名付け合うことで、他者と繋がっていく旅路──新たな表現へと向かう、シキドロップ4枚目のミニ・アルバム
ヴォーカルの宇野悠人と、役者としてのキャリアを持つ平牧仁によるユニット、シキドロップ。彼らが生み出した4枚目のミニ・アルバム『名付け合う旅路』は、これまでの3枚目のアルバムからさらに表現の幅が広がっています。アレンジにヴォーカルの宇野悠人が加わったことで、よりユニットとしての強度が増した彼らに、その理由を聞きました。
シキドロップのニュー・アルバム『名付け合う旅路』
INTERVIEW : シキドロップ
シキドロップが生み出した、4枚目のミニ・アルバム『名付け合う旅路』は、これまでの彼らの作風とは違った響き方をする作品となった。いままでリリースした3枚のアルバムでは、タイトルを「カタカナ6文字にする」など、コンセプトをがっちりと固めて作ってきた彼ら。作詞作曲を担っている平牧仁によれば、自らが生み出してきたコンセプトに縛られることも多かったという。しかし、今作ではその縛りから解き放たれたかのように、自由にさまざまな表現へと挑戦している。1曲目の“行きずりキャラバン”でのカントリー調のポップ・サウンドなどは、まさに、そこが色濃く出ている部分だ。これには、ヴォーカルを担当している宇野悠人が自らアレンジも担当していることが大きく影響している。ユニットとして、より深い繋がりを持った彼らの旅路をこれからも見守っていきたいと思った。
インタヴュー : 西田健
文 : 津田 結衣
今回は本当に嘘をつかなかったアルバム
──今作を作り始めたのは時期的にはいつごろになるんですか?
宇野 : 2年くらい前ですね。今回のアルバムでいちばん古い曲は“育つ暗闇の中で”かな。確かコロナ禍のはじまりの方でスタジオが使えなくて、はじめて家で録ったんですよ。
平牧 : 前作を出す前から、曲自体はパズルのピースみたいに散らばって点在してはいたんです。これまでの3枚のアルバムは、どれもコンセプチュアルに連部作と銘打ってしっかり作り込んできたんです。それが前作の『イタンロマン』で完結したので、作り方を変えていこうかなと。なので、最初からパッケージで作るというより、いまいちばん作りたいものをとりあえず作ってみようという気持ちを大事にしたくて。シングル単位でリアルな気持ちを切り取って曲にしようっていうのは、最初のやり方として大きかったのかなと思います。
──最初はコンセプトを決めずに、やりたいことをやってみようというところからスタートしたということですか?
宇野 : もともと、“育つ暗闇の中で”はウェブドラマASMR×演劇「DUMMY 2032」の主題歌の話が来て、作ったんですよね。
平牧 : ご縁があってそういうふうにお話をいただいて。曲自体はデモとして存在したんですけど、それを演出家さんが気に入ってくれたので、ちゃんとした曲にしようかということで。
宇野 : そこで一発、コンセプトを決めずに作るのもおもしろいねって。さらに色々やってみようってことで、そのタイミングで“傘”を作ったりしたんです。
──最初の方は、配信シングルとしてもリリースされていましたが、それはアルバムという形式から離れたところで出したかったからということなんでしょうか。
宇野 : できればアルバムを作りたいところではあったんです。でも、やっぱりMVとかアルバムを考えると、かなり先のリリースになっちゃうので、新鮮味がかけちゃうんですよ。だから今回はシングルという形で、先に世に出すということを意識して作りました。
──なるほど。しかし、最終的にはコンセプトがあるアルバムになっていますよね。
平牧 : 最初の“育つ暗闇の中で”のときは色々デモを作ってバラバラにやってたんだけど、シキドロップに求められるものとして、「コンセプトがあったほうがおもしろいんじゃないの?」っていうところに行き着いたんです。自分自身も作り込むのが好きだったりするので、「じゃあ、そっちに戻る?」ってことで、コンセプトを決める方向で舵を切り始めました。
宇野 : 今回単発で配信シングルとして出してたけど、結局仁ちゃんが作っているのでテーマみたいなものは一貫してたんですよね。
──今回のコンセプトが決まるきっかけになった曲はありますか?
平牧 : 語弊を恐れずにいうと、今回は本当に嘘をつかなかったアルバムです。三部作が完結したときに、いまあるものを書いていこうっていう名の下に書きはじめていて。時期的には、はじめての緊急事態宣言が出るくらいの頃だったんですけど、いま自分が書けるものはそこで感じているものだなと思って。不条理になにかを奪われたり選択を迫られたり、生きていくために色々捨てたりすることもあると思うんです。やり場のない怒りとか、悲しいニュースを聞いて胸が痛くなりましたし、僕自身落ち込みました。だからこそ、コロナ禍で生きた人間としてこの感情を無駄にしたくないなと思いました。不条理な世の中で奪われ続けることの悲しみややり切れなさは、僕らのなかでいちばん熱量が高かったから、それを書きたかった。“育つ暗闇の中で”や“青春の光と影”もそうだったけど。特にこのコンセプトでいったらおもしろいんじゃないかな?というのは6曲目“名付けあう旅路”で固まりましたね。
──“名付けあう旅路”はアルバムの表題曲にもなっています。これまでアルバムのタイトルはカタカナ6文字でしたが、三部作完結後の別のものとして今回のタイトルになったんでしょうか?
平牧 : カタカナじゃないのは、連部作じゃないことをアピールしたかったんですよね。