一流のヴォーカリストになるために必要なのは、自分に向き合い続けること──草野華余子「産地直送」特別対談〜岸田(岸田教団&THE明星ロケッツ)編〜
草野華余子と親交の深いアーティストを招いて話を聞いてきた、シリーズ連載「産地直送」特別対談。その第4弾は、岸田教団&THE明星ロケッツの主宰兼ベーシスト、岸田が登場。アニメ、野球、競馬など、様々な共通の趣味を持ち、親友でもあるというふたり。今回は草野のシンガーとしての力にフォーカスを当て、インタヴューを実施。レコーディングする部屋の音響に関するこだわりや、ヴォーカルのテクニックについて、がっつり語ってもらいました。
作家活動10周年を記念したセルフカバーアルバム
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INTERVIEW:草野華余子、岸田(岸田教団&THE明星ロケッツ)
このインタヴュー記事は、ファンのみならず、ぜひアーティストの方にも読んでほしい。話を訊きながら、部屋の鳴りに関する音響のことや、マイクに関する部分の話は「目から鱗が落ちる」感覚を覚えた。ふたりともとにかく知識が豊富で、かつ研究にも余念がない。だからこそ、できることも広がるし、まだまだ進化し続けるのだと思う。
インタヴュー&文:西田健
写真:星野耕作
出会いは最悪ですけど、一応親友と呼べるくらいにはなった
──おふたりの出会いはいつ頃だったんですか?
草野 : ソニーミュージックのウルトラシープという事務所がありまして、そこのアーティスト兼作家として、堀江晶太くんや分島花音ちゃん、そして、岸田教団&THE明星ロケッツの岸田さんと、当時はカヨコという名義で活動していた私が所属していました。その時期に、岸田さんとは大阪心斎橋のライヴハウスBIGCATで行われたichigoさん(岸田教団&THE明星ロケッツのヴォーカル)主催のイベントで初めて会いました。ご挨拶しにいったときに岸田さんが、ソファで踏ん反り返ってずっとゲームをしていて、こちらに一瞥もくれずに「はーい、よろしくー」って言ってきたので、「こいつめっちゃ嫌いかも!」と思ったのが最初です(笑)。
岸田 : その出来事自体全く覚えていないです(笑)。
草野 : でも2人ともオタクではあるのでネットではよく交流していて。連絡先を交換したのはichigoさんの結婚式でしたよね?
岸田 : そんくらい。2018年とか。でもその時点で出会ってから7、8年は経ってますよね。
草野 : で、そこからデモ音源を聴かせあったりしていました。「アレンジがよくない!」って言ってくるから、「メロディーがよくない!」って返したりして、コンタクトを取り合って。それで最初に参加させてもらったのが、岸田教団&THE明星ロケッツの“Reboot:RAVEN”という楽曲でした。他になにか覚えてます?
岸田 : なんにも覚えていないですね!
──(笑)。第一印象も覚えていないですか?
岸田 : 覚えていないですね(笑)。歌についても、すげえそれっぽく歌うのに大して響かないなと思っていました。これだけ技術力があるのに、説得力がないなと当時は思っていましたね。
草野 : こんな風に初対面で辛辣なことを言ってくる人だったんです(笑)。でも最近になって、一緒に楽曲制作したり、仮歌を送ったりしたときに、「歌、上手くなったな」と言われました。
岸田 : やっていることは一緒なんですけど、説得力が伴ってきたんですよ。そうなると話は変わってきますよ。
草野 : でも、岸田さんとかはやぴ〜さん(岸田教団のギタリスト)に言われて改善できたのは、良い音質、聴き心地の良い音を聴きながら歌う、ということなんですよね。バッティングじゃないですけど、肩に力を入れても飛距離は伸びないので、そういうフォームの改善ができました。まずは歌の癖を抜くことを2年かけて実践して、その2年が経った後に、改めて岸田さんと初めて出会った頃の歌の癖を戻してこようと段階的に実験してます。
岸田 : そうだね。そういうのって計画的にやらないとダメなんですよ。今はおそらく、長い人生で紆余曲折があって10代の頃の歌い方に戻っていると思いますね。
草野 : 私は、声楽をやっていたので元の発声はいい方だと思うんですよ。でもいろんな音楽に出会って、お酒も飲むようになって、喋る仕事も増えて…という間に本来の発声のフォームを忘れちゃった部分はあって。
岸田 : 華余子さんは、歌に責任感があるからだと思うんです。歌いづらくても自分の歌が大事な人間は、なんとかしてよくしようとするから、逆にフォームを崩しちゃうのかなと。
草野 : スポーツにも通ずる話ですよね。
岸田 : マイケル・ジョーダンの名言に「たとえば、毎日8時間シュートの練習をしたとしよう。もし、間違った技術で練習を続けていたとしたら、間違った技術でシュートする名人になるだけだ。」というものがあるんですよ。がむしゃらにやるのは大事なんですけど、正しさはすごく大事で。はじめがむしゃらに頑張るんじゃなくて、最初は慎重に練習して、ある程度行ったらがむしゃらにやった方がいいんですよね。その力点は変えるべきですよね。
草野 : そういうわけで、フォームを見直したことで、今回のセルフカバーアルバムは今までのレコーディングで1番いい状態で歌えたし、内容も満足できるものができました。
──話を戻しますが、その第一印象から、楽曲依頼をするようになったのはなぜなんでしょう?
草野 : この人、音楽のことはすごくわかっているなと思ったんですよね。私は主旋律に関わる楽器は誰にも負けないという自負があるんですけど、打楽器、特にドラムに関しての知識が乏しかったんです。そこに関してのアドバイスをもらったときに、明らかに曲の印象が変わって、「こんなにえらそうだけど、すごいんだなこの人」と思いました。自分に足りていない要素をもっている人だと思ったので、色々お願いするようになりました。一方で、岸田さんからメロディーに関しての相談がくるようになり、という。
岸田 : この人は、メロディーに関しては他の人が何も言うことないくらい、良いんですよ。
草野 : “Reboot:RAVEN”の時期も、この曲のもとになったライトノベルに登場するキャラクターや物語のシーンだったりを、自分なりに咀嚼して音符にして送ったらすごく感動していました。
──なるほど、音楽以外でもかなりおふたりは仲良いですよね。
草野 : 結構共通の趣味は多いかもしれないですね。野球はもちろん、ガンダムや卓球も共通の趣味です。出会いは最悪ですけど、一応親友と呼べるくらいにはなったと思います(笑)。野球も年1回くらいで交流戦を一緒に観に行っては大喧嘩してます。
岸田 : でも僕はホークスファン、彼女は阪神ファンなんで、リーグは分かれていますけどね。
草野 : 最近は競馬も見るよね。
岸田 : どちらも大穴狙いなので、たまにすごいことが起こりますね。