2024/08/29 18:00

僕らの闘いは街頭で起こっているわけじゃない──PICNIC YOU『友愛』を評論家・陣野俊史が聞く

PICNIC YOU&陣野俊史

PICNIC YOUは、1998年生まれの田嶋周造、下田開登によるラップ・ユニット。じゃがたら、ECD、ザ・ブルーハーツ、山口富士夫を敬愛し、1960年代以降のカウンター・カルチャー、サブ・カルチャーに共鳴するふたりが出会い、2018年に結成された。そんな彼らが、ファースト・アルバム『友愛』をリリース。本人たっての希望でインタヴュアーにはじゃがたらやザ・ブルーハーツ、現代フランスのラップについてなど、数多くの著作を手掛ける陣野俊史を迎え、作品についてじっくり語ってもらっている。

アルバムを通してPICNIC YOUは、孤独な人々、特に都市で生活するひとりひとりに、「どうすれば、他人や社会と共に存在できるだろう? 」と語りかけてくる(同時に「いまが最高! といいたいよね」とも)。この病理に満ちた社会でどうやって“大丈夫”でいることができるか、そんな喫緊の課題について考えるきっかけに、この作品はなるはずだ。インタヴューを読んで、アルバムを聴いて、なにを考えたか。よければどこかに記したり、本人たちに話したりしてみて欲しい。とくにダンス・フロアで踊り狂うふたりに出会ったのなら、あらゆることについて共に話すことになるだろう。「マッチング・アプリってどう思う?」、「普段ひとりでよく言っちゃうひとりごとってあるじゃん、あれってさ…」なんて具合に。 (編集部)

PICNIC YOUのファースト・アルバム『友愛』


INTERVIEW : PICNIC YOU

左から田嶋周造、下田開登

インタビュアー個人の話を少しだけ書かせてもらえば、もう20年近く、(特定のラッパーを除いて)日本語ラップをたくさんは聴いていない。もちろん好きなグループはあるし、日本語ラップの隆盛も知っている。でもそれとは別の日常生活を送ってきた。そんなとき、偶然、PICNIC YOUというグループの『友愛』というアルバムを聴いた。ちょっとビックリした。半世紀くらい遡ることのできる、いろんな文化(映画・音楽・小説・短歌・思想など)が詰まっているように聞こえたからだ。これは何だろう、と思った。そこへ、インタビュアーの依頼が、ラッパー本人から舞い込んだ。これは何だろう、と途惑った。面白い、とも感じた。40年ほど長く生きている年長者として、きっちりと彼らの才能の由来を聞こう、そう思って彼らふたりに向き合った。
90分はあっという間だった。彼らのスタンスがよくわかるインタヴューになった。そう自負している。ラップの、弾丸のように吐き出される言葉の裏側には、彼らが咀嚼した文化が脈打っている。そのことを確認して欲しい。そして、PICNIC YOU、意外にしぶとい。

取材&文 : 陣野俊史
写真 : Julian Seslco

生きることの最小単位として、“二人”があるんじゃないかなと思います

──新しいアルバム、たいへん興味深く聴きました。アルバムタイトルと同じ曲については、少しあとで尋ねることにして、まず、印象に残ったものから言うと、「die 4 u」という曲。これは二、三年前の曲ですが、情熱的な愛が歌われている。それとは別に同一性の問題もある。「君は僕だ」とか。そのあたり、インタヴューのきっかけとしてお話いただければ。

田嶋周造(以下、田嶋):あの曲はロックっぽいというか、ヒップホップが扱うような社会性のあるテーマとは少し違って、僕とあなたとの関係性のなかで迷う、そんな曲ですね。二人の関係に閉じていくような曲なのでアルバムの趣旨とは違うと思ったけれど、入れました。志磨遼平が好きなんですが、ドレスコーズの「メロウゴールド」に「きみとだけ使う口ぐせ」というフレーズがあって。そういう、例えば恋人同士の親密な関係性のなかで、他人のなかに自分自身を見るような瞬間があるじゃないですか。個人というのは決して閉じ切ったものではなく、他者と分け持たれているものだ、という直感。それも含めて、アルバム全体のテーマでもあるんですが、“他人と一緒にいるってどういうことなのか”、“人といることの幸せってどういうことなのか”、そんなことを考えたかった。

I wanna die 4 u この気持ち
何かを伝える兆し
あなたの中にいる私
寂しいこの街 2人
燃えあがらないように優しく
火をくべている 焚火
キラキラしてる日差し
この胸に動く ラブマシーン
(「die 4 u」より)

田嶋:この歌は、性愛のことを歌ってもいます(笑)。わかりやすい成就ではなくて、いい感じに持続させていく。二人で絶頂に達してしまうのではなくて、ずっとそのまま、燃え上がらないでこのままずっと、と。この曲と同時に出した「I can’t stand alone」はアル・クーパーの曲タイトルをもじって作ったもので、閉じた関係性というよりは、もっと広い人間の関係の網の目のなかで生きていくことを歌っています。開いていく関係性というか、閉じてく愛と開いてく愛について。

──「die 4 u」という曲にこだわるわけじゃないですが、とても気に入っているフレーズがあって、「人に貰ったものだけを集めて自分と呼びたい」とか、大好きなんです。ひょっとしたらこれですべて語っているかも、と思います。

田嶋:ありがとうございます。結構それは考えていて、特にこだわっているのは、あなたと私という二人の対になる関係についてです。二人でいて、その関係さえちゃんとできないのであれば、もっと大きく社会で生きていくのは、さらにままならないんじゃないか? という気がする。ナイーブすぎるかもね(笑)。生きることの最小単位として、“二人”があるんじゃないかなと思います。ここでいう“二人”って、異性愛規範や婚姻制度が求めるような"つがい"としての二人じゃなくて、色んな人との一対一の関係ってことですけどね。アルバムのタイトルを『友愛』にしたのもそんな理由です。

※田嶋のつぶやき
まぁでもなー、ひとりきりで完全にブルーになってる人間もいて、そいつにかけていい言葉なのかはわかんないな。というか僕らだってひとりきりになるのなんて簡単ですよ笑。なにもしなければ、こちらからなにも発信しなければ誰も見向きもしない、ひとりでにひとりきりになっていくんだから(笑)。ヤバいぞ!

──他人によって自分ができている、という視点を突き詰めていけば、たとえば村田沙耶香の『コンビニ人間』という小説にまで到ると思っていて。そこまで行きつかないで、もう少し手前のところで、あなたと私はどう対でいられるのか、というあたりで、このアルバムがあり、アルバムタイトルの曲「友愛」がある、と。

田嶋:僕がぼんやりと考えていたのは、フランスの国是である「自由・平等・博愛」(*)です。この三つがうまく働けば、近代という枠組みにおいては世のなかはうまくいくのかもしれない。でもいまは、“自由と平等の絶え間ない闘争の時代”になっている、と思うんです。例えば、“自由”は、自由主義経済とか、自由に生きていくといったこと。でも裏側には競争があって、富める者はどんどん富み、貧しい者はひたすら貧しく、と格差が拡がっていく。“自由”にはそういう、いわゆる“ネオリベ”的な面がある。それに対して、“平等”というのは、いまでいえばポリコレやフェミニズムに代表されるようなものかな。正しさや理想をめぐってさまざまに闘っている人たちがいて、それは素晴らしいことなんだけれども、闘いを突き詰めていくと、生きづらいことにもなりかねない。誰もが歓びとともに生きていけない息苦しい世界になっちゃうよね、という感覚がある。全てにおいて、「自由が大切だ」という立場と、「いやいや正しさが大切だ」という立場の闘いになってしまうんじゃないかと。で、博愛をもう少し身近な言葉にして、“友愛”が足りていないのではないか、という直感があります。

*フランス革命時にスローガンとして掲げられ、現在は正式に国の標語となっている。近代社会の普遍的価値でもある。

二十世紀では、自由を資本主義が、平等を共産主義が担っていたとすれば、“友愛”という第三項は、小規模な世界で、相手を慮る気持ちとか、そんな感情を大切にする立場。たとえばそれは、アナキストが担っていた部分ではないのかとも思います。アナキストの人たちって、それ自体でわかりやすい思想とか理論はあんまりなくて、どちらかというと、アナキストの人のひととなりを好きになって着いていくことが多かったみたいですね。「人に惚れる」とか、「あいつのために頑張ろう」とか。右と左を飛び越えるような、思想や政治信条の手前で、人に共感したり、感情を揺さぶられたり、そうして人が動いていく、ということがある。そこが“友愛”なんじゃないかなー...。そしてその友愛の情は、離れた場所にいる会ったことがない人に対しても抱くことができるものだと思う。

満足しないけど後悔はないように
生きていかないと死ぬ時つらい
だけど未来のことなどわからない
明日の自分にする期待
終わりない悲しみに中毒する君に
周りくどい言葉無しに
KISSを送る 直ぐに
過去のことなど変わらない けれど
これから一緒に過ごすTIME 続く
(「友愛」より)

下田開登(以下、下田):この前Tシャツを買ったら、浜崎あゆみの迷彩柄のツアーTシャツで、それをめぐって知人と口論になったんです。知人はそうした色使いが戦争を想起させるとして、「それはどうなんだ! 」と。つまり、「自由に服を着ているんだ」という意識に対して、「正しくないでしょ」という反論がある。でも、やっぱり好きな服は自由に着ていい。ミリタリーふうの服をあえて着ることで、反戦へと転化させることだってできます。「ジョン・レノンもそうだったでしょ」と言い返しても、それは所詮、こちらからの正しさでしかない。正しさと正しさのぶつかり合いになるんです。

田嶋:知人は、「ああ、ちょっとお金ができたんで服を買って、おしゃれしたかったんだな〜シャレコマしやがって笑」ぐらいに思っていればいいし、下田君は、「せっかく気に入った服買ってイイ気分なのに、もう怒ったぞ、プンプン! 」ぐらいの気持ちでいればいいんじゃないかなー(笑)。相手への信頼があって、それで出来ている関係、自由と平等を緩やかにバンドするものとしての“友愛”があるんじゃないか。それがないから、みんなしんどい。もちろん、厳しく見なきゃいけない場面もありますけどね。

この記事の編集者
TUDA

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[インタヴュー] PICNIC YOU

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