Laura day romanceが紡いだ二部作サード・アルバム『合歓る』──感情と物語が折り重なる長編作、その全貌

礒本雄太(Dr.)、井上花月(Vo.)、鈴木迅(Gt.) (L→R)
2026年2月に前後編二部作のサード・アルバム前編『合歓る - walls』をリリースし、インディー・バンドの枠を軽やかに越える緻密で壮大な世界観を提示したLaura day romance。その完結編となる後編『合歓る - bridges』が、ついに完成した。
ふたりの登場人物のあいだに芽生える感情を、没入と俯瞰を行き来しながら音楽へと昇華した本二部作は、「分かり合えなさ」と「つながり」を対に描き出しながらも、単純な二項対立では捉えきれない人間の複雑さにも通じる視点を浮かび上がらせる。
本インタビューでは、全編を貫くテーマや前編の完成度から芽生えた意識の変化、打ち込みや大胆な展開を取り入れたサウンドの進化、そして止まることなくスケールアップを続けるバンドの現在地を解き明かしていく。
大胆な展開と打ち込み、多彩な楽器で“枠の外”へ挑んだサード・アルバム後編
サード・アルバム前作『合歓る - walls』インタビューはこちら
INTERVIEW : Laura day romance

インタビュー : 飯田仁一郎
文 : 石川幸穂
写真 : 斎藤大嗣
想像を超えた「自分の手に負えない領域」へ
──前作『合歓る - walls』(以下、『walls』)に続く後編『合歓る - bridges』(以下、『bridges』)ですが、二部作で描きたかった物語の全体像をあらためて教えてください。
鈴木迅(Gt./以下、鈴木):前後編を通して描きたかったのは、人の内側にあるさまざまな感情のグラデーションです。内面へと潜りながら、物語の結末へ向かっていくことを後編では意識しました。
──前作の“名前のつけられない関係”というテーマは、本作にも通じていますか?
鈴木:根底にはありますね。「友人」や「恋人」など人との関係値に名称がつけられても、本質的には定義しきれないと思っていて。本来、関係性は人ごとに違っていて、名前をつけられないものだと思うんですよ。“名前のつけられない関係”というテーマから物語はスタートしましたが、書き進めるほど原点に戻っていくような感覚でした。
──『walls』では、立ちはだかる壁のような「分かり合えない側面」を描いていましたが、『bridges』では何を象徴する作品になったと思いますか?
鈴木:自分としては、「“walls”であり、“bridges”でもある」という感覚です。壁と橋が別々に存在するのではなく、同じものの中にいろんな側面がある。見方によって定義が変わっていくような作品になったと思います。壁だと思っていたものが、実は橋だったかもしれない、という混在した視点ですね。
──前作で鈴木さんは「リアリティを保ったまま視野を大きな世界へ広げていきたい」とおっしゃっていました。
鈴木:その意識は今作でも引き続きあったのですが、今回は外側というより、内側の感情のリアリティを突き詰めていった結果、自然とスケールが広がっていったという感覚でした。内側にフォーカスしていった結果、外の世界と同じくらい大きなものにたどり着いたというか。

──今作は打ち込み音やトランペットなど、多彩な楽器が特徴的です。
鈴木:前作を作り終えたとき、丁寧で素晴らしい作品ができた手応えがあった一方で、“安定感のある作品”という印象もあって。自分のノウハウを総動員した故に予想可能で自分の手の届く範囲に収まった作品だったんですよね。なので後編では、「自分の手に負えない領域」に踏み込みたかった。サウンド面の挑戦はそこから生まれています。
──具体的にはどの曲に表れていますか?
鈴木:“ライター|lighter”では、エレクトロ、ハウスミュージックの要素を作品に取り入れようとしてみました。ほとんど知識がない状態からクラシックやマナーを自分なりに勉強した上で、「自分がやるならこういう要素を混ぜる」と考えながら制作しました。“分かってる知ってる|yes, I know”では、4分の5拍子上での作曲も初めてやってみたりしました。
──曲の展開が大胆なのも、「枠外へ」という狙いがあったからでしょうか。
鈴木:そうですね。予想できる90点に収まるのではなく、100点を狙いにいくというか。みんなが予想していなかった方向に転がして、それをさらに上回ろうとする。この後編ではそういう欲求を追求しました。
──今回、ドラムの音色がとてもバリエーション豊かで多彩でした。前作は中野の〈TSUBASA Studio〉で録ったとおっしゃっていましたよね。
礒本雄太(Dr./以下、礒本):今回はレーベル所有のスタジオのみです。同じ空間でも個室のブースがあったり床の材質が違ったり、細かい環境の差が音色に現れていると思います。
──サウンド面で特にこだわったところはありますか?
礒本:前編と最も異なる点は、生音と打ち込みの共存ですね。完全に分けて鳴らしている箇所もあれば、同時に鳴っている曲もあって、人力の“手触り感”と機械的な“無機質さ”の両立が面白いと思っています。実験的なアイデアも多く、楽しいレコーディングでした。

──ディレクションはどなたが担当されたのでしょう?
礒本:ジャッジをするのは曲作りをしてくれている迅(鈴木)ですね。あとは、プロデューサーの岩本岳士さん、ドラムテックの北村優一さんとも相談しながら、みんなで進めていきました。
──ボーカルの表現も幅が広がったように感じました。
井上花月(Vo./以下、井上):今作は前作よりも一人称視点の内省的な歌詞が多いのですが、その視点に自分が入り込みすぎないように距離間を意識しました。私から出てきた言葉でもあり、迅くんが書いた歌詞でもあり、さらに主人公、加えて語り手の“神的な視点”が混ざり合うよう、バランスを調整しています。でも、そうやって頭でっかちに考えて歌ったテイクより、感情のまま曲に乗せて歌ったテイクの方がよかったりもするんですけどね。
──ライブでの表現も広がっているように感じます。
井上:ボイトレも続けているので、ライブでの歌い方は技術的に少し向上した実感もあります。音源よりも変化が出ていると思いますね。

──鈴木さんは、井上さんがそこまで細かく解釈してくれることを前提に書かれている?
鈴木:長い付き合いなので、僕の意図をある程度想像してくれている部分はありますね。最近は、想像していなかったテイクが出たときに、その良さをちゃんと受け止めて、作品に残そうと思えるようになってきました。想像外の表現を採用することで作品がどんどん大きくなっていくような感覚があって、そこにこそバンドでやる意味があると思っています。それぞれの色が加わることで生まれる揺らぎ、それが作品にとってすごく大事なんだと感じています。











































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































