情報量が多い時代だからこそ、奇を衒わずに──ミニマルな音作りで描いた、kiki vivi lilyの今

kiki vivi lilyが最新EP『Blossom』をリリース。情報量が多い楽曲が日々リリースされる今日において、飾るよりもあえて削ぎ落とすイメージで制作を進めたと彼女は語る。そして生み出された本作は、コンパクトに仕上がっているものの、彼女の魅力的な歌声や安定したグルーヴがより一層感じられる一作となっている。それぞれの楽曲にどのように命を吹きかけたのか、制作背景や各楽曲のポイントをじっくり語ってもらった。
kiki vivi lilyの純度高い最新EP
INTERVIEW :kiki vivi lily

前作『Tasty』の生音感を踏襲しつつも、よりミニマルな音色に仕上がっているkiki vivi lilyの最新EP『Blossom』。いまの彼女のモードを表した“The Day” をはじめ、サビのリフレインが耳に残る“Paper Drive”や、あの有名カフェチェーンを舞台にした“星喫茶店”など遊び心を感じられるナンバーも収録した今作。 なかでも、自らの心情を吐露し女性たちをエンパワーメントしたいという気持ちを込めた“Invisible”には、kiki vivi lilyというアーティストの真髄を感じることができるだろう。その制作秘話を訊いた。
インタヴュー&文 : 西田健
写真 :西村満
春に咲く黄色いお花のイメージ
──今作『Blossom』はいつくらいから制作を始めたんですか?
kiki vivi lily:昨年秋くらいかな。
──断片的なものはもっと前からあったんですか?
kiki vivi lily:そうですね。どの作品を作るときもそうなんですけど、カケラはずっと持っていて。今回はどのカケラを使おうかなと、寄せ集める感じです。ストックから出すときもあるし、ストックからさらに書き加える場合もあります。アルバムのコンセプトが決まっていく中で、こういう曲がほしいなってなったら、新たに曲を書いたりすることもあります。
──今作ではどれが新たに加えたもので、どれがもともとあったものですか?
kiki vivi lily:3曲目の“Paper Drive”は前の名義の頃から歌っていて、ずっと入れるタイミングを窺っていた曲です。“39 Minutes”と“星喫茶店”は今作に合わせて新しく作った曲です。残りの曲はカケラを元に作り上げていった感じですね。
──前作もそうだったんですけど、今作も生音がすごく良いなと。
kiki vivi lily:生音は意識しましたね。もっと生音でもいいんですけど、程よく収めました。EPなのでコンパクトにしようと思い、音作りはミニマルにして。もともと削ぎ落とすような音作りが好きだったんですけど、それをやるにはきっかけが必要なんですよ。今回みたいに、5曲入りのEPみたいな作品ならいいんじゃないかと。長い目でみて、そういう作品がキャリアの中にあることは良いことなんじゃないかなと思っています。
──kiki vivi lilyさんの作品は、全体を通して曲数が少なく、コンパクトなものが多い気がするんですが、そこにはなにか理由があるんですか?
kiki vivi lily:単純にそんなに時間がなくて作れないだけなんです。1人でやっていると、全部の曲に息を吹きかけないといけないので。でも曲数は少ないからこそ、密度は高めに作っています。
──すごくコンパクトになっているから、気合を入れずに1周聴けるなと思っていまして。
kiki vivi lily:たしかに、いい意味で気合を入れすぎていない作品だと思います。もちろん良い作品を作ろうと思っていますが、奇を衒うことは一切していないです。そういう部分が聴きやすさにつながっているのかな。
──いまのいわゆるJ-POPって情報量が多い曲が増えているじゃないですか。でも、kiki vivi lilyさんの曲はすごくシンプルな作りですよね。
kiki vivi lily:情報量が多い曲が増えているから、私は逆をいこうとは少し思っています。自分も聴けるものでいい作品を作りたいです。
──そっちの方が自分に合っている?
kiki vivi lily:そうかもしれないです。
──タイトルの『Blossom』はどこから?
kiki vivi lily:春にリリースするし、言いやすい言葉にしようと思って、『Blossom』にしました。これだったら1度で覚えるし、曲を集めるようなイメージにもなるかなと。明るいイメージを彷彿とさせる言葉でもありますし。
──「Blossom」=「花」って枯れてしまうので、出会いと別れがテーマなのかなと勝手に思っていたんです。日常的なことを歌っているので、「花」という日常的なモチーフをタイトルにしたのかなとも。
kiki vivi lily:ふふふ。それいいかもしれないです(笑)。でもいちばんは耳馴染みがあるタイトルにしたかったんです。
──「桜」や「バラ」のように具体的な花をイメージしたわけではないんですか?
kiki vivi lily:ないです。でも菜の花みたいな、春に咲く黄色いお花のイメージです。黄色はポジティブな色ですし。
