名付けてもらうことってすごく大事なこと
──今作のコンセプトとしては、タイトルにも入ってますが「旅」なんですよね。
平牧 : よく人生は旅のようだとか例えられますけど、僕は生きてて旅だなと思ったことがなくて。コロナ禍で人生を振り返って、当たり前にいろんな人がいなくなって物がなくなって場所がなくなって、そのときにタイムリミットを肌で感じたんです。終わりがあるから旅なんだと思うんですけど、そういうことをすごく思っていて。
宇野 : 今作で、僕は“傘”という曲の歌詞を作ったんです。コンセプトが決まったなかで作った曲ではなかったんですけど、コロナの影響でライブができなかったり、そういうのを経験したなかで同じようなことを思っていて。必然的に旅をテーマにしていたところはあったのかもしれないです。
平牧 : “傘”は、元々曲として完成していて、コンセプトはその後にできたんですよ。「どの曲を入れる?」ってなった時に“傘”が、今作で表現したいこととして合ってたんです。
──アルバムを通して聞いていて、“傘”だけ宇野さんが歌詞を書かれたということに気づかなかったんですよね。
宇野 : 正直ちょっと仁ちゃんを意識した部分はあったんですよね。「愛がない」とかは僕は言わないんですけど、ちょっと仁ちゃん節を入れてみたというか。
──“傘”には、ある種ダークな部分も感じますが、最後の方では希望を感じるところに着地しますよね。
宇野 : ダークさっていうのは前作とかを仁ちゃんと一緒に作っていく中で培った物なのかなとは思ってます。歌詞を書いたのは、コロナの影響でいろんな方が亡くなった時期だったのかもしれないです。とにかく「死んじゃだめだ」ってことを言いたくて、だから「命があったらなんだっていいんじゃない」っていう希望を残したところがあります。たまたまそのとき仁ちゃんも、そういう気持ちが詰まった曲として“名付けあう旅路”を作ってたんだよね。
──確かに“名付けあう旅路”も、“傘”と重なる形で最後には希望に満ちた形に着地する曲ですよね。
平牧 : この曲はいちばん思い入れが強いですね。「名付けあう」という言葉が結構キーかなと思ってるんですけど。みんな名前を持たずに生まれて、誰かに名付けてもらう。そこでいろんな物が決まるというか。やっていることに対して誰かに名前をつけもらってアーティストになるのかもしれない。それは自分ではできないことじゃないですか、自称になっちゃいますから。だから、コロナ禍で、名付けてもらうことってすごく大事なことだったんだなと気づいたんです。
──なるほど。
平牧 : 自分自身、ライブができなくなった時に「俺って何者なんだろう」って考えたんですよね。音楽ができなくなった時に「自分って本当に何も持ってないんだな」、「なんで生きているんだろう」と思ったこともある。その時に「名付けて欲しい、自分の価値とか名前ってなんだろう」って思いました。そういう思いを同じように抱えている人がいるのであれば、このうたが一個のお守りというか、自分に対して良しと思えるものを見つけてもらえたらいいなと。
──それは、アイデンティティがなくなるかもしれないという不安から生まれたものだったんでしょうか?
平牧 : 他者に言っているようで、自分に対して言っているところがあって。いまこういう頼りない時代だからこそ、ものじゃなくて絆とかそう言ったものが必要で、こういう歌があったらいいなと思って作りました。
宇野 : いつも仁ちゃんの作る曲ってストレートな言い回しが多いんですけど、この曲はすごくメロディと歌詞が一体して歌いやすかったんですよね。いろんな方が亡くなってしまうことへの思いも仁ちゃんから聞いていたので、そういうのも重なってラスサビには力が入ってしまいましたね。
平牧 : 僕は悠人のこの曲の歌がすごく好きで。特に語尾の処理の仕方が良い。語尾っていちばん感情がこもると思うんですけど、そういうところが僕の中では繊細に聞こえて。
宇野 : 工夫したというよりかは勝手にそうなったという感じですね。僕は意識して何かを作るのってあんまり好きじゃなくて、だから歌が持ってる力が僕の力を強めてくれた感じがします。
──今作では、“育つ暗闇の中で”以外は、編曲を宇野さんが担当されています。
平牧 : 最初に作った“育つ暗闇の中で”は、これまで一緒にやってもらっていたBobby Consciousさんと編曲しました。でも、この曲をきっかけに自分たちだけでもできるねという自信になったので、“傘”からは編曲も自分達でやってみようかと。
宇野 : 今回編曲をほとんどやらせてもらっているので、そのスキルは上がったと思います。このアルバムを通して編曲についても学ぶことができたのでいい機会でした。