いま、いちばん身近な幸せをあなたに──味覚の秋、kiki vivi lilyが届ける極上の音楽のフルコース
スウィートな歌声とメロディー・センスでファン層を拡大し続けているSSW、kiki vivi lilyが新作アルバム『Tasty』をリリース。タイトルの通り、味覚をテーマに作られた今作は、荒田洸(WONK)とMELRAWがプロデュースを務め、トラックメイカーとして、Shin Sakiuraや盟友Sweet Williamらが参加。得意のR&Bやソウルを軸に、ダンス・ミュージックを意識したアレンジやハワイアン・レゲエなど、様々なジャンルの楽曲を味わうことのできる、まさにフルコースな内容に仕上がっています。今回のインタヴューでは、楽曲についてたっぷり語ってもらいました。こだわりのハイレゾ音源と併せてお楽しみください。
kiki vivi lilyが味覚をテーマに作り上げたアルバム『Tasty』
INTERVIEW : kiki vivi lily
kiki vivi lilyの新作アルバム『Tasty』を一通り聴き終えて、心が満足感と幸福感に包まれた。味覚をテーマに作られたという今作は、様々なジャンルを横断するような多彩なアレンジが特徴で、楽曲ごとに個性を感じる作品である。聴いた後は、とにかく満足した気持ちになるのだが、それでいて聴いていて疲れを感じることもなく、自然とまた1曲目から再生してしまう。これは、kiki vivi lily本人も意識した部分だと話していたが、その塩梅は実に見事だ。“素材の味”を活かし、生の音にこだわったという今作。ぜひ、何度も何度もじっくり味わって欲しい。
インタヴュー&文: 西田 健
撮影: 飛鳥井里奈
一個一個音をキャッチして楽しんでほしい
──最近、いろんなところで、kiki vivi lilyさんのお名前を目にしたり楽曲を耳にする機会も多くなってきたんですが、この間、インスタを見ていたらフワちゃんがストーリーズに“Lazy”を聴いてるのを見てびっくりしたんですよね。
嬉しいですよね。たまにあげてくれるんですよね(笑)。
──あのフワちゃんにも届いているのか! という驚きがありますよね。今回アルバムもリリースされますが、Deep Sea Diving Clubの楽曲“Just Dance feat. kiki vivi lily”にも参加されたりと、かなり精力的に活動されていますよね?
Deep Sea Diving Clubとのコラボは、向こうからオファーをいただいて決まりました。福岡のバンドなんですけど、せっかくそうやって同郷の後輩が言ってきてくれるんだったら、そういう繋がりは大事にしようと思って。前は結構尖ってて「自分の作るものを認められたい」みたいな気持ちがあったから、客演とかも断ってたりもしたんですけど、最近ちょっとスパンって抜けて「そういうのもやろうかな」というモードに入ってます。
──どういう心境の変化があったんですか?
やっぱり2019年に出したアルバム『vivid』を出すまでは、フィーチャリングで名前を知ってもらったというのもあったし、シンガーとしての自分をみんな知ってるイメージがあったんですよね。自分は曲を作るという部分を大事にしてるので、作曲家とかそういう音楽家の面もみんなに知ってほしいという気持ちがずっとあったんです。でも、ゆっくりですけどkiki vivi lilyという名前が広まってきて、そういう気持ちが満たされたというか、1回落ち着いてフラットになって、どっちも楽しめるようになった感じがします。
──自分の作った曲と、別の人が作った曲を歌うのでは違いがありますか?
180度違いますね。ゼロから作るものと、トラックがすでにあるものでは、全くもってアプローチが違いますね。ビートが先にあった場合と、ゼロから自分でピアノ弾いて作る場合では、全く出てくるメロディーも歌詞も全然変わってきます。だけど、両方やってるから飽きないというか、バランスが取れてるかなって思います。
──普段はどのようにして曲を作るんですか?
基本は曲と歌詞は一緒ですね。メロディーとなんとなくの言葉の響きみたいなものが両方一緒にボンって出てきて、それに対して肉付けしていくみたいなスタイルが多いです。
──10月1日には、ニュー・アルバム『Tasty』がリリースされました。コンセプトはその名の通り“味覚”ですね。
コロナ禍で家にいる期間が多かったので、身近な楽しみが、料理や食になっていたんですよね。それって、いちばん近くにあって、日々を彩ってくれるような存在だと思っていて。自然とそれをモチーフにした曲もポツポツできて、何曲かできた段階で、そういう色んな“味”を表現するアルバムを作ろうかなと。
──なるほど。
いま、音楽家って色々なアプローチがあると思うんですけど、わりとポップでポジティヴなことを歌いたいという気持ちはずっと自分のなかに一貫してあって。このコロナ禍においても、そういう生活のなかで聴いてちょっと元気になれるものを作りたかったんです。そういう面では“味覚”はいちばん身近だし、いまいちばん自分を幸せにしてくれるものだから、みんなにもそれを感じてくれたらいいなと思って作りました。音楽的にお腹が満たされるというか、「美味しい料理を食べたな」みたいに「素敵な音楽を聴けたな」って思ってもらえるような作品になったらいいなって思っています。でも、満腹だけど、胃もたれしないみたいなところは意識しましたね(笑)。
──確かに、胃もたれしない感じはすごくあります。
音楽を作るにあたって、自然とそういうバランスみたいなのは、いつも考えてしまうんですけど、あんまり押し付けがましくならないようなバランスで音楽を作りたいなって思っていて。“量より質のコース”みたいな(笑)。
──「いい食材使ってますよ」みたいな(笑)?
あーそうそうそうそう(笑)。素材の美味しさも感じられるし、みたいな。
──いま「素材の味」とおっしゃったんですけど、今回、アルバム全体に“生っぽさ”を感じているんですよね。楽曲でいうと最後の“Onion Soup”は一発録りだったり、バンドでのレコーディングをされていたり。
今回、そんなに気張らないというか、自然体な感じを見せたかったんですよね。いままでは作り込んだ音源が多かったので、逆にちょっと力を抜くというか。アルバムのテーマとして“あんまり気張らない”、“力を抜いた感じ”という部分があったので、それで自然とサウンド感も、そういう”生”の感じが大事になってるのかもしれない。
──“力を抜いた感じ”は確かに感じるんですけど、チルではないのかなという感じもしているんですよね。
そうですね。結構チルっぽいって言われることが多いんですけど、作るときに私のなかでは一貫して「そんなことないんだけどな」っていう感じで。空白をあんまり作らなかったり、全ての間に意味がある音楽を意識しているので、聴き流すよりは一個一個音をキャッチして楽しんでほしいと思っています。