渋谷の街に鳴り響いた、ネットカルチャーの熱狂──『NIGHT HIKE Mid 2025』
2025年8月23日、24日にかけて真夏の渋谷が一夜限りの巨大な遊び場へと姿を変えた。Spotify O-EAST、WOMB、duo MUSIC EXCHANGE、clubasiaの4会場を舞台に開催されたサーキットフェス『NIGHT HIKE Mid 2025』。ボカロや歌い手カルチャー、クラブシーン、さらに映像やライブペイントまで、ネットから生まれたカルチャーがクロスオーバーする唯一無二のフェスだ。2023年の初回開催から回を重ねるごとに熱狂を生み出してきたこのイベントが、今年も大観衆を巻き込み、まだ見ぬ心踊る体験を次々と提示していった。OTOTOYではDAY1=8月23日の模様をレポートする。
LIVE REPORT : 『NIGHT HIKE Mid 2025』DAY1
取材&文 : ニシダケン
梓川──トップバッターから全力の爆発
Spotify O-EASTの幕を切ったのは、KAMITSUBAKI STUDIOの新鋭・梓川。スタートから“言っちゃった!”、“Disco FLO”と人気曲が放たれるたびに、会場は瞬く間に彼の色へと塗り替えられていく。昼のステージにも関わらず「こんばんは!」と笑い、観客と軽妙にやり取りする姿は、トップバッターとは思えない堂々たる存在感だった。Indigo la Endの“夏のマジック”、原口沙輔“人マニア”といったカバーでは、歌い手カルチャーで培った多彩な声色を駆使し、フロアを完全に掌握。熱気を冷ますことなく「このイベントはライブもDJも楽しめる最高の空間」と語り、イベント全体を勢いづける役目を完璧に果たした。
PAS TASTA──変幻自在のカオスが爆発
続いてO-EASTに登場したのは、hirihiri、Kabanagu、phritz、quoree、ウ山あまね、yuigotからなる6人組PAS TASTA。序盤はバンドセットで爆音を轟かせ、“byun G”では一転、ギターとDJのスタイルに変貌。さらに“B.B.M.”では、この日トリを務めるピノキオピーを召喚し、フロアは歓声と熱気の渦に飲み込まれる。またPAS TASTAのステージは、映像演出も圧巻。部屋のシーンをつなぎ合わせたVJが楽曲とシンクロし、観客を没入させていた。再び“亜東京”でバンドセットに戻るなど、めまぐるしく形を変えるパフォーマンスは、まさに彼らだけのオリジナル。息をつく暇もなく圧倒されるステージだった。
Empty old City──幽玄の音世界
duo MUSIC EXCHANGEのステージに姿を現したのは、KAMITSUBAKI STUDIO所属のユニットEmpty old Cityが。Neuronが紡ぐ国境を飛び越えるサウンドスケープに、kahocaのミステリアスな歌声が絡む瞬間、フロアは一気に異世界へと転移。幻想的でありながら重厚さを感じさせるパフォーマンスに、観客は息をのんで引き込まれていった。

廻花──甘美な歌声が放つ未来の光
再びO-EASTを彩ったのは、バーチャルシンガーの花譜が作詞・作曲を行い、自身の言葉で表現するプロジェクト、廻花。廻花は光の粒子が舞い上がる中、“ターミナル”で登場すると、会場から大きな歓声があがる。砂糖菓子のように甘いのに、芯の強さを宿した歌声がオーディエンスを直撃。「次は新曲行きます」と告げて披露した“人魚”では、星空を思わせる映像とコズミックなサウンドが溶け合い、未来へ広がるような感覚を呼び起こした。廻花のソングライターとしての一面が、ここで確かに開花していた。
国士無双、A4。──ユーモアと熱狂のダンスフロア
clubasiaでは、Guchonと藤子名人のユニット・国士無双がフロアを掌握。“サンバ・デ・ジャネイロ”、サカナクション“怪物”のリミックスを織り交ぜつつ、ベースミュージックを軸にしたユーモラスな展開で観客を翻弄。思わず笑顔と熱狂が交差する空間が広がる。続くA4。は、ボカロPとしての顔に加え、自身の歌唱名義=只野楓を持つ存在。DJセットではボカロ楽曲や歌い手カルチャーの音をシームレスに繋ぎ、フロアをカラフルに染め上げていた。
秋山黄色──衝動のロックが渋谷を貫く
再びSpotify O-EASTへ戻ると、秋山黄色がプリミティブな衝動を全開でぶつけていた。“Caffeine”で幕を開けると、強靭なリズム隊が生み出すうねるグルーヴに観客は即座に飲み込まれる。MCでは「“あの頃の渋谷を忘れない、秋山黄色でーす!”」と、転換VTRのセリフをセルフサンプリング。大爆笑をさらい、場の空気を一瞬で掌握した。秋山はその後も魂を振り絞るような歌声を響かせ、クラブサウンド主体のラインナップの中にロックの鮮烈な存在感を刻み込む。クラブサウンドが主流となる中で、骨太のバンドサウンドを鳴らし切ったそのステージは、まさに“秋山黄色ここにあり”を示す迫力だった。。
あきばっか〜のエキシビション──異次元のダンスバトル
duo MUSIC EXCHANGEでは『あきばっか〜のエキシビション』が開催。アニソン・A-POP限定のダンスバトルという、まさにカルチャーの坩堝のようなステージだ。ダンスのジャンルは、ストリートダンス、アイテム使い、踊ってみた、ヲタ芸、コスプレ、ネタ系など、とにかく何でもありの祭典として、新たなカルチャーを生み出しているイベントである。司会はRAB(リアルアキバボーイズ)の涼宮あつき。熱いマイクで会場をあおり、2on2のダンスバトルがスタート。しんぺー&SKAJUNはブレイキンとロッキンで攻め、龍&YOHはヒップホップとフリースタイルバスケを融合させて対抗。イントロが鳴るたび、フロアの熱気は一気に最高潮に。予測不能の楽曲に合わせて繰り出される大技が決まると、フロアからは大絶叫が巻き起こった。結果は引き分け。しかし「勝敗を超えて、カルチャーがぶつかり合った瞬間」を観客全員が目撃した。ステージは“新しいクラブカルチャー”の可能性を鮮烈に示していた。『あきばっか〜の』は10月5日に東京体育館にて、大規模なイベントが開催されるとのことなので、興味がある方は足を運んでみてほしい。
なきそ、☆Taku Takahashi、爆発的グルーヴの連鎖
WOMBでは、なきそがフロアを完全制圧。グリッチィでノイジーな映像を背に、攻撃的なドロップを連発。鋭いビートのたびに歓声が上がり、観客は両手を掲げて熱狂の渦に呑み込まれていった。TREKKIE TRAX CREWは、13年の歴史を背負ったプライドを堂々と示すプレイを展開。ベース・ハウスやトラップを縦横無尽に操り、若手からベテランまでを巻き込む「ダンスミュージックの今」を刻んだ。さらに、ステージに現れたのは、どんぐりず。ラップとビートの間を遊ぶように駆け抜けるパフォーマンスは唯一無二。観客の笑顔と歓声を誘い、会場全体が「音で遊ぶ」楽しさに包まれた。さらにブースに現れたのは、☆Taku Takahashi(m-flo)。第一線のクラブの現場での長い経験に裏打ちされた重厚な低音と洗練された選曲で会場を完全掌握。最新のバズヒット曲やJ-POPヒットチューンを盛り込みながらも、自身のカラーは決して崩さないアプローチで盛り上げる。そして自身が手がけた最強のクラブ・チューン“come again”が流れた瞬間、スマホのライトが一斉に点灯。WOMBが祝祭の空間へと変貌した。まさに伝説級のプレイだった。


yama──リスペクトと共鳴のステージ
O-EASTにはyamaが登場。静かな緊張感の中、“偽顔”で幕を開け、“憧れのままに”、“TORIHADA”へと畳み掛ける。透明感のある歌声が会場を包み込み、観客の心を一気に持っていった。J-POPど真ん中のフィールドでも活動するyama。そこではある種、異彩を放つことも多いが、このようなネットカルチャーの多いイベントでは、フィット感も強く、どこかホームのような温かさをフロアから感じた。この日のハイライトは、インディーズ時代の楽曲をリミックスしたスペシャルメドレー。“クリーム (Carpainter Remix)”、“春を告げる (☆Taku Takahashi Remix)”といった楽曲が披露されると、観客は歓声で応えた。ネットカルチャーに支えられてきた自らのルーツをリスペクトしながら、未来へ進む姿を示す。音楽とカルチャーへの真摯な想いが、ステージ全体にあふれていた。
duoのアートショーケース──ミュージックとアートが混ざり合う瞬間
duo MUSIC EXCHANGEでは、りくと、tarou2によるライブドローイングが展開。DJ・YELLOCKのビートにシンクロしながら線が走り、キャンバスの上で物語が立ち上がっていく。観客は音と絵が絡み合う“生成の瞬間”を目撃した。さらにライブインスタレーション「SYNK」では、DJ水槽のサウンドに、イラストレーターLAM、映像作家Rei Kurashima、VJ yonayona graphicsが加わり、ステージ上でカルチャーが爆発的に混ざり合う。光と影が呼応し合い、ここでしか体感できない“生きたアート”が生まれていた。
夜のclubasia──KAWAIIから熱狂の終盤戦へ
clubasiaでは夜が深まるほどに熱狂が高まっていった。ミツキヨはファンシーなVJ映像と共に登場し、“モンダイナイトリッパー (ミツキヨRemix)”で可愛さとエネルギーを同時に爆発。観客の笑顔がフロアを埋め尽くした。羽生まいごは提灯を手にステージへ。「和」を思わせるサウンドが流れると、一気に空気が幻想的に。和と電子音が溶け合うその瞬間、観客は異世界に迷い込んだかのようだった。そしてDJ WILDPARTY。ピーナッツくんの“Stop Motion”から名取さなの“Chantして!!!!!”へと繋ぐ展開に、フロアは歓声で応える。終盤戦に向けて熱を上げつつも、確実に観客を踊らせる手腕はさすがの一言だった。
大歓声のボカロフロア──柊マグネタイト & 八王子P
WOMBではボカロP・柊マグネタイトのDJセットが炸裂。1曲目“マーシャル・マキシマイザー”から大合唱が巻き起こり、観客は待ってましたとばかりに全力でレスポンス。大ヒットチューン、“テトリス”のドロップではビートの波がフロアを揺らし、熱狂は一気に頂点に達した。さらにバトンを繋いだのは、八王子P。ボカロシーンを牽引してきた重鎮としての存在感を示し、キラーチューンを矢継ぎ早に投下。シンガロングとジャンプの嵐にWOMBの熱狂は最高潮へ。会場全員が彼が王として君臨する「ボカロ王国」の住人となった瞬間だった。


ピノキオピー──DAY1の大団円
Spotify O-EAST、DAY1の大トリを飾ったのはピノキオピー。ボカロのボイストラックに自身の声を重ねる“ツインボーカル”で、“ノンブレス・オブリージュ”、“神っぽいな”を叩き込み、観客の身体を揺さぶる。さらに生ドラムを導入し、クラブとロックが融合したダイナミックなサウンドでフロアを圧倒した。 “T氏の話を信じるな”ではインタビュー風の演出で観客を巻き込み、“頓珍漢の宴”ではコール&レスポンスが炸裂。観客の「お冷3つ!!!」が完璧に揃った瞬間、O-EASTが揺れた。ラストを飾ったのは“僕らはみんな意味不明”。祝祭の熱気をやさしく包み込む光のように響き渡った。観客は笑顔でその瞬間を焼き付け、DAY1は圧巻の大団円を迎えた。
終わりに──驚きと熱狂が交錯する“ワンダーランド”
こうして幕を閉じた『NIGHT HIKE Mid 2025』DAY1。渋谷の4会場が一斉に火を噴くように鳴り響き、カルチャーの坩堝と化した日だった。かなりフルボリュームではあったが、来るもの全てを楽しませようという思いがどの出演者にも、ブースにも感じられるイベントだった。どのフロアもどの時間も「驚き」「感動」「高揚感」に満ち溢れていたように思う。まさにワンダーランドな一夜であった。

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