音源みたいな演奏をしてると壊したくなる
──今でも相当な本数のライブをこなしていますが、曲を考える時に想定しているのは音源ですか? それともライブですか?
onoue : 『das Ding』の曲はライブをしながら作っていたので、そこの区別はなかったですね。その前のアルバムは一発録りだし、音源とライブが全く同じというか。
──『das Ding』で一発録りを止めたのはなぜですか?
onoue : バラ録りをしてみたかったんです。音楽的に色々挑戦してみたかったし、多重録音もやりたかった。例えば最後の “Plastic Gold” はゲストコーラスとかアレンジャーを呼んだりして、ライブでも再現不可能な形まで作り込みました。
ryunosuke : 福岡に、じぐざぐづのCHOYOっていう良い鍵盤弾きがいるんですけど、一緒に手伝ってもらって。ゲストボーカルはmuggyってバンドのsion.ちゃんとデカリボンってバンドのUtageちゃんにThe Churchを意識しながら歌ってもらって。マキシマムな仕上がりになりました。
onoue : ryunosukeがフレーズ考えてるのを横で聴いてたら、「ゴスペルっぽくなりそうやな」と思って。その時シルク・ソニックにハマってたから、それに近いアレンジを目指したというか。
ryunosuke : そうそう。ローファイで、黒人女性の張り裂けるようなコーラスが入ってるイメージ。
──曲数も多いですし、『das Ding』を聴いて浮かぶイメージは本当に多種多様だと思うんですよ。だからこそ4人が普段なにを聴いているのかは気になります。
onoue : 車の中はケツメイシばっかり。
yamashita : それは年に一回くらいやな (笑)。暑くて天気が良い時だけ。
ryunosuke : まぁビバップとかマイルス・デイヴィスとかをonoueがかけてる時が多いですね。朝倉のdischaaageeeの家まで練習しに行く時にずっと聴いてる。
dischaaageee : 4人の趣味は結構離れてるんですよ。僕はハードコアとかメタルが好きで、ノックド・ルーズのライブ映像ばっかり見てる。
yamashita : 僕は青春時代が日本でヒップホップが流行し始めた時期だったから、エミネムとかアウトキャストを聴いていましたね。そこからサンプリング元のソウルとかも聴くようになって。
onoue : 強いて言うなら、R&Bとか現代ジャズとかは共通の趣味かもしれませんね。あとはノーネームとかヤズミン・レイシーとか、UKの人をよく聴いてる。個人的にはマイルスとかビル・エヴァンスとか、50〜60年代のアコースティックなジャズがやっぱり好きです。“So What” のライブとかずっと見てます。
──”So What” といえば、今回のアルバムにもモーダルな曲がありますよね。4曲目の “dry out” とか。
onoue : そうですね、最終的にはモードとか関係ない演奏になっちゃったんですけど (笑)。でも最初のデモでは、マイルスがジャズに取り入れたクールな感じが欲しかったんです。
──作風の変化としては、これまでのアルバムよりもメロウな曲が増えた印象です。
ryunosuke : 「ポップスを作りたい」っていう話をアルバムの制作前にしたんですよね。
onoue : うん。2ndアルバムまではポストパンク系のバンドって認識だったと思うんですけど、割とポップな曲が溜まってたんで、新作はポップスが8割くらいのアルバムにしようと。
──なるほど。曲をプレイする意識も変わりましたか?
dischaaageee : 色々叩いてみたい時期だったし、作曲した時の想定と違うパターンで演奏したりしましたね。それに、そもそも今回はデモがギターの弾き語りだけだったりして、自由に考えることができました。
ryunosuke : “raise” を録る時、遅いビートのままBパートに入る想定でデモを作ったんですよ。でもdischaaageeeがデモを聴いてなくて、しょうがないから口頭で説明して叩いてもらった倍のスピードになってて。それがめっちゃカッコよかった。
dischaaageee : あれは俺もわからんかったのよ。コードとベースラインを聴いた時に閃いたというか (笑)。
onoue : 「まぁ、こうはならんやろな」と思いながらデモを共有するんですよ。それで最終的に面白くなればOK。自分だけで作り上げるのがお互いに好きじゃないんですよね。
yamashita : 今回は一曲目の “I” だけ違う作り方だったよね?
ryunosuke : そうだね。アルバムが始まることを強調したくて、僕らが静かに演奏したり大きい音を出したりするパターンを3つくらい録った後にコラージュして作りました。アイデアが先行して、その後に録ったはず。
onoue : 次の “Social Plan” とか、デモからめちゃくちゃ変わったよな。ベースラインが自分の想像してたものだと納得いかなかったから兄ちゃん (yamashita) に全部考えてもらって。バンド全員の個性が反映されてる曲だと思います。(ロバート・) グラスパーみたいな、クールなジャジー・ヒップホップを想定してたけど、途中でけちょんけちょんになった。
──けちょんけちょんになるのはOKなんですね (笑)。
onoue : うん、俺がけちょんけちょんにしちゃう。破壊衝動なんですかね。
──破壊衝動が前面に出てる曲もありますよね。先行シングルで出てた “M” は同時に発表された “Dahlia” との対比で崩壊具合が印象的で。綺麗な部分と崩れてる部分が一つのアルバムの中で同居している。
onoue : 綺麗な曲も好きなんですけど、できないんですよ。逆にryunosukeの曲は骨格がしっかりしていて、とにかく演奏が楽しい。自分の曲は最終的にフリーになっちゃう。どっちも好きなんですけどね。
──ライブ中にも突発的に壊したくなったりします?
onoue : ですね、やっちゃいますね。
dischaaageee : イッてる時あるよな。昨日はイッてたな。
yamashita : やな (笑)。
──メンバーはそこに付き合うというか。
onoue : それは結構見てますね。「ついてきたな」とか「こいつスカすやん」とか。顔見ればわかります。「こいつ、今このスタンスやな。わかりましたわ」って感じで。
ryunosuke : そうな。僕は「キタキタキタ!」とも思うし、逆に大きくスカしてもみたい。俺は弾かんぞ、みたいな。
──(笑)
ryunosuke : さっきの音源とライブの話にも近いんですけど、同じことをしてると飽きるんですよ。音源みたいな演奏をしてると壊したくなる。
dischaaageee : そういうのが急に来るから、こっちは身構えなきゃなんですよ。
yamashita : 頻度も増えていってる気がしていて。その中でも冷静ではいなくちゃいけないから、リズム隊は常に構えながら二人を見てます。
──なるほど。
onoue : 個人的に、音源と同じことばっかりしてるって、見にきてくれる方に失礼だと思うんです。「これやったらCD流しとったらええやん」みたいなライブは帰りたくなる、僕はそういうお客さんなので。そうならないことだけを潜在的に心掛けているのかなと。
ryunosuke : だからもっと裏切りたいんです。もっと違うことをしたくなる。
──本当に一切ギターを弾かないとか。
ryunosuke : もう一切音出さない。それか酒飲みに行くとか (笑)。
──それは最高ですね (笑)。ryunosukeさんはライブでもひたすらブルージーというか、ペンタトニックで弾き倒すスタイルじゃないですか。
ryunosuke : そうですね。ただ、出来るだけ早く脱したいんです。
──ほう。
ryunosuke : 僕はペンタしか知らないから、あえて他も知った上でフレーズを選択できるようにしたいんですよ。ペンタだけだと「香り」が付きすぎちゃうんです。
──ペンタだけを60年弾いて死ぬっていうギタリストもいるじゃないですか。目指しているのは、そうではないと。
ryunosuke : 例えばマーク・リボーとか、好きなギタリストはいますけど、それになりたいわけでもない。最終的にはフレーズとかどうとか、関係なくなりたいんですよ。「カッコいいからよくない?」みたいな。
onoue : わかる。「なんやこれ、知らん!」って聴いてる側を混乱させたい。
