その歌声には、人生が滲み出ている──草野華余子「産地直送」特別対談〜鈴木このみ編〜
SSW・草野華余子が2023年12月20日にセルフ・カバー・アルバム『産地直送vol.1』をリリースした。それに際して、OTOTOYでは親交のあるアーティストを招いて草野と対談を実施。uijin、ARCANA PROJECT、堀江晶太、岸田(岸田教団&THE明星ロケッツ)に続くシリーズの最終回となる今回は、『Re:ゼロから始める異世界生活』や『ノーゲーム・ノーライフ』のOPなど数多くのアニメ主題歌を担当する鈴木このみが登場。互いをリスペクトし深く理解し合っている関係性だからこそ、悩みや展望を打ち明ける2人。2人がタッグを組んでいる中で特に印象に残っている楽曲や、アルバム収録の“Bursty Greedy Spider”についても語ってもらいました。
作家活動10周年を記念したセルフカバーアルバム
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INTERVIEW:草野華余子, 鈴木このみ
これまで全5回に渡り、草野華余子とアーティストとの対談を行ってきたこのシリーズも今回が最終回。今回の鈴木このみとの対談では、ヴォーカリスト目線での草野の歌の話はもちろん、歌詞の話にも及んだ。鈴木は「華余子さんとの曲作りは、いつも会話から」と言っていたが、それは本当に重要なことだと思う。会話をして、互いの信頼関係を築きあげていくからこそ、良い楽曲が生まれていく。作家生活は10周年を迎えたが、草野華余子はまだまだこれからも素晴らしい曲を世の中に生み出し続けていくのだ。
インタヴュー&文:西田健
写真:星野耕作
華余子さんとの曲作りは、いつも会話から
——おふたりの初対面のときのことは覚えていますか?
草野華余子(以下、草野):Sony Musicの草野担当の方から、「鈴木さんに1曲書いてほしい」と依頼があったんです。彼女がフレッシュなときからアニソンオタクとして拝見していたので、緊張しました。その曲(“あなたが笑えば”)のレコーディングが初対面でした。
鈴木このみ(以下、鈴木):代官山の地下スタジオで初めてお会いしたんですけど、第一声で、「わあ、本物だ! 綺麗になられましたね!」と言われたんですよ(笑)。
草野:言った覚えある (笑)。それで話していたら、同じ関西圏だしすごく気さくだから、だんだん仲良くなって (笑)。
鈴木:そのとき候補として4曲くらい出してもらってたんですけど、どの曲もメロディーが素敵で、初めてお会いしたときに、「この人すぐに仲良くなれるかもしれない...!」と思いましたね。
草野:そのときは「私、なかなか人と仲良くなれないんです...。」って言っていたよね。
鈴木:すごく人見知りなので...。でも華余子さんは故郷が近いのもあって安心感がありますね。東京のお姉さんだと思っています。
草野:私自身、心のシャッターを閉めることはあまりしないんですよ。今回の対談シリーズでもわかる通り、いろんなアーティストさんと関わらせていただく中で、ずっと私は吹きっさらしにいるというか。だからこそいろんな人と仲良くできると思いますね。
鈴木:わかります! 華余子さんがレコーディングにいるだけで、すごく現場が明るいんですよ。歌のテンションもそれで変わってくるし。
草野:このみんは素直で真面目なんですよ。スタジオでわからなかったことをなんとなく飲み込むアーティストが多い中で、このみんは一旦は飲み込みながらも、気になったことは後からとことん聞いてくれるんです。
鈴木:気になると気になりっぱなしが嫌な性格なので、煮詰まったら華余子さんの家に突撃します(笑)。
草野:自分の名前にプライドを持って活動しているので、その真っ直ぐさは手助けしたいなと思わせてくれますね。生粋の妹キャラです。
鈴木:ありがとうございます。華余子さんは姉御キャラですよね。華余子さんにお会いするたびにやる気が出るし、華余子さんがいない現場でも話題に上がるくらいですよ。
草野:やったあ! え、悪口じゃないよね(笑)?
鈴木:違いますよ(笑)。
——良い関係性ですね。
鈴木:華余子さんとのレコーディングは毎回楽しくて、いつもいろんな部分を引き出してくれます。華余子さんとお仕事するようになってからは、“ちょっと悪め”の鈴木このみが育つようになりました。
——“ちょっと悪め”というと?
草野:コブシを使ったり、ニヤっと笑ってわざと悪っぽく歌ったりですね。根っから不真面目になるんじゃなくて、いろんな表現を見せながら最後は真っ直ぐに戻る、そういうバリエーションを見せられるようにディレクションのお手伝いをしています。
鈴木:昔からボイトレを習っていて、ソルフェージュ(演奏されたメロディーや和音を聴き取ったりする「楽譜の理解」を中心とした基礎能力の訓練)で音感を鍛えていったスタイルなので、地響きするような悪い声を出してみたりするのが革命的だったんですよ。そういうやり方をすることで綺麗な声もより一層映えるので、新しいスパイスをいつも華余子さんからいただいています。
草野:ディレクターさん、作曲家さんみんな「このみんはすごく歌が上手い」と口を揃えて言うんですよね。だったらその先の、「声色のバリエーションをどう見せるか」という部分がテーマであるんですよ。悪そうなテイストの曲だったり、このみんが歌うにはちょっと意外な曲を任せてもらっていますね。
——確かに華余子さんが作った鈴木さんの楽曲は、ひねりがあるものも多い印象があります。
草野:とにかく歌える人だから、こちらも書かせてもらえて嬉しいです。私に頼んできてくれるときは、「普段とは違う流れだけど、でもメロディーは力強い曲」がほしいんだと思っています。
鈴木:華余子さんにお願いするときは、自分の中にモヤがあって、それを取っ払いたいときとか、何かを破りたいときなんです。
草野:意外とずっと何かを変えたいと思っている人だからね(笑)。
鈴木:そうなんです(笑)。そういうときに連絡すると「わかった!」と言ってすぐ曲を書いてくださいますね。
草野:結構悩みとか連絡してきてくれるんですけど、「全部伝わっているよ」と言っています。例えば“ギリギリトライ!”と言う曲だと、「真面目が取り柄 憧れが不真面目」という歌詞があるんですけど、これは電話で話を訊きながら、パソコン開いてメモして書きました(笑)。思ってくれることを素直に言ってくれるのですごく書きやすいですね。
鈴木:そうだったんですね(笑)。
草野:私はタイアップでも、このみんのことを書こうと思っているんですよ。鈴木このみが鈴木このみの人生を歌っていくという面でも、サポートできたらなと思っています。
鈴木:華余子さんとの曲作りは、いつも会話から始まります。自分でも無意識のものや、まだ誰にも言っていないものも華余子さんなら言えるし、それを1つも取りこぼさずに曲にしてくれるので、安心しています。
草野:曲作って歌っている頃にはその悩みは解決しているんですよね。そしたらまた次の悩みが出てくるという。