私立恵比寿中学&佐藤千亜妃が語り合う、『indigo hour』の詞の世界──焦り、喪失を経て成長する10人の“今”
私立恵比寿中学が、2024年2月28日に10人新体制初のアルバム『indigo hour』をリリースする。「永遠の青春」をテーマに作られたという今作は、その骨子となる3曲、"BLUE DIZZINESS"、"CRYSTAL DROP"、"TWINKLE WINK"の作詞を佐藤千亜妃が担当。今回OTOTOYでは私立恵比寿中学のメンバーである、真山りか、小林歌穂と佐藤千亜妃の3名にインタヴューを実施。それぞれの楽曲に佐藤はどのような想いを込めたのか、メンバーはそれをどう受け取ったのか、語ってもらいました。
10人新体制初のアルバム『indigo hour』
https://shiritsuebisuchugaku.lnk.to/indigohour_all
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INTERVIEW : 私立恵比寿中学(真山りか、小林歌穂), 佐藤千亜妃
私立恵比寿中学の最新アルバム『indigo hour』は、グループが新たなフェーズへと突入したことを感じさせるアルバムだ。1曲目“Knock You Out!”からバッチバチのラップスキルを見せつけ、ジャージクラブやハイパー・ポップを取り入れたサウンドメイクも素晴らしい。そして何より今作の魅力を際立たせているのは、佐藤千亜妃が手がけた“BLUE DIZZINESS”、“CRYSTAL DROP”、“TWINKLE WINK”の歌詞だ。その詞の世界は、「永遠の青春」を生きる、私立恵比寿中学というグループを丁寧に丁寧に描いている。今回このインタヴューで話を訊くなかで、佐藤は私立恵比寿中学に対して本気でぶつかり、愛を持って歌詞を紡いだのだと感じた。間違いなく、佐藤千亜妃もファミリーの一員である。
インタヴュー&文 : 西田健
写真 : つぼいひろこ
ファンとの関係性もここで表現したかった
——2024年2月28日に私立恵比寿中学の10人新体制初のアルバム『indigo hour』がリリースされます。佐藤千亜妃さんはアルバムの骨子となる“BLUE DIZZINESS”、“CRYSTAL DROP”、“TWINKLE WINK”の3部作の作詞を担当していますが、どういう経緯で佐藤さんが担当することに決まったんでしょうか?
佐藤千亜妃(以下、佐藤):今回ディレクターのみるくさんから「新生・私立恵比寿中学を形作るためには佐藤さんの詞がどうしても必要なんだ!」と熱烈なオファーを頂いたんです。とにかく「いいアルバムにするぞ」という熱量が伝わったし、まさか自分が私立恵比寿中学の仕事に関わらせてもらえるなんて思ってもいなかったので、快諾させていただきました。
——私立恵比寿中学のおふたりは、佐藤さんに対してどういう印象を抱いていたんですか?
真山りか (以下、真山):元々私はきのこ帝国が好きで聴いていましたし、佐藤さんは女の子の気持ちをすごく代弁してくれる方だと思っていました。昨年の9月に、佐藤さんのライヴ(LIQUIDROOMで開催された〈“BUTTERFLY EFFECT” Release Tour「FLY FLY FLY」〉)に行かせてもらったんです。すごく感動しましたし、そんな佐藤さんの世界観に入れるのがすごく楽しみで、歌詞が来るのを待ちわびていました。
小林歌穂 (以下、小林):言葉をすごく大切にされている方なんだなと思います。ガラス細工みたいな繊細さがあるという印象でした。でもときにはそのガラスが割れて尖った歌詞もあったりして、すごく綺麗だなと思いますね。
佐藤:ありがとうございます。
——佐藤さんは私立恵比寿中学というグループに対してどういう印象を抱いていましたか?
佐藤:いろんな方から「歌が上手い」とか「表現力が豊か」、「個性的なメンバーだけどまとまりがある」というのを聞いていたんです。それに加えてコンセプトを消化する力が高いなと思いました。普通新しいことをやるときって、心の葛藤があって上手くできないと思うんですよ。自分もバンド時代は、新しいことへの挑戦を意識していたんですけど、グループとしても長い歴史がある中で、モードを変えて新しいことをやり続けているのはかっこいいなと思います。だからこそ私立恵比寿中学の新体制を輝かしいものにしたいと思いました。絶対曲はかっこいいから、歌詞でそれを後押しするのが私の使命なのかなと。
——先日の〈大学芸会〉(〈私立恵比寿中学 新春大学芸会2024~高く飛ぶ竜と僕らのその先~〉)で、“BLUE DIZZINESS”をライヴでも披露していましたが、しっかり私立恵比寿中学の楽曲になっていたのが素晴しかったですよね。
佐藤:そうなんですよ。私も見に行かせていただいたんですけど、生のパフォーマンスはすごかったですね。ダンスブレイクからの流れが凄く良くて。10人いるのに、それぞれにフォーカスしていっても飽きなくて、そこがグループとしての強みなんじゃないかなと思います。
真山:ありがたいお言葉です。〈大学芸会〉では、絶対“BLUE DIZZINESS”を際立たせたいと思っていたんですよ。演出家の方が、“BLUE DIZZINESS”に綺麗に入っていけるようにダンスブレイクを考えてくれました。
佐藤:ライヴ観ながら、私もすごく体力を消費していてたんですよ。観ているだけでこんなにもっていかれるんだと思いましたね。楽しくて汗かいちゃいました。本人たちはもっと体力使うと思うので、ある意味アスリートだなと思うし、いろんな曲へのモードチェンジもすごかったなと思います。
小林:あの日は結構満身創痍だったんですよ。新年1発目だったので、ここでギアをあげて今後に繋げていくぞ、と思いながらパフォーマンスしました。でもやり終えてすごくスッキリしました。今の体制だからできるものを披露できたのも良かったです。
——ではここからは楽曲についてお伺いします。まず、今回アルバムの先行配信の第1弾“BLUE DIZZINESS”は、ジャージー・クラブのサウンドを取り入れた、私立恵比寿中学としても新機軸な印象の楽曲です。どういう流れで制作されたんでしょう?
佐藤:まずデモが送られてきて、そこに私が歌詞をつけていきました。とにかくトラックがカッコよくて。打ち合わせの際に出てきた「永遠の青春」というテーマを軸に書いていったんですけど、青春ってキラキラだけじゃないよねという話が出てきて。この曲では、そうした葛藤や焦燥感を表現したいということを、みるくさんから伝えられて、そこを掘り下げていきました。何回も言葉をいっぱい書き連ねて、「これはメンバーが言ってそうだな」とかそういうのを想像しながら作っていきました。
小林:すごい!
佐藤:あと実はデモの段階で仮の歌詞が英語で入っていたんですよ。その英語の韻を、「あいうえお」で書き出して、そこを日本語で揃えていきました。ラップパートの「ぐらぐら揺らぐ」とかはまさにそうですね。自分の曲作りではなかなかない作業でしたし、そもそも歌詞だけ書くのが新鮮でした。絶対かっこいい曲になる自信があったので、しっかりこだわりました。作詞自体は「青い眩暈」というワードが出てきたあたりから、曲の全体像が見えてきた気がします。
——「青い眩暈」というワードはどういうところから浮かんだんですか?
佐藤:青春時代って人間関係とかで悩んだりすることも多いじゃないですか。そうした迷いや心の揺れを「青い眩暈」と表現しました。タイトルも「青い眩暈」をそのまま英語にして、「BLUE DIZZINESS」という言葉が出てきたときは、「これは勝った!」と思いましたね。
真山:すごく良いお話…。10人体制初めての曲が“kyo-do?”という曲だったんですけど、「可愛い」をテーマにしていて。当時、今までの私たちの方向性と大きく変わって、自分の中でもどういうライヴをすればいいのか悩んでいたんです。そのタイミングでいただいた“BLUE DIZZINESS”の歌詞が、自分のそのときの心情とすごくマッチして「これだ!」と思いました。この歌の内容は迷いがテーマかもしれないんですけど、私自身は逆にこの楽曲で迷いが吹っ切れた気がしていて。この曲は、こんなにも私のことをわかってくれるのかと共感しました。私たちは15年も「永遠に中学生」をテーマに活動してきたので、心の中はまだ大人になりきれていないと思うんです。でも「言いなりじゃなく私がRule」みたいな歌詞には、私たちがようやく校長と対等に話せるようになった状況や、心の揺れ動きとも重なったりして、すごく勇気をいただきましたね。
佐藤:嬉しいです。「言いなりじゃなく私がRule」が1番最後に書けた歌詞だったんですよ。私はアイドルとしてパフォーマンスする人の半生を体験したことないんですけど、でも「言いなりになりたくない」と思った瞬間は絶対にあるんじゃないかなと思って。過渡期にいる本人たちが「言いなりじゃなく私がRule」って力強く歌ってくれたら、今後のストーリーが開いていくだろうなと思ったんですよ。表現したいことが伝わっていてよかったです。
——「言いなりじゃなく私がRule」の歌割りは小林さんの担当ですね。
小林:そうなんです。やっぱり私もずっと思春期なんですよ(笑)。でも学生時代よりも自我が出来上がった分、どうしても得体の知れないモヤモヤが強くなって。そういうときにこの曲をもらえて、「ありがとうございます…」と思いました。答えがない葛藤、私たちの未来に対する不安があったんですけど、これで希望がもらえましたね。最後の「今生まれ変わる」という歌詞を歌っているんですけど、この歌詞を歌うたびにモヤモヤが晴れていくんです。なので、今すごくスッキリしていて楽しいですね。
佐藤:実はこの曲、実は裏テーマがあって。「手を繋いでU & I」という歌詞は、仲間愛だけでなく、ファンの皆さんとの絆のことでもあるんです。新しいことをしていくときに困難があると思うんですけど、それでも信じて待っていてくれるファンの方がいるのはすごく力になると思っていて。だからファンとの関係性もここで表現したかったんです。そういう温かみもある曲だというのは伝えたいですね。