日』をリリース予定。