最終的には訳のわからないものを作りたい──aldo van eyckが 『das Ding』 で示す一貫した裏切り

aldo van eyck (アルドファンアイク) のライブには毎回驚かされる。ただし、その驚きの質は毎回異なる。先月ついに届けられた待望の3rdアルバム『das Ding』は、ポストパンクからオルタナ、ジャズ、R&Bまでを混然と放り込んだ、全20曲・71分の大作だった。そのリリースツアー東京公演は、随所に逸脱を孕みながらも、得も言われぬ統一感を感じさせるステージだった。あの一本筋の通りかたは、あらかじめ意図されたものなのか。それとも、バンド自身にとっては「まだ崩し足りていない」途中経過にすぎないのか。今回、編集部の強い希望によりaldo van eyckの4人全員に同席してもらい、初のメンバー全員によるインタビューが実現した。バンドを育んだ福岡という土壌、作品の広がりとメンバー個々の嗜好や個性との関係、セッション的な制作感覚、そしてライブで彼らは何を感じ、どう演じているのか──山ほどの疑問を携え、4人に話を聞いた。
ボリューム、バラエティ、インテグリティ──すべてが申し分のない、全20曲・71分
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INTERVIEW : aldo van eyck

全身を黒の衣装で揃えた男が4人、ステージの上で演奏をしている。シンプルで、ややもするとロックバンドとしてはプレーンな印象すら受けるが、その硬質な光景に有無を言わさぬ説得力をもたらすことができるのがaldo van eyckの特異な点だ。今、日本中のライブハウスが、この伊達男たちの一挙手一投足に釘付けとなっている。
福岡市中央区に位置するライブハウス〈UTERO〉にて2021年に結成、以降は福岡を拠点にライブを重ね、約4年間で3枚のフルアルバムをリリースするなどその活動はハイペースだ。全20曲からなる大作となった最新アルバム『das Ding』には平静の保たれたメロウな展開からメーターの振り切ったハードコアな瞬間まで、aldo van eyckのライブを貫くダイナミズムが活写されている。
今回は『das Ding』リリースツアーの東京公演、君島大空トリオとの2マンライブを目前に控えたバンドをキャッチし、初の全員同席でのインタビューを敢行。福岡の先輩ロックバンドたちが築いた独特の生態系から『das Ding』の制作過程、そしてヒリつくような熱演で心を掴み続けている彼らのライブに潜む妙味の淵源を種々雑多にきいた。なお、その夜に行われた2マンライブで君島大空が絶賛を送り、アンコールでは君島とaldo van eyckによる「高潔な削り合い」が行われたことも申し添えておきたい。
取材・文 : 風間一慶
写真 : Kaiki Tsuchie
「この世の音楽全部聴くのが当たり前たい」って言われて
──大阪、名古屋、そして今夜の東京公演と3日間連続でのライブの合間にありがとうございます。これまで何度かaldo van eyckを観てきましたけど、今日みたいなフィジカルを追い込んだ末にやるライブの破壊力が凄い印象で。例えば深夜のライブとか。
ryunosuke sakaguchi (Gt/Sax) (以下、ryunosuke) : 確かに。深夜は飲みまくってからステージに上がるし、ガンギマリでライブやってる感覚というか。昨日の名古屋はお客さんも暴れる気マンマンでアガりましたね。ずっと野次られてて、それがめちゃくちゃ良かった。
masahiro yamashita (Ba) (以下、yamashita) : ここまでのツアーがめちゃくちゃ楽しかったので、そこまで疲労感もないんですよ。今日のライブもちょっと緊張してるけど、楽しみの方が大きい。
dischaaageee (Dr) (以下、dischaaageee) : そう。移動がキツいだけです (笑)。
──福岡を拠点にしながら全国を移動するのは大変ですもんね。
tomohiro onoue (Vo/Gt/Tp/Key) (以下、onoue) : そうですね。ただ、ずっと福岡にいるのもキツいというか。変わり映えのしない景色ばっかりだし、刺激も薄い。
ryunosuke : ライブも発表会みたいになりそうだし。
──発表会?
ryunosuke : 「今の僕らはこれですよ」っていうのを友達と確認するだけ、みたいな。同じメンツで固まると、どうしてもそうなっちゃうんですよね。
onoue : そう。福岡だけだとすぐにマンネリ化するから、あえて出来かけの曲を演奏したりして。

──福岡のライブハウスがバンド結成のきっかけとのことですが、そもそも福岡でどんなバンドを観てそれぞれ育ってきたんですか?
ryunosuke : 僕らがよく出てる〈UTERO〉っていうライブハウスがオルタナとかアングラに強いハコだったんです。そこの30代後半〜50代くらいの先輩がめっちゃ好きで。PANICSMILEとかfolk enoughとか、そこら辺の影響はめっちゃあります。
onoue : ありますねぇ。
ryunosuke : ただ、今の福岡の若いバンドで、そういう志のあるバンドがいるかといえば、いない。だからもう、「俺らは外に出ようや」と。

──先輩のバンドたちが持っている志とはどのようなものですか?
ryunosuke : 個人的な意見ですけど、「くずし」とか「ずれ」の美学を持っているバンドたちだなと。リズムもあってないようなもんだし、メロディーもコードに対して合ってないし、ボーカルも叫ぶだけというか。
onoue : 福岡はそういうバンドが沢山いた時代があったらしくて、そのレジェンドたちに教えを乞うみたいなことを繰り返していました。ライブを観に行って、飲み会にも行って、ずっと話をきいてた。20代前半ですね、金もないのに無理して通ってました。
──その時言われたことって覚えてます?
onoue : ……特に重要なことを言われたわけではない (笑)。
ryunosuke : 音楽の話はあんまりしないんです。くだらない話ばっかりなんだけど、節々に音楽に対しての発想とかアイデアとかが滲んでるというか。
onoue : 憧れのロックスターと一緒に飲みに行くみたいな感覚で過ごしてましたね。でもたまに名言が出てきて、それを心に刻むみたいな。folk enoughの井上 (周一) さんについてまわってた時期があるんですけど、その時に井上語録を浴びるというか。今思い出せるのだと、僕が「こういうのが好きですよね?」とか「こういうの参考にしたんですよね?」みたいなことを井上さんに質問し続けたら「もう知らん! 全部聴け! この世の音楽全部聴くのが当たり前たい」って言われて。
──(笑)。確かに、「全部聴け!」っていうスタンスはaldo van eyckにも現れてるというか。
onoue : それはめっちゃ残ってますね。あと一番残ってるのは「お前の行動すべてが芸術品だと思って過ごせ。じゃないと音楽とかできんに決まっとろうが」っていう言葉。それで僕はひたすら……「ウッス! 頑張るッス!」みたいな (笑)。本当にたまに、そういう名言が出てくるんです。
──リズム隊のおふたりも福岡のライブハウスに通っていたんですか?
dischaaageee : 俺は福岡市の人間じゃないんですよ。朝倉市っていうところで。僕の両親がギターを弾く人間なので、自分の土地にプライベート・スタジオを作って、そこにいました。今でもバンドのレコーディングで使ってるんです。だから家から出れないというか、パンデミックの後はずっと家にいます。東京にUnwoundが来たら行くとか、本当にそのくらい。

yamashita : 僕は10年くらい前に山口から福岡に来たんです。ライブハウスに通う習慣が出来たのもその時期で、最初に出演した時もとにかく怖かった (笑)。〈UTERO〉が初めてのライブだったんですけど、PANICSMILEの吉田 (肇) さんが受付をしていて、ギターの中西 (伸暢) さんがPAにいて、ライブ終わりのバーカウンターにカッコいいおじさんがいたから話しかけたらナルコレプシンの坂田 (直樹) さんで。
onoue : 最強の布陣やな。
yamashita : それで僕も混ぜてもらって。もうonoueとかryunosukeはライブハウスにいたし、ちょうど年齢的に挟まれるような形で、どっちも尊敬していました。

──福岡独特のノリをライブで感じることはありますか?
ryunosuke : 東京に近いというか、ちゃんと聴いてからグイグイ来てくれる。昨日の名古屋とかは最初から暴れてた (笑)。